追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

息子の相談_5(:菫)


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「――と、私めはその時に思ったのです。身分や立場など関係無く、どのような時であれ強さを誇るアプリコット様の様になりたい、と」

 調理をしながらアプリコットとの出会いを語ったグレイは、懐かしむと同時に何処か楽しそうであった。まるで自分が誇る相手の魅力を語る事が出来たから嬉しいように。

――アプリコットは、昔から自分を持っていたのだな。

 私もアプリコットのシキに来た理由は少し聞き、あまり聞くものではないと聞かずにいたのだが、今回聞いて真っ先に思う事があるとすれば以前からアプリコットはアプリコットであったという事。
 環境も生まれも違うのだろうが、バレンタイン家の教育を受け続け、それを絶対だと従うのみであった私とは大分違うな。

「そして迷惑をかけられないので去るというアプリコット様に対し、クロ様が説得。共に屋敷で働いた後、私めと同じようにクロ様の子になるという話もあったのですが、結局は家名をハートフィールドにするだけになりました」

 そしてアプリコットがシキに来て、一旦保護した後も色々あったそうだ。
 奴隷用の紋章を解呪するために一時的にクロ殿と契約して上書きしたり。
 しばらく過ごす必要があるので屋敷で働いて貰った後にクロ殿が契約破棄する事で紋章を消したり。
 クロ殿がシキに馴染むまでの間に色々と協力してくれたり。
 屋敷で過ごす間に師弟の関係となったり。
 様々な紆余曲折を得て今のような関係性になっているそうだ。
 
――だがそうなると……

 私の知らない息子や友の新たな一面を知れて嬉しいのと楽しい面があったが、一つ気になる事がある。今なら聞く事も出来るだろう。

「色々あったようですね。……そうなると、出会ったその時からアプリコットに惹かれていた、という事になるのですか?」
「はい、そうなりますね。ですがその時はクロ様と同じ羨望の感情が主だったと思います。そして過ごして行く内に、アプリコット様を女性として好きになっていったのかと」
「おおー」
「楽しそうだね、メアリーさん」
「はいっ、こういう風に話をする機会があまり無かったので、楽しいですっ」

 聞いてみたいのだが……この恋や出会いの話の中で聞くのは少し躊躇われる。
 グレイも昔を語れて楽しそうだが、メアリーがより楽しそうにも見える。
 私の疑問は今すぐ聞く話でも無いので、後で聞こうか。……いや、今のうちに話したほうが良いのだろうか?

「ところで、出会った当初は今のような話し方ではなく、ぼくっ子だったみたいですが、いつからあのような話し方になったのですか?」

 と、思っていると、私ではなくメアリーが私の気になっていた事を聞いた。
 そう、私が気になった事の一つに、今のアプリコットのよく分からないが分かるようになって来たあの話し方がある。元々自信家で成長と共に今のようになった、と言われればそれまでだが。
 あとぼくっ子とはなんだろうか。なんとなく意味は分かるが。

「クロ様の影響があると思います」
「クロ殿の?」

 グレイの回答に、私はメアリーが聞いたにも関わらず、つい口を挟んでしまう。
 クロ殿の影響……今のアプリコットの言動がクロ殿に関する事なら是非知りたい。

「アプリコット様の魔法の力量は皆様の知る所だと思います。それは私め達と出会った時から素晴らしい力量の持ち主だったのです」

 聞くとクロ殿が「~~を出来るのか?」のような事を聞くと、アプリコットは見事にこなして見せたそうだ。
 そしてある時、アプリコットの魔法に対して一般的に付けられる魔法名とは違う魔法名を呟いたそうだ。
 それにアプリコットが反応し、クロ殿に(少し無理矢理に)聞いたのだが、その時の魔法名がアプリコットの琴線に触れたそうだ。
 初めは恥ずかしがっていたように見えたクロ殿であったが、グレイも褒め称えると得意気な表情になり、様々な新たな視点で語りだしたそうだ。今思えばその時の語りは前世や日本NIHONの影響なのだろうが、グレイやアプリコットにとっては未知かつ素晴らしい世界であったそうだ。
 そして屋敷内で色々と話し合うのが日課となり、アプリコットは今のように話し始めたそうだ。
 クロ殿的には初めは何故か頭を抱えて頬を染めていたそうだが、しばらく経つと自分らしくて良いと言っていたそうで――

「あ、グレイくん。メレンゲはその程度で良いんじゃないかな?」
「はい? あ、そうなのですか? もう少し角が立った方が……」
「いや、ケーキの類は八分立てだからその程度だよ。……チョコレートケーキの場合もそれでいいのかな、メアリーくん?」
「え? えっと角が立ってもピンとは立たない状態ですから……はい、そのくらいですね。それで、どうなったのですっ?」
「はい、実は――」
「…………」

 話していると、エクルが途中で割り込んで来たので話が途切れた。しかしメアリーが続きを聞き、再びグレイが話し始める。
 ……なんだろう、エクルはクロ殿のために話しを遮った気がする。クロ殿にとって触れられたくない内容であるから、話を逸らそうとしたが、失敗したという感じである。
 正直言うならば私も止めたい。知らない面を知れて嬉しくはあるのだが、なんとなくクロ殿の触れて欲しくない過去な気がするからだ。だから止めたいのだが……

「それで、私とアプリコット様はクロ様に――」
「ほうほう、素晴らしいですね――」

 クロ殿、申し訳ない。
 あの楽しそうな二人を止めるのは難しそうだ。







「――!?」
「どうしました、クロ子爵。また悪寒でも?」
「は、はい……」
「体調が悪いのならば休まれてはどうです?」
「いえ、健康のはずなんですが……なんと言うべきか、開けてはいけない【この世界全てパンドの贈り物ーラーの箱】が開けられたような……」
「はい?」
「……いえ、なんでもないです。気のせいでしょう。気のせいだと思いたいです」
「汗凄いですよ?」





備考:当時の中二談義では、以前の固有結界や投影や領域展開などは話さなかった模様。

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