追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

とある少女達の〇談_2(:紺)


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「――でね。そういう時にさ――」
「成程――でも――」
「そういう――うんうん――――凄い――」

 普段であればしないだろう話題に私は珍しくはしゃいでいた。
 以前はともかく、今は自らするほど好きでも無いがそういう空気になった時に話さない程嫌いでも無い。そしていつも身近に居る女性陣は、独特な話し方をしてこういう方面の話はしないコットちゃんや、照れて深く話さないイオちゃん。エグイ事を平気で言うが、自らはまず話さないエメちゃんなどでこういった方面は話さないのである。
 その中、色々とあっけらかんとしているリムちゃんや、照れはするが意外と興味のあるエフちゃん。ともかく、シキに居る仲の良い女友達とは違う方向性の話題に私は楽しんでいた。

――神父様には見せられないけど。

 神父様にもこういった事で盛り上がるような……性的な事に興味津々な風に思われたくはないので、見られたくはない。
 そして申し訳ありません我が神よ。修道女としては、秘すべき事柄で盛り上がるという事はあまりよくないのだけど、意外と楽しいのです。

「ところで、皆の初恋って誰?」

 そしてふとあがった話題。
 こういった話題では定番といえば定番だ。修道院に居た頃も、数少ない仲の良い修道女と共に話はした。女子修道院なだけあって異性との出会いに飢えていたので、どちらかといえば「初恋ってどんな感じかなー」のような話題が主であったが。

「そういう話題の時は、自分から話すものだよリムちゃん」
「む、それもそうだね」
「もしかして……クロだったりする?」
「クロさん……そういえば……クロ兄って……慕っているね……」

 幼少期からお世話になっている大人な相手を慕ったり恋に落ちる、という話は聞いた事は有るけど、リムちゃんもそういうモノかと聞いてみた。

「ある意味ではそうかもしれないけどね」

 あれ、意外とあっさりと認めるんだ。
 でも本気では無かった、という感じである。あくまでも慕っていただけのように思える。

「だけど私の初恋は……」
『初恋は……?』

 普段は色々と軽く男性と付き合いたいというが、本気で恋なんてしていなさそうなリムちゃんの初恋の相手というモノに不思議とドキドキする。
 一体どのような男性なんだろうか……!

「工どう新一っていう男性だよ!」

 KUDO-SHINICHI……それがリムちゃんの初恋の相手……!
 聞いた事のない名前からして、恐らく前世に関係する男性なのだろう。強い男性が好きというリムちゃんの初恋の相手ならば、やはり強い男性なのだろうか?

「うん、強いよ。なにせ一年間で殺人が数百件、爆発であらゆる建物が崩壊する町で生き抜く探偵だからね」
「凄い町……そんな物騒な町が……あるんだ……!」
「だけど殆どの犯人を捕まえ、謎を解き、その町の住民を爆発事故から救った……自身の身体が十全じゃない状態でね」
「おお、まさにヒーローだね! その男性とはどうなったの?」
「残念ながら、その男性には好きな女性が居てね。私の事は名前すら知らなかったよ……でも、私は見ているだけで十分だったんだ……」
「そっか……」
「クリームヒルトちゃん……」

 なんという事だろう。リムちゃんにそんな過去があったとは。
 別の女性が好きな相手に恋をし、だけど見守っているだけで充分という儚い恋心。だからリムちゃんは今のように積極的に言っているのかもしれないね……!
 ……だけどなんだろう。嘘を言っていない事は分かるのだけど、なにかが違うと私の中のなにかが告げている。主にクロがツッコミを入れたそうな……リムちゃんの言葉は本気だし、気のせいだろう。

「じゃ、私は言ったのだから次はエフちゃんの番!」
「わ、私……!?」

 そして言い切ったリムちゃんは次のターゲットをエフちゃんに定めた。
 私もあのエフちゃんの恋話を聞いてみたい気持ちはある。なにせ彼女は、お――

「私……忌み子扱い……された後……ずっと引きこもっていたから……それに……男性は……怖くて……」
「あ、あはは……」
「私を……揶揄おうとした……男の子は……階段から落ちて……全治半年……寄って来る男性は……基本……私の運を……利用しようとする……男性ばかりで……でも大抵が……不幸が起きて……兄弟以外で唯一……長く接してくれた医者の方も……飛ばされて――」
「さぁ、シアンちゃん、いってみよーう!」

 私を空気を脱する手段として使わないで欲しいが、この場合仕様がないかな。エフちゃんが過去を思い出して物凄く沈んでいたし……

「シアンちゃんの初恋の相手って、スノーホワイト神父様? それともシキに来る前に誰かに恋しちゃったり?」
「ううん、私の初恋はスノーホワイト神父様」
「あはは、じゃあ初恋がそのまま実ったんだね!」

 そう言われると嬉しさで顔がにやけてしまう。ふ、ふふ。そう今の私は神父様の彼女。将来的には……駄目、想像すると顔がにやけてしまう。年長者としてしっかりしないと。

「やっぱり一目惚れだったりするの? こう、出会った瞬間、目と目があった瞬間に電流が走ったみたいな?」
「違うよ、一目惚れじゃなくって、段々と好きになってある時ふと気付いた感じかな? シキに来て神父様と過ごして、クロに気付かされた感じかな」
「へぇ、黒兄が……是非初めて会った時や好きになるまでのシキでの事を聞かせて!」

 う、初めて会った時やシキでの最初頃か……話しても構わないけど、正直恥ずかしい。なにせシキに来た時の私はとても……

「シキに来た頃、私荒れていたから……話すとなると荒っぽい話になるけど、良い?」
「うんうん、大丈夫だよ。ね、エフちゃん!」
「うん……シアンさんの……恋のお話……興味あります……!」

 うう、そう期待されると話さなくてはと思ってしまう。
 修道女的には聞かれたらちゃんと話さないと。変に嘘を吐くのはイケない事である。
 私は一つ咳払いをし、話を聞こうとしているに聞こえるように向き直る。恥ずかしいけど、キチンと話そう。

「私がシキに来た頃、神父様と初めて会った頃は……」
「うんうん!」

 そう、初めて会った頃は――

「神父様に向かって“んだとテメェ、神父様だからって私の個性を消すつもりかアアン!?”って中指立てながら挑発したりしてたよ」
「なにがあったの」





備考1:好きな相手が工どう新一といった頃のクロ。
「……はっ!? なにかツッコまなくてはならない会話が起きた気がする……!」

備考2
黒 → あくまでも慕っていただけです。
どう新一 → あくまでも二次元の好きな相手です。

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