追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
本当にやったのかは不明(:淡黄)
View.クリームヒルト
私の目の前で呼吸を整えていた二人が居た。
一人は同級生かつ、先程私と同じ転生者だと知ったメアリーちゃん。汗で服が少し張り付き身体のラインがいつもより見えているが、これが女性的なエロいというやつなのだろう。しかしどこか気品さがあるあたり、私が真似をしても意味無いだろう。
一人は同じく同級生かつ普段はクールかつ苦労症なアッシュ君。前世の友人であるモモちゃんが汗を拭う男性はグッとくると言っていたが……こういう事を言うのだろうか。これが女性が良いと思うフェロモン……相変わらず私にはよく分からない。
後は体力的に余裕で、なんだか黒兄の身体を怪しく見ているような気がする、多分私や黒兄とかを転生者と疑っているヴェールさん。転生者なんて言う人が居ても本来なら頭の心配をしそうなものだが、立場的に色々あるのだろう。
それはともかく私が作ったタオルと、前世で言う所の冷却スプレー的なモノを施していると、メアリーちゃん達は段々と体力を回復していった。
「シャル君は何処ですか!」
そして回復したての最初の言葉がそれであった。
……やっぱりシャル君になにかあったようだ。
私の予想では今のシャル君は、シャル君が私に負けてカサスで言う所のシャル君ルートの、好感度とか主人公の能力が足りなくてグッドエンドからの派生であるノーマルエンド2に近い感じで己の無力を恥じて旅に出た辺りだとは思ったけれど……メアリーちゃんが来たのならば安心かな。
詳細は知らずとも、メアリーちゃんは今までカサスのトゥルーエンドを難なくこなしていた。一時期はその事が若干モヤモヤとはしていたけど、黒兄と会ってからは変わってきているし、今のメアリーちゃんならば私がモヤモヤとする話運びにはならないだろうと思う。
だって彼女は、カサスと言う選択肢ひとつでバッドに直行するゲームのシナリオを見事に進めて来た。
トゥルーエンドという事は……メアリーちゃんは色々こなしてきたはずだ。
ヴァーミリオン殿下には頭突きを喰らわせ「甘えたかったら娼館へでも行ってろ」と吐き捨て、学園祭の準備時に実際に娼婦用服を用意し「私が着ましょうか?」と言う(なお結果的にヴァーミリオン殿下が着る)。
アッシュ君にはカーバンクルとの契約の際に戦闘で共闘し、メアリーちゃんの上半身の服が切り裂かれた際に動揺もせずに続行し、「乙女として恥ずかしくないのか!」というカーバンクルの言葉に「戦いに羞恥が関係するか! 裸になろうと私は戦う!」と言い放ち。
シャル君には、シャル君が自分の力の無さに――あ、これはまだか。
シルバ君には呪われた力が暴走した際に、落ち着かせるために身を挺して抑え込む。そしてその際に互いの衣服が弾け飛び(R15なので重要な所は破れない)、冷静になったシルバ君に慌て「服を着て」目を逸らされるが「むしろ私が見せてください」と言い。
エクル先輩には眼鏡が予備も含めて割れて、視界が不明なので補助をしていた際にモンスターに襲われ、爆弾で一掃したら毒(ファンからの愛称:都合の良い媚薬)を撒き散らし、怪しい雰囲気になった際に見えない事を良い事に後ろから抱き着いた状態で部屋まで移動する。
あの甘いイベントの中にある、主人公の個性が強い選択肢の数々。
仮にカサスのような行動をとればトゥルーエンドに近い人生を歩めるとして。今がハーレムならば先程のイベントを熟しているはずだ。
――ならば問題はない……けれど、そういえば私がカサスで言う所の主人公なんだっけ。
別に「私の立場をとったな!」なんて言うつもりは無い。
あの乙女ゲームの主人公は、錬金魔法を使って場合によってはドラゴンとか片手で屠る化物に成長するけど、特別な血筋とかは無いしなんか“なんか祈ってたら愛の力で解決した聖女パワー!”的なよく分からない力も有さない。個人的にはその力は嫌いじゃないけど。
だからカサスと似たような展開で皆の幸福を望んでいるのならば私は応援する。
というか主人公とか私が成り立つはずもない。私が主人公が務まるとしたら……ないね。自分で自分が主人公だと思う作品を思い浮かべるとかなんか変だね!
「カルヴィンならば先程宿屋に向かったが……」
「宿屋ですね、分かりました!」
「おい、メアリー!?」
私が先程の情報を整理していると、ヴァイオレットちゃんの答えを聞いた途端メアリーちゃんは制止を振り切り再び走って宿屋へと向かっていった。
――……なんだか様子がいつもと違うね。
黒兄と会ってから雰囲気が変わったのは確かだけど、今の状態のメアリーちゃんは……なんかこう、不安になるタイプの感情の動きがある気がする。よく分からないけど。
普段の私であれば今追いかけて行ったアッシュ君にでも任せるのだけど……うん、ちょっと様子を見に行くとしよう。
「じゃ、私は二人の後付いて行くから、じゃあね!」
「クリームヒルト待て、何故行く」
「あはは、ちょっと心配だし、あの状態……汗をかいた状態って事気付いていなさそうだし、私が付いて行くよ。ヴェールさんは黒兄達に用があって私に聞かれたくない事があるみたいだからね! 領主としての話し合い頑張ってね、黒兄、ヴァイオレットちゃん!」
「あ、クリームヒルト!」
背は伸びなかったが、この身体でも前世の時と走る速度はそう変わらない。スタートダッシュを切った今なら追いつかれる事は無いだろう。
そう思いつつ、黒兄とヴァイオレットちゃんの静止を無視して、私はメアリーちゃん達に付いて行ったのだった。
――……後から思い返すと、ここが分かれ目だったのだと思う。
◆
「ほう、彼女はなにか変わったね。性格の方向性が変わったと言うべきか……」
「どちらの彼女について言っているんですか?」
「両方だよ。特にクリームヒルト君の方かな。しかし、私が話したいことがあると見破られるとは……年を食って騙すのが下手になったのかな?」
「ヴェールさんはまだ若いじゃ無いですか。というか若いと思っていてください」
「なんかその言い方に妙な違和感はあるが……まぁ良いか。クロ君、ヴァイオレット君。話があるのだが、良いかな?」
「はい、構いませんが……夫だけではなく私も、でしょうか?」
「そうだね。このシキを管理する君達に聞きたいのだが……。うーん、それにしても……」
「どうされましたか?」
「時にクロ君。君は……女の子を妹にするのが趣味なのかな? 話ではスカイくんも……」
「違います」
「違うのか」
「違うのだな……」
「ヴァイオレットさんまで言うのですか」
「……クロお兄――」
「言わないでください。なんだか戻れない気がします」
「そ、そうか」
「はははー、イチャつくねー、君達。おばさんとしては少し眩しいよ」
備考:都合の良い媚薬
実際には媚薬効果は無いですが、それっぽい演出が流れるだけです。
なおこの時にこの効果を受けないと、別の敵が使う際に耐性が付いておらずバッドエンドに行きます。
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