追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

暗示は思っている事を増長させる(:菫)


View.ヴァイオレット


「あは! ついに見つけましたよ、学園では目の余る行動をしておきながらちゃっかりクロお兄ちゃんと結ばれているイオちゃん!」
「スカイ!?」

 私達が悩んでいる所に現れたのは、クリームヒルトの様に笑うスカイであった。
 しかもなにやらよく分からない事を言って――戦闘態勢であった。

「イオちゃん、おとなし、おおと、おとなしく捕まってください! 貴女をさし、しだせば! あれ、ななんで差し出す必要が――!?」

 なにやら言葉がよく分からない状態で、私に近付いて来る。そして自身の言葉に疑問を持っているかのように、身体もカタカタと震えている。
 これはもしかして……操られている? もしそうならば、今の身体がなっていない状態の内に気絶させた方が――

「動くな、バレ――ハートフィールド。今アイツがなにを掛けられているかが分からない」

 私が動こうとすると、シャトルーズが私達全員に動かないように告げる。ただ警戒態勢だけは解かないように警戒するためか、シャトルーズの自身の武器であるカタナに手にしている。

「何故だカルヴィン。操られているのは明白だ。ならば今の内に意識を奪った方が良い。そうすればスカイ自身の終わった後の負担も少ない」
「……分かっている。だが俺が単独で居たのにも理由があるのだが、今のスカイはなにを命令されているかは分からないんだ」
「つまり誰かが操られて、不測の命令を受けていた者がお前達を分断したという事か」
「……ああ。神父は簡単なモノで済んでいたようなのだが……」

 だがクロ殿達やヴァーミリオン殿下。そしてメアリーが居る状態で分断されたとなると、余程の者が操られたのだろうか。スカイも操られているとなるとメアリーの可能性もある……いや、もしかすると……

「シルバか」
「……そうだ。アイツは魔力の量は俺達の中で最も多い。そのシルバが暴走状態で闇魔法を使い、俺達を分断した。恐らくは誰かが近付いたら魔力を暴走させろ、といった類の命令を受けていてな。それに魔力封じもなかったからな」

 シルバは呪われた力を持っているという噂は根も葉もないものであったが、魔力量が学園でもトップクラスというのは事実であった。ただシルバ自身が魔法の扱いが上手くない、というよりは怖がっているように見えたので魔法成績は平均より上程度であった。
 そのシルバが恐怖せずに魔力を暴走させたとなれば……不意打ちであればクロ殿達を分断させるのもおかしくはないか。

「スカイはどのような命令を受けていると思う?」
「ハートフィールド。お前を捕まえる類なのは確かだ」
「私を?」
「ああ、捕まっていた者達は俺達の襲撃を受けて自棄になった誰かが全員に命令をさせて牢から抜け出したが、手が追えなくなっている。そこで少しでも人質の価値があるお前を誰かがスカイにお前を捕まえるように命令させた、という所だろうな」

 一応の公爵家の私だけでも捕まえようとしているのだろうか?
 例え人質の価値が少しでもあるからと、私や殿下の身柄を確保しようにも杜撰すぎやしないだろうか。まるで元々バラバラな間柄だったのを集めて――烏合の衆にしているような感覚がある。

――……誰かが集めて、解体させるために手紙をよこした……?

 さらには聞く限りでは襲撃も予想していなかったように思える。そうなると私達に渡した手紙もこの遺跡を陣取っている者達を捕まえるために……

「あは! ともかくイオちゃんを捕まえれば良いんですね! よく分からないけどそれでスッキリする気がしまするです!」

 いや、それを考えている余裕はない。まずはスカイにかかっている暗示を解決させねば。

「スカイは俺達と共に来たメンバーだ。そこまで深い暗示をかける時間は無かっただろう。簡単なモノのはずだ」
「でもシャトルーズ君、神父様は……」
「気が付けばシスター・シアーズが既に近付いていたのもあるが……恐らく最初にかけられたものが根深いものだったのと、かけた者が杜撰であったのだろう。しかしシルバにかけた者がスカイに――離れろ、ハートフィールド!」

 シャトルーズに言われ、私達はその場から全力で離れる。
 そして次の瞬間には私達の居た所にスカイが水魔法攻撃と共に持ち前の剣を振り下ろしていた。

「あれ? ……大人しく捕まってくださいイオちゃん! 捕まえれば、私は、私は……ぐっ!」
「待っていろスカイ、今すぐ戻すからな!」

 私を捕まえようとしながらも苦しむスカイを見て、私は神父様の様に少しでも呼びかけで抵抗する機会が生まれないかと叫ぶ。
 少しでも抵抗する所を見せれば、シアンと神父様のように近付いて気絶をさせるか解呪魔法を唱えれば行けるかもしれない。
 だからまずは戦闘をしつつ、様子を――

「貴女を捕まえた後は私はクロお兄ちゃんの妻のポジションに入りますから、後の事の心配はしなくて良いです!」
「よし分かった今すぐ気絶させてやるからな!」
『落ち着くのだヴァイオレットさんハートフィールド!』

 よし、操られているのかもしれないが、なんとなく本気で狙っている気もしたので今すぐ気絶させて正気にさせてやる。以前から何故か分からないがクロ殿関係で敵だと思う事があったからな!

「皆、手伝ってくれ。私が引き付けるから、皆に眼中が無い内に見えない所から気絶させるか解呪させてやってくれ。というか私が一度戦うべきだと思うんだ」
「ああ、うむ。暗示的にはヴァイオレットさんしか目に入っていないようだから、対処としては間違ってはおらぬのだが……」
「コットちゃん。今は言う通りにした方が良いと思うよ」
「……であるな」

 スカイが敵に回っては危うい。なにせスカイは私と違って健康的な肢体をしている。
 肌は健康的でハリがあり、余分は無く腹筋は女性らしい柔らかさも持ちながら筋肉質で綺麗に割れている。
 性格も真面目でだけでなく、綺麗好きと聞くし魅力的な女性と言える。
 いずれ戦う時が今来たという話なのだな……!

「……この分だと、存外他の者もこういった感情を拗らせ……操られているのかもしれないな」
「コットちゃん。気持ちは分かるけど、少し緊張を持とう」
「うむ、すまない。操られているのは確かであるからな。早く彼女を元に――く、シアンさん、ヴァイオレットさん、シャトルーズ、徘徊のモンスターが来ている!」

 私がスカイと向き、どうやって正気を取り戻させてから勝つべきだと思っていると、アプリコットの叫びにより思考が中断される。
 スカイから意識を逸らさずにアプリコットの注意した方をチラリと見ると、確かに先程のようなモンスターが群れを成してこちらに向かって来ていた。
 もしあのモンスターが先程の様に“廊下内を徘徊し、黒いフードを被っている者以外を襲え”という命令を受けているのならば、私達だけでなく操られて正常な判断が出来ていないスカイも攻撃対象だ。
 気絶した神父様はシアン達に任せ、ここは私が率先して部屋に逃げ込みスカイを誘導し、その後にスカイへの対処を――

「あはは」

 そうして私達が各々で対処をしようとした所に――鉄のような臭気と共に、は現れたのであった。

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