追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
ラッキー(?)なスケベイ_1(:灰)
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「こちらがシキの教会になります。過去にシキは多くの方々が住んでいたらしく、その名残でとても大きいのだとか」
「……一応……見て回ったけど……知らなかった……そんな過去が……あるんだね……」
私は今、エフ様をシキの案内をしていた。
我が屋敷では今頃クロ様やヴァイオレット様が色々と話し合っているようであり、私にはよく分からない内容であったので入れなかった。そこで同じく暇であったエフ様と話をしていると、シキの案内を頼まれたのだ。
なんでもティー様と一緒に見回ったそうなのだが、シキに住んでいる住民の声で直接案内をして欲しかったらしい。
私がティー様の護衛は良いのかという事とあの部屋に居なくて良いのか、と尋ねたのだが、別に問題無いとの事だ。なんでも、
『護衛……必要ない……実力者ばかり……それに……多くの人と……あまり……近くに居たくない……』
との事だ。確かにあの方々ならば護衛が必要ないほどには素晴らしき腕を持つ方々ばかりではあるが、護衛としては大丈夫なのかとも思う。
もしかしたら多くの人と一緒に居たくないと言うのと、今も一定以上よりは近付いてこないので、ただ恥ずかしがり屋なだけかもしれない。
あとはフードの服に【認識阻害】の他に別の魔法もかかっている気がする。特殊なので詳細は分からないが……
「……? あれ……なんでしょう……?」
「あれ、ですか?」
私がエフ様について考えていると、エフ様が疑問を持ちながら何処かを見ていた。
こうして見ると、顔などは分からないのに、何処を見ているかや疑問の表情を浮かべている、というのは分かるので【認識阻害】とは不思議な魔法である。
不思議に思いつつもエフ様が見た方を私は見るとそこには……
「ぜー……はー……くっ、まだまだだ! この程度ではまだ折れぬぞ!」
「はい、その心意気は受け取りました。ですが休憩も必要です。少し休みますか?」
「あと一セットだ! 無理だと思った所からもう一回が――」
「ええ、限界を超える一歩です! 分かりました、来てください!」
「行くぞ!」
そこには模擬刀を持って戦っているメアリー様とシャトルーズ様が居た。
私では到底及ばない速度や技量を持って高速な模擬戦をしている。
相も変わらずメアリー様は優雅に戦う。気取った、ではなく自然とそう見える辺り、素晴らしい才覚の持ち主と言うべきなのか。
「あれは……訓練……? シャトルーズさんよりも……強い……あの金髪の女性……強いんだね……?」
エフ様はその模擬戦を見ながら興味深そうに呟いていた。
首都からティー様と共に来たと聞いたのだが、どうやらエフ様はメアリー様の事を知らないようである。ここは私が説明して差し上げよう。
「はい。彼女はメアリー・スー様と仰って、とてもお強いお方です。アゼリア学園で歴代でも最高の逸材と呼ばれ、聖女と崇められる存在だそうです」
「そうなんだ……」
そして恐らくアプリコット様はその上に行くはずである。聖女の上となると……神女だろうか。あの美しさは神々しく――いや、神と評するよりは別の言葉で評したほうが良いのだろうか。聖よりは邪を好むので……邪女? 悪くて強そうだ。
それは後でアプリコット様に言うとして、今はメアリー様とシャトルーズ様だ。
「そしてメアリー様の多くの男性に好かれている方でもあります。現在はシャトルーズ様が挑んでいるのもそれが理由でしょう。ああやってメアリー様の強さを感じているのです」
「そうなんだ……?」
「強さを感じて己が弱さを無くす。そして何度も挑んでいるのは、(強くなるための)痛みに喜んでいるのでしょう」
「……そう、なんだ……?」
「限界を超えて(筋肉を)傷めつける事で、シャトルーズ様(の筋肉)が喜び、成長するのだと。そして痛みこそが私の生きている証、とも仰っていましたね」
「……シャトルーズさん、そんな趣味になったんだね……」
そんな趣味……? 今は鍛錬を欠かさないシャトルーズ様であるが、もしや昔は鍛えるのは趣味では無かったのだろうか?
というよりもそのように言うとは、昔のシャトルーズ様を知っているのだろうか?
「あ、やっほーグレイ君にエフちゃーん!」
私がエフ様を見ながら疑問に思っていると、少し離れた所でメアリー様達の訓練を見ていたクリームヒルトちゃんが、私達に気付いて笑顔で駆け寄って来た。相変わらずの元気ぶりである。
「あはは、さっきぶりだね、二人共っ! なにをしているのかな?」
「はい、エフ様にシキをご案内しています」
「そうなんだー。私も一緒に付いて行っていい?」
「私は……良いよ……?」
「はい、構いませんよ」
「ありがとう! ……あれ、でもエフちゃんは護衛は良いの?」
「……大丈夫……それに私が……居ない方が……怪我もしないだろうし……」
『?』
エフ様が居ない方が怪我をしない? どういう意味なのだろうか。
「どういう意味?」
と私が思っていると、クリームヒルトちゃんが尋ねた。
疑問に対してエフ様はフードをさらに深く被る。クリームヒルトちゃんからだけではなく私や周囲の視線を気になされている……?
「私……ちょっと特殊な体質だから……わぷっ?」
その時、突風が吹いた。
唐突であったためエフ様のフードを抑えようとしていた手が上手く抑えきれず、そのままフードが取れた。
「わっ……わわっ!?」
そして【認識阻害】の効果が薄れたのか、エフ様の素顔――黒髪碧眼の少女の素顔が見えた。アプリコット様と同じ年齢程度だろうか。
なにが起きたか分からない様に慌てる姿は、先程までの落ち着いた物言いとは違い年齢相応の少女のようである。
「わー、可愛い。顔を隠すなんてもったいないよ!」
「ふ、フード……!」
「あー」
エフ様はすぐにフードを被ると、再び顔が隠れた。
クリームヒルトちゃんが仰るように可愛らしい顔であったのに、何故隠すのだろうか。
……そういえばアプリコット様が「人はどのようなコンプレックスを持っているか分からない」と仰っていたので、その類なのだろうか?
あれ、でも……
「認識阻害は服自体にかかっているので、フードが取れる程度ではお顔は分からないはずでは……?」
「あれ、そうだね?」
「…………この服は、認識阻害の他に……特殊な魔法も……あるから……フード被らないと……上手く……効果が……発動しない……」
「そうなのですか」
「あはは、そうなんだー……あれ、なんで離れるの?」
私が疑問を呟くと、エフ様はしどろもどろになりながらも疑問に答えてくれた。
しかしそれと同時に私達から何故か距離をとる。そしてなにかを警戒しているように周囲を見ているように思える。
「……この服……ちょっと特殊な……魔法があって……今外れると……もしかしたら……」
「どういう事?」
クリームヒルトちゃんが顔を覗き込む様な仕草を取りつつ疑問を浮かべる。
特殊な魔法、特殊な体質……一体それは――
「隙あり!」
「えっ――わっ!?」
「は――?」
ふと、メアリー様とシャトルーズ様の声と、なにやらぶつかるような音がしたのでそちらの方を見る。するとそこには……
「――むぐ!? ――っ!!?」
「え……えっと……? あははは……クッションにはなりましたね……?」
そこには、尻もちをついているメアリー様と。メアリー様の胸に顔を埋めているシャトルーズ様が居た。両者共なにが起きたか分からない様に、顔を赤くしたりしている。
ええとこれは……
「女性の胸は母性の象徴と聞きますが、シャトルーズ様は母性に飢えているのでしょうか?」
「あはは、でもヴェールさんも母性はある方だからね。飢えているのならシキに来ているし言っておこうか?」
「良いかもしれませんね? ハグして貰うかもしれません」
「やめて……あげて……」
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