追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
デート、淡黄と赤紫+Fの場合_2(:淡黄)
View.クリームヒルト
デートじゃないとティー殿下は、火の近くで項垂れながら叫んだ。見晴らしが良い所で食べたいという理由で少し高い切り立った場所であるので、無駄に声が響いている。
「あはは、まぁそうだよね、デートじゃないよね。初めてのデートな私でも違うのは薄々感じていたよ」
「……うん……私も……」
「いえ、ごめんなさい……皆で楽しんでいるのに、私が空気を読まずに……楽しんでいる貴女を見るのは好きなのですが、想像と違っていたもので……」
「気にする事ないよ。楽しいけどこれは違うな、って思うから」
男女が一緒に出かければデートと言う人も居るので、その人からすればデートなのかもしれないが、これはなんだか違う。
皆で手を繋いで輪になったり、獣を狩ったり、その際に血で濡れたり、解体して焼いてかぶりついたり、グリフォンを狩りに行こうぜとか言ったり。
少なくとも男女が仲良くなるためにするデートでは無いだろう。ゲームの世界でしかデート経験の無い私でも流石に分かる。
なんと言っても甘さが足りない。甘さと言われても正直私には分からないが、つまりは……
「やはり私が脱ぐしかないんだね……」
「脱がなくて良いです」
ここは私が一肌(衣服を)脱ごうとすると、ティー殿下に止められた。
ティー殿下の年頃は異性の身体に興味を覚える年頃だというのに、断るとはやはり私の身体では興味を持たないという事なのだろうか。ラッキースケベは男の子の夢では無いのか! 黒兄が読んでいる本では結構――なかったね。アレは高校の同級生だ。
「いや、あの、別に性的な事をすれば男性がなんでも喜ぶ訳では無いですからね?」
「えー、そうなの?」
「全部は否定しきれませんが、だとしたら私は昨日の……申出も快諾しますよね。……それに、そういう事を貴女が言う時はキチンと否定するように、とクロさんにも言われましたから」
「黒兄に?」
黒兄に事前に言われていたとなると……私がこういう事を言う、というのを事前に分かっていたという事だろうか。流石は黒兄! と言いたい所だが、デートなんて私は経験無いのだから、予測不能なデートを黒兄は何故分かったのだろう。黒兄だって未経験なのにね。
「クロさんが貴女は“肌を晒すとか、触らせるとかは男性が喜ぶ。こうすれば男性が喜ぶからという理由で己の女性としての性を使おうとしている”と。それを聞いて、私は止めた方が良いと思いました」
……あれ、それは駄目なの?
デートなんだから互いに相手を喜ばせるよう努力をすべきだ。
そして私が乙女ゲームをやる理由として、耳が幸せになる男性の声や、男性的な格好の良さを味わうというものがある。よくは分からないけれど、世の女性が好むモノとして男性としての性を楽しんでいるのだろう。
ようは喜ばせたり楽しませたりするのに性を使うのは間違ってはいないと思う。勿論前世の母のようにはならないようにはしているつもりではあるのだけど……
「武器として使うのは問題無いと思います。ですが、“感情と切り離して模倣している感がある”と言われ、それを感じてしまえば私は止めるしか有りません」
つまり黒兄に言われ、ティー殿下も“それ”を私に感じたという事か。
……だけど私は“そう”なのだろうか。私にはよく分からない。
「うん、分かった。じゃあ脱ぐのはやめるよ。ごめんね、そういうのが苦手って昨日ので分かっていたのにね!」
「…………」
分からないけれど、良くないのならばやめておこう。
実際に公序良俗に反する事は確かなのだ。そして相手が嫌がっているのならばやめるべきだ。相手が喜ぶからやる意味があるのであって、嫌がられては元も子もないのだから。
「じゃあこれからどうしよっか」
「とりあえずシキに戻りましょうか。そこで服を見たりしますか?」
「服屋さんは一軒しかないから自然と場所が決まるね。よーし、ではしゅぱーつ! の前に料理の後始末、と」
正直私は黒兄が作る服の方が好きなのだが、見て回る事自体は嫌いではない。
それにシキの服屋は店主さんの気まぐれで作った“何処で着るの?”っていうレベルの服があったりするので面白そうだ。
折角ならエフちゃんを着せ返して楽しもうかな。そして照れるエフちゃんの反応を楽しんだり、どちらが綺麗にコーディネートできるかを競い合おうかな。
「あ、エフちゃん骨とかはそのまま放置で良いよ」
「え……でも……ゴミは持ち帰らないと……」
「骨などは近くの生物などが食べますから問題無いのですよ。下手に荷物を増やしてモンスターに対応できないよりは、そのままのほうが良いんです。大量に残すのは駄目ですがね」
「そうなんだ……じゃあ火だけを消して――わっ……!?」
おお、エフちゃんが火を消そうと焚火に近付いたら、風が吹いて自然と消えた。
水魔法で無駄に魔力を消費しなくて済んだね――と、思っていると。
「わ……わっ……!?」
「おっと、危ないよエフちゃん」
「そうです、気をつけてください。そこまで高くは有りませんが、下は川なんですから」
急な突風でエフちゃんがバランスを崩し掛けたので、私とティー殿下が咄嗟に近付き腕を掴んで支えた。
危ない、危ない。ティー殿下の言った通り、この切り立った場所は、そこまで高くないし、下は流れが緩やかな川なので落ちても怪我はしないだろうが、まだ季節は春に近い冬だ。川に落ちて全身が濡れればれば風邪をひく可能性だってある。
とはいえ、エフちゃんの場所は転んでも落ちるまでにはまだ距離があるけれど――
「えっ」
あった、はずなのだけれど。
ピシッという嫌な音が聞こえ、何故か視界に移る景色が少し下がり、身体が下へと引っ張られるような感覚を一瞬だけ感じる。
何故かと思い、私達は恐る恐る、下を見て――私達を囲む様に、地面に亀裂が入っているのが見えた。
「え?」
「えぇっ!?」
そして、先程よりも大きな亀裂音が走り、私達はバランスを崩す。
するとそのまま――
「あはは――水はまだ寒いかな」
そのまま、地面ごと私達は川へと自由落下を始める。
エフちゃんだけでも投げようとしたが、エフちゃん自身がティー殿下や私を掴んでいるので下手に投げられず、それなら落下中に二人を寄せて私が下になって二人を庇った方が良いと思って寄せようとして――
「――フューシャ、クリームヒルトさん!」
寄せようとしたけれど。それよりも早くティー殿下に庇われて、そのまま落下した。
冷たくはあったけど、衝撃は少なかった。
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