追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

カラスバレポート_1(:烏羽)


View.カラスバ


 初めましての方は初めまして。
 私はハートフィールド男爵家……ではなく、子爵家が四男、カラスバ・ハートフィールドと申します。
 学生であり、国立アゼリア学園をもうすぐ卒業する三年生の十八歳です。所属は新聞部の部員です。新聞部の影響なのと、後に記事とするため大魔導士アークウィザード様が開発し教わった録音魔法を起動中かつ癖でこういった口調になっています。ご了承ください。
 そんな私は現在、後輩であるエクル卿のフォーサイス家が流通に深く関わっている、他国からの流通が多い王国のとある地方のとある街に来ています。
 卒業して独立し婚姻を正式に結ぶため、ある意味では独身としての最後の気楽な旅行にも近いです。
 とはいえ、私がこの街に来ている理由は、卒業記事を作成する取材のためなので、気軽に遊べる訳では無いですし、今日の夜にはシキという地に調査に行かねばなりません。本来なら学生として学園の調査団や騎士団、軍の方々と一緒に赴くのですが、取材が今日しか取れなかったので、私だけ別行動なのです。
 本来であれば取材には時期的に大分遅いのですが、元々卒業用に書いた記事が新聞部担当顧問の教師に、

「もう少し学生らしいものを……というか許可を出したら先生のクビが危うい……」

 と言われたので、別内容としての取材中です。
 今回の取材内容は、単純に言えば『貴族の夫婦としての過ごし方』です。
 本職ではない学生らしい内容と言えば学生らしいですが、あまりにそのままだとお父様やお母様に怒られるので、私なりに頑張っています。
 とりあえず上は侯爵家、下は騎士爵家。軽く三十件ほどアポイントを取って取材をし、取材を纏めました。もう少し準備期間があれば倍はイケたのですがね。
 あと公爵家……バレンタイン公爵家もどうにかしようとしましたが、とある事情で難しかったので断念。……一応最後にバレンタイン家に関わる夫婦に取材はするのですが。
 ともかく、この記事は我がハートフィールド家兄妹を取材し纏めて終わりです。

「…………でも、どうしよう」

 先程取材をしたシッコク兄とこの街で別れたのですが……別れてから取材内容を振り返ると、なんと言うのですか妙な違和感と言いますか、想像と違う生活言いますか……いえ、曖昧な言葉で濁すのは良くないですね。

 うちの家族は変でした。

 色々な貴族の夫婦を見て来ました。
 “こんな夫婦になりたい”
 “こんな家族にはなりたくない”
 “どうしようもない複雑な関係性”
 私は様々な夫婦を見て、様々な感想を得ました。
 なにが正しい正しくないは論じるつもりは有りません。なりたくないと思った夫婦関係も、数年経てばそちらの方が良かったと言えるようになるかもしれません。ですから私の現在の好みでの感想を得ました。
 私はお父様によって少々強引に結ばれた婚姻ですが、今ではそれなりに理解し合って休日が合えば出かける程度には仲良くなりました。
 ですので、血の繋がった家族の夫婦生活はより参考になると思ったのですが……はい、変でした。



 まずはゲン・ハートフィールド兄様。ハートフィールド家の次男です。比較的マトモでした。
 ゲン兄様は学園に入る数年前はまだ明るく、学園に入る頃には操り人形で、卒業後は明るい兄様です。
 ある時にお父様達に反発し、勘当されかけ、結ばれそうになった婚姻を破棄し、代わりにコスモス義姉様という方を見つけて出会って一ヶ月で恋愛結婚をした兄様です。
 そして妻のコスモス義姉様は一言で言うなら天然です。というかボケです。
 子供に対して読ませる本として、兄様が昔書いた自作のポエム集である【~いつかの未来さきの僕の為に-明日ミライを探しに行く-~】を音読して「いい歌ね」とか言う女性です。そして恥ずかしがるゲン兄様の頭をよく分からないまま撫でる女性です。
 あとは私を弟扱いして、「お姉ちゃんなんだから弟は面倒見ないと駄目よね~」と言い、「おいで~」と私の顔を豊かな胸に沈めて「良い子、良い子~」と頭を撫でるような女性です。尻軽で男相手に誘惑している、という訳では無く、私を男性扱いしていないのです。本当に子供扱いです。
 それと従者の方々曰く「所構わずサカルのはやめて欲しい。気付かないふりをするのも大変」との事ですが、仲睦まじい夫婦なのは確かなようです。
 私もあんな風に仲良くなりたいとは思っていたのですが――泊まり込んだ日の深夜、ゲン兄様を赤ん坊の様に扱う“そういう行為”を見て、複雑になりました。
 なんでも私が埋められているのを見て、嫉妬したっぽい会話をしていました。
 ………血の繋がる兄の、そういう行為は見たくなかったです。仲が良いのは良いんです。ですが、バレるリスクを楽しもうと私が泊った部屋の隣でやらないでください。
 次の日、私は従者の方々に謝りました。

「あんな兄ですが、色々やっていても仲が良いだけなんでよろしくお願いします」

 そう言うと、全てを察した従者の方々が笑顔で「分かっていますよ」と言われたのが悲しいのやら、恵まれた環境にあるのやら複雑になりました。
 とりあえず学んだことは、私の妻がどこまで求めてくるかはともかく、危険なアブノーマルプレイはやめておこう、という事です。
 ……そうえいばアブノーマルと言えば……いえ、今は関係無いですね。



 次にスミ・クローバー姉様。元ハートフィールド家次女の、現子爵家夫人です。
 スミ姉様も基本的にはゲン兄様と同じです。
 昔は明るく、学園に入る頃には操り人形で、学園生二年生の頃にお父様達を殴り、勘当される前に現夫であるライム義兄様を捕まえ無理矢理認めさせた強い姉です。
 もう強すぎてライム義兄様に謝らなければならないレベルです。強いって言うか自由奔放なんです。
 子供の面倒は自ら見ますし、夫婦仲もそれはもう良いのです。愛し合っています。そこは見習いたいくらいです。
 だからと言って「所構わずサカルのはやめて欲しい。気付いても見せつけようとして来るレベルなんです」と従者に言われるのはどうかと思うんです。ゲン兄様達は気付かれた事に気付いたら、止めるので、マシに思えるレベルです。
 しかも“そういう行為”が長時間らしく、付き合わされるライム義兄様には頭が上がりません。本当にこんな姉で申し訳ありません。ですがライム義兄様もアレが一日二桁という情報を聞き、どうやったら出来るのかという疑問は男として恐ろしく思います。

「あんな姉ですが、色々やっていても仲が良いだけなんでよろしくお願いします」

 従者の方々にそう言うと、全てを察した皆様が笑顔で「分かっていますよ」と言われたのが悲しいのやら、恵まれた環境にあるのやら複雑になりました。ついでにデジャヴを感じました。
 ……ですが、夫婦としては強い絆と愛を感じたので、見習いたくはなります。ただ三大欲求の一つに忠実過ぎなだけです。
 とりあえず学んだことは、私の妻がどこまで求めてくるかはともかく、体力は付けようという事です。



 続いてロイロ・ダイアー姉様。元ハートフィールド家長女の、現伯爵家夫人です。
 ハッキリ言って、ロイロ姉様は苦手です。
 お母様のような地位と権力、そして外聞に執着した、ドブより汚らしい女性の性格サガの悪い所として挙げられやすいような性格を煮詰めた性格。
 ……まぁ、お父様やお母様に怒られないように逃げている私が言う資格は無いのでしょうが。
 ともかく、婚姻も単純に金と地位にしか目を向けない姉……姉様です。
 伯爵家なんて身分の高い家に嫁げたのも、若い女の身体というのを利用して、変態趣味な伯爵家の親子程に離れた相手と関係を持ち、身体に溺れさせた事によるものです。
 婚姻に愛もなにも必要ないと宣う姉様。子供すらも道具の様に扱う姉様。そしてそれを肯定するお父様達。……それを見て、子供ながらに「あのようになりたくない」と思ったモノです。
 今まで避けてはいましたが、もしかしたら少しは変わっているかもしれない。そんな一縷の望みをかけ、私は約束を取り付け取材に行きました。
 ですが期待はしていません。ヒトの本質はそう変わらないモノ。
 悪女という単語を聞くと、真っ先にロイロ姉様を思い浮かべるような女性。
 ……同じ血が流れているのが嫌だと思うほどの姉様ですから。

「あぁ……! ぶよぶよのお腹に、この身体から発せられる香り……! たまりませんわぁ……!」
「ははは、くすぐったいぞロイロよ」

 だからと言って、こんな姉様は見たくなかったです。
 屋敷に行き、案内された先で見た、変態伯爵・ダイアー卿のどうやったらそこまで太れるのかと思うほどに太った腹の感触を楽しむロイロ姉様。そしてくすぐったがる変態伯爵。以前見た時と大分違います。

「…………なんだこれ」

 ですから、そう呟いた私は悪くないと思います。
 従者……執事の方に聞けば姉様達――いえ、コイツらは互いが互いの身体に溺れて、それはもう爛れて自堕落な生活を送っているらしいです。場合によってはエスとエムな関係が入れ替わる時もあるとか聞きたくない話も聞きました。
 ですが、そうなるとこの地はどうやって治めているのか。そう聞くと秘書の方が実権をほとんど握っていて、そっちでどうにかしているそうです。コイツらはパーティーとか対外的に対応している程度みたいです。
 コイツらの子供も従者の方々が面倒を見ているそうです。親の様にならないように、キチンと教育しているようです。
 頑張ってください、秘書の方、従者の方々。そして申し訳ありません、秘書の方、従者の方々。コイツらの代わりに謝ります。あと私を警戒していたようですが、私はこの姉と血は繋がっていますが流石にこんな性格じゃないと思うんでご安心ください。クーデターとか何処かの僻地に送る場合は喜んで協力しますので。
 ……とりあえず学んだことは、仕事はしよう。そして育児放棄はしないという事です。……どちらも当たり前ですが、こんな風になりたくは無いと心に誓った意味では、良い取材だったかもしれません。



 最後に、シッコク・ハートフィールド兄様。ハートフィールド家長男であり、最近ハートフィールド家を子爵家にあげた優秀な兄です。
 冷酷であり、周囲を自身の道具としてしかみなしていないような冷たい兄様です。嫌い……というよりは、苦手な兄様です。
 冷たくて人間味が無い。と思う反面、貴族として正しい功績をあげているのは事実なので、複雑なのです。嫌いな相手だとしても、感情と切り離して良い部分に関しては認めるには認めるのです。ただ、利用できるかどうかで見るだけなのです。
 ですので、この取材に関しても「馬鹿げた事をするな」と言われ断られると思っていました。それに対し私は“卒業におけるハートフィールド家としての功績”、そして“他家の夫婦事情”という情報を交渉材料に取材をしようと思っていたのですが……

「見ろ、娘と息子達の昔の姿だ。写真、と呼ばれる古代技術により残した二か月前の写真だ。見ろ、当時も世界一素晴らしく可愛いだろう。この三ヶ月前に撮った時と比べてもどんどん成長しているのが分かるか? 分かるだろう? 可愛いという言葉は正に我が子達のためにあるというモノだ。だが我が世界一の娘ユウは渡さんぞ。見惚れるのだけは許可する。ユウに似ているからと言って、我が世界一の妻ツルバミに恋慕の情を抱くのは許す。構わない」
「シ、シッコクさん。カラスバさんも困っています。でも、私が他の男性に想われても構わないのですか……?」
「お前は魅力的な女である以上恋慕の情を抱くのは男として仕様が無い事だ。いくらでも許す。なにせお前の心は俺が得ている。だから許せるのは当然だ、奪われる心配は無いのだからな」
「……っ、……!!」
「ツルバミ、何故顔を赤くして俺の腕を抓る。なにか言ってくれなければ分からない。ん? カラスバもどうした。妙な表情をして。ああ、そうか、疲れたのか。仕様がない。お前は昔から体力は少ない方であったからな。ならばインターバルを挟もう。その後に息子、娘、そして我が妻の記録メモリーの続きを披露しよう!」

 待っていたのは、家族自慢のろけでした。

――これは本当にあのシッコク兄様なのか。
――実は影武者で、影武者が暴走しているだけでは無いのか。
――洗脳でも受けたのか。
――気でも狂ったのか。

 様々な思考が巡ります。むしろそうであった方が私の精神が保てたのではないかと錯覚します。
 私の中にあるシッコク兄様の思い出では、一度も笑った記憶がないにも関わらず、それはもう幸福そうに、笑顔で家族を自慢するのです。
 ……攻撃的でも、裏もないのに、笑顔が怖いと思ったのは初めてでした。

――もしやハートフィールド家は、結婚すると狂気的な家族愛に目覚めるのではないか。

 そんな事を危惧してしまいます。
 お父様達を見る限りではそうは思わないのですが、ブラック父様とランプ母様の血が混じる事によって、なんらかの反応を示し、狂気的な愛に目覚めるのではないか。そう思わずにはいられません。
 家族を大切にするという意味では良いのです。良いのですが……なんでしょう、こうして血の繋がった兄様・姉様達を見ると複雑になるのです。

「……最後のクロ兄様は、どうなんだろうな」

 こうなると、まだ取材をしていないクロ兄様も同じようになっているのではないかと不安になります。
 望みをかける、というにはおかしな気もしますが、現在の若きハートフィールド家の中で一番の新婚であるクロ兄様が同じようになっていない事を願うばかりです。
 そういえば……クロ兄様と言えば、シッコク兄様に気になる事を言われました。

「カラズバ。お前はこの後クロの所に行くのであったな」
「はい。そうです」
「ならば気をつけておけ。ここ数ヵ月、クロが治めるシキで不審な動きがある――いや、動きが本格化している」

 と言われたのです。
 その後に私は問い返し、シッコク兄様はある事を言ったのですが……正直、私には信じられない事でした。

――まぁ、不安は心の隅に留めておいて、今は目の前の事をやらないと。

 私はこれから予約済みの馬を借りて、明日の調査のためにシキで皆さんと合流せねばなりません。
 疲れはしますが、むしろ馬に乗って風を切ってこの複雑な心情をスカッとさせたいです。
 スカッとしてもその後に、あの件以来ずっと話していない上に、後輩であり公爵家のご令嬢と婚姻をしたクロ兄様と会う必要があるのですが。
 ……会えるのは嬉しいのですが、どう接して良いか分かりません。
 学園祭の時に見た限りでは、それなりに話せる関係ではあり、ゲン兄様やスミ姉様から聞く限りでは、仲良いとの事ですが……シッコク兄様の言葉もありますから……

「……あれ、カラスバ?」
「カラスバ? それは確かクロ殿の……」

 そう思っていたのに。
 明日の調査団受け入れのために忙しいか不安になっているだろうクロ兄様は、何故かこの街に居ました。





備考
ロイロ・ダイアー
ロイロ髪碧目
元ハートフィールド家長女。二十三歳。既婚。
母親の癇癪により歪んでいる。クロが苦手としている姉。
クロがやらかしたのでクロを嫌っている。
「結婚なんて政治的やり取りで、夫は単なる装飾品ステータスであり、飾り物アイコン
というある意味貴族らしい思考を持ち、身体を使って親ほどの年上貴族と愛もない結婚をした女性……だったのだが、オジ様趣味を開拓。現夫と爛れた生活を満喫中。子供もそれなりに愛してはいるが、夫との生活の方が大切な模様。
なお、オジ様趣味が結婚前からあったのか、後に目覚めたのはか不明。

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