追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
とある少女達の〇談_3(:紺)
View.シアン
「へぇ、スノーホワイト神父様って陥没乳首なんだね……」
「最初の感想がそれかい」
「あはは、冗談だよ!」
一通り私と神父様、ついでにクロとの出会いについて語ると、リムちゃんからそんな感想が帰って来た。エフちゃんも困ったように笑っている。
ごめんなさい、神父様。妙な情報を話してしまいました。
「でもくそう、カナリアちゃんが羨ましい! 私が再会した時は殴り合っていたのに、泣きながら抱きしめ合うなんてロマンティックじゃない!」
「それは仕方ないと思うよ」
「……なにが……あったの……?」
「簡潔に言うと、互いが昔会っていた事に気付かずに殴り合いを開始し、その途中で気付いたんだよ」
「……ますます……分からない……」
そもそもあの時は言霊魔法の影響で、精神が不安定であったのだから仕様が無いだろう。多分普通に気付いていたら、リアちゃんのようにクロも涙を流していたと思う。
「で、帰るべき場所として過ごすうちに段々と……という事だよね。黒兄に言われて気付いた、っていう話だけど……」
「あー……うん、それは……」
私が神父様への想いを気付いた時。それはクロにふと言われたからだ。
居場所を見つけ、私は家族として過ごしていた。当初は以前の神父様の様に、兄妹という感覚が強かった。
だがある時、恋愛系の話題になって、私がクロに対して「彼女とか婚約者とか居ないのー」という感じに冷やかした。「居ない」というクロに対して色々言っていると、「お前こそ神父様はモテるんだから気をつけろよ」と言われたのだ。
クロ的には私の無自覚の好意に気付いていて、私が好意に気付いていない事に気付いていなかったのだろう。初めは違うと否定したのだが、色々と思い返して行く内に……
「……段々と私の好きは、家族や兄として好きじゃなくって、異性としての好きって気付いて……」
「うん、黒兄の無神経な発言に謝るよ」
「いや、あれは仕様が無い事だし、気付けただけでも良かったから……」
リムちゃんは謝るが、正直言うならクロのあの発言には感謝している。
あのままズルズルと気付くのが遅れたら、恐らく神父様は今以上に私の事を妹として扱っていたと思う。なにせ私も兄の様に慕って接していたのだから。
「だけど、その後しばらく大変だったんだよね」
「大変……? なにか……問題でも……?」
「問題と言えば問題かな……」
正直言うならば自覚した当初を思い返すのは恥ずかしい。
なにせ私は神父様と会った当初、愛想は無い、近付くのも嫌がる、言葉遣いは荒っぽい、舌打ちはするで大分酷い接し方をしていた。そして居場所を見つけた後も、兄の様に……多分今のクロに対するリムちゃんの様に接していたと思う。
恋心を自覚した後に今までの行動を自覚したのだ。あの時の私は後悔と羞恥の念で押しつぶされそうだった。というか今思い返しても若干暗くなる。
「ああいうのがあったから、異性として意識されなかったかな、って思って……」
「あはは、かもしれないけど、そういった意識されにくい接し方をしたから妹の様に思われて、距離が近く接してもらえるようになったんじゃないかな? だからふと自身の近くに居るかけがえのない好意に気付いた、的な」
あ、そういう考え方もあるのか。
あの接し方のせいで意識され辛くはあったけど、異性として見られないお陰で距離も近かった。結果今の様に意識してもらえた、ような感じか。……それならそれで良いかもしれない。よし、そう思うとしよう。
「それだと……クリームヒルトちゃんも……そんな感じになるんじゃ……ない……?」
「どういう事?」
「貴女……距離感近いから……色んな男性に……モテそう……?」
「ふ、近すぎると、お前はなぁ……みたいに女として意識されないんだよ。仲の良い男友達は多いと思うんだけどねぇ……」
おいこらリムちゃん。どっちなんだ。
だけど身に覚えがあるので否定は出来ない。
「スカイちゃんとシャル君みたいな感じかな? 幼馴染は負けフラグ、近しい存在は恋愛のような高鳴りではなく、日常になるんだよ……」
「負けフラグ……?」
今日冒険に出る前に少し会った時はなんだか雰囲気は変わってはいたけどスカイちゃんの方は別の対象に対して興味があるから、というのもある気もするけど。
というかあの騎士候補コンビはそういった絆では無いと思う。男女間でも友情は築かれる、という証明のような間柄だと思うけど。
「まぁシアンちゃんは幼馴染じゃないし、結ばれたから勝ち組だよね」
「ふふ、まぁね!」
だけど私の場合は神父様と付き合っている関係だ。そう、勝ち組である!
……まぁまだ結婚はしていないし、今までと変わりない接し方ではあるんだけどね。元々一つ屋根の下だし、今まででも充分近かったんだし。
「でも羨ましいなぁ、シアンちゃん」
「羨ましいって、私が神父様と付き合って居る事?」
「うん。なんとなく付き合う、とかお金目的や性的欲求を満たすためだけや、女友達に自慢するために付き合っている、とかじゃないんでしょ」
「……付き合う……って……好き同士だから……付き合うんじゃ……ないの……? 貴族の……婚姻じゃないんだから……」
リムちゃんが何処か寂しそうな表情になり、エフちゃんがある意味可愛らしい疑問を抱く。
リムちゃんの言いたい事はなんとなく分かるけど……
「……私の嫌いな女でさ、単純に自分が楽しむだけに男を漁っている女が居てさ」
「……?」
珍しく侮蔑の感情を含みながら“女”というリムちゃんに、エフちゃんは話の意図が掴めず首をかしげる。
「子供が二人いるけど父親は違って、父親が誰かも知らない。確定しているのは父親には妻や子が居る事。だけど女は結婚していない」
「……? ……あ……」
「だけど父親の可能性がある相手には全員に“貴方の子”と告げて養育費を巻き上げておいて、子には死なないように金だけ渡して育児放棄。単純に楽しむだけために付き合っていてね」
「…………」
「それで兄の方が一度責めた事あるらしいんだけど、返ってきた言葉は“私は母親である前に女なの”なんて、女を都合よく解釈した言葉。……妹の方にも“貴女もいずれ分かるようになる。女を死なせたら駄目よ”なんて、まるでいずれ分かるかのように言っていたの」
……多分それは、前世のクロとリムちゃんの母親の事なのだろう。いつかクロも似たような事を言っていたし、前世などの状況を鑑みるに十中八九そうだろう。
……聞く限りでは、とんでもない親のようである。
「そんな女を見ていたせいなのかなー。積極的になりたいと思いつつ、どこか臆病になっていたりするんだよね」
「そう……なんだ……」
「あはは、だからシアンちゃんみたいに普段から過ごしている内に好きになっていったり、黒兄みたいに唐突だけど互いに理解し合ったり、話に聞いたルーシュ殿下の一目惚れっていうのが羨ましくあるんだ」
「それなら……ティー、様の好意は……駄目なの……?」
エフちゃんの言葉に、とある誰かがビクッと反応していた。
「正直言うなら嬉しくはあるよ。私があんな風に好きと言われたのなんて、カーキー君くらいだし」
「カーキー……さん……あの……」
アレは性欲の塊だから好きではない。文字通り身体目当てなだけの男である。
無理矢理はしないし、後腐れは無いのでそこは良いとは思うんだけど。
「でも、身分差はあるし、私は…………」
リムちゃんはそこまで言うと、なにかを考える……というよりは、思い返すように黙り込む。
……リムちゃんは先程、付き合う事に対して臆病とは言っていたが、恐らく違う所が問題なんだと思う。
クロに対してのような家族としてはともかく、私が神父様に対してのように好きという感情を今一つ理解しきれていないのもあると思う。
そして同時に“付き合う事が出来ない”と思っているようにも思える。
身分差も問題であると思っているのは確かだが……上手く言語化は出来ないが、自分と付き合うと相手が不幸になると思い込んでいるようで――
「……ねぇ、バーガンティー殿下。起きてるんでしょ」
「――っ!?」
リムちゃんはしばらく考え込むと、寝ているはずの殿下達に声をかけた。
「バーガンティー殿下というか、リオン君も起きているんでしょ? 多分起きたんだけど起きるタイミングを見失った感じかな?」
「……バレていたか。すまないな、クリームヒルト。盗み聞きするつもりは無かったんだが……」
「あはは、別に大丈夫だよ。聞かないようにと気を使っていただけでもありがたいと思うし」
私は大分前……大体アレをする時にはどんな声をあげるべきか辺りから起きているのは知っていたが、リムちゃんもそのくらいから気付いていたのだろうか。……エフちゃんは起きている事に気付いていなかったようだけど。
だけど何故今呼びかけたのだろう?
「それでさ、バーガンティー殿下」
「申し訳ありません。レディ達の会話を盗み聞くつもりは無かったのですが……」
「それは良いよ。私達が近くで話していたのが悪いんだから。……それよりもさ、バーガンティー殿下」
「は、はい、なんでしょう?」
起き上がり、なにをされるのかと緊張気味のティー殿下に対し、リムちゃんはいつものような楽しそうな表増でなく、どこか真剣さがある表情でティー殿下に近付く。
「バーガンティー殿下、私は貴方の告白を断り、その後に何度も貴方を叩き伏せ、冷たい態度もとっています。……それでも、貴方は私を好きなんて物好きな事を仰いますか?」
「……はい。私は今も貴方を女性としてお慕いしています」
身長差から自然と上目遣いになりながら、珍しいスラスラとした敬語口調でリムちゃんはティー殿下に告げる。
かつて敬語を今世の母親に否定された事により、敬語が苦手と聞いたのだが、それでも敬語を喋る辺り、これは……
「……そうですか。ありがとうございます。では……」
「では……?」
これはもしかして、リムちゃんは――
「では今すぐ私を抱いてください」
「……はい?」
……ん、あれ?
「えっと、抱きしめればいいのでしょうか?」
「いいえ、いわゆる男女の交わり。レッツ夜の営み!」
「……はい!?」
リムちゃんが、私よりも早く大人になろうとしていた。
◆
おまけ
とある領主と、とある神父の、とある時の会話。
「ところでホワイトって、シアンをいつ意識したんだ?」
「どうした急に」
「ちょっと気になってな。ほら、妹として接していたんだろう? それだけなら意識しないじゃないか。それに昔はシアンも荒っぽかったし……エムという訳じゃないんだろう?」
「違う。そうだな……祈っている姿が、綺麗だったんだよ。シキに来た事情を知っていたから信心は失っていたと思ったのだが、それでもアイツは祈る姿勢は綺麗だった。……見惚れる程にな」
「なるほどー」
「毎日それを見ていたら、なんか……な。思い返せばずっと俺は好きだったのかもしれないな。気付かなかっただけで」
「なるほどー。じゃあずっとエロい目では見ていたのか?」
「ゴホッ!? ……クロ、お前酔っているのか?」
「ほら、妹として接するにしてもあのスリットエロイじゃんよー。俺はよく挑まれていたから、そういう目で見る暇がないから見ないようにして、気付けば慣れていたけど……」
「……俺だって全くそういう目で見ていなかったかと聞かれれば、嘘になるさ」
「ほう」
「だが、当初は見ないように、劣情を催さないようにしていたさ。神父として、保護者として、あってはならぬことだってな。そしてあの服装はそういうモノなんだと思うように言い聞かせたら、いつの間にか普通と思っていたな……」
「そうか。だから気付くのに遅れたかもしれないな」
「ああ。……だけど意識し始めた今では凄く誘惑されるんだよ! シアンは可愛いと思っているようだけど、なんだあれエロいだろう!」
「だなー。……良かった、変わらないから心配だったけど、ちゃんと意識しているんだな」
「……それが心配だから酒に誘ったのか……」
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