追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

良い機会


 さて、数年来の友が片想いを両想いにした事は素直に喜ばしい。
 シアンがずっと片想いしていたのは見て来たし、協力もした。
 相手はシアンを悪くは思っていないだろうと言えるが、異性として意識させるのは難しいと思っていた神父様。そんな相手と両想いになったのだ。俺は素直に祝福したし、シアンの恋心が結ばれたという事実にちょっと泣きそうになった。
 それは良い。それは良いんだが……

「うぅぅああああ」
「羞恥が一気に来たのであろうな。だが追撃はやめんぞシアンさん。今のお気持ちはどうであろうか!」
「良かったな、シアン。シキに来てからの初めての友であるお前が結ばれて嬉しく思うぞ」
「おめでとう、ロイヤルな私が祝福するから結婚式には呼んでね! そして語り継ぐから!」

「――――」
「ツンツン、ツンツン。……駄目デスネ、神父サマハ顔ヲ伏セテ動キマセン」
「自分たちの世界に入っていたようですからね。自身の行動を思い返して照れているのでしょう。そっとしておいた方が――」
「祝福してやるぞ神父。ほれ、滋養強壮の薬をくれてやる。なにに使う? 言わせる気か恥ずかしい。必要ならばこの後場を作るが……」
「やめてあげなさい」

 状況が割と酷かった。
 シアンと神父様は互いの想いを伝えあった後、熱い抱擁を交わした。そしてしばらく二人だけの世界を楽しんだ後、馬車の揺れで態勢を少し崩した。
 そして俺達が見ている事に気付き、両者共顔を赤くして羞恥に悶え始めた。神父様まで顔を赤くするという珍しい事に少し困惑したが、その表情を見るなり俺を除く起きている面子が両者を祝福&揶揄いを始めた。
 そして現在、女性陣が楽しくひゅーひゅー! とやっている。あまるに踏み込むようなら止めるが……まぁ良いだろう。
 というかそれよりも問題がある。

――すごく話辛くなった。

 話そうか迷っていた前世やクリームヒルトさんとの関係についてだが、この状況だとすごく話し辛い。ただでさえ話し辛いのに、こんな桃色空間で話せとかただの罰ゲームというか空気の読めない男になるぞ。
 結ばれたのは祝福するけれど、少し恨むぞ神父様。神父様はあの時の事情を知らないので仕様が無いと言えば仕様がないのだが。

「ええい、クロ!」
「え、俺!?」

 俺がきゃいきゃいした空間を眺めつつ、これだと色々片付いてから話したほうが良いなと思い直していると、唐突にシアン(まだ顔が赤い)に名前を呼ばれた。
 どうしたんだ、まさか俺に矛先を向けるつもりじゃ無いだろうな。俺とヴァイオレットさんの事に関してなにか突っ込んできたりするかもしれない。
 通常であれば語りたいが、今は流石に話すのは憚られる。通常であれば喜んで話すが。

「クロ! リムちゃんとの関係について語ってよ!」
「おいコラ」

 こいつ俺の隠している過去を羞恥の気逸らしのために話せと言ってきたぞ。俺の隠してきた過去をなんだと思ってやがる。
 事情を知らないロボやエメラルド、スカーレット殿下は疑問顔だ。
 唯一前世のことを話しているアプリコットは……静観するようだな。俺が助けを求めれば助け舟を出すだろうが、自分からはなにもしない、という所か。

「こんな幸せな空間で話す事でもない。俺の過去より幸せな未来でも語ってろ。ああ、それと領主として結婚式はシキ全体で祝ってやるからな!」
「や、やめ、いや、やめないで欲しいけど……!」

 いくらなんでもこの状況で話すのはなぁ…………いや、でも……

「なんのことだか分からないが、是非話してくれクロ!」
「……神父様まで」

 そして神父様まで助けを求めて来た。
 神父様が助けを求めるとか相当だぞ。……まぁ神父様の友として頼られれている、という事ではあるのだろうけど、こんな形で見たくはなかった。
 けどまぁ……こういった時の方が気軽に話せるかもしれないな。シアンは話題逸らしもあるだろうが、少しは気を使った……のだろうか。大部分は前者が占めているだろうが。

「……話すのは良いけど、面白い話じゃないぞ?」
「え、なに。クロ君、クリームヒルトとなにかあったん?」
「なにかあったのは確かですよ、スカーレット殿下」

 揶揄いで軽口で聞いて来たスカーレット殿下は、俺の回答に「え、マジで?」という表情になった後、あまり軽口を叩く雰囲気では無いと思ったのかそれ以上は聞かずに俺が話すのを待っていた。
 正直軽口を叩いてくれた方が気楽ではあるのだが……まぁいいや。いざとなったらシアンと神父様を揶揄おう。シアン・ナイトとかスノーホワイト・シアーズとか呼んでやる。
 ともかくまずはなにから話そうか。
 俺は少し考え、順序だてて話そうとする。

「まずはクリームヒルトさんをビャクと呼んだ事に関してだが――」
「それは私の名前だよ、皆!」

 そして唐突に、クリームヒルトさんが起きてポーズをとりドヤ顔をしだした。
 …………コイツ。

「――コイツの名前です、馬車内で跳ねてんじゃねぇ、ビャク
「痛い痛い! 私は病み上がりなんだから、起き抜けにアイアンクロー止めて!」
「口調も戻ってるな。じゃあお前は大丈夫だ」
「手加減してよ、結構私意識が危うかったんだよ? 起きたてなら気を使って!」
「お前、神父様が告白した辺りから普通に起きていただろうが」
「っ! ……なんのことかな?」

 クリームヒルトさん……いや、ビャクの顔にアイアンクローを喰らわす。
 コイツの事だから神父様告白前から目を覚ましたのは良いが、自身の状況を理解するのに時間がかかっている内に神父様の告白が始まり、起きるタイミングを見逃した。

「そして折角だし驚くタイミングで起きよう。お、丁度良い所に私に関する事を話そうとしているじゃん、出鼻をくじいてやれ! って感じだろう」
「あはは、流石はクロさんもとい黒兄だね! 私の事を理解しているね!」
「お褒めに預かり恐悦至極だ」
「あまり勉強しないのに難しい言葉使うね、黒兄」
「喧嘩売ってんのか」
「あはは」
「笑って誤魔化すな」

 そりゃ小中と荒れてたし、高校は服飾学校だったから勉強はあまりして来なかったけど。ビャクは勉強しないくせにテストは出来ていたが。

「いやーこの痛みは昔を思い出すね黒兄。昔はこうやってよく……」
「した覚えはあまりないぞ」
「だね!」

 とはいえ、このやりとり自体は懐かしい。ビャクが適当を言って話題を作り、俺がツッコむという会話の流れ。
 ……先程とは違う涙が出そうだな、これは。



「あのように力を振るいに口調……相当親しいようだな」
「…………」
「どうしたんだ、ヴァイオレットさん。もしや今のクロさんについてなにか思う所でも……」
「いや、敬語を外し、あのように砕けて話すクロ殿も良いなと思ってな。クリームヒルトが羨ましい」
「貴女は相変わらずであるな」





備考:結ばれた時のそれぞれの反応
・クロ、アプリコット、エメラルド、ロボ
 数年間シアンの片想いを見ていたので、想いが叶った事を素直に祝福、一部涙
・ヴァイオレット
 シキに来てからの最初の友が結ばれて祝福、少し涙
・スカーレット、スカイ
 目の前で結ばれた瞬間を初めて見て興奮&祝福
・グレイ、クリームヒルト、シルバ
 (多分)睡眠中。何故か祝福
・馬車の御者(護衛)
 「中でなにが起きているんだろう……」

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