追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

よくある温泉混浴ハプニング_4(:偽)


View.メアリー


「何故こんな所に箱が……確か連合王国の新技術のダンボール……? しかも動いていたような……」

 何故今ヴァーミリオン君がここに居るのでしょう。温泉に入りに来たのでしょうか。
 いえ、理由はあまり関係無い事です。今重要なのはヴァーミリオン君がここに居て、私が居るダンボールを見て訝しんでいるという事です。

「まったく、アイツが居て迷惑をかけたようだから様子を見に来たが……さらなる怪しいモノがあるとはな……」

 アイツ?
 内容からして私の事では無いようですが……

「おい、中に居る者。どうやってその箱を仕入れたかは知らんが、場所的に隠れての覗きの可能性も捨てきれん。やましい事が無ければ今すぐに出てこい」

 って、それ所ではありません。
 ヴァーミリオン君はダンボールの中に誰かが居る事を把握しているようです。中に居るのが私な事までは把握していないようですが……今にでも私が入っているダンボールを持ち上げそうです。持ちあげたらまた……

――うう、緊張があって、上手く思考が……

 再びどうしようかという緊張と妙な感覚で上手く思考が働きません。
 別に肌を見せるくらい恥ずかしく無い物だと思っていたのですが、その時になるとひどく恥ずかしいです。この羞恥は変になりそうです。

「……出て来ないのならばこちらから行くぞ。魔法で封じるが、悪くは思うな」

 ええ、暗殺者でも入っていたら大変ですからね。魔法で動きのは封じるのは当然ですね。流石はヴァーミリオン君、慣れていますね。
 ……そんな事言っている場合じゃないですね。下手に封じられて中に居るアッシュ君達に勘付かれるよりは……

「……私です、ヴァーミリオン君」
「……メ、メアリーか?」
「はい……」

 私は素直に声を出す事にしました。
 この状況でヴァーミリオン君ならばまだ言い訳が通じそうですから……

「な、何故メアリーがダンボールの中に? もしや出られなくなったのか? なら、今すぐに――」
「や、止めて下さい! その、色々あって今の私は中で……」
「中で?」
「……服を着ていないんです」
「…………良ければ俺がなにか着るものを探そうか。待っている間は俺の上着でも貸そう」

 あはは、理由を聞かずに服を探そうと言ってきました。さらには服も貸そうとして下さってます。優しいですね、あははー。
 ……クリームヒルトの真似はやめましょう。

「いえ、着るモノは確保しているんです。ただ、その……」
「遮蔽物がある場所に行くか。俺が誰かが来ないかという事と、誰かが来ても誤魔化すようにしよう」
「ありがとうございます……」

 なんでしょう、気遣いはありがたいのですが心が少し痛いです。
 ヴァーミリオン君自身はなにかに巻き込まれてこうなっているかと思っているかもしれませんが、事情が事情だけに……い、いえ、今は厚意に甘えて着替えるとしましょう。

「で、では行きましょうか。あの辺りなら隠れられます」
「ああ――そう移動するのか」

 少し立てばキチンと歩けるのですが、なにも来ていない状態だと足が露出し下手をすればお尻なども見える可能性があるので、ギリギリ見えないように左腕で服を抱えながら四つん這いの状態で移動して行きます。

「どうです?」
「ああ、そこなら周囲から見えにくいだろう。では俺は離れているから、着替えたら言ってくれ」
「はい。……えっと、その」
「見ないようにするから安心しろ」
「ありがとうございます……」

 そして移動し、ヴァーミリオン君に大丈夫かと聞きます。
 さらには相変わらずの気遣い。……ある意味あって良かったかもしれません。

「よっ、と。……うっ……」
「どうした? 誰も来ていないし見ていないから安心しろ」
「い、いえ、肌が風にあたって妙な感じがして……」
「そ、そうか。すまない、変な事を聞いた」

 私は被っていたダンボールを脱ぎ去り(?)、外に出ます。
 温泉でもないのに色んな所が外気に晒されて……あまり体験したくない感覚です。
 ヴァーミリオン君は木の影でこちらは見えない位置に居て見張っているので大丈夫ですが、早く着替えましょう。
 まずは下着から……の前に、若干濡れているのでタオルで軽くサッと拭きましょうか。

「……ん、しょ」
「…………」
「よっ、……よし、良いですね。――んっ、と」
「…………」
「……っ。……ふぅ」

 拭いて、下着をつけ、服も着ます。結んでいた紙も解いて……よし、これで大丈夫ですね。
 髪はまだ濡れて少々気味が悪いですから、後で拭きましょう。
 まずは……

「ヴァーミリオン君、もう大丈夫ですよ」

 まずは見張ってくれていたヴァーミリオン君に感謝しなければなりません。
 彼のお陰で大分安心して着替えを――おや?

「ヴァーミリオン君?」
「あ、ああ。そうか。無事着替えたのならば良いんだ」
「どうかされましたか? その、顔が……」
「な、なんでもない」
「?」

 ヴァーミリオン君の顔が、寒さに身を震わせたものとは違う赤さになっていたので気になりましたが……なんなのでしょうか。私の着替えを覗いた……という事は無いでしょうし……そういえば耳を塞ごうとしていたのは気のせいでしょうか。気のせいでしょう、周囲に気を配っていたはずですし。

「メアリー、髪が濡れているが」
「ああ、はい。色々ありまして……」

 温泉に入っていて途中でダンボールに隠れていた……なんて正直には言えないですね。
 ですがなにも説明しないのは駄目ですね。折角協力してくださっていたんですし。
 私はどう説明すれば良いかと思い、言われた濡れた髪を軽く弄ります。

「む、メアリー。手を怪我をしているじゃないか!」
「へ? ……ああ、本当ですね」

 ヴァーミリオン君に言われ、手を見ると確かに怪我をしていました。
 先程ダンボールを被って移動している時になにかで切ったのでしょうか? そして着替えの動作の際に、開いた……という感じでしょうか。
 幸い痛くは有りませんが……

「すぐ手当をしよう。こういったものはなにが起きるか分からないからな」
「御心配には……いえ、お願いできますか」
「ああ」

 初めは断ろうとしましたが、折角の気遣いを無碍には出来ないので素直に治療を受ける事にしました。
 ……この世界はクリームヒルトの先日の怪我すらもすぐに治せるような医療ですし、この程度なら問題はないとは思いますが、大事は取らなければなりません。

「痛っ」
「悪い。だが我慢してくれ。消毒せねばならん。……お前の肌は綺麗で、愛おしい。傷がつくとなれば見過ごせんから、きちんと治療させてくれ」
「は、はい……」

 ヴァーミリオン君は消毒の効果もある浄化魔法を私にかけます。
 消毒作業で痛いという事は……意外と雑菌が入っていたのかもしれませんね。
 これはヴァーミリオン君に感謝しなければなりません。……ですが、この言葉は照れます。ヴァーミリオン君に綺麗と言われるのはその……素直に、嬉しいですから。

「そ、そういえば私があんな事をしていた理由はですね!」
「いや、話したくないのならば話さなくて良いのだが……」
「私に露出趣味があった訳じゃないんですよ!」
「分かっている。……分かっているとも。シキここにあまり感化されないようにな」
「その反応は困るのですが!?」

 私が照れでで話を逸らそうとしましたが、ヴァーミリオン君はなんだか先程の出来事を勘違いしている気がします。

「……メアリー。俺は王族として寛大なつもりだ」
「ですからね……!」
「聞いてくれ。……メアリー、お前はクロ子爵やクリームヒルトと同じ日本NIHON出身なのだな?」
「は、はい、そうですが……?」
「だから俺は受け入れる気だ。クロ子爵やクリームヒルトのいるような日本NIHONという国の、変態……特殊な性質でも……」

 変態……特殊な性質……でしょうか?
 確かに日本は色々と変態だと諸外国に言われたりはしていたようですが。鉄砲を売るために二丁だけ渡し、性能を実感させてから高値を吹っ掛けようとしたら量産されていた、などは聞いた事は有りますが……

「メアリー。俺はお前と結ばれたいと願っている。だがメアリー……姉さん達や弟達を巻き込むのは……」
「はい?」

 え、ご姉弟……?
 変態……日本……兄妹……? なんの関係性が……?
 待ってください。露出から話が繋がったという事は……え、そっちの意味の変態なのですか!?

「さらには子供巻き込むとなると……もしや親なども……」
「待ってください、私にはそういった趣味は無いですし、クロさんに関しても勘違いだと思いますよ!」

 クロさんに関してはそういった方面に関して……は、正直プライベートなので分かりかねますが、多分勘違いです!
 それに私も勘違いされたままでは困りますし、日本という国が変態に――いえ、そっち方面に関しても変態かどうかと言われれば、変態なのでしょうが、勘違いは困ります!

「大丈夫だ、メアリー。……俺も、受け入れられるモノは、受け入れるつもりだからな」
「優しい表情は止めて下さい!」

 これはすぐにでも勘違いを解かなければなりません。
 正直言うとアッシュ君達と会わないために、この場は早く去るべきだと思っていました。しかしこの誤解は早めに解かなければならないと私の直感が告げています。特にヴァーミリオン君に勘違いされるのは困ります。ロイヤル的に困ります。
 私は生憎と特殊アブノーマルではないと思います。開花はするかもしれませんが、今はその兆候はないと断言できます。
 なにせ先程も見られるのは恥ずかしかったですし……

――それに先程の緊張感を思い出すと……出すと……?

 あれ、今私はなにを思い浮かべようとしたのでしょうか。
 あの緊張感は正直もう味わいたくない事です。シュバルツさんのように露出し、見られて興奮する性質では無く、恥ずかしく思う事なのでもう嫌なはずなのです。

「どうした、メアリー?」
「いえ、なんでもないです……?」
「そうか?」
「それよりもですね、私は――」

 私はヴァーミリオン君に釈明をしながら、自身の先程の気持ちについて考えます。
 裸を見られるのは嫌です。
 露出する趣味も有りません。
 ですがあの感覚。緊張の他にもあったあの力が入らない、今までになかった妙な感覚は……

――前世むかしを思い出しましたね。

 心臓の飛び出るのではないかと思うほどの鼓動は、前世を思い起こさせました。だから懐かしんだ。
 ……ただ、それだけですよね?







 とある屋敷


「そういやさ、前にメアリーさんについてシュバルツさんに馬車で気になる事を言われた事があるんだけどさ」
「シュバルツさん? なんて言ってたの黒兄?」
「メアリーさんがさ……その、実は■■なんかじゃないかってさ」
「……シュバルツさんがそう言ったの?」
「ああ」
「そういえばメアリーちゃんって前世じゃ病弱だって言ってたよね?」
「病弱って言うか病気が体に無い所が多かったらしいがな」
「んー……じゃあ、有り得るかもね」
「俺も予想はあるが、一応聞いても良いか」
「痛い以外の感覚が無く、今世で始めて色々な感覚を覚えたんだよね」
「ああ、そのせいでこの世界がゲームの世界という感覚が強かった」
「つまりは……痛みが■の証だった可能性があるよね?」
「ああ」
「病気なら体調不良で心臓が跳ね上がる事があるよね。ちょっと違うだろうけど緊張とかでも似た事があるかもしれない」
「……ああ」
「……踏まえると、痛みを受ける事、極度の緊張が■を実感するとしたら……」
「……したら?」
「……有り得るかも」
「……同意見か」





備考:「メアリーさんについて前にシュバルツさんに馬車で言われた事」は、第188話「領主会議(飲み会)にて_1」での事です。

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