追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
息子の相談_1(:菫)
View.ヴァイオレット
「ヴァイオレット様、私めはアプリコット様のお腹を膨らませたいのですが」
「ごふっ」
よく分からないスカイの行動により、朝から温泉に入った日の午後。領主の仕事として外を歩いていると、我が息子であるグレイから衝撃的告白をされた。
「あ、失礼致しました。確かこの表現は良くないのでした。確か……そう、アプリコット様と男女の取り組みをしたいと思うのですが」
「ああ、……グレイもそういうのに興味を覚える年齢か。むしろ遅いのかもしれないな」
「はい?」
今は外ではあるが、今この場に私とグレイ以外は居なくて良かった。
ここで話す事では無いので別の所で話をしたいのだが……
「確かシアンは用事があると言っていたな。神父様も留守だから……教会で話そう」
「? はい、分かりました」
教会は鍵は基本かかっていない。なので教会に行き、中を確かめる。中は誰も……いないようだ。ここなら周囲に目も気にせずに済む。
……教会で生命の神秘な行動について教育する、か。
罰が当たるのか、当たらないのかよく分からない。教育ならセーフだろうか。
ともかく私は礼拝堂の隅に行き、奥の長椅子にグレイと横並びに一人分の間隔を開けて向き合った。
「グレイ、急にそう思った理由を話して貰えないだろうか。ええと、アプリコットの……」
私とてそういった行為に関しての知識はある。
だがまずは知りたがった理由を教えて貰わねば。知りたがる理由から順に教えていかねば。
「はい、アプリコットを幸福にしたいからです! そのためにもお腹を膨らませたく思いまして!」
どうしようか、我が息子が真っ直ぐすぎて辛い。
笑顔でアプリコットと家族になろうとしている。子供をつくって私に孫の顔を見せようとしている。……グレイとアプリコットの子供か。可愛いだろうな。……違う、そこじゃない。
「……グレイ、思いはよく伝わった」
「はい、分かってくださいましたか!」
「だがグレイにはまだ早いと思う。そういうのは責任を持てる年齢になってからにしたほうが良い。ただでさえこれから学生なのだからな」
「学生になるからこそ、知識として知っておき、学園でもその知識を活かしたいのですが?」
活かす……息子はアプリコットと学園で爛れた生活を送る気じゃなかろうか。学生の本文は勉強だ。多少なら構わないが、グレイには支障をきたさない範囲で――だが、クロ殿と学生生活を送れていたら私は――うむ、今は考えずにおこう。
ともかく、昨日のキスの件といい、我が息子はクリームヒルトやメアリーが言っていた肉食系というやつなのだろうか。
……もしくは、意味を理解していいないのかもしれない。もしかしたらなにかの勘違いという可能性もあるかもしれない。
「グレイ、お腹を膨らませるという意味だが……」
「はい。あ、先程も言ったのですが、ヴァーミリオン様にその表現はやめたほうが良いと言われたのでした。男女の取り組み、あるいはクロ様とヴァイオレット様でいう所の夫婦で取り込んでいる、というべきなのですよね」
これは……勘違いでない上に、ヴァーミリオン殿下にも妙に気を使われているな。
以前私との会話でそういった事を言っていた気がするが、この事だったのだろうか。
……仕様がない。ここは腹を決めて話すとしよう。元々学園に良く前に教えなければならないと思っていたから、それが今になっただけだ。
「ところで、グレイはその行為に関しては何処まで知っている?」
「ある程度は……あ、そうです。つい先程神父様がシアン様にされて居るのを見ました。ここで」
「ゴホッゴホッ!」
「ヴァイオレット様!?」
グレイの予想外の発言に私ははしたなく咳き込んだ。グレイが心配そうに私の背を撫でてくれる。そして私は「大丈夫だ」と手でアクションをとる。
――シアン、なにをしているんだ。
付き合った以上そういった行為をするのはいいのだが、正式な結婚の前な上に礼拝堂だぞ。しかも我が息子に目撃されている。
「なんでも偶には気分を変えて、らしいです。いつもの場所が現在諸事情で使えなかったと仰っていました」
さらには何度も……か。うむ、仲良きことは美しきかな、というやつだ。……今度それとなく注意するよう伝えておこう。
ともかく、見ているのならば……………………なにを教えればいいのだろう。
――よく考えなくても、これは恥ずかしい事ではないだろうか?
……改めて考えると、五歳下の息子に母親が性教育を教える、というのは不思議な気分である。出来ればクロ殿にお願いしたいが、母親としての義務を果たそう。恐らく一般的な家庭とはそういうモノのはずだ。
「それで、ヴァイオレット様。是非私にご教授願えれば!」
「……ああ、分かった。だが男女によって差異があるから……」
「? やはり性別の違いで分からぬ所もあるという事でしょうか?」
「そうだな。……うむ、まずは……」
まずは、そうだな……教科書通りの内容から教えておこう。それくらいなら大丈夫だ。……私の精神的にもな。
「話は聞かせてもらったよ!」
「誰ですか!」
話そうと思っていると、唐突に礼拝堂の扉が開いて男性の声が聞こえて来た。
そしてなんだその本などではよく聞くが、実際にはまず聞かないその台詞は。距離的に私達の会話は聞こえない距離だろう。
「貴方は……エクル様!?」
「ふ、そうだよ。エクル・フォーサイスさ、将来の後輩君?」
現れたのは眼鏡をキラーンと輝かせている(眩しい)エクルであった。
……なんとなくだが、エクルなら今の台詞も納得である。本が好きで芝居がかった事を言う事があるからな。
「それで、どうしたんだエクル。盗み聞きとは趣味が悪いぞ」
「はは、すまないヴァイオレットくん。実は一度言ってみたかったのと、無視しようとしたけど、女性であるキミには話辛いと思ったからね。ちょっと割り込ませてもらったよ」
「それは……ありがたくはあるが」
ありがたいと言えばありがたいが……エクルはよく分からない男だから複雑だ。
私に敵意があるのは確かであるが、他の決闘のメンバーと決闘以降にあまり接していないにもかかわらず、こうして普通に接する。さらには考えが読みにくいので少し苦手だ。
「キミみたいな年齢の興味は正しく導かないと歪むからね。私が教えてあげようではないか!」
「……構わないのだが、変に教えようとしない事だ」
「そういうキミは教えられるのかい? そういった類は毛嫌いしていただろう?」
「う……」
それを言われると反論は出来ない。
出来ないが……エクルに教えさせるのは抵抗が……いや、こういうのは家族以外の同性に教えて貰った方が良いのだろうか……? ……分からない。
「私はどちらでも構わないのですが……ですが、出来ればヴァイオレット様の方が……」
グレイが私達を見て私の方に教えて欲しいと小さく言ってくる。
ふふ、私の方を信用しているという事だな。母親として少し嬉しい。……性教育を教えて欲しいと願われるのは嬉しい事なのだろうか? ……嬉しい事だな、そうに違いない。
「む、それは残念だ。だが私を信用できないのは仕様がないから、諦めるか」
「申し訳ございません、エクル様」
「はは、別に構わないさ。だがあまり彼女を困らせないでくれよ。男女の違いで分からない部分はあるし、答え辛い事も有るからね」
「はい、私めも弁えています。ですが大丈夫ですよ」
「? なにが大丈夫なんだい?」
グレイは先程のように真っ直ぐな笑顔で――
「クロ様が――父上が、母上のためにされているのを何度も見ましたから、身近に居る母上に是非聞いてみたいのです!」
――衝撃的発言を、した。
「……ヴァイオレットくん。他家に関してとやかく言うべきではないし、仲が良い事は善い事だが……息子には気を使ってあげるんだよ」
「誤解だ」
「?」
◆
「――!?」
「どうしました、クロ子爵。身震いをして?」
「ちょっと悪寒が……いえ、なんでもないですよアッシュ卿」
「風邪でしょうか?」
「そのような事は無いと思いますが……なんと言うべきか、妙な誤解を受けている気がしまして……」
「はい?」
「……いえ、なんでもないです。気のせいでしょう」
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