追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
よくある温泉混浴ハプニング_3(:偽)
View.メアリー
――……さて、どうしましょうか。
エクル先輩が私についてを話してから出るタイミングを見失い、結局私はダンボールの中で縮こまっています。
先程入った後碌に拭かずにいたため、身体から体温を奪いながら水分が蒸発していくので正直寒くなってきました。幸いと言うべきかダンボールの中からあまり温度が外に行き辛いため風邪はまだ大丈夫そうですが、このまま行けば危ういです。
――そろり……そろり……バレないようにゆっくりと……
私はずっと縮こまっても居られずと思い、ゆっくりと更衣室、自身の服の所へとダンボールを被ったまま移動します。湯気が濃いから大丈夫。と自分に言い聞かせながら、心臓が今までにないほどにバクバクと音を立てるのが分かるほどに緊張しながら移動して行きます。
時に素早く。同時に足音を立てないようにしながら。
こちらに意識が向かないように、会話を聞いてよさそうなタイミングを見計らって移動します。
「エクル先輩は先程眼鏡を外せない、と仰っていましたが裸眼だと視力はどの程度で?」
右目乱視の左目色弱で、外すと男性か女性かも分からない程の視力のはずです。
後は……いけません、今はカサスの設定を披露したい気持ちは抑えるのです。
「外すとぼやーっ、としか見えないんだよ。こういう場所だと段差に気付かなくってこけたりする事もあるんだ。それに紫の……おや?」
「どうかされましたか?」
「いや、この地面……なんか窪んでないかい?」
「どこでしょうか。……確かにそうですね」
窪み? 何処の事でしょうか。
もしも私の方を向いていたら動けないので、僅かに見える穴から、身体が見えてしまうかもしれない事に心の中で謝りつつ外を見ます。
するとアッシュ君達は……大体温泉の中心辺りでしょう。その底辺りを見ていました。以前来た時の事を考えると……仕切りの辺りでしょうか。
というかマズいです。そうなると場所的に男湯から女湯の方へと移動した事になります。脱衣所がバレたら……!
「危険ですね。管理人は確かクロ男爵……じゃない、クロ子爵のはずですから、報告はしておきましょうか」
「そうだね。子供が怪我をしたら危ない……ん? ……アッシュ君、アレって……」
「アレ? ……脱衣所?」
「私達が着替えた所とは別ですよね?」
早速バレてしまいました。
わ、私の服って何処に置きましたっけ。目立つところに置いていなかったですよね?
「……エクル先輩、やはりこれはなんらかの原因で男女の温泉の仕切りが無くなっているのでは?」
「かもしれないね。それなら早く出ようか」
「おや、先程は混浴でも構わないと仰っていませんでしたか?」
「さっきは冗談のつもりだったんだけど、今こうして見ると壁も確かに壊れたように見えるし、この窪みとかも考えると事故でこうなっているのかもしれないからね。望まぬ形で肌を見られるのは女性も嫌だろう。……いやまぁアッシュ君がどうしても混浴したいのならば付き合うけど」
「したくありません」
これは……ジッとしていれば出ていかれるのではないでしょうか?
ならば無理に出ていかなくても良いのではないでしょうか――
「後もう一つ気になっているんだけど、あのダンボールはなんだと思う?」
「ダンボール? ……ああ、あの箱ですか?」
ビクッ、と。
その声に箱全体が揺れてしまうのではないかと思うほどに私は動揺しました。
「……人が入りそうではあるけど、もしこの温泉が男女混浴に事故でなっていたとしたら……」
「場所的に女湯の場所ですね。……もしかしたら……」
「中に誰かが入って、覗こうとしていた可能性も……?」
「この壁がつい先ほど壊れたとして、退散する前に私達が来たとしたら……」
「杞憂で済めば良いけど、犯罪者なら……」
「…………」
「…………」
む、無言が重いです。
ハッキリとは見えませんが、確実に私の方を見て警戒体勢になっています。
ま、マズいです。この箱は内側から抑えにくいですし普通に持ちあがります。ダンボール箱を上げられたらほぼ産まれたままの姿を晒す事になります。
しかもダンボール箱に隠れていたとなると……言い訳出来ない程に変態では無いでしょうか。
「私が行くよ。アッシュくんはフォローを」
「いえ、私が……」
「ここは先輩に任せなさい。危険は率先してやるものだよ。……誰かが出て来ても逃がさないようにね」
「……はい。お任せします」
「あ、念のために腰にタオルを。万が一隠れていたのが女性の場合、見せびらかしたら変態だ」
「え、あ、はい」
自身の心臓が、バクバクとなります。
温泉に入っていた時と違う汗が大量に流れます。
ダンボールの中で下半身を逃げられるように動かす体勢をとろうにも、体勢が不十分なのか精神状態のせいなのか、震えや妙な感覚で上手く力を入れられません。
「その箱の中にもし誰かが居るのならば出て来て下さい。互いに怪我はしたくないでしょう」
この場合の怪我は心になりそうです。お互いに。
「……来ないのならば、行きますよ」
どどど、どうしましょう。
あ、そうです。こういう時は猫の鳴きマネをすれば良いと聞きます。それで誤魔化せ……たとしても閉じ込められているなら助けなきゃってなりますね。箱は開けられます。
さらに心臓がバクバクとなります。この鼓動は前世の体調が悪い時を思い出します。
自身の(ある意味の)命の危機を感じる緊張。呼吸をするのもやっとかになり、脳が上手く働かないこの感覚。ああ、懐かしいです――
「ヒャッハー、温泉だぜひゃっほーう!」
『!?』
私が(社会的)命の危機に、天の声が聞こえてきました。
明るい女性で誰にでも明るく接することが出来る、クリームヒルトとある意味で似ているいつも楽しそうな女性。混血が多い王国の中で純粋な森妖精族であり、キノコが大好きな――
「ふふふ、即脱アーンドゥ即入浴……! クロが居れば出来ないけど、今この場なら――」
「……ミズ・カナリア?」
「へ?」
そう、カナリア。
カナリアが入って来て服を脱ぎすて温泉に飛び込んだようです。
「え、もしかしてここ男湯!? ご、ゴメンあそばせすぐに出ていきますので通報は勘弁してくださいませ!」
「お、落ち着いてくださいミズ・カナリア。そういう事では無いです」
「え、じゃ、じゃあ私の身体に欲情して女湯に侵入したんです? エルフとして興味を持たれるならば嬉しいですが、貴方達イケメンなら選り取り見取りですよね。――はっ、まさか窃視症!?」
「違います。あの壁をご覧ください」
…………よし、行けます。
「壁? ……壊れてますね」
「はい。私達は初めこういうものだと思っていたんですが……どうなんです?」
「男女の仕切りがあった所ですね。はっ、成程この状況は――」
「やはりですか……それで分かって頂けましたか? 私達もおかしいと思って……」
錬金フィールド極小展開――構成――変換――錬金……
「まさかこれはクロが言っていた開放感ある温泉というやつ! 天井だけでなく壁も壊すとは! 混浴なら問題ないという事ですね!」
「違います」
アッシュ君は出来るだけ見ないように、エクル先輩も軽く目を逸らしながらカナリアに説明をします。
なんでしょう、アッシュ君はあまり隠そうとしない女性の裸に照れていますが、エクル先輩はあまり照れているようには見えません。案外女性慣れしているんでしょうか……?
「へぇ、ダンボール? の中に誰かが……」
「ええ、ですから慎重に……貴女は下がっていて――」
「とーう!」
「ミズ・カナリア!?」
「カナリアくん!?」
そして説明を終え、私が入っていたダンボールを見て再び警戒を抱き、下がっているように言いますが、カナリアは迷わずにダンボールを開けました。
ちなみにカナリアはバスタオル巻いているだけなのでアッシュ君は視線に困っています。
「……誰も居ないね」
「あれ? ……そのようですね」
「どうやら杞憂だったようだ」
そして空であるダンボールを見て、ホッとしているような表情をしている様子が見えます。
私は私が入っていたダンボールを確認している三者を見て、今被っているダンボールをあげてダンボールから腕を出します。
――な、なんとか服を確保できました……!
どうやら上手く行ったようです。
錬金魔法は学問として成立がしにくいほど特殊な魔法で、魔力が特殊なため発動が感知されにくい魔法です。
なので私から注意が逸れている間に、移動の際に見つけた飛び散った破片を拾い、もう一つのダンボールを作成し、被っていたものを放置する事でどうにか脱出する事に成功しました……!
――今のうちに……脱出です!
私は服を確保すると、扉の前に移動してゆっくりと開け、周囲に誰も居ないことを確認して靴を直穿きし温泉の建物を出ました。
ふぅ、これで大丈夫です。後は服を着るだけですね。
外での着替えは恥ずかしいですが、あの見られたら裸しか見られない温泉よりはマシでしょう。
茂みにでも隠れて着替えを……
「む、アレはなんだ。…………ダンボール?」
着替えをしようとして、その声に再び全身に妙な感覚が生まれます。
この声は私もよく知っている――
――ヴァ、ヴァーミリオン君……!?
そう、ヴァーミリオン君がそこには居ました。
……再び、私の裸を見られる危機です。
なんでしょう、少年誌のエロ担当かなんかなのでしょうか、私。
◆
とある屋敷
「――はっ、なんだかあまり認めてはならない事を言われた気がする」
「え、どうしたの黒兄。というかほぼさっきの私の台詞じゃない、それ?」
「エロって言うのは露骨だと下品になると思うんだ」
「大体は同意するよ。BLと同じだね」
「もちろんそういった方面に特化している作品ならば良い。だがなんでも脱衣しておけば良いという訳では無いと思うんだ」
「黒兄はヌードデッサンで女性の裸は見慣れてるだろうし、ただの全裸は芸術になる、的な感じ?」
「そうだ。何気ない日常に見出す事によって少年の心を満たすのであって、裸なら良いという訳じゃないんだ。動作とシチュエーションがあってこそ良いんだよ!」
「あはは、いくら兄妹でも包み隠さず言うのは気持ち悪いよー」
「でも?」
「同意するよ! 矢吹健〇郎先生が少年誌で書くからこそ偉大な価値がある的な感じだね!」
「よく分かっているじゃないか、さすが妹! ……というか懐かしいな、その漫画家の名前……週刊誌でよく見たなぁ……俺が生きていたらトラブル的なにかの次の作品も見れたんだろうか……」
「あはは、月刊誌でしょ?」
「え」
「え」
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