追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

【7章:滞在】 始まりは収受報告(:偽)


View.メアリー


「メアリーさん。手紙ですよ、クロさんから」
「クロさんからですか?」

 日も高く昇った昼下がり。生徒会室にてシルバ君から手紙を受け取りました。

 聞くと、学園に届く手紙の仕分け等の配達仕分けアルバイトをしていると私宛の手紙があったそうです。
 私に手紙が来るのは珍しく、さらには差出者がクロさんからであったので、同じ生徒会のメンバーとしてシルバ君が届け来たようです。

「ありがとうございます。……しかし、なんでしょうかね?」

 私は感謝の言葉を言いつつ、手紙を受け取ります。
 内容は分かりませんが、わざわざ送って来るという事はそれなりに重要な事なのでしょう。私は後で読もうと、手紙をカバンに入れようとして――

『…………』
「……あの、そんなに見られても困るのですが」

 入れようとして、周囲からの視線の圧が凄い事に気付きました。
 この場には現在手紙を届けに来たシルバ君と、ヴァーミリオン君とシャル君が居ます。が、差し出したクロさんの名前を聞いた途端間違いなく視線が強くなりました。この視線は嫉妬です。もうひしひしと嫉妬を感じます。

「まさか……ついにメアリーおまえの素晴らしさに気付いた男爵が恋文を……!」
「シャル君、何故刀を構えようとするのです」
「落ち着け、シャル。こういう時こそ冷静に、冷静にだ。いざとなれば学園に休暇申請を届けよう。俺の権限で速攻で許可を得させる」
「休んでなにをする気ですかヴァーミリオン君」
「しめる」
「やめてください」

 カタカタと震えながら、両者は今にも飛び出してシキに向かいそうな勢いでした。本当に恋文であれば問答無用でクロさんの所へ問い詰めに行きそうな勢いです。あるいは王族権限を使ってクロさんを招集しそうです。

「もし本当に恋文だとしても、理由もなしにヴァイオレットを捨てて私に浮気をするようでしたら、そのような方はお断りですよ」

 私は宥めるために本音を入れつつ、手紙の封を切りました。持ち帰っても良いのですが、恋文などでは無いとこの場で証明した方が早いと思ったからです。
 中に入っていたのは便箋のみ。綺麗に纏まった字で、季節の挨拶の言葉から始まり、こちらの体調を心配するような言葉の後に要件が書かれていました。
 内容を要約すると……

「どうもクロさんの息子と娘……グレイ君とアプリコットが入学試験の為に首都に来るそうなので、よろしくお願いします、という内容ですね」
「そうか。……ん、あのアプリコットという女子も娘……なのか? 家名が無いというのは聞いてはいたが」
「はい、保護をしている、という感じらしいですが」
「そうなのか。……相変わらずあの男爵は変わった事をするな」

 私が内容を伝えると、ヴァーミリオン君が疑問を抱いたのでそれに答えます。
 手紙の内容はアッシュ君と学園長が推薦した、アプリコットとグレイ君の学園入学試験関連でした。そちらに行って迷惑がかかるかもしれないので、迷惑でなければ気にかけて欲しい丁寧に書かれています。

「そうか、私の好敵手ライバルであるアイツが学園に入学するのか……ふ、闘技場でのリベンジを果たしてやるぞ……!」
「相変わらずだね、シャルは。まぁ推薦だから入学が確実にできるだろうから、来年度はいくらでも再戦は出来るだろうけど」

 シルバ君が言うように、推薦ならば入学試験とはいえ、合否の判定ではなく、あくまでも手続きなどが主で入学後のクラス分けが主な内容になります。いわゆる実力によりクラス分け……という形でしょう。

「ところで何故メアリーお前に手紙を送ったのだろうか。親しいのならば、ネフライトなどでも良いだろうに……まぁネフライトの方にも送っているのかもしれないが……」
『……………』
「む、どうしたお前ら。急に黙って」

 つい言われたクリームヒルトの名前に、私達はふと黙ってしまいます。
 理由は先日見た……フェンリルの一件。笑顔のまま、私達といつも話しているかのように血に濡れていた彼女の事。あの後結局は気付かれる前にあの場から去り、次の日も出来うる限り平静を保って接して来ては居ましたが、今のように不意言われるとどうしてもあの時の光景が鮮明に思い出されます。
 ……あれは結局、なんであったのでしょうか。

「……ああ、そうだったな。ネフライトと呼んではいけないな、すまない」
「いえ、私達こそ申し訳ありません」

 私達の様子を見て、シャル君は別の方面に勘違いして謝罪をしてきました。
 謝らせる必要などなかったのに、変に気を使わせてしまいました。……理由を話しはしたいですが、変に話す訳にもいきません。心の中でシャル君に謝り、今は空気を切り替えるために別の話題を考える事にしました。

「……あれ、追伸が書かれていますね。えーと、ヴァーミリオン殿下にお伝えください……?」
「俺に?」

 なんの話題を振ろうかと考えていると、手紙の最後に追伸が書かれている事に気付きました。えーと……

「追伸。先日より我がシキにてルーシュ殿下とスカーレット殿下が滞在しています。出来れば引き取ってくれる算段をつけて下されば幸いです。……との事です」
「どういう意味だ」

 私が追伸を読みあげると、ヴァーミリオン君がなにを言っているのか分からないような表情になりました。私だって分かりません。
 私は実際に書かれている事を示すために、ヴァーミリオン君の所へと行き手紙を渡します。

「……成程。確かに兄さんと姉さんが父上と義母に止められたにも関わらず、冒険者稼業に出たとは聞いていたが……恐らくシキに滞在しているのだろう。特に姉さんはシキは気に入りそうだからな……」

 ざっと手紙を見ると、ヴァーミリオン君は頭に手を置いて予想を立てていました。
 ルーシュ殿下とスカーレット殿下……カサスだといわゆる設定だけのキャラで、今世の前情報と同じで冒険者稼業をしている、という事くらいしか知りません。ヴァーミリオン君の反応からして、スカーレット殿下はお転婆な方なのでしょうか?

「む、メアリー。便箋は二枚あるようだが」
「あれ、気付きませんでした」

 ヴァーミリオン君が手紙を読んでいると、便箋が二枚ある事に気付きます。
 入れる際に少し張り付いていたのでしょうか?
 私はそう思いつつ、ヴァーミリオン君が持っている手紙を見るために近付きます。

「……む」
「どうしました?」
「いや、なんでもない」

 近付くとヴァーミリオン君が少し妙な……顔が赤いような反応をしましたが、なんでも無いというのでそのままヴァーミリオン君が持っている手紙の一枚目を取り、二枚目の手紙を一緒に読む形になります。

「どれ、私も見よう」
「そうだね、僕も一緒に見よう」
「……ちっ」
「舌打ちしたな、ヴァーミリオン」
「気のせいだシャル」

 そうすると何故か素早くシルバ君とシャル君が私達の両隣に挟む形で寄ってきました。
 ……クロさんの手紙がそんなに気になるのでしょうか。
 私も見ていない二枚目は、恐らく皆で見ても構わないでしょうから、別に読んでも良いでしょうが。恐らく二枚目に書かれているのは、ルーシュ殿下やスカーレット殿下の状況について書かれているものだと――

「……なにこれ? 絵かな……いや、字?」
「どうだな、東にある国の文字と所々が似た特徴はあるな」
「魔力を感じないから、魔法が仕込まれている可能性はなさそうだが……」
「――――」

 二枚目に書かれていた手紙は、私が良く知っていて、懐かしい文字で書かれていました。
 少なくとも私が自分で書いた以外では、一度も見ていない文字……そう、日本語です。
 私と同じ日本に住んでいたので、クロさんが日本語を使うのは不思議ではありません。
 クロさんなりにお茶目っ気を出して、私に懐かしさを覚えさせるために書いたかもしれません。

『この手紙は、読み次第誰にも見られないように廃棄してください』

 ですが、最初に飛び込んで来た文字が、嫌でも真剣である事を示していました。
 不思議に思い魔法の残滓を目で簡単に調べると、文字とは違う場所に検閲を通る程度の少ない魔力の残滓が見受けられました。恐らく“一枚目を読んだら二枚目の便箋がはがれる”程度の魔法なのでしょう。実際は別の魔法なのでしょうが。
 そしてそんな魔法を仕込んでいる事と、その後に続く言葉も、軽く見ただけでも見られたくないのだと分かる内容だとアタリを付けます。

――ですがごめんなさい、クロさん。

「メアリー、どうした?」
「この文字? を読めるの?」
「体調が優れないのならば――いや、本当になにかしらの魔法が仕込まれて……!?」
「……いえ、大丈夫ですよ。ちょっと驚いただけです」

 いきなりお願いを守れそうにないです。

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