追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

三百話記念:あるいはこんな性別のヘンテコ衝動


※このお話は三百話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。



















「胸が、膨らんでいる……!?」

 目を覚ますと性別が女性になっていた。
 声はなんか高いし、喉仏も無い。胸は膨らんでいるし、腕とかが女性特有感がある。
 なのでこれは夢だと確信した。というか夢であって欲しい。魔法とかある世界なので、性別変更魔法とか薬とかあっても不思議ではないため夢でないと困る。先程目を覚ました気もするが、夢であってくれ……!

「ともかく、女性になったのならばやる事は一つだ」

 これは夢だと自身に言い聞かせ、夢だと確信すいいきかせると俺は切り替える。
 今までに見た夢と似た感じだと、感覚もあるし新しい発想も練ることが出来ていた。ならば今の俺は女性の身体を堪能すべきなんだ。

――そう。男には無い、胸部の膨らみだ。

 服の上からなので良くは分からないが、サイズはヴァイオレットさん並だろうか。これはもう堪能するしかない。ていうか俺の着ている寝間着可愛いなオイ。
 胸を見て、触って、揉んで、弄る。
 俺だって男であり、興味が無い訳では無いんだ。目の前……というか、身体に自由にできる膨らみがあるならば色々堪能するのがサガというものだ!

「……ふむ、なるほど……妙な感触で引っ張られるな……このサイズだと重さがこの程度で、動くと……ふむ、下着無しだと波うって遠心力があるな……服の着脱では足元が……屈むと距離が……」

 俺は膨らんだ胸を触って、動かして、服を着脱した。
 理由は分からないが、せっかく女性の身体になったのだ。男性では疑似体験は出来てもどうしても理解できない感覚を味わえるのならば、存分に味わって服を作る時の参考にすべきだ。女性の感覚を少しでも理解すれば服を作成する時にワンポイントで補助が出来るかもしれないからな!

「……なにをなさっているので?」

 俺が色々とやっていると、部屋に知らない少女の声が聞こえて来た。
 声のした方を向くと、そこには灰色の髪を肩まで程度に伸ばした見た事の無い、給仕服を身に纏った少女が居た。中性よりであるが、俺の知っているあの子よりはどこか柔らかさのあるラインを持つ少女。彼女は……

「……グレイか?」
「はい、そうですが。何故疑問形なのでしょうクロ様?」

 やはりグレイであった。普段着ている執事っぽい服装でなく、メイドさんが着そうなタイプの給仕服を身に纏っている。身長や体格はあまり変わらないが……美少年は性別変わっても美少女だな。学園に入学したら数多の生徒に告白されそうだ。なんか「告白すれば純朴な恋愛を展開出来るのでは!?」と思えるような清楚さがある。

「ところでどうしたんだ?」
「朝食の時間ですが、中々起きて来られないので。ヴァイオレット様……父上が心配なされていましたので、私めが呼びに」
「ああ、了解」

 そういえば色々と弄っていて時間の概念を忘れていた。夢なのにそこの所リアルだなーHAHAHA。
 ともかく、俺は服を入れているクローゼット(現実と同じ所にあった)を開け、女性物の服と下着が並んでいたりする事に一瞬たじろいたが適当に選ぶ。ブラはしていなかったのでとりあえず付け、折角なのでスカートを着ようかと思ったが……妙に抵抗があったので、ズボンパンツタイプの服を着る。……うん、こういった感じなんだな、女性服を着るのって。

「本日はヴァイオレット様が作られたエッグベネディクトです。食卓でお待ちになられていますよ」
「おお、好物だ。それにヴァイオレットさんか。うん、今会いに……」

 と、朝食に好物の卵料理が出る事に喜び、ヴァイオレットさんに会いに行こうとして、ふとある事に気付く。
 グレイは父上と呼んだ。そして今までの夢の経験上俺とヴァイオレットさんが夫婦という事になるだろう。つまりこの夢(世界?)ではヴァイオレットさんは男性という事だ。……多分。
 ヴァイオレットさんという魅力的な女性が男性になるのだ。グレイがそうであるように、当然魅力的な男性になるだろう。そして今の俺は女性である。
 精神的には一応男性ではあるが、身体は違って女性だ。……精神とは肉体に引っ張られるものだというし、どこかで女性的な思考や好みがあるのかもしれない。
 つまり今の状態で男性のヴァイオレットさんに出会えば……

「今のが会えば――女として夫のヴァイオレットさんに見惚れてしまう!?」
「はい? どうされましたか、クロ様……いえ、母上?」

 なんだ、この感覚は。
 ヴァイオレットさんの男性としてのお姿は普段の私では想像のつかないお姿であり、見たいのは確かだ。なにせあのヴァイオレットさんの魅力を保ったまま男性になるのだ。
 鋭く格好良い目つきで見られ。美しい菫色の髪がなびき。綺麗な所作で近付かれ。良いお声で囁かれる。

――駄目だ。今の状態でヴァイオレットさんに会うと戻れない領域に踏み入る気がする。

 私の心は男性だが、なんだか心と表情がイケない事になってしまいそうになる。
 事実男性のヴァイオレットさんを想像すると、なんだか顔が赤く――

「クロ殿? 遅いようだがもしや体調が悪いのだろうか――」
「だらっしゃー!」
「クロ殿!?」
「母上!?」

 そしてなんだか格好良い声が聞こえて来たので、声の持ち主の姿を見る前に俺は窓を突き破って外へと転がり込んだ!
 はは、何故か痛いぞこの野郎。夢なのにおかしいな!

「申し訳ありません、ヴァイオレットさん! ワタクシ用事を思い出したので今日は朝食はいりませんことよ!」
「口調がおかしいぞクロ殿! ま、待ってくれ愛する妻よ!」
「佐〇拓也さんか土〇熱さんのような甘い声で囁かないでくれ!」
「なんの話だクロ殿ー!?」

 私は背後から大声で叫ぶヴァイオレットさんの声を振り払ってそのまま走り抜けた。







「ち、ちくしょう、胸って膨らんでいるとこんなに走り辛いのか……!」

 私は煩悩を打ち払おうと教会に向かい、辿り着いた頃には息も絶え絶えになっていた。
 女性になって身長が変わったとか骨格が変わったとか筋肉の質が変わったとか色々あるが、特に胸の膨らみのせいで凄く走り辛かった。身体が上に撥ねるタイミングと胸が上に撥ねるタイミングが違うので、上半身が引っ張られて走り辛い事この上ない。

「クロはなにを言ってんの。昨日今日膨らんだ訳でも無いだろう?」
「そしてシアンは修道士でも服は変わらんな……エロいな」
「ますますなにを言っている」

 修道士のシアンが私を心配そうに見ながら水を渡してくる。
 コイツは男になっても修道士服の下部分にスリットを入れるんだな。こっちでも下着はしていないだろうから、どちらにしろ危ういな。
 身長も高く、筋肉が無駄が無くて、まるで俺様系の……あれ、今私シアンの格好を見てエロいって言ったか?
 よし、考えるな私。本来隠れている肌が見えるのは男女問わずエロい。これは真理なんだからおかしくなんて無い。

「フゥーハハハ! クロさんは相変わらずよく分からない事を言うな。だが案ずることは無い、我が反骨心レボリューションを育てし女神に対して我は理解者となろう!」
「お前に言われたく無いし、今は近付かないでくれ。今の私は夫に対する煩悩を打ち払っているんだ」
「……今日の貴女はいつもよりよく分からんな」

 魔女服というか魔導士のような服を着たアプリコット。
 こちらも背が女性時より高く、イケメンになっている。こちらはこちらで、普段は気が強いが精神面が弱そうな乙女ゲームに出てきそうなキャラである。あと、魔女服も似合ってはいたが、黒を基調とした今の服も思ったよりもキマっていて……アプリコットの服を脱がしたいな。脱がせて服の構造とデザイン、縫い目と布地を見たい。
 いや、落ち着け。いくら夢でもそんな痴女めいたことは出来ない。それに私は夫と子を持つ身だ。男性の肌に興味があるとは言え、あまり異性の服を脱がそうとしたり身体に触れたりは出来ない。結婚したとはいえ、私はまだ乙女――

「くそ、なにが乙女だ!」
「クロ、何故急に壁に頭突きを!?」
「クロさん、額から血が!?」

 なにをナチュラルに男の肌に興味を持ってるんだ私は。なにが夫と子を持つだ。間違ってはいないがなにが私はまだ乙女だ!
 駄目だ。今すぐ目を覚まさないと本当に取り返しがつかなくなる。だが壁に頭をぶつけても目を覚まさない。くそ、どうすれば良いんだ……!

「そうだ。飛び降りよう」
「シアンさん、今日のクロさんはなにか変だ! いつもとは本当に違う危険性が有る!」
「そうだなコット、取り押さえるぞ!」

 俺が教会の頂上に上って飛び降りようとすると、シアンとアプリコットに全力で止められた。離してくれ。私は早く元の世界に戻らなくてはならないんだ!

「なにやってんの、■■■?」
「……あれ、もしかして■■■■■■■■■?」
「そうだけど、なんで疑問形な上にさん付け?」
「身長が伸びている上に……あれ、その姿は前の世界の私の……?」
「うん? 寝ぼけているの? じゃあちょっと目を覚ますために頬を――」








「――ロ殿! クロ殿!」
「――はっ!」

 目が覚めると、自室の天井がまず目に入った。
 どうやら悪い夢を見ていたようである。
 傍らにはヴァイオレット(女性の姿)さんとグレイ(息子の姿)が心配そうにこちらを覗き込んでいた。

「大丈夫でしょうか、部屋の外にまで唸る声が聞こえてきましたもので」
「勝手ながら入らせてもらった。……大丈夫か?」
「……良かった、夢か」
「夢? もしやモンスターの襲撃などの仕事でストレスが……?」
「ああ、いえ大丈夫ですよ。多分関係ありません」
「それなら良いが……」
「ええ、大丈夫です。……ああ、落ち着く声と美しきお姿だ。ヴァイオレットさんは本当に魅力的ですね……」
「っ!? そ、そうか。ありがとう……?」
「良かった……男性のお姿の時に貴女を見てしまったら女性として目覚めたままだったかもしれません……!」
「クロ殿、落ち着いて欲しい。訳の分からない事を言わないでくれ」

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