追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

空は見たら確実に思っている(:菫)


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『今回の件に関してはこれで以上になりますので。ありがとうございました』
『ローズ殿下もお疲れさまでした』

 ローズ殿下達とは含みのある会話の後、数回言葉を交わして定型と言える別れの挨拶をして別れた。
 この後はルーシュ殿下達と兄弟水入らずで仲良く話し(ローズ殿下談)、昼食を食べてからバーガンティー殿下とスカイ、護衛の者と共にシキを去るそうだ。ルーシュ殿下とスカーレット殿下は一緒に帰らず、少なくとも数日中には首都の方に一度帰るらしい。その件についてルーシュ殿下達に聞くと、

『帰らないと……後が怖い』

 との事だ。余程ローズ殿下が怖いと見える。
 しかしながら一度は帰るが、再び戻って来てロボやエメラルドに会いに来るとは仰っていた。その事をクロ殿が聞くと少し頭が痛そうな表情をしながらも、応援するとは言っていた。色々と気を使う必要があるものの、応援しようとしているのも確かなのだろう。クロ殿は身分関係なく、無理矢理でないならばそういった面では応援する方だ。

「では、またいずれ」

 そして昼食も食べ終え、グレイとアプリコットが帰って来た時用の食事の準備をしながらも、合間に抜け出してローズ殿下がシキを去る馬車が出る時を見計らって見送りの挨拶に来ていた。
 護衛の者も多く居るため、取り囲んで一緒に移動する用に複数の馬もいる。その中でスカイだけは殿下達同じ馬車に乗って護衛をしている辺り、余程信頼されているようだ。

「イオちゃん」
「その呼び方、無理していないか?」
「いいえ、特には。色々と大変だとは思いますが、頑張ってくださいね」
「……そちらもな。シニストラ家が大変だとは聞いたが」
「ええ。ですがローズ殿下に取り計らって貰っていますから」
「そうか。なら良いのだが……それとスカイ。そういった方面に興味があるのは分かるが、あまり大声でエ……好色な事は言わない方が良いと思うぞ」
「いえ、あの時は正直私も動揺していたと言いますか……ですが本音でもありますから」
「本音なのか……」

 あまりそういった方面は得意でないと思っていたが、意外にも好きなのか。
 そういえばクリームヒルトがスカイの幼馴染であるシャトルーズの事を「シャル君はムッツリさんだよ!」と言っていたので、意外とその辺りが互いに影響し合っているのかもしれないな。

「……では、また。今度会う時はゆっくり話したいですね」
「ああ、また。お互いに立場など関係なく話してみようか。その時は手料理でも振舞おう」
「楽しみにしていますよ」

 スカイと特にいがみ合う事無く別れの挨拶を交わす。
 こうしてみるとスカイと学園時代にいがみ合っていたのは、私に余裕が無かったのだろうと実感する。
 偶にクロ殿に関しては、油断をしてはならないと思う時もあるが……

「あ、クロ卿! 別れる前に一勝負いたしませんか! 武器を使わずで素手で、防具も無しで! 東の国にあるというジュードーという組合を!」
「お前は私の夫となにをするつもりだ!」
「冗談ですよ。時間もありませんし」
「時間があればするという事ではないか?」
「…………では、またね、イオちゃん!」
「あ、待て! 最後だけ仲の良い友達風に言ってもその間は誤魔化されないからな!」
「あはは、なんのことだか分からないよイオちゃん! ほら、笑顔でいる事はとても良い事なのですよ! 怒るより笑いましょうよ!」
「クリームヒルトの真似をするな! それにお前も笑ってないだろう!」

 ……いや、やはり相容れないかもしれない。
 何処までか冗談か分からないスカイを追いかけながら、私はスカイと学園に居た頃よりも長い話を続けていた。



「……? 今の言葉って……」







 ローズ殿下達やスカイ達との別れに妙に気疲れはしたが、特に事件などはなく見送りは終了し、私はクロ殿と一旦別れて領主の仕事をしていた。
 クロ殿は今頃屋敷内にてグレイ達の食事の準備と領主の仕事をしているだろう。

「ヴァイオレット様ー!」

 そして外で色々な仕事をし、後は教会での仕事だけとなった時に、丁度グレイ達が帰って来る人馬族ケンタロウスが付く時間になったので

「グレイ、久々だな。首都では大丈夫だったか、変な者に見られなかったか、学園長に妙な接触は受けなかったか?」
「は、はい。大丈夫ですが……アプリコット様もそうなのですが、ヴァイオレット様も何故学園長に対する心配を……? 所感では素晴らしい御方かと感じたのですが……」
「私も思う。思っていたのだが……それ以上に心配な事も世の中にはあるという事なんだ……」
「は、はぁ、そうですか……? あと久々と仰るほど間も開いていないかと思えるのですが」

 いや、なんとなくだが一ヶ月近く会っていないような気がする。それほどまでに心配であったし、居ない間に起こった事を思い返すと頬に熱を感じたりするのでそれほどまでに濃密であったのだろう。というか気苦労が多かった気もする。殿下が四名滞在した挙句に

「ですが、私めもお会いできて嬉しいです! 色々と話したい事があるのです。試験や首都でのライトアップをクリームヒルトちゃん達と見た事など! それと、アプリコット様の試験での勇姿など! 話したいことが多くて多くて……!」

 ああ、私の息子はやはり愛おしい。血の繋がりなど些細な事だという事がこの笑顔を見るとひしひしと感じる。

「弟子よ。語りたいのは分かるが、まずは着替えるのと身を綺麗にしなければならない。清潔無くして」
「あ、そうですね……お気遣いありがとうございます、アプリコット様」

 相変わらず細かい所では気の利いているアプリコットである。
 確か……メアリー曰くジョシリョク、だったか。アプリコットはそのジョシリョクが高いらしい。クロ殿が妙に納得していたのも覚えているので、アプリコットはジョシリョクが相当高いのだろう。
 料理が上手くて、清潔に気を使い、子供達とは進んで遊んで、病気や怪我が起きないように気をはらい、怪我をしても大丈夫なように絆創膏など簡易治療道具は服の内側に仕舞っていて、裁縫も過去にクロ殿に教えて貰ったらしく大抵は直したりできる。
 ……ジョシリョクとやらは分からないが、何故か私も高いと思えるな。

「む? ヴァイオレットさん。何故我をそのような目で見るのだ」
「……いや、なんでも無い。グレイも将来は幸せだな、と思っただけだ」
「何故その思考を我を見ながら思うのだ……?」

 それは将来の義娘候補だからな。
 ある意味今でも娘ではあるが、早くグレイと結ばれれば良いのにとも思う。見ているとじれったい部分があるからな、この息子達は。……む、何故だろう。居ないはずのスカイが「貴女が言いますか」的な事を言った気がする。……疲れているのだろうか。

「ところで、クロさんは?」
「クロ殿ならば屋敷にて仕事中だ。もしくは今夜の食事の準備中だな。恐らくグレイ達用にお風呂の準備はしてあるだろうから、アプリコットも屋敷で入ってくると良い」
「そうか。お言葉コトノハに甘えるとしよう」
「それと現在エメラルドがスカーレット殿下に抱き着かれて身動きが取れなくなっている。出来たらで良いから救ってやってくれ」
「そっちはよく分からないが了解した」

 アプリコットが周囲を見てクロ殿所在を聞く。なにか用事があるかのような表情であったので、聞くかなにかモノを渡したいのかもしれない。……スカイと違って、アプリコットだとクロ殿になにかしようとかではないので安心出来るな。

「……あの事は明日聞くか。今日はアレもある事であるからな……いや、最中に聞いても構わないだろうか……?」

 今アプリコットが小さくなにか呟いた気もするが……気のせいだろうか。いつもとは違う真剣そうな表情であったような……

「そうです、アプリコット様。屋敷に一緒に参られるのならば私めがお背中御流し致します! 一緒に入りましょう!」
「い、いや!? それには及ばんぞ、弟子よ!」
「え……駄目、ですか……?」
「うぐ、そんなあざとらしい仕草を……我は……そう、試験にて己がカルマと向き合ったため、今日の禊は我のみで行わなければならないのだ!」
「な、なんですって!? それならば仕方ありません……! ですが、私めに手伝えることは無いでしょうか。扉の前で控えていましょうか!」
「だ、大丈夫であるぞ弟子よ。弟子は先に禊を行った後、クロさんと共にいれば良い。それだけで良いのだ、分かったな?」
「はい、了解いたしました!」

 ……気のせいであったようだ。いつもの……最近のいつもの両者の会話にすぎず、見ているこっちがもどかしくなる様な会話である。今までの様に一緒にお風呂に入れなくなるなど、初々しくて微笑ましくもなるな。
 ……む、何故だろう。やはりスカイ辺りに「うわー」的な視線を受けそうな感覚は。……今日は早めに仕事を終わらして、グレイ達とゆっくり食事にした方が良いのかもしれない。

「ああ、それとヴァイオレットさん」
「む、どうした?」

 そして一言二言交わした後、グレイ達と一旦別れる間際にアプリコットが私を呼び止められた。

「今から教会で仕事だろうか?」
「そうだな。教会での仕事が終われば今日の仕事は終わりだ」
「そうか。……では、また後でな、ヴァイオレットさん」
「ふむ? ああ、また後で」

 アプリコットはそう言うと、グレイと共に屋敷の方へと歩いて行った。
 ……なんだったのだろうか? そう思いながらも、私は教会へと足を運ぶのであった。

――そういえば、行く時より荷物が多かったな。

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