追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

四百話記念:あるいはこんな性別のヘンテコ学園


※このお話は四百話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。



















「また、胸が膨らんでいる……」

 目が覚めると胸が膨らんでいて、髪が長くて、下半身は動きやすいが上半身が動きにくかった。
 うん、これは夢だ。以前見た夢みたいな感じだ。
 そして何故か学園に居て、貴族女制服まで着ている。

――ついに、私はスカートを履いてしまった……!

 着る着ないの選択肢以前に強制着用ってなんだよ。いや、前世で着用はした事は有るにはあるんだ。だけどこの状態で履く事は色々と問題があると思うんだ。
 しかもなんでこんなに短いんだよ。前世での少年・青年系の漫画やアニメの女キャラと比べたら長いけど、俺にとっては短く感じるんだ。すごく心許ない。
 パンツ……ショーツが見えそうで嫌だ。なにを履いているかは確かめたいが、確かめたらさらに戻れなくなる気がする。
 ……いや、もう開き直れ。

「行くぜ、動くだけ動いて女性の気持ちを知ってやる!」

 どうせ夢なんだ。夢ならこの経験を少しでも活かせば良いんだ!
 男には分からない、女性特有のスカートの感想があるはずだ! ついでにヴァイオレットさんと会いたい。あのお声が佐〇拓也さんか土〇熱さんっぽい男のヴァイオレットさんこと愛しの夫に会いに行こう。
 ……なんで会いに行きたいんだろう。精神が女になっていないか、私。

「黒色のハイレッグショーツかー。らしいっちゃらしいね」
「うおっ!」

 私が走りながらなんだか精神が危うくなっていると、白い髪の男が私のスカートの中を覗きながらショーツの感想を言った。……私、そんなの履いているのか。胸はフロントタイプっていうのは感触で分かるけど……まぁ本当は下も分かるけど。
 というか私の下着を覗いているのは誰だ。白い髪に黒い眼。170程度の身長に細身なコイツは……

「……ビャクか。いや、ジークフリート、あるいはアッティラか?」
「誰だよ。クリームヒルトだよ」
ビャクだな」
「クリームヒルトだよ」

 やはりビャクか。前回の夢の最後にも見た気がするな。
 ……というか今まで見たこのトンチキな夢の最後にはビャクが出てきた気がする。
 そして今のビャクの姿は前世のビャクの胸を無くしただけの美少年、って感じになっているな。我が妹……弟? ながらイケメンである。これはこれで乙女ゲーム出でてきそうである。

「というか私のショーツ覗くなよ、変態」
「そう思うならスカートで思いっきり走らないでよ黒姉。なに、男子を誘惑でもするの? 見られて興奮するの?」
「いや、そういうつもりは無いが……見られても困るものでも無いし。でも確かに遠慮した方が良いか」
「あんまその辺り気にせず豪快に行くと、またメアリーに“他の女とは違う面白れー女”って言われるよ」
「え、なにその少女漫画ムーブ」
「なに言ってんの」

 メアリーさんは気の強い俺様系になっているのだろうか。
 それはそれで見てみたいな。元々女性時にも綺麗な方だ。男性になってもそれはイケメンであろう。ヴァイオレットさんの魅力には及ばないだろうが、一度見ておきたいな。イケメンは見るだけで目の保養になる。
 それとヴァイオレットさんを見たい。どんなお姿になっているかを見たい。ああ、思うだけで胸が高鳴って来た。愛しの夫を見て、私の○○が――

「チクショウ、心が乙女になりかけてやがる!」
「急にどうしたの」

 なにがイケメンを見たいだ! なんで男の姿のヴァイオレットさんを想像して胸が高鳴って身体が火照って来てるんだ! 乙女というかただの変態じゃないか!
 駄目だ、見てしまっては私は戻れなくなる。よし、こういう時は――

「よし、こうなったらヴァーミリオン殿下達を見て落ち着いてやる……! 乙女ゲーム攻略対象ヒーロー攻略対象ヒロインになったらどうなるかを見て落ち着いてやる! アイツらだしどうせ残念だ!」
「なんかよく分からないけど、私も行くよー」







「む、クロか。相変わらず動きが淑女らしくないな。貴女がそれでは夫のヴァイオレットが苦労するぞ」
「ええと、申し訳ありませんヴァーミリオン殿下」
「だがそれが貴女のらしさでもある。精進を励みなさい――おっと、タイが曲がっていてよ」
「あ、お姉様……」
「なに言ってんの黒姉」
「ふっ、これで良し。クロは素材が良いんだ。意識して美しくあろうとなさい」
「はい、お姉様!」
「黒姉大丈夫?」

 ヴァーミリオン殿下は赤い髪に紫の瞳の長髪、ある意味ではスカーレット殿下に似た外見で同性の私でも見惚れる程に美しく貴人に相応しい風格があった。
 ……王族でクールで孤高気味。だが接して行く内に素が出てきて打ち解けようとして来る同級生の人気者。……普通にギャルゲーのヒロインで居そうだな。

「おや、クロさんにクリームヒルトさん。ふふ、相変わらず仲が良いですね。ですが妄りに男女が二人きりになるのは感心しませんよ?」
「は、はい。気をつけます」
「分かっているのならばよろしいのです。貴女はただでさえ男性の友が多いですから心配になるのです。――ですがメアリーには手を出さない事だ。私が彼を手に入れるのだから」
「は、はい……」
「おおう、宣戦布告怖い」

 物腰柔らかだが少し腹黒なアッシュ。ヴァーミリオン殿下のために自分の手を汚す事をして、貴族としての誇りはある。クールなちょっと悪役じみた微笑みと偶に出るちょっと乱暴な素の口調は違う一面が見れてギャップ萌え的なものがある。

「む、クロと……キミか。私になにか用かな?」
「ただ寄っただけだよ。シャルちゃんは相変わらずの素振り?」
「うん、日頃から剣を振るわないと鈍るからね。……ふぅ、汗かいたな」
「シャルちゃん、空気を送るのに胸元の服をパタパタするのは気をつけたほうが良いよ。汗で髪が濡れて、服が張り付いて、ただでさえエロいのに大きな胸の谷間が見えそうになって周囲の子らがチラチラ見ているし」
「――っ、クリ――キミはそういう目で――だ、だが忠告感謝する。気をつけよう……」

 これはあれだ。ギャルゲーによくいる黒髪ポニーテールな胸が大きくて武道家で、エロい事に耐性が無く、主人公のラッキースケベに過剰反応する、初心だけどルートに入れば甘々になるやつだ。
 不器用で異性の名前を呼ぶのを恥ずかしがって、異性のからかいに顔を赤くする……あれ、見た目を除けば案外男のシャトルーズとそう変わらない気がするな。

「お兄様お兄様お兄様お兄様――ああ今日もお美しい私のお兄様私の全ての初めてを捧げる準備は出来ていますいつでも構いません私は全てを捧げますだから貴方の全てを私に下さいその美しき眼と髪と鼻と口と舌と首と指と足とお腹と皮膚とかふ――」
「……次行くか」
「そうしたほうがよさそうだねぇ」

 シルバがヤベェ事になってる。対象は異性だが、クレイジーサイコレズっぽい危うさがある。
 これなら男のシルバの方がマシである。見た目は後輩系な明るい小動物なのでギャップが凄い。……というか恍惚のヤンデレポーズ似合うな、この子。

「やっほー、クロちゃん、クリームヒルトちゃん!」
「あ、エクル先輩、やっほ-!」
「うんうん、クリームヒルトちゃんは相変わらずの良い返事だ。後輩が元気で先輩も嬉しいよ。それにクロちゃんとも仲睦まじくて羨ましいねぇこのこのー」
「あはは、くすぐったいですよエクル先輩ー」
「だけどヴァイオレットちゃんを悲しませないようにね。嫉妬されちゃうよ?」
「分かってますよ。それはともかく出会い記念のー」
「ハイターッチ!」
『イエーイ!』
「仲良いなアンタら」

 男女問わず距離が近く、明るく接する眼鏡をかけた先輩。人気をはなにかけずに素で接する。場合によってはボディタッチもある――うん、勘違いする子が増えるな、これは。
 そして後輩を気にかけ面倒見が良く、私生活は少しズボラでルートに入ると逆に面倒を見るようになる――うん、どっちでもいけるな、これ。

――どいつもこいつもギャルゲーにでも出てきそうだな。

 男も女も魅力的な性格は変わらないという事なのだろうか。……いや、一部変な風に改変されてるやつもいるけど、居ても不思議ではないキャラばかりである。
 そしてコイツらを攻略しているのが……ビャクでないとすると……彼か。

「おや、クロにクリームヒルト。変わらず姉弟仲がよろしいですね」
「イケメンだが……前髪で眼は隠れていないか」
「……なんの事です?」
「で、メアリーはこの世界でも多くの女を誑かす男なのか、ビャク?」
「クリームヒルトだよ。まぁそうだね。このまま行けば一夫多妻ハーレムで将来大変そうなメアリーだよ。枯れなきゃ良いけどね」
「メアリーなら大丈夫だろう。ハーレム系主人公は複数相手でも大抵どうにかやってるし、金も何故かどうにかしてる」
「なら大丈夫だねー」
「なんの事です!? というか大丈夫な要素が無いですよ!?」
「あとメアリーは受けだと思うんだ」
「えっ!?」
「お前、この世界ここでもそんななのか」

 メアリーさんは背の高いスラッとした金髪赤眼なイケメンになっていた。
 イケメンだが……うん、なんだろう、あまりそそられない。好みから外れているのだろうか。色んな女と浮名を浮かべているからだろうか。……後はあのキャラの濃い連中に好かれていると思うと、少し同情するからだろうか。
 ともかく胸の高鳴りを覚えない。次はスカイさんとか探そうかな。彼女……彼だと丁寧口調で素は方言の真面目騎士系か。見てみたい気は――

「クロ殿?」

 ――いかん、心が乙女になる。

「失礼しますっ!」
「クロ殿、待つんだ!? クリームヒルト!」
「はいよー」
「離せビャク!」
「クリームヒルトだよ」

 くそ、ビャクに捕まってしまった。流石は私のいもうと、運動能力が高いなこの野郎!

「何故逃げるのだ、クロ殿。そして何故こちらを見ない」
「首の運動をしているのです」
「何故目を閉じている」
「持病のドライアイが起きていまして」
「初耳だが」

 今ヴァイオレットさんを見ると戻れない所まで行ってしまう。ただでさえお声と香りに不思議なほどドキドキしているのに……!
 絶対に見てたまるものか!

「クロ殿、私を見てくれ」
「っ――!?」

 だが顎に手を当てられ、視線を合わせるように顔を向けられる。目を開けなきゃ良いのだけれど、その誘惑に耐えきれず目を開けてしまう。

「クロ殿は婚約者である私を見るのがそんなに嫌か?」
「…………いえ、そんな事は、ない、です」
「顔が赤い……まさか熱があるのか!? だから私に心配を掛けさせまいと!?」
「い、いえ、け、健康、ですから、そのお綺麗な顔を――」
「すぐに医務室に! ナイチンゲール先生に診てもらわねば!」
「っ!? お、お姫様抱っ――」
「恥ずかしいかもしれないが、少し我慢してくれクロ殿! すぐに元に――」

 顔が熱い。
 視線がヴァイオレットさんの顔から外せない。
 香りにクラクラする。
 髪が綺麗で、眼が綺麗で、唇が色っぽくて――駄目だ、戻って来れなく――

「ひゅーひゅー、お熱いねー。でも黒姉、大丈夫? 夢を見ているような顔をしているけど、夢だと思うなら頬でもつねって見たら?」
「――はっ、それだ!」







「――ロ殿! クロ殿!」
「――はっ!」

 目が覚めると、見覚えのない天井がまず目に入った。確かここは……ああ、隣の領地の領主邸か。事情聴取の後眠ってしまったのか。
 どうやら違うベッドであったため悪い夢を見ていたようである。
 そして傍らにはヴァイオレット(女性の姿)さんとグレイ(息子の姿)が心配そうにこちらを覗き込んでいた。

「大丈夫でしょうか、私めの隣で唸っておりましたので……」
「私はクロ殿の声が外まで聞こえて来たから、勝手ながら入らせてもらった。……大丈夫か?」
「……良かった、夢か」
「夢? もしやモンスターの襲撃などの仕事でストレスが……? まさか言霊魔法の影響を!?」
「ああ、いえ大丈夫ですよ。多分関係ありません」
「それなら良いが……」
「ええ、大丈夫です。…………」
「どうした、クロ殿――っ!? な、何故急に抱きしめ――!?」
「うぅ、ヴァイオレットさんはやはり魅力的だ……私は夫として貴女を幸せにいたしますからね……!」
「っ!? そ、そうか。ありがとう……? ……“私”?」
「ズルいです、私めも抱きしめてください!」
「ああ、来てくれグレイ。父親としての自覚を持たせてくれ……!」
「はい! ぎゅー」
「ぎゅー」
「ぎゅ、ぎゅー……?」

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