追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
恋愛策略-女性陣の場合_1(:菫)
View.ヴァイオレット
「付き合うって、なにをすれば良いの」
教会にて。
私とアプリコット、メアリーはシアンから相談を受けていた。
正しくは相談を受けていたのは私だけの予定だったのだが、偶々アプリコットとメアリーが居合わせ、ついでかと言うように相談をしている。そして一番最初に切り出した言葉が先程の言葉だ。
「晴れて私は神父様と付き合う事になった。けど私は正直神父様と話すのは緊張する! だって格好良いから照れるもの!」
堂々と言ったな。ここまで来れば逆に清々しい。
「本来だったら同棲したりとか、距離を縮めればいいのかもだけど、私と神父様って元々同じ屋根の下だし、流石にいきなり同室は……は、恥ずかしいし……段階を踏んでけば良いと思ったのだけど、よく考えれば私は付き合うという事を知らないと気付いたの。手、とか握れば良いの……?」
シアンは可愛らしく照れる。
神父様と色々とやる事を想像するだけで照れている辺り、シアンもやはり乙女と言うべきなのか。
この手の話題にはむしろシアンが一番わかって良そうなものだが……自分の事になると、分からなくなる、という事か。
「それで、どうすれば良いの!?」
「出会う前から婚姻した私に聞くのか」
「それを我に聞くのは間違っていると思うのだが」
「私も男性と付き合った事ないですし……」
だが、相談相手が間違っていると思う。
私はヴァーミリオン殿下と婚約関係にあった頃は特になにも無かった所かむしろ嫌われていて付き合うなんて甘いものは無い。クロ殿とは出会う数日前には結婚していたので付き合ってはいない。
アプリコットはグレイへの好意を自覚してからは上手く接しれていないし、今では距離を開いている。
メアリーは……多くの男性を侍らせてはいるが、特定の誰かと付き合ったりはしていない。
ともかく聞く相手が間違っていると思う。
「ホリゾンブルーさん辺りに聞けばよいのではないか? またはブルーさんなど既に所帯を持たれる女性などで良いでは無いか」
「ゾンちゃんは夫についてしか語らないし、出来れば年齢の近い皆と相談したくて……」
年齢の近い相手の方が話しやすい、という事なのだろうか。確かに私も周囲に年上が多かったから相談し辛い所はあった。そういった感じだろうか。
「まぁ付き合う、というのは難しいですからね。まずは手を繋いだり、手を絡めたり、腕を組んだり、抱き着いたり、キスをしたり……そういった身体的接触から図るべきでは?」
「ほう?」
「好きな相手に触れられるとやはり嬉しいものですからね。後は飲み物とかを差し入れたり、なにか言われたら“すごーい!”“さすがー!”とか相槌をうったりとか……?」
「流石百戦錬磨のメアリーさんだな」
「うん、男の扱いに慣れてるね」
「人を尻軽みたいに言わないでください。確かにそういった職業のテクニックですけど……」
腕を組む……クロ殿とまだやった事が無いな。いや、クロ殿の誕生日の時にやった事あるな。あの時は身近に感じられてとても良かった。そういえば……
「アンバーの奴が、腕を組む時に相手の腕を谷間に挟むと良いと聞いたな」
アンバー曰く腕を柔らかさでサンドすれば男はマトモに歩く事すら出来なくなりますよ、との事だ。何故動けなくなるかは教えてくれなかったが、クロ殿が証明してくれると言っていた。
「谷間……ヴァイオレットちゃんほど大きくないけどいけるかな?」
「我ほど小さくないからいけるだろう」
「いえいえ、男性は当たれば喜ぶと聞きますよ。昔の経験(※ギャルゲー)で大きさに貴賤はないと男性(※ギャルゲー主人公)が言っているのを聞きましたよ」
「流石は男を侍らせるメアリーちゃんだね」
「メアリーさんは美乳で程よい大きさであるからな。男好みしそうであるからな」
「なんか私に対する当たりがきつく無いですか?」
胸……胸か……この中では私が一番大きいな。
大きくなるにつれ、不特定の男性に見られるようになって嫌だったにも関わらず、ヴァーミリオン殿下には微塵も興味を持たれなかった胸。アンバーは良いモノだと言っていたが、正直大きくてもあまり良い思いではない。
だがクロ殿には……うむ。
「褒められると意外と悪くない……」
「勝ち組のヴァイオレットさんが勝ち誇っているぞ」
「羨ましいですね……」
「メアリーならちょっと見せれば私と同じになれると思うぞ」
「うむ、特定の誰かに絞ればな」
「責任を取ってくれそうだよね」
「なんで私には攻撃的なんです?」
それは昔の事とはいえ、好きな相手を取られたのに今だに多くの男性をキープし、くっ付こうとしなければ言いたくもなる。特定の誰かと結ばれれば私も祝福はするのだが。
……まぁメアリーにはメアリーの感情は有るので無理強いはしない。友で居る事の方が良い事も有るからな。それはそれとして軽く意地悪は言うが。
「そうだ。シアンさん、ここはシアンさんも見せれば行けるのではないか!」
「そうですね、いきなり大事な所を見せるのは駄目ですが、神父様も男性です。シアンの身体に興味を持つでしょう!」
シアンは私も羨むバランスの良い綺麗な身体をしているし、確かに神父様はシアンの身体に興味は持っている。
スリットから見える太腿が見えそうになっては恥ずかしそうに視線を逸らす。人よりは鉄の意志を持っているが、全てが我慢できている訳でも無い。
なのでアピール方法としては間違っていないとは思う。
とは言え、悪ノリな感があるので止めておくか。
「でも神父様ってベッドヤクザっぽいですよね。いざという時は一気に行きそうですから、注意しないと……」
「ベッドヤクザ?」
「……いえ、なんでもないです。ともかくそういったアピールはどうです? クロさんならそれに準じた服を作れそうです」
「ああ、確かにクロさんは色々作れそうであるな」
メアリーが言ったベッドYAKUZAはどういう意味なんだろうか。日本語? だろうか。後でクロ殿に聞いてみよう。
ともかく一旦落ち着いて貰おう。シアンも乗っては困る。
「……駄目。それはやらない」
しかし私が止めよとする前に、シアンは断りを入れた。
今までの私へのアドバイスを考えれば行ってしまうと思ったのだが……
「どうしたんだシアン。今まで私へのアドバイスや、神父様近付こうとした時は似たような事をやろうとしたでは無いか」
「うん、そうなんだけど……ごめんね、イオちゃん。今まで無責任に言っていたって分かったよ……」
「あ、いや。別にそれは構わないのだが……」
私が問うと、シアンに素直に謝られてしまう。
……どうしたのだろうか? 今までなら暴走して神父様の元に行くくらいはしそうなものだと思ったのだが……
「珍しいな。シアンさんが積極的に行動を移さないとは」
「……だって」
「む?」
アプリコットが問うとシアンは視線を下にやる。それを不思議に思いながら私達は見ると、やがてシアンは恥ずかしそうにしながら……
「だって、グイグイ行ってエロくてはしたない女って思われたくない……やっと念願の恋人になったのに、幻滅されたくない……」
と言った。
その表情はまさに恋する乙女のようで。普段の天真爛漫かつ鷹揚な性格とは正反対な性格で。私よりも三歳年上の女性とは思えないような、少女かのような表情であった。
――なるほど、これが可愛いというやつか。
恐らく今、私達は共通の感情認識を得ただろう。
あざとくは思う。だけど“もっと近寄りたいけど、やらしい女性だと思われたくない”という、初恋を実らせた感情が故に臆病になってしまう気持ちを分かってしまったこの可愛らしい友を、私は改めて応援したいと思った。
「ともかくシアンさん、助平な女と思われたくないのならまずは今の服装をどうにかすべきだと思うぞ」
「え、やだ。動きやすいし」
だからなんでシアンは服装になると、頑なに変えようとしないのだろうか。
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