追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
これで次に自慢してやる……!by空
俺はちょっとした野暮用から戻ると、バーントさん達となにやら楽しそうに話していたメアリーさんが俺の事に気付いて話しかけて来た。
「あれ、クロさんどちらへ……なんだか疲れてませんか?」
「気のせいですよ」
「そうですか……?」
なんだか過保護すぎて姪と甥の将来が本気で心配になっただけで、特に問題はない。
何処かの長兄がまた一悶着起こしそうであったが気にする事ではない。
「そういえばメアリーさんは生徒会の仕事ですか?」
俺はこれ以上シッコク兄について考えると要らない精神まで削られる気がしたので、楽しそうに話していた所を悪いが、話題を変えるためにメアリーさんに尋ねた。
というかメアリーさんはよくバーントさんとアンバーさんと楽しそうに話せてたな。
言い方は悪いが、ヴァイオレットさんがヴァーミリオン殿下などと一悶着を起こした原因であるので、気まずい雰囲気になると思ったが。
「今日まではそうですね。ですが明日まで休みなので、今は冒険者として依頼を満たす準備をしに来たのですが……あ、そうだ」
「どうかされましたか?」
「クリームヒルトとシルバ君を知りませんか? 待ち合わせの時間になっても来ないので、簡単に心当たりを見に来たんですが……」
迷子探し的な感じだろうか――と、クリームヒルトさんもシルバも小柄だからついそう思ってしまうが、同い年だから少し違うか。シルバが知ったら怒りそうだな。
「いえ、見てませんね。今日も俺は仕事有りませんし、探すの手伝いましょうか?」
「ありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。もう皆の所に行っているかもしれませんし、見かけたら時計塔の下で皆が待っている、とお伝え頂く程度で大丈夫です」
「そうですか、了解しました。……皆?」
ここは俺の意志ではないとは言え巻きこんで引き留めてしまったし、困っているのなら手伝おうと思ったが、社交辞令的なモノだと思われたのか断られた。まぁ無理に手伝う必要もないだろうと思ったが、メアリーさんの言葉にふと気になる言葉があって尋ね返す。
確か生徒会の仕事は今言った二名にエクルだけだから……皆と言うと……
「はい、ヴァーミリオン君もアッシュ君も一緒に参加すると言って聞かなくって……」
メアリーさん曰く他の攻略対象ほど積極的ではないエクルと、弟のような扱いのシルバに、仲が良くなってきているクリームヒルトさんのバランスのいいメンバーで気楽に、なつもりだったのだろうけれど、その二人が一緒となると色々あるかもしれないな。昨日のような事があってもおかしくは無いだろう。
「……まぁ頑張ってください」
「ありがとうございます……それでは。バーントさんとアンバーさんもまたいずれ」
「ええ、また」
『はい』
メアリーさんは丁寧に礼をして、別れる間際は疲れる仕草を見せずに、笑顔のまま優雅に去って行った。本人は意識していないだろうけど、その様子に周囲のお客が見惚れている辺り、魅力は本物なんだよな、彼女。だからこそ攻略対象達にべた惚れされている訳だけど。
大きなお世話だろうが、いい加減誰かを選ぶか、全員になにかしらしたほうが良いと思うんだけど……
――そういえばメアリーさんは誰かを選ぼうという意志が見られないな。
日和っているというのもあるだろうが、なにか別の思惑や理由があるようにも思える。
……実はイケメンが苦手とかだったりするのだろうか。あるいは乙女ゲームに出て来るような性格の男性は苦手とか、身分差を気にしているとか……ないか。あったらアイツらが可哀想である。
「そういえばクロ様は今日もこの宿に泊まるのですよね?」
「ええ。帰るのは明日ですよ。午前に野暮用を済ませてから帰ります」
「ならば私達と同じですね」
メアリーさんが去ってから、バーントさんとアンバーさんは楽な体勢になってから俺に聞いて来る。
「クロ様。どうでしょう、寝るまでの間色々とお話しませんか? お部屋で」
「話すのは良いですが、なんだか嫌な予感がするのは気のせいでしょうか?」
「はは、流石に気のせいですよ。その……お嬢様の様子をお聞きしたくて……」
「元気でしているかや、皆さま……ご友人と上手くやっているかなどを……」
……流石に疑い過ぎか。今までを考えれば俺の疑いも仕様が無いとは思うけど、失礼だったかもしれないな。
そういえば今回の陞爵を除けばバーントさん達はオフだというのに、俺の兄弟間の妙な騒動に巻き込んで申し訳ないな。話すついでに夕食でも奢ろうか。俺にヴァイオレットさんを語らせると服飾並みに長くなるし。
「はい、良いですよ。折角ですから夕食でも食べながら話しましょうか」
「はい、よろしくお願いしま――クロ様。お客人です」
「客?」
夕食のメニュー表を見ようとすると、再びバーントさん達は仕事モードになった。
恐らく視線の先に誰かいたのだろうが、客と言うと誰だろうか。
……まさかロイロ姉とかが来たとかないよな。ロイロ姉はある意味シッコク兄より厄介だから会いたくないんだが。
「ねぇ、シャル。今日の討伐依頼少しおかしくありませんでしたか?」
「ああ。妙に強化されていたと言うべきか、狂化されていたと言うべきか……」
「ギルドの方でもそのような報告が――あれ?」
「む、スカイどうした? ……ああ、男爵か」
バーントさん達を見ていた方を見て、聞いた事のある声の方を向くとそこにはシャトルーズとスカイさんが居た。昨日依頼云々と言っていたし、会話の内容からも依頼と報告を終えて夕食を食べに来た、という感じだ。
幼馴染だからなのか結構仲良いな。そういえばあの乙女ゲームだとその距離感に主人公が嫉妬して……みたいなシーンもあった気はするが。
「昨夜ぶりですね、シャトルーズ卿、スカイさん。こんばんは」
「ああ、奇遇だな」
「ククククク、クリョ、クリョしゃ、」
「え、なんです?」
俺が挨拶をすると、スカイさんが何故か妙な笑いをしだした。いや、クククと言っているだけで笑っている感じではないのだが……
と、俺達がスカイさんを心配そうに見ていると、スカイさんは深呼吸を一度していつもの真面目な表情に戻った。
「こんばんは、クロ卿。このような場所でお会いするとは。ええと、そちらの方々とお食事……でしょうか」
「はい、こんばんは。ええ、友人と夕食を食べに来たのですよ」
「友人? 確かそちらの者達は……ウィスタリア公爵やア――ヴァイオレットと共に居た所や……学園祭でも挨拶をした事があるな」
今シャトルーズのやつ、多分ヴァイオレットさんをアイツと呼びそうになったな。けれど俺か元従者の前で失礼だと考えたのか、言い直した感じか。
まぁそのくらいならバーントさん達も気にしないとは思う。むしろ女性の名前を素直に呼べている事が珍しいから素直に呼べている事を褒め称えよう。
「ええ。友人です。シャトルーズ卿はご存じかと思いますが、改めてご紹介いたしますね」
俺はバーントさん達を紹介し、バーントさん達も軽い礼をして言葉を交わす。
シャトルーズは一瞬俺を興味深そうに見て、スカイさんは騎士として挨拶を返した。
興味深そうに俺を見たのは……偶に貴族っぽくない時にシャトルーズはこういう目で見るんだよな。なんかメアリーさんと似ている、という風に嫉妬も混じっているから複雑なんだが。
「あ、そういえば今回自分は子爵になりましたので、よろしくお願いします」
「え、クロ卿が?」
「ほう?」
と自己紹介をしあった後、ふとシャトルーズが俺を男爵呼びであった事に対して、出来れば目を逸らしたいが避けられない事を思い出して言う。ついでに経緯なども説明する。
彼らはどちらも子爵家であるので、ある意味仲間になるのだろうか。……多分違うな。
「では私達と同じなんですね……いえ、私達はまだ正式に子爵という訳では無いですから……敬った方が良いでしょうか」
「いえ、なりたての成り上がりですし……シャトルーズ卿に至っては父君や母君の功績を考えると継がれる頃には伯爵となってもおかしく無いですし、今のままで構いませんよ」
ヴェールさんはアレだけど、本当に立派な方だからな。普段はアレだけど。
「ふむ……だが私達は年下な上に学生の身。パーティなどの畏まった場ではともかく、普段はそちらも敬語を外す程度は良いのではないだろうか?」
「難しいですね……敬語俺にとって染みついた所があり――」
「良いですね!」
「――ますから?」
シャトルーズの提案に対し、俺が愛想笑いで難しいと言おうとすると何故かスカイさんが大声を出した。
俺だけでなく、シャトルーズやバーントさんとアンバーさんも驚いているように思える。
「クロ卿、是非私に敬語を外してお話しください! 同じ子爵家なんですから遠慮はいらないです!」
「え、あの、どうされましたスカイさん?」
「卿も要りません。スカイと呼び捨てで構いませんよ」
「スカイ? 一体、どうし――」
「シャルに今呼ばれたい訳ではないんや――ないんです。さぁ、お呼びくださいませんか?」
「あ、あの……」
スカイさんはなんだかテンション高めに俺に迫って来る。これはなにが起きているのだろうか。昨夜の事も有るし、スカイさんになにかあったのだろうか……?
あとなんかデジャヴを感じるのは気のせいか。
「スカイさん、では駄目でしょうか?」
「スカイです」
「……スカイさん」
「スカイです」
「……スカイ」
「はい!」
俺が呼び捨てで呼ぶと、スカイさんは嬉しそうに返事をした。
会ってからそんなに日数は経っていないが、彼女のこういった表情を見るのは珍しい気がする。あの乙女ゲームでもあまり見ないような表情だ。まぁあの乙女ゲームだと単純に女キャラの立ち絵の種類が少ないだけなんだが。
「……恋ですね」
「……色ですね」
なんかバーントさんとアンバーさんが後ろで呟いていたが、俺に聞こえないかのような小さな声であったので聞き取れなかった。
ただなんとなく「やかましいわ」と突っ込みたかった。
「ふ、ふふ……」
「スカイ、どうしたんだお前。昨日から様子が変だぞ?」
「なんでもないですよー」
「……お前のそんな表情、久々に見たな」
だけど何故か嬉しそうにしているスカイさんを見ていると、なにも言えなかった。
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