追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
自己紹介
「さぁ、今日はお集り頂きありがとう。本来なら私が持て成さなければならない事ではあるけれど、出迎えて貰う立場になって貰い申し訳ない」
シキのとある一室。
先程までの薄暗い場所ではなく、俺達は灯も点けて一つの長机を挟み男女で向かい合っていた。
そんな一室で、スカーレット殿下がいつもとは違う口調でパーティー会場で振舞うかのような仕草で俺達に感謝の言葉を述べる。
「だが、領主であるクロ君がこうして場を設けてくれ、キミ達がこうして応えてくれた事に感謝するよ」
作られた笑顔。作られた仕草。
今まで見て来た冒険者や戦闘時のスカーレット殿下とも違い、あくまでも場に相応しいように振舞っている。だが、同時に何処か楽しそうにしているようにも見えた。今までの経験に無かった事に燥いでいるのかもしれない。
しかし……
「では、まず自己紹介からかな。お互いを知るには重要な事だ」
しかし、だ。
まずは「何故?」という疑問を浮かべねばならない。
本来ここにはスカーレット殿下が男性と深く話し合いたい、という目的を持って集められた者しか居ないはずだ。
スカーレット殿下を除けば、二十代、未婚、男性。それらを満たし、かつ俺から見て才覚が優れている、集めやすい男性陣を集めた。
俺は本来であれば、男性陣を集め場を作ったらこの場を去って、今日の昼過ぎに学園へ試験を受けるために首都に出るグレイ達の見送りの準備をするはずであったのに。
なのに……
「では始めようか――男女の仲を深める集いを!」
なのに、何故俺とヴァイオレットさんまで参加しているのだろう。
◆
「あの、ヴァイオレットさん。何故俺達やカナリアとインディゴさんまでいるんです? ていうかインディゴさんに至っては何故彼女がシキに?」
俺は向かいの席に座っているヴァイオレットさんに、こっそりと尋ねた。
男性陣をどうにか説得し、スカーレット殿下の話し合いの場を作ってくれたまでは良かった。その後準備をし、ヴァイオレットさんがスカーレット殿下を連れて来たと思ったら、何故か後ろにカナリアと首都にてシスターをやっているはずのシアンの先輩であるインディゴさんが居たのだ。
よく分からないまま何故か俺とヴァイオレットさんも参加する事となり、こうして座っている。
そしてこちらに注目が集まっていない内に俺が疑問を抱き、尋ねてみると……
「なんでも“話し合うなら男女で色々な組み合わせがを見るべきだ”との事だ。インディゴはシキに報告兼遊びに来た所を捕まった。男性を紹介すると伝えたら意気揚々と着いて来た」
「それに彼女は逆らえないでしょうからね……カナリアは?」
「お昼を奢るといったら着いて来た」
「…………」
カナリア、大丈夫だろうか。
知らない相手に連れて行かれる……なんて事はないよな? ヴァイオレットさんがいたから着いて来たんだよな?
「ふ、まずは私から自己紹介をしよう。名はスカーレット・ランドルフ。この王国の第二王女にして二十二歳。気軽にスカーレットと呼びなさい」
というかこれって前世でいうところの合コン的なものなんじゃ……
王族が合コンっておかしな話でもあるが……そういえば昔スカーレット殿下に合コン的な話をした気がする。合コンという名称は言わずに、こんな事があるんですよー的な感じで。……もしかしてそれを覚えていたのだろうか。
「身長は174。体重は……五十五トン」
何処の化物だ。
「趣味は冒険と読書。好みのタイプはよく分からないけど、強い男性かな。じゃあ次行ってみよう、インディゴ!」
「え、私ですか!?」
スカーレット殿下の軽い自己紹介が終わり、インディゴさんが次の自己紹介に選ばれた。可哀そうだが、助け船も出せないし見守らせてもらおう。
そう思いつつ、女性陣の自己紹介を聞いて行く。
「イ、インディゴ・クラークです。普段は首都でシスターをやっています。二十歳で身長は150半ばで、体重は……計っていないので分からないです。趣味は読書です。ええと……好きな男性のタイプは静かな方……ですかね?」
「カナリア・ハートフィールド! 森妖精族! 身長160、体重五十六トン!」
「重さで張り合うなよ」
「年齢は覚えていないから代わりに言う事は……胸サイズはG!」
「四ランク以上サバ読むな」
「クロうるさい。趣味はキノコ! 好みのタイプはなんか美味しいご飯を食べさせてくれる男性! 以上!」
「え、私も……? コホン、ヴァイオレット・ハートフィールド。身長165、体重は……最近増えたから分からないが、最後に計ったのは四十キロ半ばだ」
「軽っ。え、ヴァイオレット大丈夫なの? その身長と胸でその体重って軽すぎない?」
「以前は一定以上の食事もままなりませんでしたからね。十五歳、趣味は最近は料理。好みの男性はクロ殿。以上」
女性陣はスカーレット殿下の紹介内容に沿った自己紹介をする。
……うん、それは良いけど、ヴァイオレットさんが好みの男性の所で俺を真っ直ぐ見て言うのは止めて欲しい。嬉しいけれど恥ずかしい。
ともかく、次は男性陣である。
「ククク……オーキッドだ。身長は5センチから190。大抵は170前後を保っている。体重は五グラムから百キロだ」
「保つ? え、5から190……?」
「年齢は二十四、趣味は黒魔術。好みの女性は強いて言うなら自由な子だね」
「……アイボリー・アレクサンダーと申します。170に六十キロ。二十三歳。趣味は怪我症状の研究。好きな女性は……強い意志を持っている女性です。特に幸運や不運を気にかけないような」
「…………」
「ロバーツ辺境伯家が次男、カーキー・ロバーツという名の男です。この度は貴女様方にお会いできたことを喜ばしく思います。身長は180、体重は七十二。年齢は二十五。趣味は他者との触れ合い。好みの女性は特にありません。女性であればそれは素晴らしき存在です」
カーキーが丁寧語で礼をしている、だと……!?
アイボリーの方は王族相手だから礼を尽くしているのは分かるが、カーキーがここまで丁寧なのは初めて見た。ヴァイオレットさんや他のシキの面子も驚いて見ている。
「貴方がロバーツ家の……話は聞いているよ」
「ハハッ、私の話となると、あまり良いものでは無いでしょう」
そういえば……カーキーはこの場に呼ぶつもりは無かったけれど、スカーレット殿下に言われて呼んだんだよな。「カーキーっていう男性も呼んで」って。
身分は確かだけど、女性に手を出しまくってシキに来たので、あまり良くないと思ってはいたのだが……そういえばカーキーはスカーレット殿下に対しては口説いたりしないな。普段であれば身分など気にせず声をかけるのに……昔なにかあったのだろうか?
「そりゃ、ね。と、最後はクロ君だね。どうぞ!」
しかしそんな思考も、スカーレット殿下の促しによって遮られる。
正直あまり気は進まないが、とりあえず言うだけ言っておこう。その後に隙を見て抜け出し、グレイ達の見送りに行かなくては。
「クロ・ハートフィールド。身分は男爵になります。身長170後半、体重は……何年も計っていないので分かりませんが七十は少なくともあるかと思います。趣味は裁縫、好みの女性はヴァ――」
「ヴァイオレットという名指しは無しで」
「……菫色の髪と蒼い眼が美しい、所作が綺麗で、笑顔が素敵で、こちらからの好きという言葉に照れてすぐ赤くなるような可愛らしい女性が、好みのタイプです」
俺が言うと、ヴァイオレットさんを除く全員がなんともいえない視線でこちらを見ていた。なんだよ、言いたいことがあるなら言えば良い。俺は真正面から答えてやるぞ。あと先程の仕返しでヴァイオレットさんを見ながら言ったのだが、今度はヴァイオレットさんが恥ずかしそうな表情になっていた。……うん、可愛い。
「ところでスカーレット殿下。私と妻はこの通り夫婦ですので、この場には相応しくないと思うのですが……」
「ああ、そうだね。それにグレイ君とアプリコットの見送りもあるだろうから、後は私達に任せて貰っても良いのだけど……」
「けど?」
「その前にやって貰いたい事があるんだよね」
やって貰いたい事? なんだろうか。
俺や周囲の疑問を余所に、スカーレット殿下は立って俺とヴァイオレットさんを真っ直ぐ見る。
「正直、私は男女の好き同士というものがよく分からないの」
「ですから知るためにこの場を設けたのですよね」
「そう。この場に居る皆は魅力的だと思うけど、より好き同士と言える仲なのはクロ君達なわけ。つまり……」
「つまり?」
「うん、男女のイチャイチャってよく分からないから、実演して欲しいなーって」
「この場で?」
「この場で」
『何故ですか!?』
俺とヴァイオレットさんは同時に突っ込んだ。なにを言っているんだこの方は。
つまり、その、俺とヴァイオレットさんがこの場でイチャイチャしろ……って事だよな。好きという感情が分からないからと言って、無茶ぶりが過ぎる。
「誰かの前でそういう事をするべきではないででしょう!」
「その通りだクロ殿! そういった事柄は秘して行うべきなのですよスカーレット殿下!」
『お前ら今更なにを言っているんだ』
くっ、インディゴさん以外の皆ハモって否定しなくて良いじゃないか。
確かに以前の飛翔小竜種騒動の後に見られている中にキスもしたけれども! あの後結局は見られている事に気付いて羞恥で顔を覆ったけれども!
それにこの場でいる中ではスカーレット殿下にしか見られていないはずだ!
「いや、お前らそれ以外にもイチャイチャしているからな。最近見たとかじゃないからな?」
えっ、マジですか?
備考
インディゴ
第144部:サラダバー! にてちょっと登場
藍髪藍目、二十歳の王国首都でのシアンの先輩シスター
人間関係がドロドロとした物語の本を読むのがが好きなお方。
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