追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
すれ違いを無くすために(:灰)
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クロ様が先日あった飛翔小竜種に関しての裏を知っている……?
言葉を文面通りに受けとるならばそれは……
「カラスバさん。それはクロさんがあの被害を出した、と言いたいのだろうか。あるいは我達に話すと混乱を招くため秘密にしている裏事情がある、と言いたいのだろうか」
そう、今アプリコット様が問い返したどちらかの意味になる。
仮に前者であればご兄弟でありブラザーコンプレックスとはいえ、カラスバ様達を警戒しなければならない相手として見なければならない。
「後者だとは思う。だが、場合によっては注意してくれ。クロ兄様はなにを隠しているかは分からない」
「つまり前者の可能性もある、と? それは――」
「俺達も疑いたい訳では無いよ。ただ心配なんだ。昔から……」
「……昔から私達とも遊んでくれた、優しいお兄様だから。私の料理趣味も否定せず、優しく頭を撫でてくれるようなお兄様なの。だけど……」
カラスバ様達は視線を逸らし、伏し目になると昔のある場面を思い出すかのような表情になり、少し暗い表情のまま言葉を続ける。
「クロ兄様は勝手に抱え込むことがあるから。何処かで違うなにかを見ている時があるから、心配なんだよ」
「……昔血塗れでお父様に詰め寄った時以降、あまり話せずにいる弱い私達が言う資格はないのかもしれないけど、ね」
警戒しなければならない……のだけど。
カラスバ様達の表情はクロ様がなにかを抱えている事を不安がるようなものであり。血の繋がった兄を心配するだけの表情に見えた。
「第二王子の件の時、俺達はなにも出来なかった。ただ狼狽えるばかりでなにも出来ずにいて、庇う事さえできなかった」
「……それにあの時のクロ兄様は、私達の知っているクロ兄様とは、違う存在に思えて……」
兄を信じたいけれど、心配でもあるけれど。
同じ程度には不安になる事があって、それを伝えたいかと言うような事を彼らの表情が物語っていた。
確かにクロ様はどこか違うモノを見ながら言う時もある。カラスバ様達の言葉で思い出したが、クロ様が数回程度だが未だに聞いた事が無い言語を話されていたのも覚えている。
そうだ。あれは確かメアリー様との手紙の時も――
「ご忠告、痛み入る」
私がどう声をかけるべきかと悩んでいると、アプリコット様は机に立てかけておいた杖と杖の頭にかけておいた帽子を取り、立ち上がる。
「クロさんは変わっている。貴族であるのに奴隷であった弟子や我を引き取って家名まで与えてくれた。家族の……貴方達のご両親の反発を押しのけても、だ」
アプリコット様は昔を思い出すかのように、いつものような凛々しいものではなく、偶に私に見せる優しい微笑みを浮かべる。
過去の事を思い出し、今がある事に喜びと感謝を抱いているかのようだ。
「当然だが良い所があって、恩があれば悪い所が消される訳でも無い。だから貴方達がクロさんを疑わなければならないように、我も疑おう。我はシキに戻り次第クロさんに聞いてみるよ。貴方達の事は伏せて、な」
「いや、あまり聞かない方が良い。心に留めておいた方が良いだろう」
当然だが恩があればすべてが許される訳でも無く、今を全て肯定する訳でも無い。
だからこそアプリコット様はクロ様を疑うと言う。カラスバ様達はその言葉に真意が分からず否定するが……
「良いのかもしれないな。だが、我は……我達は、クロさんの傍に居て、忌憚なく話す事が出来る。ならば聞いてみる。疑って、聞いて、懐疑が晴れる事を願ってな」
「……アプリコットちゃんは、大丈夫なの? 不安にならない?」
「不安である。クロさんがなにかを抱えているかもしれないという事も、話してくれないのかもしれないという事もな。聞く事でクロさんにとっての重荷になるかもしれない」
だけど、と。アプリコット様はカラスバ様達を見て、安心して欲しいと言うような、年齢よりも大人びた優しい表情になる。
……機微に疎い私でも今のアプリコット様が言いたい事は分かる。つまり――
「だが、我はこの疑いが知らぬ間に膨れ上がる方が怖い。……会話を無くし、勘違いですれ違うのは悲しいからな。もし聞いた上で内緒にされるのならば、それが答えだと受け入れよう」
クロ様を信用も信頼もしている。だからこそ、まずは話し合いたいのだとアプリコット様は告げた。
……アプリコット様はこういった場面でも自分を通す強さがある。感情に疎く、今この場で上手く話せずにいる私とは違う輝きを持っている。
だからこそ私はこの方を――――この方を……?
「すまないが、試験の時間が迫っている。もっとお話をしたいのだが……」
「……いや、構わないよ。こちらこそ時間を取らせて悪かった」
あれ、今私はアプリコット様をどう思おうとしたのだろう。
尊敬もあるが、別のなにかを今感じたような。
「うーん、やはりここ四年近く会っていないから色々と不安になっていたのだが……こうして最近のクロ兄様を見ている子達には勝てない、という事だろうか」
「勝ち負けなのだろうか、これは。……不安と言うと、やはり噂だろうか。変態変質者的な」
「……それもあるけど。クロ兄様、奇妙な言語とは別に奇妙な行動もとるから。確かカナリア……昔の従者が言っていたのだけど、奇妙な絵を書いていたから」
「奇妙な絵?」
「……うん。角ばっていて、文字のように羅列された絵が横並びになっているヤツ。あれで昔の従者がクロ兄様を精神的に心配していたらしいから。もしかしたら精神的になにか……とも思って」
「ふむ、それは気にな――おっと、本当に行かねば遅刻してしまう」
「おう、話に付き合ってくれたお礼に食器は片付けておくよ」
「感謝する。弟子、行くぞ? ……弟子?」
尊敬でもないこの感情はなんだろうか。
先程の不整脈のような心臓の高鳴りは無いけれど、根本が似ている感情は一体……?
「弟子、どうしたのだ?」
「あ、はい。申し訳ありません。行きましょうか」
この感情についてはよく分からないが、今は試験が優先事項だ。
後で感情については今の状況と行動を思い返してゆっくりと馬車の時間にでも考えよう。試験が終わった後も首都に繰り出して、これからのために買い物をしなくてはならないし、今日はまだまだ長い。答えが出ない曖昧な事は、後に回すとしよう。
私はそう心に決めると、カラスバ様達に礼をして、帽子を被ったアプリコット様の後に続いたのであった。
◆
「ところで、うちの姪は甥を何故弟子と呼ぶんだろうか」
「……プレイ?」
「違う事を祈ろう」
「……けど、良い子達で良かった。先輩として色々教えなくちゃ」
「俺はもう卒業だから、教えられないな……けど、すぐに会えるか」
「……そうだね。私達もメンバーだから、ね」
「無事に終われば良いんだけどな……」
備考:良い話風ですが、今回の話を要約すると「あらぬ疑いを晴らすために、クロに過去の中二病発言の日本語を口で解説させる!」になります。
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