追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
周囲には聞こえないよう注意を払っています
俺とクリームヒルトさん、シルバは食事が大体終わっていたが、他の皆はメアリーさんへの告白……自慢合戦? に夢中で食事があまり進んでいなかったので、現在は合戦に参加したシャトルーズを抜いた皆が食事を摂っている。
食べる前に座席の順番で一騒動起きかけたのだが、今はメアリーさんの右に俺、左にルーシュ殿下が座っている。誰かメアリーさんを好きなヤツに座らせたら文句が出るからだという事と、スカーレット殿下がクリームヒルトさんに用があるらしく、スカーレット殿下がクリームヒルトさんの隣に座ったためこの席順となった。
……決まった時に「メアリーの隣など……!」的な視線を浴びせられたが、まぁ良いだろう。
ちなみに今攻略対象達は、
「おい愚弟。メアリーをものにしたかったからね、責任とらせりゃ良いの。奪えば良いの、奪えば」
「はしたないですよスカーレット姉さん。というかそれって女性が男性を狙う時の方法では……」
「うるさい、強気に出れん男が女と結ばれると思うなよー。……アッシュ、お酒注いで」
「スカーレット殿下。これ以上はやめた方がよろしいかと……」
「え、“俺にこれ以上注がせたかったらそのロイヤルバストを揉ませろ?”仕方ない……」
「言ってません――って、脱ごうとしないでください! ヴァーミリオン、私では触れられないから押さえてくれ!」
「ク、クリームヒルトくん? 大丈夫かな、少し飲んだだけでフラフラになっているような……?」
「だいじょうぶですよー、エクルせんぱいー。あはは、エクルせんぱいがかげぶんしんしてるー。――はっ、これなら一人位ならねらえる……!?」
「駄目そうだね。……あれ、シルバくん?」
「あつい。……エクル先輩、この場所、あつすぎる」
「そうかい? じゃあ、少し涼しい所に――って脱ごうとしないで、シルバくん!?」
「あつければ脱ぐ。これ、自明の理。意地でも脱ぐ……!」
「脱ぎ癖……だと……!?」
「あはは! じゃあわたしもぬぐー! 皆で脱げば、こわくない!」
「クリームヒルトとやら。レディが人前で自ら脱ごうとするものではない」
「え、じゃあルシさんが脱がせてくれるの……?」
「そういう意味では――こら、脱ぐな! というか力強いなレディ!」
と、話し合いが終わった酔ったスカーレット殿下とクリームヒルトさんの対応に追われている。クリームヒルトさんは止める前に気が付いたら飲んでいた。
というか王族として酒にのまれるのは良いのか、第二王女よ。そしてなんでどいつもこいつも酔ったら脱ごうとするんだ。露出狂かなにかか。
「さっきと違う意味で騒がしいですね……」
「お陰でこうして話せている訳ですが」
まぁお陰でと言ってはなんだが、メアリーさんと話せるので良しとしておこう。
あまり日本語とか転生に関しては話せないけど、気になる事の確認がしたかったので丁度良かった。ようは転生者と仮面の男に関しての話だ。そして……つい先日の件についても。
「……まさかアプリコットに前世の事がバレるとは……」
「……申し訳ありません」
「いえ、謝る事ではないのですが……ですが、カサスに関しては言っていないのですよね?」
「はい。あくまでも前世の記憶がある、という点だけですね。流石にゲームに似た物語の世界と言われてもピンとこないでしょうし。シキに帰ったら話すかもしれませんが」
周囲に聞かれないように、あくまでも何気なくメアリーさんと会話をする。
アプリコットに日本語の件と、予言の件。メアリーさんも前世の記憶持ちという事がバレたという事を話した。
メアリーさんは驚きはしたが、過ぎた事は仕様が無いという事と、むしろ別の点が気になってすぐに別の事を考え始めた。
「……転生者が前世の私の知り合い、ですか」
そう、仮面の男がメアリーさんの前世の知り合いかもしれないという事だ。
前世となんら関わりがあるが故に仮面の男が行動しているのではないかというアプリコットの推理に、メアリーさんは真剣な表情で考え込む。
「前世での私は引きこもっていましたから、あまり知り合いと言われても……」
「親御さんとか、恋人とか。あとはご兄弟や親友などは?」
「親は私の身体の状態が判明してから死ぬ前の八年間ほど会っていませんし、恋人なんて居た事ありません。兄弟は10歳ほど離れた弟が居たらしいですが……会った事ありません。親友は……仲の良い子は居たと思いますが、転校する、と別れて以降会っていませんし……」
「……身体の状態?」
「あ、言っていませんでしたね。私、前世はずっと身体が良くない状態でして。正直この世界に来て立ったり座ったりの感触とかが新鮮で楽しかったんです。痛い、と痛くない、ってこういうやつなんだー。と思ってたんです」
……あれ、メアリーさんの前世って思ったよりも孤独な人生を歩んでいたんだろうか。言葉の端々から凄い事をあっさりと言っている感がある。
「えと、なんというか……」
「? ……あ、ごめんなさい。気を使わせてしまいましたね。前世は前世ですから、気になさらなくて結構ですよ。私にとっては楽しかった事も多かったんですから」
以前俺はこの世界云々と説教したことがあったが、メアリーさんだと仕様が無かったのかもしれない。
俺だと前世の記憶と、前世にはない魔法というファンタジーな代物が現実になっていただけであった。メアリーさんはそれ以上に。今世に置いての生活は前世十数年の感覚とまったく違う新たなモノばかりであったが故に、“ゲームの世界”という印象が強かったのだろう。
俺で言えば……この世界に来てステータス画面にレベルの概念があるような感じだろうか。ともかく空想上のものが当たり前に多くあったが故に思ってしまったのだろうか。
「むしろ今はこうして元気で過ごせているのですから、この幸福を享受できて嬉しいんです。ほら、大切なものは失ってから初めて気づく。って言うじゃ無いですか。失っていたものを手に入れたと自覚できたのですから、無問題です!」
「……なんで中国語なんでしょう」
「あれ、こういう時に言う言葉なのではないのでしょうか……?」
「この世界に無い言葉を使ってあらぬ疑いをかけられますよ? 俺みたいに」
「マジですか」
「マジです」
しかしメアリーさんは笑顔で問題はないと答え、少しズレた発言をする。そしてお互いに小さく笑い、周囲が飲んでいるものとは違ってアルコールの入っていない飲み物を互いに飲む。……この紅茶微妙だな。やはりグレイが淹れるモノが美味しいな。
「ともかく、知り合いですか。そうですね……あれ?」
「なにか思い出した事でも?」
「いえ、少し違うんですが、先程の件をふと思い出したんですが、クロさんってスカイと知り合いだったんですか?」
「ええ、まぁ」
メアリーさんが水を飲みながらふと気付いたように質問をし、俺は頷く。
俺は昔会っていた事と、先日の殿下がシキに四人いるという頭を悩ませる時に再会した事を告げた。
「そうなんですね……うーん、アレとは一部を除いて同じように見えましたが、過去はやはり違っている感じですね……そうなると、同じように見えても振舞っているだけの可能性もありますし、違って見えても疑っているからそう見えるだけ……という事もあるのですね」
アレ、とはあの乙女ゲームの事だろう。メアリーさんはあの乙女ゲームと違う点は無いか、という部分も含めて探しているらしい。もちろんすべてがそれだけで片付けている訳では無いが。
「スカイがあんな表情をするなんて思いもよりませんでしたよ。……もしかしてクロさんって乙女ゲーム女キャラキラーだったりします?」
「しません。というかスカイさんに関しては勘違いですよ。前に否定しましたから」
「そうなんですか?」
……まぁ否定したのは俺の方だけど。少なくとも乙女ゲーム女キャラキラーなんて不名誉(?)な称号は嫌である。ヴァイオレットさんの気持ちを射止められるのならその称号でも良いけど。
「そういえばカサスでも出て来ていた、というか設定だけのキャラなんですけど、もう二方程クロさんの知っている人でいるんですが、ご存じですか?」
「? 王族関連や攻略対象関連……とかでしょうか」
「いえ、ヴァイオレット関連です」
「ご両親や兄達でしょうか」
確かあの乙女ゲームでも父親は出ていたはずだし、母や兄も名前だけは出たりと設定上はいたはずだ。ヴァイオレットさん関連と言うと、それ位しか思い浮かばないが……
「その方々ではなく、以前学園祭でご一緒だった――あれ?」
「どうされました?」
「いえ、今誰かが近付いて来た様な……?」
メアリーさんは再び気付いたように疑問顔になり、動きを止める。またなにかあったのだろうか、と思ったが先程とは違って周囲を見だした。
もしかして誰かがこちらに注視や聞き耳を立てているのかと不安になる。聞こえないように最小限声で話しをしたり、【認識阻害】の魔法をこっそりかけていたが、不安には――
「――久方ぶりの、良いお声」
「――久方ぶりの、良い香り」
――――瞬間。俺は得も言えぬ寒気が走った。
俺は前世では多少喧嘩慣れはしていた。今世においてもモンスターに対してある程度戦闘慣れはしている。
それらから危機を察知する力は養われていると思うし、敵意といった怪我をするような状況には回避する力は長けている方だと思う。ついでに性的欲求に対する反応もある方だと思う。
「ああ、なんという僥倖」
「ああ、なんという奇跡」
だが、本能的な己が幸福を満たすための敵意を持たない欲求を満たす行動をする――リミッターの外れた変態に対しては、俺はあまりにも不慣れであった。ヴェールさんのような肉体を欲する変態一人相手だけでは、慣れる事なんて出来ずにいた。
「――――っ!」
逃げようとした。持てる全力をもってこの場から脱出しようとした。
理由は単純で、このままいけばなんだか己が性癖に真っ直ぐ向き合ってから欲望を抑えずに満たそうとする、色々とアレな兄妹の餌食になると思ったからだ。
「クロ様。唐突な起立は危険ですよ」
「クロ様。焦らずとも良いのですよ」
だが、立つよりも早く俺の肩をそれぞれに捕まれ、立とうとする前に抑えられる。
くっ、なんだこの力は。いや、違う。これは力ではなく技術だ。力を入れようとする前に抑えられて、立つことすら出来ないだと――!?
「我が愛しの音――もっとよく聞かせてください親愛なるクロ様!」
「我が愛しの香――もっとよく嗅がせてください親愛なるクロ様!」
「ええい、離れてください! ちょ、ま、俺が動けないだと……! 落ち着いてくださいバーントさんにアンバーさん!」
『愛しいクロ様がここにいるのに落ち着けるわけが無いでしょう!』
「アンタら本当に欲望に対して忠実に成長しましたね!?」
以前会った時はある程度は抑えて優秀な執事と侍女であったのに、なんでこんな無理にでも欲望を満たそうとしているんだ。
あれか。自覚してしまったから欲望が抑えきれなくなったとかそういう感じか! だとしても愛しいとか言うな、誤解される!
「……クロさん、本当に関係を拗らせて刺されないでくださいね?」
今回に関しては「メアリーさんに言われたくない」とは何故か言い返せなかった。
備考1:忘れられた方のためのキャラ簡易解説
バーント
音(人体からに限る)フェチ
アンバー
香(人体からに限る)フェチ
備考2:「10歳ほど離れた弟が居たらしいですが……」
前世のメアリーの両親が、メアリー(綾瀬・白)を見限った後に、彩瀬家の子供として弟が出来たらしい。
備考3:無問題
この世界ではいわゆる日本と中国的な国がまとめて“東にある国”になっているおり、言葉も混在しているためこの言葉(発音)は有りません
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