追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

リクエスト話:女性陣の男装


 ※この話はなろう様活動報告にて募集いたしましたリクエスト話(ifなど)になります。細かな設定などに差異があるかもしれませんが、気にせずにお楽しみ頂ければ幸いです。

リクエスト内容「女性陣が男装」

※時期は438話の最新話辺りです(シルバとエクルも居ます)


 ヴァイオレットさん達から呼び出しを受けた。
 呼び出しを受けたのは俺だけではなく、グレイや神父様。そしてヴァーミリオン殿下など攻略対象ヒーロー達は正確にはそれぞれがシアンやクリームヒルトなどから俺の屋敷の一室に呼び出されている。
 何故呼び出されたかは分からないのだがクリームヒルト曰く、

「あはは、まぁ可愛らしいアピールってヤツかな?」

 との事だ。詳細は結局教えて貰えなかった。

「と、ここですね。……入りますけど良いですか?」

 俺達は指定された部屋の前に着く。そして扉の前で振り返り、全員の了承を得ると俺は部屋をノックする。
 すると中からクリームヒルトの「はーい」返事の声が聞こえてきて、入って良いと言われたので俺達は部屋に入り――

「あはは、ようこそ皆!」

 入り、その光景に全員が固まった。
 ヴァイオレットさん、シアン、アプリコット、メアリーさん、あとクリームヒルト。
 全員の格好は――

「この麗しき男装女子をとくと見よ!」

 そう、男物の格好だったのだ。
 いわゆる執事的な格好……とでも言うべきか。全体的に黒色の燕尾服できめ、白いシャツが首下辺りからへそまで逆三角形に覗くのが良いアクセントとなっており、全員が白い手袋をしている(多分クリームヒルトの趣味)。
 そしてヴァイオレットさんとアプリコット、メアリーさんは長い髪を後ろで纏め、シアンと最近少し髪が短くなったクリームヒルトは後ろはそのままだが前髪の分け方を変えている。

「ふっ、来たようだね」

 俺達が来たのを確認すると、ヴァイオレットさんが迎え入れ女性陣は全員が笑みを――いつもとは違う凛々しさがある笑みを浮かべ、なにが起きたか分からないままでいる俺達に近寄って来て、それぞれの元へと行く。

「神父様。今宵は私がリード致しましょう。さぁ、手をお取りになってください」
「あ、ああ」
「ふふ、驚きましたか神父様?」
「とても驚いたよ。いつもと違った魅力があるな、シアン」
「でしょう?」

 神父様の所にはシアンが。
 いつものスリット入り下着無し修道服と比べると大分防御力が高い服装である。だがなんだろう、神父様が言うように違った魅力があると言うべきか……普段より露出が少ない分安心して見られると言うべきか。
 だが意外と楽しそうにしているな。神父様に褒められて照れるものと思ったが……シアンも結構楽しんでいるのだろうか。

「ふぅーはははは! どうだ弟子よ! 我のこの燕尾服ヘルメスの衣装であり意匠は! 我をもってすれば性の対象が異なる服装でもこうして着こなせるのだ!」
「はい、流石ですアプリコット様! アプリコット様はやはり全ての服を着こなすセンスをお持ちなのですね!」
「ふふ、であろう?」
「はい。私めは今までアプリコット様の魅力に惚れこみ、これ以上は無いと思っていましたが、アプリコット様はいつもそれ以上を行かれます。此度の服を含め私めは何度貴女を惚れ直したのか……何度も一目惚れ、というわれる衝撃的な感情を味わっています。お綺麗ですよ、アプリコット様!」
「う……言い過ぎだ、弟子よ」
「何故です、私めの本音ですよ? このような感情を味わえるなど私めは幸せです!」
「うぅ……」

 グレイの所にはアプリコットが。
 アプリコットは燕尾服を堂々と着こなし、自身が言っているように確かに似合っている。
 普段から黒色の服を着ているせいか、細身の身体ゆえにかは分からないが華麗に着こなす様は流石と言えよう。
 あと我が息子がなんか強い。

「ふふ、どうですか皆さん。結構いけると思うのです! 私も昔刀〇乱舞っていう作品でこういう風になってみたいと思った事があるんです! ちょっと違いますが、燭〇切光忠って言うんですけど、格好良いですか!?」
「ああ、とてもよく似合っているぞ!」
「うん! 普段とは違う服でメアリーさんの違った魅力に気付けたよ! あ、そうだ、今度お揃いの服を着ない。僕が働いている場所で――」
「こういった服がお好みなら私が提供いたしましょう。どうでしょう、好みの服を探すために今度私の屋敷にでも来られませんか?」
「抜け駆けをするなアッシュ! だが良いなメアリー。……どうだ、今度その服で俺と首都を――」
『お前も抜け駆けするな!』
「は、はは……皆さん、ありがとうございますね……って、エクル先輩、な、何故泣いているんです!?」
「う、うぅ……メアリーくんがこんな風にはしゃぐ姿を見て……いつもと違う魅力に気付けて感動のあまり……!」
『分かるぞエクル(先輩)!』
「……なんでしょう、複雑です」

 アイツらは相変わらずと言うべきか。
 でもメアリーさんがこの中で一番気合が入っている気がする。何故か眼帯をして、格好良いポーズを色々と決めて殿下達を喜ばせてはいるが……なんかアレは男装というよりコスプレな気がする。
 ……それはともかく。一番重要な存在を忘れてはいけない。
 俺の所には……いつもとメイクを変えて、髪を纏めてシュッとしたヴァイオレットさんが来た。

「ふっ、我が夫よ。今宵は嗜好を変えてみた。如何かな、この装いは」

 俺の手をとり、騎士のような仕草で俺を下から見るヴァイオレットさんは、まさに王子と呼ばれるような気品さと美しさがあるお姿であった。いつもの豊かな胸は潰しているのだろう。それだけでも雰囲気は変わるが、胸を潰した事により体のラインが変わり、すらりと伸びた手足が全体的に薔薇を彷彿とさせる。いや、これは白鳥か。ともかく格好良く麗しい。
 あとその「ふっ」はなんだろうか。ニヒルに笑っている感じなんだろうか。可愛い。

「どうかな黒兄ー。皆が好きな相手に好かれたくていつもと違う服装に変えた感想は?」

 そして誰の所に行く当ても無いのか、同じように燕尾服を着こなし白い手袋をはめているクリームヒルトが俺の表情を覗き込む様に見ながら尋ねて来た。……っていうかそれグレイの服じゃないか。身長や体型的には変わらないから合うのだろうが。

「ほれほれーなにか言う事あるんじゃないのー。男性的で格好良いヴァイオレットちゃんにさ。ほら、同性愛に目覚めたとか」
「クリームヒルト。夫が目覚められたら困るのだが」
「あはは、でもさ。皆格好良く決めてるでしょ? 中性的なイケメン、って感じにさ。だからこれで魅力を感じたのならば……男の子陣は同性愛のケがあるんだよ!」
『っ!?』

 クリームヒルトの言葉に何故か全員へ緊張が走った気がした。
 見せる相手が居ないからって楽しんでいないか、コイツ。

――同性愛。

 それにしても同性愛か。俺はその手には寛容なので、この国では禁止されているとはいえ応援はする。それはともかく俺の場合は男に惚れるという事になる。

「…………」
「く、クロ殿?」

 俺はヴァイオレットさんの姿をジッと見る。
 キリッとした表情。物語に出て来るような高貴な王子の立ち居振る舞い。あるいは姫を守るかのような気高き騎士。もし今抱き着いても、俺は抱くというより抱かれるような感覚に陥るだろうそんな魅力ある
 ああ、格好良い。とても格好良いと思う。
 だけど……だけど!

「こんな麗しい男がいてたまるか!」
『っ!?』

 格好良い。守ってもらいたくなる様な男性的な力強さもある。が、なんだろう。男性では表現出来ないような、線が細くて綺麗で隠しきれない女性特有の色香がある。

「男と思われるようになるために男装するのと、男の格好をする男装とは違うんだ……!」
「クロ殿?」

 そう、その二つには大きな隔たりがある。今回は全員が後者なのだ。
 なんていうか格好良さにドキリとしてしまうが、その格好良さは男性を彷彿とさせるが故のドキリではなく――

「俺は男だから魅力を感じているのではなく、“男装しているヴァイオレットさん”という存在にドキリとしている! とても魅力的ですよヴァイオレットさん!」
「っ!? ありが、とう……?」

 そう、男装して綺麗の側面を新たに認識したが故にドキリとしている。魅力がある方が魅力を生み出そうとして男装を選択して魅惑的になっているのだ。グレイが言っていたように、彼女に惚れているんだ。そりゃあ惚れ直す。決して男に興味を覚えた訳ではない。

――男に興味を持つ……夫のヴァイオレットさん……燭〇切光忠……佐藤〇也さん――くっ、頭が……!?

 なんだか思い出してはいけない事を思い出しそうになったが、ともかく俺は今目の前に居るヴァイオレットさんをどうするべきか。
 よし、告白しよう。今すぐ魅力的であるとこの状態のヴァイオレットさんに伝え、いつもと違う彼女を抱きしめて楽しもう――

「あはは、時に皆。私達が男装したから皆には女装をして貰おうかと――」
「皆さん、逃げましょう」
『了解っ!』
「行動早っ!?」

 楽しもうと思ったが、クリームヒルトが俺達にも合うようなサイズの女装道具を取り出してきたので、俺の合図でグレイ以外が逃げ出した。
 あのままあそこに居ると――なんだか女性陣に剥かれそうであったからだ。なにか大事なモノを失いそうであった。





おまけ(リクエスト)
クリームヒルトが男装で眼鏡をかけてみた。

「そうえいばさ、執事には眼鏡も似合うと思って一応用意したんだけど……似合うかな?」
「ん? 似合うんじゃないか――」
「素晴らしい!」
「っ!?」
「エクル先輩?」
「ああ、素晴らしいよクリームヒルトくん! 執事服に白い手袋に眼鏡! こう、クイッと眼鏡をあげてくれ!」
「あはは――こう?」
「ああ、素晴らしい! 普段とは違う魅力を引き出す眼鏡……やはり良い……!」
「エクル卿……?」
「……エクル先輩、私さ。眼鏡を外す事で魅力を引き出す、っていう表現嫌いなんだけど、分かる?」
「え、クリームヒルト?」
「分かるよクリームヒルトくん! 私はこの王国で古今東西色んな本を読んだが、眼鏡をかけているキャラで虐げられてきた女の子も、自身を変えようと一念発起した男の子も見た目を変えようとして何故か眼鏡を外す! 何故だ!」
「だよね! なんで眼鏡を拘束具みたいに表現するのだろうね。眼鏡をかけているからこそ見えてくる魅力があるのに、なんで……!」
「ああ、こうしてキミが今掛けているだけでも、普段とは違う装いに興奮が抑えきれないというのに……!」
「あはは、どう? 私知性に溢れてる?」
「眼鏡は知性をあげるものではなく、キミの内面を表すものだ。知性にも溢れているが、キミの色々混じった良さをよく表現しきれているよ……!」
「あはは、ありがとうエクル先輩!」
「いや、こちらこそありがとう、クリームヒルトくん……!」
「…………なんだこれ」

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