追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

やはり相容れない(:菫)


View.ヴァイオレット


「話を整理しましょう」

 お互いに混乱している中、スカイは顎に手を当て考える仕草を取りながら、自分にも言い聞かせるように言いだした。
 作戦前ではあるが、時間はまだある上に私自身も整理したかったので丁度良い。

「グレイというのは、クロ卿の養子で、今は居ないと仰っていた唯一の従者でもあると」
「そうだ。クロ殿は親御と折り合いが悪く、従者という事で引き取っカモフラージュした後、息子としている」
「……だから息子と分かっていたんですね。申し訳ありません、勘違いしていたようです。話が通じなかったのも納得です」
「いや、それは構わないのだが……だが何故私のお腹に耳を当てたのだ?」
「グレイ君の生命を感じようかと……もとい、生命を感じようかと。お腹に耳を当てると聞こえる、というのを聞いたので」
「生命……そういえば鼓動や心音を感じると言っていたが。何故お腹なのだ?」
「目立たないとは言え命が宿っていますからね。経験が無いので、身近に感じたかったのですよ」
「命が宿る……ああ、クロ殿が言っていた丹田に気が宿る、というやつか?」
「それはよく分かりませんが、貴女の鼓動ではないですよ?」
「? では誰だ。私のお腹に耳を当てても私の音しか聞こえないと思うが?」
「……んん?」
「……?」

 まただ。なにかが噛み合っていない……というより、根本的な認識に相違がある。
 そう思っていると、スカイは今度は眉間に手を当てて深く考えた後、なにかに思い当たったかのような仕草を取り、その後首を横に振り、自身の考えを否定するかのように思い悩んでいる。
 だが一応確認しておこうかと言うような複雑な表情をした後、私の方へ向き直った。

「貴女とクロ卿は婚姻を結んで半年ですね」
「? 今は二月フェブルウスだからそうなるな。もうすぐ七ヶ月だな」
「仮面夫婦のようには思えませんし、貴女はクロ卿と仲良く見えます」
「そうか?」
「一々照れないでください手甲で叩きますよ」
「えっ」

 え、今スカイはなんと……? いや聞き間違いだろう。なんだか手刀をするようなポーズをしているが聞き間違えだ。

「……学園祭の時は実家の方に戻っていて居なかったので、貴女達を見ていなかったのですが……実は仲良くなったのは最近でという事は無いでしょうか」
「初め一ヵ月は互いに距離を置いていたが……この婚約指輪を貰った時以降は仲良くしてきたと思うが」
「そうですか。ではやはりクロお……クロ卿と――うっ、なんでしょう、元同級生のそういう所を想像するのって意外としたくないものですね……」
「なにを言っているんだ?」
「いえ、ですから。貴女の身体は貴女だけのものじゃないんですよね?」

 クロオクロ卿……そういう所……私の身体は私だけのものじゃない。私の身体はクロ殿とグレイとのそれぞれの共有の家族ざいざんという意味……ではないな。
 お腹。生命。宿る。耳を当て心音を……そういえばシキに来てから話だけだが聞いた事があるような。確かお腹にいる時に音が聞こえたり蹴ったりすると、ブルーさんの所でもお腹にお子さんが宿っている時……に……。

「……スカイ。残念ながら、私の身体は今の所私だけのものなんだ。生憎と私のお腹には生命が宿っている……ということは無い。確実にな」
「え……? 確実に?」
「ああ、確実に」
「……失礼な話ですが、子ができな、」
「違う」
「……確実に、ということはもしかしてですが……初夜も?」
「……最初は自暴自棄であったのを見抜かれて、断られた。それ以降は……タイミングが無くて……」
「…………」
「…………」

 私が言うと、スカイは気まずそうに目を逸らす。
 私が身重だと思ったから心配していたのか。確かにそれなら心配するのも無理はない。
 あとスカイが違う方面に勘違いしていたが……いや、違わないかもしれないが出来れば無いと信じたい。

「なんでエロいことしないんですか!」
「!?」

 スカイの事なので気まずくなり別の話をすると思っていたら、何故か目を見開いて私に詰め寄って来た。
 おかしい、彼女は本当に私の知っているスカイ・シニストラなんだろうか。
 私の知っている彼女は――

「仲が良いんでしょう、夫婦なんでしょう、据え膳のエロいことし放題じゃ無いですか!」
「ス、スカイ?」

 ……こんな事を言う女性じゃ無いと思っていたんだが。

「ハッ――まさかクロさんは……女性に興味が――」
「違う」
「……貴女が女性にしか興味がなくて受け入れられない……? あるいはヴァーミリオン殿下にまだ未練が……」
「クロ殿ラブだ。それと受け入れる準備は……ある」
「ではクロさんはの――」
「それ以上クロ殿の名誉を棄損するつもりなら私も黙ってはいないぞ!」

 私に関して言われるのは構わないが、クロ殿の男性的なモノに関して言われるのならば黙りはしない。クロ殿は……多分大丈夫なはずだ!

「だったらなんでしないんですか!」
「お前にそこまで言われる筋合いはない!」
「言わせてくださいよ、私の羨望の相手が近くにいて幸せな空間を享受できるのに初夜すらまだとかふざけているんですか!」
「なんの話だ!?」
「じゃあなんでクロさんは私を……はっ、やはり今からでも私のを捧げれば……!」
「よく分からないが、お前とは相容れないという事は分かった!」
「私達は仲良いでしょイオちゃん!」
「そうだな! 仲が良すぎてこうしてルーシュ殿下達を打倒する仲間となったからな! だがそれとこれとは別だ!」
「ですね!」

 言い争いの中で一応作戦の為のルーシュ殿下達を打倒するという設定を忘れそうになったが、スカイに言われてどうにか持ち直す。
 それはともかくとしてスカイとはやはり決定的に合わないと分かった。誰かが学園で私の知らない言葉で『「悪役」』で『「敵役」』なので『「相容れない」』だとか言っていたような気がするが、その言語が何故か今だと当てはまる気がした。

「おー、何処に居るのかと思えばここに居たのか。綺麗処だからすぐに見つかると思ったんだが……」

 私達が言い争っていると、誰かが近付いてくる気配があるが今はそれ所じゃない。

「おう、シニストラの嬢ちゃん。まさか領主の方だけではなくバレンタイン家の問題令嬢まで抱き込むとはな。これなら予定より動きやすく――」
「黙っていてください今大事な話の最中です!」
「そうだ! 今は重要な話中だ!」
「おおう!? ……いや、落ち着けお嬢ちゃん達。それは我らが王国の為より重要なのか? 違うだろう? だからまずは落ち着いて――」
「貴様、私の夫より国が重要だと言うのか!? 戯言を抜かすのも大概にしろ!」
「そうです、クロお兄ちゃんが重要じゃ無いなんて巫山戯るのも大概にして下さい!」
「お前はいつ妹になった! 私の大事な夫になにをさせる気だ!」
「うっさいですよ、結婚して仲が良くて羨ましいのに半年も経って乙女ぶるなんておかしいでしょうが!」
「ぶるじゃなくって私はまだ乙女だ! ……なにを言わせる!」
「自分で言ったんでしょうが!」
「……あのー」
「黙っていろ!!」
「黙っていてください!!」
「なにこの嬢ちゃん達、怖い。話聞かない。最近の若い子怖い」

 なんだか今回の重要な相手がそこに居るような気がするが、クロ殿よりは重要じゃ無いので別に良いだろう。今はスカイに対して説明とクロ殿の名誉を守る事の方が大切だ!







「――っ!?」
「……クロ男爵、どうされたのです?」
「いえ、なんだか寒気がしまして……」
「風邪なら生姜湯と喉に良い飴がありますが。あと東の国で食べられているという梅を干して塩に付けたモノも」
「え、ありがとうございます。ですが梅干しは苦手なので……ではなく、風邪では無いと思うので大丈夫だと思います」
「ではどうされたのです?」
「……自分でもよく分かりません」
「……大丈夫?」
「大丈夫です。俺は明日を皆と迎えたいので、頑張りますよ」
「明日? ……ああ、そうですね」

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