追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
リクエスト話:if_クロとクリームヒルトルート
※この話はなろう様活動報告にて募集いたしましたリクエスト話(ifなど)になります。細かな設定などに差異があるかもしれませんが、気にせずにお楽しみ頂ければ幸いです。
リクエスト内容「クロ×クリームヒルトのif」
※互いに前世の兄妹であるという事は気付いていません。
俺はクリームヒルト・ネフライトという平民の少女と結婚した。
赤みのかかった金色に近い髪に、透明に近い瞳。息子であるグレイよりも小柄で、錬金魔法という希少魔法を使う良く笑うがどこか空虚な感じがある四歳差の平民の女の子だ。
別に俺は愛さえあれば身分差とか気にするタイプでは無いのだが、この結婚自体は俺が望んで結ばれたものではない。
俺は仮にも男爵であり、相手は平民の女の子。通常であれば無理に婚約を結ばれる事は無い。
だが結ばれた理由は簡単だ。――嫌がらせである。
クリームヒルトはネフライトという一家を廃嫡され、学園も問題を起こして退学した。
そして何処かの俺を嫌っている第二王子が、嫌がらせのために問題がある嫁として俺と婚姻を結ばせた。
――……どういう手を使ったんだか。
嫌がらせのためにここまでするとは、よくやるものだと思う。仮にも王族が関わっているので俺は断れないし、親も書類上では既に認めている。その労力を他に使えとは思うが、アレは優秀ではあるので片手間にどうにかできる範囲なんだろう。
問題がある女性が相手という事で、俺はグレイに迷惑がかからないように気を使わないと駄目だな、と警戒の念を抱きながら迎えた訳だが――
「おーい、旦那様ー! 楽しいよ、おいでー!」
「おいコラ服のまま水遊びすんなクリームヒルトにグレイ!」
「あはは、じゃあ全裸だね! 早速脱ごう我が息子!」
「はいクリームヒルトお母さん!」
「やめんか! あ、ちょ、待て脱ぐなオイ! 恥じらえ!」
「見られても減るもんじゃないし、私達しか居ないし旦那様も遊ぼう! 最近仕事が忙しかったでしょ息抜きも必要だよ!」
「そうですクロお父さん! 家族で裸の付き合いです!」
「それ意味が違うからな! 脱がしにかかるな!」
「あはは楽しいね息子よ!」
「あはは楽しいですお母さん!」
「真似るなコラ!」
――まぁなんだかんだ仲良くやってる。
グレイは懐いているし、シキの個性が強い面々にも気にせず仲良くはしているし、こうして仕事が忙しい俺にも息抜きを進めてくる気遣いもある。
話によると学園で色々な問題を起こしたとの事だが、ここに来てからの様子を見ているとあまり信じられる話ではない。
まぁ確かにモンスターを相手に笑いながら躊躇いなく殺害できる点などは少しズレているかもしれないが、冒険者としてはある意味必要な精神性だろう。笑う点は異様に映るかもしれないが、特別忌避する事ではない。だが……
「へーい、旦那様。今日の夜夫婦の営みしよう!」
「雰囲気もへったくれもないな」
「でも夫婦なんだから普通でしょ?」
「普通だが少しは考えろ」
「えー」
「えー、じゃない」
だがこの辺りは勘弁して欲しい。
場所は執務室。初めは真面目にやっていたクリームヒルトだが、段々と飽きが来たのかペン回しをやりだした後、俺の背後に来て寄りかかる様に抱き着き言いだした。
正直こういった事はよくある事だ。グレイの前では遠慮するのだが、俺達だけになるとよくこうやってベタベタしながら誘ってくる。
「男の人なんだからもっとガッ! と行かないと。確かにひんそーだけど行けるんなら行かなきゃ! ……ひんそーだから興奮しないのかもしれないけどさ」
「……お前の身体が貧相云々は関係無いんだよ。俺だってお前は好ましく思っている」
「えー、本当なの旦那様?」
「そうだよ。別にそういった営みは否定しないが、それが全てでは無いんだよ。お前だって無理しなくて良いぞ」
「……別に無理してないけどなぁ……」
俺の言葉に、クリームヒルトは俺の右肩に顎を乗せながら不満そうになる。
「……私だってさ、夫婦、ってモノになれたのに、求められないのは結構寂しいんだよ?」
「…………」
「旦那様は私より強いしさ。私も受け入れてくれたし、ヴァイオレットちゃん……クラスの友達を排斥した挙句あんな事をした貴族と違って、優しいし。私だって普通な女の子になれるんじゃないかって思ったのに……」
……普通の女の子、か。
クリームヒルトにはクリームヒルトの根深い問題があるのだろう。俺にとっては問題無いが、それが全てで受け入れられる事は無い。偶々受け入れられない環境に身を置いていただけだろうが、クリームヒルトにとっては受け入れられるという点が余程大事なんだろう。
……それにヴァイオレット……確かそれはこの世界での……それにクリームヒルトは彼女の……いや、それは関係無いか。クリームヒルトはクリームヒルトだ。アレとは関係無い。
「……俺だって我慢はしているよ。お前だって好んでいる」
「……じゃあなんで?」
「なんというかだな……クリームヒルトと居る時は楽しいし、魅力も感じている。それに男女の関係が関わると今が壊れそうで怖くなるんだ。俺自身が純粋という訳では無いが、純粋じゃない関係になりそうで……」
「夢見る童貞か!」
「童貞だよ」
「え、マジで? 貴族ってメイドとかに手を出したり、メイドに夜の手解きを受けて女に慣れるとかしないの?」
「しねぇよ偏見が過ぎるわ」
メイドをなんだと思っているんだこの妻は。
そうなると俺の場合はカナリアと……やめよう、あの姉的存在でそういう事を考える事すらなんか嫌だ。……まぁカナリアとは未遂があったんだけど。
「それにクリームヒルト」
「なに?」
「お前が心の底から望むのなら、俺は受け入れるよ」
「へ?」
クリームヒルトはなんか……何処となく前世の妹、白を彷彿とさせる物言いをする。
性的な事とか、先程の川でもそうだが、夫婦という事で俺以外に肌は見せようとはしないが俺に異性の身体を晒すとか、こうしてストレートに誘って来る所とか。
“こうすれば男性が喜ぶから”という理由で己の女性としての性を使おうとしている。“夫婦なんだから”やっている。という感じで、感情と切り離して模倣している感があるんだよな……気のせいかもしれないが。
出会った初日に「抱かれに来たよ!」とか部屋に乗り込んでくるし。多分アレも俺の事好いてもいなかったのに“夫婦とはそういうものだ!”的な思考で来ただろう。
そんな思考であんな堂々と抱かれに来た宣言をする女は他には居まい。
まぁそれはともかく。
「クリームヒルト。俺はお前の事が好きだ」
「……本当に?」
「ああ、勿論。嘘じゃこんな事言わない」
「ありがとう、旦那様。……でも、私は少しおかしいらしいよ。笑顔でモンスターを殺すのも、血に忌避感が無いのも、戦闘という死を間近に感じる事を楽しむのも。……良い事だと思ったからやったとしても自身を犠牲にするのはおかしい。…………それは異常者だってさ。笑い方も気持ち悪いって言われて……」
「それはソイツらの感想だ。俺の想いとは関係無い」
「へ?」
クリームヒルトは過去に自身の行動をおかしいと言われ、親にすら見捨てられた事をトラウマに思っている。なんでも敬語を上手く話せないのもそれが理由とか。
だけど俺にはそれは関係無い。
「俺にとってのクリームヒルト・ハートフィールドは、明るく、笑顔が眩しくて、優しく皆に接して、髪も綺麗で瞳も美しい。肌も綺麗だし、駄肉も無く健康的だ」
「…………でも」
「お前が世間様に受け居れられない部分は有っても、お前はそれを治そうとしている時点で充分じゃないか」
「でもそれすらも自身に言い聞かせているかもしれないよ。“治そうと思っている分、私は他よりはマシだ”って」
「そうか」
「そうか、って……」
「だから別に良いんだよ。そういった細かい事は気にするな」
俺はそういうと、頭が乗っていない左手でクリームヒルトの綺麗な金髪の髪をぼさぼさにする勢いで思い切り撫でる。
すると「わぷっ」という可愛らしい声をあげたので、俺は小さく笑いつつ次の言葉を言う。
「そういった細かい事を気にしなくても良いほどに俺の事を心から好かせるから覚悟しておけ」
「わっ、ちょ、髪が、というか、それ、ど、どういう意味?」
「俺は色々な面を目を逸らさずにきちんと見て、それでいてお前が好きなんだ。一緒に居るのが楽しいんだよ。ああ、だが無条件で受け入れる訳じゃないぞ。駄目な部分はキチンと言うからな」
全てを無条件で受け入れるのはそれは好きでもなんでもないただの隷属だ。そうではなく、互いに支え合う夫婦として俺はやっていきたい。
「だから俺が好きだという事をお前に色々言うし、行動もする。そして“今のクリームヒルト”を好いてくれているのだと分からせてやる」
「…………」
「そして俺はクリームヒルトに好かれるように頑張るよ。お前が気にしている部分が気にならなくなるくらい、いつかお前が心の底から好いてくれたら、お前が望む夫婦としての行動を色々やってやる。俺だってしたいし、その時は幸福で満たしてやる」
「……本当に?」
「ああ、勿論。なにせ――」
そう、なにせ。
「俺はお前の旦那様だからな。好きな妻を心の底から幸せにしたいと思うのはおかしいか?」
俺はこのクリームヒルトという妻の旦那なのだから。
家族として迎え入れ、俺も家族としてこれから過ごしたいと思う以上は、幸せな家族として過ごしたい。
「……あはははっ、青臭い事言うね、私よりも四歳も年上の、ドロドロとした世界に身を置く大人貴族なのにさ!」
「悪かったな。それに不良貴族だしな。……駄目だったか?」
「ううん、良いと思うよ! ……やっぱり強いって色々あるんだな、って思ったよ。こんな旦那様を自動的に貰えて私は幸せだね!」
「はいはい。あ、そういえば今晩はカレーだから楽しみにしてろ」
「カレー! 中辛? 激辛?」
「お前が好きなピリッと辛い程度だよ」
「やったー!」
「だから残りの仕事を頑張れ」
「はーい! あ、そうだ旦那様!」
「ん?」
クリームヒルトは喜んだ後、仕事を早く終わらせようと自身の椅子の所に行こうとし、途中で思い出したかのように止まって俺を呼ぶ。
俺がクリームヒルトの方を見ると、シキに来るようになってから自然になって来た満面の笑みを浮かべ、
「大好きだよ! 心の底から、とーってもね!」
楽しそうに、嬉しそうに好きだと言ってくれた。
「ああ。俺もだよ、クリームヒルト」
その笑みに俺も自然と笑みがこぼれ、自身の気持ちを正直に伝えた。
――我が家は、本当に騒がしくも楽しい家になったな。
備考
旦那様呼び → 前世の兄と被り、夫を被った名前で呼ぶのは違和感があるため名前では呼ばない。高貴っぽい呼び方で呼んでいる。
ヴァイオレット → とある事件に巻き込まれている。その際のとある貴族や王族の対応にクリームヒルトがキレ、退学になった模様。
結婚期間 → 今話時点で少なくとも季節が一つは巡っている
今後 → いずれは前世の因縁に気付くが、どうなるかは――
リクエスト内容「クロ×クリームヒルトのif」
※互いに前世の兄妹であるという事は気付いていません。
俺はクリームヒルト・ネフライトという平民の少女と結婚した。
赤みのかかった金色に近い髪に、透明に近い瞳。息子であるグレイよりも小柄で、錬金魔法という希少魔法を使う良く笑うがどこか空虚な感じがある四歳差の平民の女の子だ。
別に俺は愛さえあれば身分差とか気にするタイプでは無いのだが、この結婚自体は俺が望んで結ばれたものではない。
俺は仮にも男爵であり、相手は平民の女の子。通常であれば無理に婚約を結ばれる事は無い。
だが結ばれた理由は簡単だ。――嫌がらせである。
クリームヒルトはネフライトという一家を廃嫡され、学園も問題を起こして退学した。
そして何処かの俺を嫌っている第二王子が、嫌がらせのために問題がある嫁として俺と婚姻を結ばせた。
――……どういう手を使ったんだか。
嫌がらせのためにここまでするとは、よくやるものだと思う。仮にも王族が関わっているので俺は断れないし、親も書類上では既に認めている。その労力を他に使えとは思うが、アレは優秀ではあるので片手間にどうにかできる範囲なんだろう。
問題がある女性が相手という事で、俺はグレイに迷惑がかからないように気を使わないと駄目だな、と警戒の念を抱きながら迎えた訳だが――
「おーい、旦那様ー! 楽しいよ、おいでー!」
「おいコラ服のまま水遊びすんなクリームヒルトにグレイ!」
「あはは、じゃあ全裸だね! 早速脱ごう我が息子!」
「はいクリームヒルトお母さん!」
「やめんか! あ、ちょ、待て脱ぐなオイ! 恥じらえ!」
「見られても減るもんじゃないし、私達しか居ないし旦那様も遊ぼう! 最近仕事が忙しかったでしょ息抜きも必要だよ!」
「そうですクロお父さん! 家族で裸の付き合いです!」
「それ意味が違うからな! 脱がしにかかるな!」
「あはは楽しいね息子よ!」
「あはは楽しいですお母さん!」
「真似るなコラ!」
――まぁなんだかんだ仲良くやってる。
グレイは懐いているし、シキの個性が強い面々にも気にせず仲良くはしているし、こうして仕事が忙しい俺にも息抜きを進めてくる気遣いもある。
話によると学園で色々な問題を起こしたとの事だが、ここに来てからの様子を見ているとあまり信じられる話ではない。
まぁ確かにモンスターを相手に笑いながら躊躇いなく殺害できる点などは少しズレているかもしれないが、冒険者としてはある意味必要な精神性だろう。笑う点は異様に映るかもしれないが、特別忌避する事ではない。だが……
「へーい、旦那様。今日の夜夫婦の営みしよう!」
「雰囲気もへったくれもないな」
「でも夫婦なんだから普通でしょ?」
「普通だが少しは考えろ」
「えー」
「えー、じゃない」
だがこの辺りは勘弁して欲しい。
場所は執務室。初めは真面目にやっていたクリームヒルトだが、段々と飽きが来たのかペン回しをやりだした後、俺の背後に来て寄りかかる様に抱き着き言いだした。
正直こういった事はよくある事だ。グレイの前では遠慮するのだが、俺達だけになるとよくこうやってベタベタしながら誘ってくる。
「男の人なんだからもっとガッ! と行かないと。確かにひんそーだけど行けるんなら行かなきゃ! ……ひんそーだから興奮しないのかもしれないけどさ」
「……お前の身体が貧相云々は関係無いんだよ。俺だってお前は好ましく思っている」
「えー、本当なの旦那様?」
「そうだよ。別にそういった営みは否定しないが、それが全てでは無いんだよ。お前だって無理しなくて良いぞ」
「……別に無理してないけどなぁ……」
俺の言葉に、クリームヒルトは俺の右肩に顎を乗せながら不満そうになる。
「……私だってさ、夫婦、ってモノになれたのに、求められないのは結構寂しいんだよ?」
「…………」
「旦那様は私より強いしさ。私も受け入れてくれたし、ヴァイオレットちゃん……クラスの友達を排斥した挙句あんな事をした貴族と違って、優しいし。私だって普通な女の子になれるんじゃないかって思ったのに……」
……普通の女の子、か。
クリームヒルトにはクリームヒルトの根深い問題があるのだろう。俺にとっては問題無いが、それが全てで受け入れられる事は無い。偶々受け入れられない環境に身を置いていただけだろうが、クリームヒルトにとっては受け入れられるという点が余程大事なんだろう。
……それにヴァイオレット……確かそれはこの世界での……それにクリームヒルトは彼女の……いや、それは関係無いか。クリームヒルトはクリームヒルトだ。アレとは関係無い。
「……俺だって我慢はしているよ。お前だって好んでいる」
「……じゃあなんで?」
「なんというかだな……クリームヒルトと居る時は楽しいし、魅力も感じている。それに男女の関係が関わると今が壊れそうで怖くなるんだ。俺自身が純粋という訳では無いが、純粋じゃない関係になりそうで……」
「夢見る童貞か!」
「童貞だよ」
「え、マジで? 貴族ってメイドとかに手を出したり、メイドに夜の手解きを受けて女に慣れるとかしないの?」
「しねぇよ偏見が過ぎるわ」
メイドをなんだと思っているんだこの妻は。
そうなると俺の場合はカナリアと……やめよう、あの姉的存在でそういう事を考える事すらなんか嫌だ。……まぁカナリアとは未遂があったんだけど。
「それにクリームヒルト」
「なに?」
「お前が心の底から望むのなら、俺は受け入れるよ」
「へ?」
クリームヒルトはなんか……何処となく前世の妹、白を彷彿とさせる物言いをする。
性的な事とか、先程の川でもそうだが、夫婦という事で俺以外に肌は見せようとはしないが俺に異性の身体を晒すとか、こうしてストレートに誘って来る所とか。
“こうすれば男性が喜ぶから”という理由で己の女性としての性を使おうとしている。“夫婦なんだから”やっている。という感じで、感情と切り離して模倣している感があるんだよな……気のせいかもしれないが。
出会った初日に「抱かれに来たよ!」とか部屋に乗り込んでくるし。多分アレも俺の事好いてもいなかったのに“夫婦とはそういうものだ!”的な思考で来ただろう。
そんな思考であんな堂々と抱かれに来た宣言をする女は他には居まい。
まぁそれはともかく。
「クリームヒルト。俺はお前の事が好きだ」
「……本当に?」
「ああ、勿論。嘘じゃこんな事言わない」
「ありがとう、旦那様。……でも、私は少しおかしいらしいよ。笑顔でモンスターを殺すのも、血に忌避感が無いのも、戦闘という死を間近に感じる事を楽しむのも。……良い事だと思ったからやったとしても自身を犠牲にするのはおかしい。…………それは異常者だってさ。笑い方も気持ち悪いって言われて……」
「それはソイツらの感想だ。俺の想いとは関係無い」
「へ?」
クリームヒルトは過去に自身の行動をおかしいと言われ、親にすら見捨てられた事をトラウマに思っている。なんでも敬語を上手く話せないのもそれが理由とか。
だけど俺にはそれは関係無い。
「俺にとってのクリームヒルト・ハートフィールドは、明るく、笑顔が眩しくて、優しく皆に接して、髪も綺麗で瞳も美しい。肌も綺麗だし、駄肉も無く健康的だ」
「…………でも」
「お前が世間様に受け居れられない部分は有っても、お前はそれを治そうとしている時点で充分じゃないか」
「でもそれすらも自身に言い聞かせているかもしれないよ。“治そうと思っている分、私は他よりはマシだ”って」
「そうか」
「そうか、って……」
「だから別に良いんだよ。そういった細かい事は気にするな」
俺はそういうと、頭が乗っていない左手でクリームヒルトの綺麗な金髪の髪をぼさぼさにする勢いで思い切り撫でる。
すると「わぷっ」という可愛らしい声をあげたので、俺は小さく笑いつつ次の言葉を言う。
「そういった細かい事を気にしなくても良いほどに俺の事を心から好かせるから覚悟しておけ」
「わっ、ちょ、髪が、というか、それ、ど、どういう意味?」
「俺は色々な面を目を逸らさずにきちんと見て、それでいてお前が好きなんだ。一緒に居るのが楽しいんだよ。ああ、だが無条件で受け入れる訳じゃないぞ。駄目な部分はキチンと言うからな」
全てを無条件で受け入れるのはそれは好きでもなんでもないただの隷属だ。そうではなく、互いに支え合う夫婦として俺はやっていきたい。
「だから俺が好きだという事をお前に色々言うし、行動もする。そして“今のクリームヒルト”を好いてくれているのだと分からせてやる」
「…………」
「そして俺はクリームヒルトに好かれるように頑張るよ。お前が気にしている部分が気にならなくなるくらい、いつかお前が心の底から好いてくれたら、お前が望む夫婦としての行動を色々やってやる。俺だってしたいし、その時は幸福で満たしてやる」
「……本当に?」
「ああ、勿論。なにせ――」
そう、なにせ。
「俺はお前の旦那様だからな。好きな妻を心の底から幸せにしたいと思うのはおかしいか?」
俺はこのクリームヒルトという妻の旦那なのだから。
家族として迎え入れ、俺も家族としてこれから過ごしたいと思う以上は、幸せな家族として過ごしたい。
「……あはははっ、青臭い事言うね、私よりも四歳も年上の、ドロドロとした世界に身を置く大人貴族なのにさ!」
「悪かったな。それに不良貴族だしな。……駄目だったか?」
「ううん、良いと思うよ! ……やっぱり強いって色々あるんだな、って思ったよ。こんな旦那様を自動的に貰えて私は幸せだね!」
「はいはい。あ、そういえば今晩はカレーだから楽しみにしてろ」
「カレー! 中辛? 激辛?」
「お前が好きなピリッと辛い程度だよ」
「やったー!」
「だから残りの仕事を頑張れ」
「はーい! あ、そうだ旦那様!」
「ん?」
クリームヒルトは喜んだ後、仕事を早く終わらせようと自身の椅子の所に行こうとし、途中で思い出したかのように止まって俺を呼ぶ。
俺がクリームヒルトの方を見ると、シキに来るようになってから自然になって来た満面の笑みを浮かべ、
「大好きだよ! 心の底から、とーってもね!」
楽しそうに、嬉しそうに好きだと言ってくれた。
「ああ。俺もだよ、クリームヒルト」
その笑みに俺も自然と笑みがこぼれ、自身の気持ちを正直に伝えた。
――我が家は、本当に騒がしくも楽しい家になったな。
備考
旦那様呼び → 前世の兄と被り、夫を被った名前で呼ぶのは違和感があるため名前では呼ばない。高貴っぽい呼び方で呼んでいる。
ヴァイオレット → とある事件に巻き込まれている。その際のとある貴族や王族の対応にクリームヒルトがキレ、退学になった模様。
結婚期間 → 今話時点で少なくとも季節が一つは巡っている
今後 → いずれは前世の因縁に気付くが、どうなるかは――
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