追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

【11章:固陋蠢愚】 始まりは容疑報告


「シアン達もデート中なんですか?」
「うん、そうだよ。君やクリームヒルト君達に触発されたらしい」

 隣街でデートをし、ルーシュ殿下を食堂兼酒場に送り届けた後の夕方。その帰り道にて。
 俺はヴェールさんに今日起きた事などの報告を受けていた。なおカラスバは屋敷の場所だけ聞き、ヴァーミリオン殿下への用事のため今は外れている。
 シアン達もデートをしている事などシキで起きていた事などもそうだが、主な内容はゴルドさんの監視。なにかやらかしてはいないかと思っての監視であったが、

「なんと言うべきか、シキの皆々との交流を楽しんでいたようだよ」

 との事で、特にやらかしというやらかしはしていなかったそうだ。
 シュイさんとインさんの変身機能で誰かの交友関係を壊そうとかしていないかと思ったが、彼らは彼らで身体の形を自由に変える力を使って子供達に大人気だったそうだ。
 あの乙女ゲームカサスの設定的に“面白そうな事にしか興味ない。だから世界中を放浪している”といった設定で、昨日と今日を見た限りではその設定と似た性格であると思ったので不安だったのだが、問題無さそうならば良かった。
 俺がそれとなくその事をヴェールさんに伝えると、ヴェールさんの予想的には、

「彼にとってシキの皆と交流する事が知的好奇心を満たす面白そうな行為じゃないのかい?」

 だそうで、俺もそれを聞いて同意した。
 ……満たしたら満たしたで“面白そうな事をするためにちょっかいを出そう!”的な思考に至らなければ良いのだが。

「しかしありがとうございました。そして申し訳ございませんでした。貴女のような方にこのような事を頼んでしまい……」
「気にしなくて良いよ。どうせ調査まで私は暇だったからね」
「そう仰ってもらえると助かります」

 ヴェールさんは気にしないようにと小さく笑みを作りながらそうは言ってくれるが、彼女は本来激務に追われる立場なはずだ。そんな彼女に本来であればこのような監視や調査のような下っ端にやらせるような事を依頼出来ている方がおかしいのだ。

「それに、報酬で君の身体を堪能できるとあれば、やらない訳にはいかないさ! ギブアーンドテイク、というやつさ!」
「……そう仰って頂けると、私も頼む心が軽くなります」

 ……まぁこれがあるのであまりお偉い立場には思えないのだけど。同時にそのような方がこのシキに来ている時点で、ただ居るだけとも思ってもいないが。

「だが本当に気にする事は無い。我が息子にも気付かれないように潜伏しているだけも暇だからね。いい暇つぶしになったし、ゴルド氏は私の立場としても重要な相手だ。それに若人が気兼ねなく初々しいデートをするための仕事ならば、嫌がらせのために仕事を増やす上層部と比べればやる気も上がるというモノさ」
「ありがとうございます」
「……いや、我が息子達の場合は初々しいのかな……あんなデートが初デートで良いのだろうか……本人たちは満足していたようだけど」
「……良かったのではないでしょうか。今もなんかお肉を食べてますし」
「……だね」

 聞いた話ではメアリーさん達は今日一日で五人とデートしたそうだ。なにがあってそうなったと聞きたいのだが、今はデートをしたメアリーさん達はレインボーにて“誰が一番多く肉を食べられるか!”みたいな事をしているので聞くに聞けなかった。

――メアリーさんもなんか吹っ切れてたような気がするのは気のせいだろうか……

 皆で肉を食べている中にはメアリーさんも居た訳なのだが、お肉を綺麗にかつ豪快に食べつつも、今朝と比べると何処か雰囲気が変わっているように見えた。
 憑き物が落ちたというのもあるが、なにか抱えていたものから解放された、というような雰囲気を感じ取れたのだ。明日辺りにでもなにがあったのか聞いたほうが良いかもしれない、と思うほどには。

――それとは別に、ヴァーミリオン殿下にも聞きたい事が……

 ……あと、先程ヴァーミリオン殿下に渡された、このロイロ姉やスミ姉の所にもあるという棒状の玩具はどうすれば良いのだろうか。とある所にあったと言い、この場所があった場所に案内したいとか言っていたが、案内された所で俺にどうしろというのだろうか。
 カラスバが言っていたような事にはならない事を祈っておこう。件のカラスバは肉を食べているヴァーミリオン殿下になにか詰め寄っているという器用かつ勇気のある事をしていたわけだが。

「しかし今日は色々とあるね。多くの初デートもあったし、第一王子殿下も来た事だし……」
「また王族が増えましたね……三人か……一時期の四人よりはマシですが……」
「……第二王女と第三王女もいるから正しくは五名いるんだけどね……」
「え、今なにか仰いましたか?」
「なんでもないよ。だけど良いじゃないか。愛する妻とキスをしてデートの締めだったんだから」
「ぶふっ!?」
「いやー初々しいねー。私は外で誰かに見られながらのキスなんて経験は結婚式くらいしかないから、初々しいキスをする君達が羨ましいよ。よっ、果報者!」

 こ、この人、さっきのキスを見ていたのか!?
 ニヤニヤしながら、杖をトン、と地面に叩くと先っぽから“KISS!”と光る文字を空中に浮かばせた。うわなにこの無駄に凄い無駄に器用な無駄な魔法。すげぇ腹立つ。

「ふ、夫婦なんですからキス位普通です」
「別に良いけど、外でするのは個人差があるからね。私の夫なんて初心というか堅物だから、誰かの前ではキスはおろか手もつながないよ」

 騎士団長のクレールさんか。戦闘能力も有り優秀ではあるが、権力の柵のせいで騎士団の腐敗を止められずにいる方で評価はまちまちだ。それでも彼が騎士団長で、ローズ殿下夫妻が宰相でなければもっと腐敗しているのではないかという話もあるのだが。

「まぁ二人きりになれば別なのだが……しかし、唇同士のキスはあまりしないな。ただ黙って触れ合う……という口下手な夫さ。とはいえ、そこが良いんだけどねっ!」
「仲がよろしいんですね」
「勿論さ。それに唇にするより、彼は別の所にする方が好きなんだけどね」
「……それはヴェールさんも同じでは?」
「そうだね」

 ……後は、ヴェールさんの話だと鼠径部と太腿フェチらしく、指などでなぞったりするのが好き、だったか。
 そしてクレールさんにとっての最高の鼠径部と太腿がヴェールさんらしい。……そういった話を聞いていると、会った時に“鼠径部・太腿フェチな騎士団長”という印象が強すぎて、どんな堅物でも妙な気持ちになりそうで怖い。
 ちなみにヴェールさんにとって最高の肉体はクレールさんなので、ある意味相互利益が相成った良い夫婦と言えるのかもしれない。それとは別で愛し合っている感はあるのだけど。

「ふふ、しかし私も年甲斐もなく、君達のようなキスはしたいとは思ったりも――【認識阻害】」
「ヴェールさん?」

 揶揄われ恥ずかしいと思いつつも、こういったバカな話は悪くないと思っていると、ヴェールさんが突然【認識阻害】の魔法を唱えた。
 これは……バーガンティー殿下の護衛の方が衣装に付けていたタイプのような魔法である。正体が分かって意識しないと、“居る”ということしか分からない感じの高度な魔法だ。

「クロ君。私の名前は今言わないでくれ。知っている顔が居てね、彼らにバレる訳にはいかないんだ」
「彼ら?」

 ヴェールさんの言葉に疑問を思ったが、その疑問はすぐに晴れる事となる。

「クロ・ハートフィールド子爵だな」
「はい?」

 突然俺は声をかけられた。というよりは呼び止められた。
 声がした方を確認すると、俺に声をかけたのは……首都に居た頃に何度か見た装備いしょうに身を包んだ男性が数名。
 雰囲気と装備からして“仕事中の騎士団員”だ。
 ……何故彼らがここに居て、俺を呼び止めたのだろう。
 俺が領主と知っているから声をかけ、なにかしらの挨拶をしている……という雰囲気ではなさそうだな。

「私は確かにクロ・ハートフィールドですが……」
「そうか」

 そんな疑問を余所に声をかけた中で一番偉いだろう男性が俺にとある紙を見せつけ、

「お前に国家転覆の容疑がかけられている。――大人しくしてもらおうか」

 と、言った。

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