追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

男衆だから話せる事


「さて、お前らに集まって貰ったのは他でもない」

 シキのとある場所にて。
 俺達は薄暗いとある一室に男共で集まっていた。ちなみに薄暗いのは雰囲気作りだけのためである。
 メンバーは黒魔術師のオーキッド。傷大好き医者のアイボリー。色情魔のカーキーである。……肩書だけ見ると犯罪者の集まりのようだな。俺も王族殴打領主だし。

「どうしたんだよクロ、急に集まるって言って――まさか美しき嫁さんとついに夜の交渉をするから俺に手解きを教えて欲しいと!? なら今すぐこの場で実践してやるぜハッハー!」
「違う。脱ごうとするな」

 色情魔が服を脱ごうとしたので言葉で制しておいた。というかこの場で実践とはなんだ。男しかいないこの場所でなにを実践するつもりなんだ。……いずれのために知識は教えて貰った方が良いかもしれないけど。

「とにかく、集まって貰ったのは最近のシキに滞在している……身分の高きさるお方達についてだ」

 ちょっとした雑念を払い、本題の一つに入ろうとその場に居る皆に告げる。
 俺が告げると面倒そうな表情であったアイボリーが少し意外そうかつ、やれやれとでも言いたげな表情になる。

「なんだ、お前の事だから嫁の惚気でも話すと思ったが。俺の嫁が世界で一番魅力的だ、とかな」
「世界一魅力的は当然の事ではあるが、語っても良いのか? 良いなら語るぞ」
「するな。本題に入れ」

 残念だ、語れないのか。
 語って良いなら熱弁していたのに……そちらの方が色々と現状の目的を達成できるし。

「ク、ククク……なんだ、男同士で猥談でもすると思ったのだが違うのか……折角ウツブシにも席を外して貰ったのだけどね……」
『え?』

 そしてその言葉に全員が虚を突かれて、全員がオーキッドの方を見た。え、今猥談言った? 色情魔のカーキーじゃなくって黒魔術師のオーキッドが? 冗談……なのだろうか。よく分からない黒いオーラの影響で表情が読めないので、本気か冗談かが分からない。割と明るい性格ではあるのだか……
 ちなみにウツブシとはオーキッドの愛猫の名前である。綺麗な黒いうつぶし色の毛並みでいつもオーキッドの傍に居る不思議な雌の猫である。

「え、猥談したいの? した方が良い? 俺がヴァイオレットさんの好きな体の部位とか話す? 正直俺の猥談はなんか違うって言われるから不安なんだけど……」
「やめろクロ。それと対象がお前の嫁限定になっているぞ」
「ハッハー! オーキッドがそんな風に話してくれるとは意外だ! いや、これは正に運命的会合の場となる、さぁ今まで抱いて来た男や女の話をしようではないか!」
「カーキーも乗るな。あと俺は童貞だから話せん。以上」
「じゃあ俺が抱けば語れるな、どうだ今夜!?」
「そうか、いいぞ。人体実験の被験者になりたいんだな。そのモノを切り落として治せるかという実験だが」
「やめてくださいお願いします」
「……ク、クク、すまない、悪ノリが過ぎたようだ」
「それとも仕草? 体格? あ、最近ヴァイオレットさんの体重が増えて来たんだよ。ゆっくりとだけど以前より健康的になってきたがするんだ。いや、猥談なら香りの話をした方が良いのか……? 香水に合う体臭の時間変化っていうものがあってだな。服を着るのに――」
「ククク……落ち着いてくれ」

 俺が色々と語ろうとしていると、途中でオーキッドが暗黒のモヤを出し始めて――あれ、俺達はなにを話そうとしていたんだっけ? なにかとても重要かつ真理的な事を話していた気がするが……うん、先程までの薄暗い部屋で、皆席についているな。特に変わりない部屋である。

「コホン、彼らについては俺の友を通して王族に連絡は行っている。が、いつ対応してもらえるかも分からないし、簡単なお願いだから対応をされるとも限らない」
「別に良いではないか。俺は王族の方々がここに居るのならば歓迎だ。いくらでも対応しよう」
「お前は本当に王族が好きだよな」

 俺としては王族とは相性が悪いから、微妙な気分なんだけど……そこは各々の感情だから仕方が無いか。

「王族が好きなのではない。俺が好きな相手に王族が多いだけだ。事実今の王妃と第二王子は好かん。特に敬意を表しているのは第一王女様と第三王女だ」
「敬意の方は知っていたが、お前嫌いって絶対それ公共の場とかで言うなよ」
「言うか。そのくらい弁えている」

 現王妃が嫌いとかよく言えたものだな。俺も第二王子アレは嫌いと公言しているから同等かもしれないが……そういえば俺は第一王女と第三王女はよく知らないな。特に第三王女。
 第一王女は婚姻の際に遠目から見た記憶はあるが、第三王女は第四王子と同い年であまり公共の場に出ない、という事くらいしか知らない。第四王子の方は……あの乙女ゲームカサスだと取り巻きによるシュバルツさんのヴァーミリオン殿下暗殺依頼関連で多少は知っているのだが。と、それは今あまり関係ないか。

「というかあの方々の今更なにが問題なんだ」
「アイボリー、クロはこう言いたいんだぞ。ロボの年齢が分かり、第一王子が未成年淫行に走るのではないかという不安があるんだろう! 運命の出会いを果たした彼を止められるモノは居ないのだからな!」
「お前は相変わらずそっちの方向に話題を――いや、今回に限ってはあり得るのか」

 ルーシュ殿下も弁えているだろうけど、変に噂が流れても困るのは確かである。
 “シキにて第一王子が未成年女性に淫行!?”とかゴシップも良い所だし、反第一王子派閥とかには格好の餌である。それに胃を痛めているのも確かではあるが。

「ルーシュ殿下のその件についても話したいのだが……実は今回の主な議題はスカーレット殿下の方なんだ」
「ククク……彼女がどうかしたのかい?」

 俺が神妙な表情になると、皆が俺の方に注目する。
 カーキーも俺が真剣だと気付いたのか、茶化す事無く俺の方を黙って見る。……本当に普段はアレだけど、コイツらは真面目な時は空気を読んでくれる。そこの所はありがたい。

「今回の件は本当に困っているんだ。ヴァイオレットさんには話辛いし、グレイに話しても本質を理解できない所か祝福しそうな気もする」
「話が見えないな。お前がそこまで悩むとは……」
「ああ。悩みはしても、俺達を集めるくらいだからな。余程な事なんだろう」
「ク、クク……話してごらん。僕達は素直に受け止め聞こうじゃないか」
「ありがとう。では言わせてもらう。実は彼女が、このままだと……」
『…………』

 俺は少し溜めて、今回の議題……というか、どうすべきか分からない事を告げようとする。
 ある意味ルーシュ殿下なみに心配な事。メアリーさんに送った手紙で早いことヴァーミリオン殿下が行動に移し、シキから回収してくれないかと思う事。
 そう、それは――

「……このままだと、スカーレット殿下がエメラルドを嫁にするかもしれないんだ」
『…………はい?』

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