追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
違法少年(:菫)
View.ヴァイオレット
この場に居る誰よりも小柄で、細く。
可愛らしく愛らしい、守ってあげたくなる様な外見で。
私にはない魅力に溢れている、女の子、という表現が合うような彼女は、いつもの明るい雰囲気は消え失せていた。
すぐそこに居るはずなのに遠いような、遠いと思う事で私達の精神が守られるような、そんな曖昧な表現を使いたくなる雰囲気。
――これ、は……!?
この感じは覚えがある。
先日クリームヒルトが言霊魔法に操られて前世と記憶が混乱していた時にもそうだが、別の時――学園で決闘を行い、敗れた時に味わった感情。
明確な拒絶と排斥。彼女の今はそれに加えて空虚な感情が備わっている。
決闘の時と明確に違うのは、攻撃として外側に向けられているのではない事だ。そして自身に向ける訳でも無いのに、抑えきれていない感情に対応出来るよう身構えてしまう。
「ヴァイオレット様」
「っ……!」
クリームヒルトに対し、シアンやヴェールさんは押されられるように動けるように構え、私はどう対応すべきか決めあぐねていて、クリームヒルトはただ小さく言葉を呟いて、誰も動かずにいる中。
第三者から声をかけられ場が動いた。
「……グレイか。どうした?」
話しかけて来たのはグレイ。
動きを作ってくれた事に感謝するのと同時に、クリームヒルトをこのまま放っておいて良いのかという思いもある。だが、動いてしまった以上はそれに応えるしかない。
私は平静を装ってグレイに対応する。
「……? どうかされましたか?」
「なんでもない。用件があってここに来たのだろう?」
「あ、はい。お客様が三名来られています」
「客?」
グレイはこの場の空気に疑問を持つが、私が言葉を重ねると、疑問を抱きつつもこの場にきた要件を伝えた。
だが客? このような時間にアポも無しに……まさかクロ殿の不在を狙った騎士団、あるいは教会関係者の類だろうか。
そうなるとここはシアンやヴェールさんには隠れて貰ったほうが良いかもしれない。変に勘繰られてはいけない。
「私が応接室で対応しよう。グレイは紅茶を淹れてくれ」
「イオちゃん、まずは誰が相手か聞かないと」
「……そうだな」
いかんな、少々慌てているようだ。
落ち着かないと。すぅー……はぁー……よし、落ち着いた。
「グレイ、誰が来たんだ?」
「はい、彼女達は――」
グレイが誰が着たかを言おうとした所で、
「ふぅーははは! ロイヤルな私が来たんだぜヴァイオレット!!」
「っ!?」
グレイの背後からアプリコットの様な笑い方をしながら現れたのは、緋く長い髪をクラウンブレイドにし、王族特有の紫の瞳を翠に替えた私より背の高い女性。
王族内でも破天荒な性格と言える彼女は……
「スカーレット殿下!?」
「やっほー、誘拐以来だねー」
先日の誘拐、監禁されたため色々と問題があったスカーレット殿下。何故彼女がここに居るのだろう。今頃首都の王城に居るはずなのだが、また逃げ出したのだろうか。
そうなるとこっそりとローズ殿下に文でも送ったほうが良いかもしれない。……いや、この状況で文を送るとあらぬ疑いをかけられそうだな。もしやそれを狙って……それは無いか。
「あ、ちなみにスカイも居るよ。ついでに寝たんだけど、家が分からなかったから連れてきたブラウン君もね」
「……こんばんはです」
「……ああ、こんばんは」
「むにゃ……」
そして後ろから申し訳なさそうな表情で、寝ているブラウンをお姫様抱っこしているスカイが現れた。
ブラウンは結構重いだろうに、軽々と持っている辺り流石スカイと言うべきか。というかどんな組み合わせなのだろうか。
「……どういう状況なんだ、これ……」
あと訳の分からないような表情をしたカラスバさんも後ろに居た。突然現れた王族などに理解が追い付いていないように見える。ああいった正常な反応をされるとある意味落ち着くな。
「此度はどうなされたのでしょうか?」
「シキに来た理由? 屋敷に来た理由?」
「両方です」
「シキに来たのは、ロイヤルな仕事の一環だよ!」
「……スカイ」
「……一応事実なようです」
「なんでスカイに確認するの。そしてスカイもなんで一応って付けるの」
普段の行動を鑑みればそう思われるのも不思議はないのですよ。
「で、屋敷に来た理由はね。ロイヤルな飲み会をしていたら、ちょっと面倒な輩が酒を飲みに来てさ、避難してきたわけ」
「それって騎士団みたいな連中なのかい?」
「はい、私も知っている先輩の――って、ヴェールさん!? 何故ここに?」
「私用だよ。それで、騎士団のとある連中が何名も飲みに来て、眼をつけられる前に逃げて来た、という事で良いのかな?」
「は、はい。飲みに来られていたのは二名だけですが」
……あの連中、職務中であろうに飲みに行ったと言うのか。
単純に飲みに来たのか、別の目的があったのかは分からないが碌な目的ではあるまい。
というか彼女らはシキに来て早速飲み会をやっていたのか。なにやっているんだろうか。
「で、アイツらの顔を見ていると嫌な気分になるから、ここに来たの。あとお願い、泊めて」
「いきなりですね。構いませんが……」
「ロイヤル!」
宿泊場所であるレインボーに戻ると顔を合わせるから、という理由は分かるので別に構わないのだが……スカーレット殿下が来ると下手に動けないな。
かといって勘の鋭い方であるので、誤魔化すのも難しいだろうからな……
「まぁ、ただで泊まりはしないよ。ちゃんと主であるクロ君にもきちんとお礼を――」
スカーレット殿下は懐からなにか(恐らくお金の類)を取り出そうとしながら、周囲を見てクロ殿を探そうとして――とある所で視線が止まった。
「…………」
「……あはは、私をジッと見てどうかしたのかな?」
視線の先に居るのは、先程まで空虚な雰囲気を漂わせていたクリームヒルト。
クリームヒルトはいつものような笑顔を作り、普段と変わらないようになるように振舞う。
だが、先程の光景を見ていた私達にはその光景が異様に映ってしまう。そしてスカーレット殿下もその事に気付いたのだろうか。
「……ああ、そういう事。クロ君が言っていた事がようやく分かった気がするよ」
「? あはは、どうしたの?」
「さぁてね。……ねぇ、クリームヒルト・ネフライト」
「もうネフライトじゃないけどね。どうしたの?」
スカーレット殿下は先程までの明るい雰囲気は消え、珍しい真剣な感情が含まれた言葉でクリームヒルトになにかを問おうとする。
――空気が刺々しい。
何故かは分からないが、今のクリームヒルトを見たスカーレット殿下は何故か明確な拒絶の意志を持っている。
私は何故そのような意志を向けているか分からない。
シアンなら分かるかもしれないが、シアンもどう動けば良いか分からずにいるようだ。
「――ふがっ!?」
「え、わっ!」
「……あれ、ここどこ?」
私達がどう動けば良いか冷や汗を流していると、空気を壊したのはスカイの腕の中で眠ったブラウンの声であった。
どうやら寝ぼけて動こうとして、上手く態勢を変えられずに起きてしまったようだ。
「おはようございます、ブラウン君」
「あ、スカイお姉ちゃん。おはよー。……あれ、僕ってなにをしてたんだっけ? なんでクロお兄ちゃんの屋敷に居るんだろう……?」
「ああ、それはですね……」
「…………」
ブラウンの様子を見てスカーレット殿下は気が逸れたのか、先程までの刺々しい雰囲気は無くなっていた。
この場の空気が悪くならなくなったという意味では良いタイミングで起きてくれたのかもしれない。
……だが、もしかしたら今のクリームヒルトに対応出来るのは、クロ殿以外だとスカーレット殿下が適任かもしれなかった。
だがブラウンは悪くは無い。むしろ妙な空気になりつつあるのを、私達が止められなかったのが悪い訳で――
「確かスカイお姉ちゃんが僕に性教育? の実技を教えてくれるんだっけ……?」
「ごふっ」
『…………』
そしてブラウンの言葉に、全員がスカイの方を見た。
『…………』
「み、みなさん! これは誤解でしてね!」
「……スカイちゃん。違法ショタは駄目だよ……」
「誤解ですって! あと違法ショタってなんですか!?」
備考:違法ショタ
見た目が幼いが実年齢が二十歳以上の男性を合法ショタ、女性を合法ロリというように、見た目が大人だが実年齢が幼い男の子を言う(言わない)。
中身が無邪気で距離感が近いが、外見が大人なのでドキドキしやすい。
手を出せば当然犯罪である。
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