追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

五百話記念:あるいはこんな現代的パロディ(:菫)


※このお話は五百話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。



















View.ヴァイオレット?

「……何処だ、ここは」

 目が覚めると、知らない場所に居た。
 見た事のない建材で構成された壁。規則的に並べられた、長年経過しているだろう小さな机と椅子。
 窓の外から見える景色には、この部屋と同じ建材であろう建物がぽつぽつと見える。
 さらには自身の格好を見ると、アゼリア学園のモノとは構造そのものが違う黒い服を着ており、周囲の女性は同じ服を着ている。

――私は確かクリームヒルトやメアリーと共に寝ていたはずだが……

 確かクリームヒルト達が泊まる事となり、私の部屋でゴルドについて色々と話していたはずだ。
 そしてある時にクロ殿とアッシュに渡すはずであった届け物をクリームヒルトが誤って開けてしまい、中にあったとある本を見てクロ殿はこういう女性が好みなのかと悶々としながら皆で見ていたはずだが……

スミレさん、どうかしましたか?」
「む?」

 私がこの状況に付いて考えていると、私の名前を呼ばれた。
 ……いや、おかしい。何故SUMIREという言葉が私の名前だと思ったのだろうか。それに普段話している言語と違った気がしたが……いや、気のせいだ。意味が理解できるので、それはおかしくは無いはずだ。
 ともかく、私は男性の声のした方を向き、呼んだ相手を見てみると――

「……一色・黒?」
「そうですが、何故フルネームなんですか?」

 そこに居たのは、黒髪黒目の、クロ殿とよく似た……いや、見た目は違うがクロ殿と不思議と思えてしまう、同じ年齢の男子生徒。というより彼はクロ殿だ。間違いない。何故かは分からないが、そう思えてしまう。
 だがここは一体どこで、クロ殿は何故姿を……?

――夢、か?

 このよく分からない感覚は夢だろうか。いわゆる明晰夢、のような。
 そして先程口から出てきた一色・黒という名前。その名前はクロ殿の前世の名前であるはずだ。だがそれにしてはおかしい事がある。

「菫ちゃんが教室で眠るなんて珍しいねー。どしたの、寝不足? まだ眠いのなら目が覚める事を――!」
「やめろ。どうせセクハラするつもりだろう」
「あはは! ただの女子同士のスキンシップだよー」

 ビャク、と呼ばれた白い髪の少女は、クロ……黒殿の後ろからひょっこりと顔を出して私の心配をしていた。
 白い長い髪に、166cmより高い身長170程度。黒殿と不思議と兄妹と思えてしまう彼女は……

「一色・ビャク?」
「どしたのフルネームで。あ、もしかして昨日渡したアニメのキャラの真似!? わー、菫ちゃんがアニメにハマってくれてる!」

 私の言葉によく分からない勘違いをした彼女は、やはり一色・ビャク。つまり……クリームヒルトの前世……?
 私は想像でしか知らないはずだが、聞いていた特徴と当てはまる。健康的で明るく、髪も綺麗で朗らかに、快活に笑う。クリームヒルトとは違うタイプの美しき少女だ。彼女はクリームヒルトの前世の姿……だが、何故想像でしかない彼女を見る事が出来ているのだろうか。

――いや、夢だから想像で当てはめているだけかもしれないな。

 夢ならばなにが起きてもおかしくはない。それに以前も彼らを夢で見た事がある気がするし、そういうモノなのだろう。
 そう思うと私は、滅多にない経験なので、夢が覚めるまでこの経験を楽しもうと決めた。

「お前はまた菫さんに……どうせ無理に貸したんだろ?」
「えー、将来の義姉に私の好きなモノをお勧めしただけだよー。それはともかく帰ろうよ! 今日は皆で遊びに行く約束じゃん!」
「分かった分かった。菫さん、行けますか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。行こうか」
「よし、れっつごー!」
「おい、引っ張るな!」

 そう決めた私は、立ち上がり鞄……らしきものを持つと、クリームヒルト、もといビャクに手を引かれて教室を後にした。黒殿も引っ張っている辺り、凄い力である。
 ……後、この制服? のスカート短くないか。心許ないのだが。クリームヒルトに至ってはどんどん走るので見えているんじゃないだろうか。

「時に黒殿」
「え、殿? な、なんでしょうか」
「私達は恋人で良いのだろうか?」
「は、はい。そうですが急にどうされました?」
「夫婦ではないのだな?」
「ふっ――!? お、俺達高校生ですよ?」
「そうか。まだ早いのだな。……いずれ指輪を貰う日を楽しみにしているからな」
「え? えぇ!?」
「おお、この状況でまさかの愛の告白。妹として困っちゃう」







「あ、やっほーコンちゃん! 今日も痴女ってるかい!」

 廊下で連れられていると、シアンが居た。
 シアンの外見そのままで、紺という名前で私と同じ女子生徒の服を着ている。というシアンは制服でもスリットを入れるのだな。いや、私が見ている夢なので入れているだけかもしれないが。

「痴女ってるとは失礼な。私は教義的に下着を着用出来ないだけ! それにスパッツは履いている!」
「そこじゃないんだよね。いや、そこも男子生徒にはありがたがられているけど」

 ありがたられる……? どういう意味だろうか。スパッツを履いているのなら問題無いと思うのだが。少なからず履いている分、シスター服より下の丈が短いとは言え問題は無いように思える。

「どういう意味なのだ、黒殿?」
「え、ええと……高校生という多感な時期に、スパッツを履いているとはいえ、制服にスリットを入れてノーパンノーブラの女同級生が居れば、ありがたられると言いますか……しかも性格は明るく、ビャク程ではありませんが男女構わず距離も近いですし、健康的で美少女です。……ありがたがられるというか、性癖は歪むというか色々狂わされるだろうというか……」

 ……なるほど、なんとなくだが分かる気がする。

「時に黒殿は私が同じ格好をしたら嬉しいか?」
「嬉しさよりも誰にも見せたくないという独占欲が湧くんで止めて下さい」
「そうか。では皆の前では止めよう」
「はい。…………え、皆の前では?」

 うむ、皆の前では私もあの格好は恥ずかしい。
 だがスカートにスリットを入れて……は、クロ殿に試してみる価値はある気がする。今のシアンを見ているとそう思えてしまう。なるほど、下に着用していればスリットもありだな……

「ところでこれからボランティア部活動?」
「うん、雪白先輩に近付くためにも私は部活はサボれない……!」
「あはは! 頑張ってねー!」
「うん、ビャクちゃんまた明日。じゃあ黒もスミレちゃんもまたねー。仲良くして爆発しろ」
「やかましいわ」

 紺は私達を笑顔で手を振って見送った。
 そしてこの世界ゆめでは付き合っていないのか。頑張れ紺。おそらくいずれ付き合えるだろう。
 あと爆発しろとはどういう事だろう。ビャクの特性でも見抜いているのだろうか。







「あ、アンズちゃんだー、今日はなに作ってるのー?」
「む、ビャクさん達か。今日は【混沌を調和す、甘味の嘆き】である!」
「フルーツタルトだね!」
「そうとも言うな。だがつまみ食いは許さんぞ。美味しいと言ってくれるのはありがたいが、ちょっとでは済まないのだからな」
「あはは! 調理部を出禁になりたくないからしないよ!」

 アプリコット、もとい杏は調理室らしき場所でフルーツタルトなるものを作っていた。作りかけだが、見ただけで美味しいと分かる。杏が作るのならば美味しいに違いない。
 ……だが、エプロンの他にマントを着る意味はあるのだろうか。あと何故手袋らしきものは指が出ているのだろうか。他の調理をしている者達は付けていないというのに。

「彼女も性癖を狂わせていたりするのか?」
「性癖というか、男子が好みやすい趣味を理解してくれているので、色々と勘違いさせるタイプですね。戦隊ものとか好きで小さな子供とも一緒に遊びますので、初恋泥棒みたいな感じです」

 なるほど、それも分かる気はするな。
 あんな綺麗な同級生や年上のお姉さんが趣味を理解し、楽しく話していたら男子から恋されるのも無理はなさそうだ。

「つまみ食いは駄目でも、美味しそうだから食べたい!」
「そう言うと思って貴方達の分も作っているから安心しろ」
「わーい! あ、でもこれから出かける用事が……」
「ならば明日取りに来ると良い。調理部の冷蔵庫にでも保管しておくからな」
「あはは! ありがとう杏ちゃん!」

 しかも料理が得意で、気も利いている。……現実でも学園に通ったらモテるアプリコットに対して、グレイが嫉妬しなければ良いが。

「黒先輩と菫先輩もいるだろうか。甘いモノ好きであったはずだが」
「良いのか?」
「勿論だ。だが感想は聞かせてくれ。特に菫先輩は舌が繊細で感想は参考になるからな!」
「悪かったな俺の舌は雑で」
「そういう意味ではある」
「そこはそういう意味ではないと言ってくれよ!」

 黒殿の反応に杏は「冗談だ」笑い、去る私達を小さく手を振って楽しそうに見送った。
 …………。







「あ、NTRの女王、彩瀬・シロちゃん!」
「その呼び方やめてください! ――ゴホッゴホッ!」
「薄幸風味の病弱美少女なんだから無理をしない。大丈夫、おっぱい揉む?」
「揉みません。というか叫ばせたのビャクのせいじゃないですか……」

 学校の玄関(?)の近くに線が細く、身体が弱そうな少女が居た。
 あれは……髪の色と瞳の色が違うが、メアリーだな。外見は身体が弱そう、と言う以外は殆ど一緒だ。そもそも違うのは黒殿とビャク位なモノなのだが。

「クロ殿。えぬ、てぃー、あーる、とはなんだ?」
「えっと……寝取られとか寝取り、って意味なんです」
「何故彼女が寝取られ・寝取りの女王なんだ?」
「え!? え、ええと……」
「そりゃ、菫ちゃんの許嫁のアカ君を奪った挙句、生徒会メンバー全員を誑かせてたらそうなるよ。さらには学校の男子の半分は告白してるし。先輩とかは彼女持ちも彼女と別れて告白したとか聞くし」
「うぐ」

 許嫁のアカ……ああ、ヴァーミリオン殿下の事だろうか。
 この世界でも私はヴァーミリオン殿下と婚約者であったが、メアリー、もといシロに取られたのか。そしてそれを言われると痛いかと言うようにシロはつらそうな表情をする。

「気にするな。私は今付き合っている相手の方が大好きであるからな。良縁にめぐり合わせてくれて感謝する」
「は、はぁ……そうですか。菫にそう言ってもらえると助かります」
「うぐ……」
「黒兄、照れてるね」
「うるさい。それよりもシロはこれから病院か?」
「ええ。ですが迎えの淡黄シキさんが遅れているようでして」
朝雲アサクモさんが? 珍しいな」
「なんでも車がパンクしたので急いで修理中らしいです」
「ああ、なるほど。それは仕方の無い事か」
「ついでに眼鏡が砕け散ったそうです」
「なにがあったんだ」
「遅れることを報せる電話の際に、心配する私の声を聴いて興奮して手に持った眼鏡の存在を忘れて拳を握りしめて壊れたとか」
「説明聞いてもよく分からんな」
「私もです」

 クロ殿は同級生相手だと、女子相手でも敬語は使わないのか。メアリー……シロ相手に敬語を使わない黒殿は少し新鮮だ。
 しかしそれにしても……

「じゃあ、私達が病院まで一緒にいこっか? そんなに遠くないし!」
「ですがあまり身体に負荷をかけるのは……それにわざわざ遠回りをしなくても……」
「大丈夫、方向は大体一緒だし、私がおんぶして運ぶから! あ、黒兄の方が良い?」
「菫に嫉妬で殺されそうなので遠慮します。ですが、悪いですよ、運んで貰うなんて……」
「私は大丈夫。それに」
「それに?」
「友達と一緒に話して帰ってみたい、っていつも言っていたし。今日なら私達ともだちと一緒に話しながら帰れるよ?」
「…………お願い、できますか?」
「まっかせて!」

 ……それにしても。

――こういう学園生活が、あったかもしれないんだな。

 ビャクが説得し、シロをおんぶする姿を見ながら私は思う。
 この世界はよく分からない世界ではあるが、短くともこんな世界なら楽しい学園生活であると言えよう。
 同級生のクロ殿と付き合っていて、一緒に帰るほど仲が良く。
 クリームヒルトは友人としても姉としても付き合ってくれて、場を作ってくれる。
 シアンは私達の仲を羨ましそうにしつつも応援して。
 アプリコットは料理を作って感想を楽しみにしつつ冗談を交わし。
 メアリーとも共に仲良く学園生活を贈れている。
 ……こんな世界も会ったのかもしれないと思い、もっと過ごしてみたいと思うほどにはとても心地良い夢だ。

――だが、夢は夢だ。

 いくら心地が良くても夢は夢。ありもしない世界に居続けることは許されない。夢なら覚めねばならない。
 だが、良い夢を見れている事は確かだ。
 ならばせめて覚めるまではこの夢を見続けようと思う。

「そういやさ、あのゲームやった?」
「ええ、今攻略中です。選択肢は理不尽ですけど、面白いですよね!」
「だよね!」
「ゲーム? なんだそれは?」
「うん、面白いんだよ。タイトルは■■■■■■■、■■■■■ってタイトルで――」

 あれ、おかしい。ビャクの言葉が上手く聞こえない――







「……覚めたか」

 自室の天井を見ながら、私は夢から覚めた事を自覚した。
 夢を見続けようと思った矢先にこれとは。夢とはそういうモノかもしれないが、どうもモヤモヤする。特に最後の言葉辺りが。……とはいえ、なにに対してモヤモヤするかはもう覚えていないのだが。

「あ、おはようございますヴァイオレット」
「おはよう。……昨日はどうやら本を見てそのまま眠ってしまったらしいな」
「はは……誰かの気配を感じて全員が眠ったふりをして、そのまま寝たみたいですね……」
「そのようだな。クリームヒルトは……まだ寝ているようだな」
「みたいですね。では私は顔を洗ってきますので」
「私も行くぞ、NTRの女王」
「えっ」
「えっ?」





備考1
今回登場した女性キャラは、恐らく学校の男子生徒を色々と勘違いさせているでしょう。

備考2
真面目なキャラが普段と違う服装(今回のスカートを気にする所)に戸惑うのって良いですよね!(唐突)

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