追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

意を決してからの横やり


 結果的に言うならば、俺とクリームヒルトさんの戦闘後は、特に問題なく誘拐騒動は終結した。
 元より俺達やヴァイオレットさん達の襲撃は予想外であったらしく、指示系統は滅茶苦茶になり、右往左往し俺達に策も無く挑んでは敗れ、モンスターを開放したら自滅した輩まで居たそうだ。
 逃げ出した者も居るには居るだろうが、多数が捕まった。
 言霊魔法が何故攫った奴らに扱われているのかという件に関しては、一時的に扱えるようにする薬的なモノが見つかったらしいが……その辺りは然るべき機関の調査を受けてからの報告待ちになるらしい。
 ともかく、戻ったら何故かエメラルドに頬擦りをしているスカーレット殿下の正気を戻したら自害しそうになったという一悶着はあったが、無事は無事だ。

――そうなると手紙の主は一体……?

 初めは俺達を誘き寄せるための罠かと思ったが、結局はなにも出て来なかった。
 手紙についてメアリーさんも尋ねはしたらしいが、誰も知らなかった上に、俺が貰った日本語で書かれたモノに関しては読めすらしなかったらしい。
 終わるには終わったが、腑に落ちないことが多い一件だったな。
 これだと別の事を邪推してしまうな。例えば……俺がクリームヒルトさんをビャクと気付かせるために……考え過ぎだろうか。
 あるいは俺を危うくさせるために計画したのだろうか。例えば……今のこの状況の様に。

「…………」
「…………」

 俺達は現在、事前に呼んでいた調査隊の事情聴取と参考人のメンバーとして俺が元々居た街へとまとめて馬車で移動中な訳ではあるが……少々ヴァイオレットさんとの間に気まずい無言の間が流れていた。
 先程はグレイやシルバの件で緩みはしたが、今は改めて向き合おうとして、どういう話題から始めればいいかという感じの雰囲気が漂っている。

「……うぅぅぅぅうううううううううあああああ」
「……喧しいぞ、ス……レット。あれは操られていたのだろう? なら気にする事は無い」
「だけど……だけど……うぅぅううううううああ! 友達になりたいって叫ぶってなに、一緒に寝たいとか……ううぅあ!」
「喧しい。……はぁ。別に慌てんとも、お前とは、友だと思っていたんだがな」
「え、今なんて……」
「……知らん」

「シアン。俺を罰してくれ」
「神父様、大丈夫ですから。大丈夫ですから正座止めて下さい」
「我、欲するは七難八苦。諸行無常のアガーティアカルマを禊、雪ぎ奉らんために……」
「混ざってます混ざってます。色々混ざってます。神父様として良くない事言っています」

「むにゃ……ふふ、アプリコット様……むにゃ……」
「……ふふ、可愛らしく眠っているな、我が弟子も。……言霊魔法の後遺症で疲れている、か。あれも覚えていないかもしれない……か」
「んにゅ……」
「……可愛らしい唇だな。……いかん、余計な事は考えるな」
「ナニカアッタノデスカ?」
「なにも無い。……なにも」
「ナンダ、キスヲシタケレド覚エテモラエテナクテ寂シイナ、デハナイノデスカ」
「……中に居るの実はシアンさんでは無かろうな」

「メアリーさんメアリーさんは何処に居るの僕が男らしくないから会いに来てくれないのだったら皆より強いって証明して見せれば僕に振り向いてくれるのだったらライバルであるアイツらから出し抜くために――をすれば僕だって勝ち抜いてメアリーさんにふふふでももし無理ならアイツらに分からせてやるんだふふふふふふふ……むにゃ」
「怖い怖い怖い。シルバ、眠りながら怖い事言っています。……もしかして私もこんな風だったんでしょうか……」

 あと何名か周囲の奴らによって微妙な感じもする。
 事情を知らない神父様あたりが話しかけてきたり、クリームヒルトさんが目覚めたりしないかな……なんて、現実逃避も良い所か。
 それに丁度良いタイミングかもしれない。今の俺達は馬車で移動中。馬車の中は広いし、他に誰も居らず音に紛れれば操者にも聞こえないだろう。
 ここに居るのはヴァイオレットさんがここに来たメンバー5めいと、攫われたメンバー5めい。眠っているのが数名居るが、話すのも――

「クロ殿。別に無理をする必要はないからな」

 俺が話そうかと思っていると、ヴァイオレットさんが俺の様子を見てなにかを思ったのかそんな事を言ってきた。
 その言葉に俺がヴァイオレットさんの方を見ると、優しそうに微笑んでいるのが見えた。

「クロ殿とクリームヒルトの関係も気にはなるが、話したくないいのならば話さなくても良い。クロ殿が内緒にしたいと言うならば無理しては聞かない」
「……そうなのですか?」
「ああ。……あ、言っておくが、クロ殿に興味が無いという訳では無い。ただ、私はいつか学園生の頃を聞かずに今を受け入れてくれたクロ殿の様に、私は今のクロ殿が好きだと言う話なんだ。だが過去になにがあろうと、クリームヒルトとの関係性が複雑なモノであったとしても、私は受け入れるつもりではある。けれどそれで苦しむのならば、私はその事の方が耐えがたい」

 だから俺が話す事で苦しむのならば、それをヴァイオレットさんわたしは望まない、と優しく微笑んだ。
 ヴァイオレットさんは先程の会話の真意について話さなくても、何事も無かったように明日から俺に接してくれるだろう。いつものように、微笑んで――

――この優しさに甘えては駄目だな。

 いくら話さなくて良いと言われてもこの優しさに甘えていては駄目だ。
 本気でそう思っていたとしてもここで話さない選択肢をすれば、俺が耐えられなくなってしまう。
 ……これは話して俺が楽になりたいだけかもしれない。けれどヴァイオレットさんと夫婦で、家族でいるためには話したほうが良いのかもしれない。

「……シアン、聞いて欲しい事がある」

 俺が意を決して話そうかと思うと、神父様の声が馬車内に響いた。
 その言葉は不思議な間を置いての言葉であり、騒いでいた面子が全員注目する真剣な言葉であった。

「はい、どうかされましたか?」

 シアンは神父様の言葉に特に疑問を持つことなくいつもの対神父様の笑顔を向ける。
 それに対し神父様は神妙な表情をしている。……あれ、この表情って……

「このような状況に言うのは卑怯なんだろう。だが今言わないと駄目な気がするんだ」
「はぁ、なんでしょう――し、神父様? 何故手をとられるのでしょうか?」

 神父様はシアンの手をとり、シアンは突然の事に慌てながら顔を赤くする。
 そして――

「シアン、好きだ」
「…………………………へ?」

 そして神父様は告白した。

――え、ここで!?

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