追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
幕間的なモノ:第一王女が馬車の中にて_2(:真紅)
View.ローズ
スカイが何故涙を流したかは分からないが、彼女はすぐに持ち直していつもの真面目な表情に戻ったのでそれ以上触れないことにした。
スカイがあのように涙を流すとは思っても見なかった。普段であれば、汚れている場所で掃除用具でも持たせない限り質実剛健を貫くような彼女だ。余程の事があったのだろうか。
――もしかして本当にクロ男爵の事を……?
襲撃のメンバーに覚られないように誘惑しに行くとは聞いていた。初めは誘惑するふりだけだとは思っていたが、表情の少ない彼女が妙に緊張していたのを覚えている。
初めは演技なのかと思っていたが……確か数年前に出会った名も知らない年上の兄のような男性が好きであった、と聞いていたが、もしかしてクロがその男性だったのだろうか。
――詮索は無用かもしれません。
もし感動の再会をした男性が既婚者であれば、その衝撃は計り知れないだろう。さらには見る限りではクロはヴァイオレットを愛し、浮気をしないタイプに見える。
私はマダー以外の男性を恋愛的に好きになった事は無いので、少女の恋はよく分からない。分からない者が変に気を使っても傷口に塩を塗るだけだろう。
――恋、ですか。
王族出身の私には認められないと思っていた感情であり、特に疑問は持っていなかったものだ。
だが……ルーシュはそれだけのために王族の仕事をこなしながら冒険者を行い。ヴァーミリオンは感情を表に出すようになり。今回の滞在ではスカーレットまでもが明るくなっていた。
それも多分、恋のお陰なんだろう。
――ある意味では、ルーシュとスカーレットも救われたのかもしれませんね。
そう思うと、クロがあの地で領主をしていたお陰で弟達も救われたのかもしれない。
ルーシュとスカーレットは私と比べてはるかに優秀だ。
勉学、運動、魔法、戦闘。どれをとっても私がルーシュとスカーレットに勝てる分野は一つもない。
そして優秀過ぎるが故に、何事もさせてもひどくつまらなそうであった。
ルーシュは媚び諂う周囲に嫌気がさしていて、肩書しか見ない婚姻の勧めに他者を嫌い。
スカーレットは、表面上は笑うが本気で感情を表に出さずに全てを受け流していた。
そして私が国王陛下に言われるがまま政略結婚をしたので、王族としての自分を殺す在り方を私に見たルーシュは冒険者になり国外へ行き。スカーレットは縛られない方法を見つけ出そうとしていた。
初め私はいずれ王族にしか出来ないことがあって、その中で自分らしさを見つけられるモノだと気付くと思っていたのだが……
『聞いてローズ姉様! 今まで本気を出しても壊れる心配のない相手なんていなかったのに、初めて勝てない相手がいたの! もしかしたら世界には似たような相手がいるかもしれないから、私もルーシュ兄様の様に冒険者になる!』
カーマインの件について問い詰めると、クロに関して嬉しそうに語るそれを聞いて、私が見ていたスカーレットは、本当のスカーレットで無いと気付いた。
そして今回の件では好きな対象は同性であったとはいえ、楽しそうにしていた。……本当に好きなのかはまだ分からないが。
『ルーシュ。そういえばヴァイオレットに対して普通に接するようになっていますね。今までの貴方は表にはあまり出しませんでしたが、彼女を嫌っているように思っていたのですが』
『……ええ、そうですね。オレの知っているヴァイオレット・バレンタインという女は、あのように周囲に感謝をされたり、何気なく話されるような女ではなかったのです。ああして変わったと知ったのならば、嫌う要素は有りませんから。それを見てオレも気が楽になったと言いますか……』
『……貴方も変わりましたね。ルーシュ』
『そうですか?』
『ええ。以前よりも感情を出して民に愛されているように思います。……素敵な恋愛をしたのですね』
『はい。……いつかは姉様達のように、仲の良い婚姻を結んで見せます』
『……そうですか』
ルーシュは私の婚姻を見下していたように思えたが、今では私達を目標とすら口に出した。……多分追い求めていた恋の対象を見つけただけではなく、ルーシュはルーシュなりに“変われる者”を見たお陰で変わろうとしているだろう。
――そういった意味では、クロ男爵に感謝しないと駄目ですね。
姉としては弟達の良き変化に関われなかったのは複雑であるが、ルーシュの恋の対象であるロボも、スカーレットが恋の対象だと思っているエメラルドも、シキという地で出会ったお陰で弟達は救われたように思える。
ロボはクロに認められたお陰でシキに居ると言っていた。エメラルドも毒物を扱うのを進めてくれたのはクロのお陰であると言っていた。
ある意味弟達が惚れた彼女らしさというのは、クロのお陰であるだろう。
――ですが、気をつけてくださいね、クロ男爵。
私はこの一日程度の滞在の間に、警告をした。
気をつけるべきだと。油断をするべきでは無いと。
だが私は警告しか出来ない。
何故ならば、この先どの様な事が起きるかは私も分からない。
それに彼が何者かは分からないというのもある。
ただの領主として優秀なだけなのか、善良なだけの貴族なのか。
――あるいは……彼も転生者というやつなのでしょうか、ね。
いずれにしろ、私は警告をするだけだ。
善良な存在だと信じて、事の顛末を見届けなければならない。
第一王女の私ができるのは、それ位である。
――まぁ、それはそれとして。
不確定の事柄はおいておくにしても、アレだけ仲が良い夫婦なのに本当に一線を越えていないとは。キスくらいは流石にしているだろうけれど……していますよね? そうですよね?
……と、ともかく。そういった面の進み具合の心配は余計なお世話だろうが、少しくらいは進めても良いのではないかと、心の中で思っていた。
――もしかしたら、今頃ヴァイオレットの誕生日の席で……
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