追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
仲が……?
「うっ、吐きそう……なにこれ、どうやったらこんな味になるのかってレベルだよ……」
「しかしよく飲めたな。私は最初吐いたから、念のため予備も作ったんだが」
「そんなもの飲ませないで……」
口に手をやり、気分が悪そうにしてい居るスカーレット殿下と、心配そうに背中に手を当てているエメラルドの後に続きながら、ゆっくりと先程の戦闘の場所まで歩いていた。
そろそろ討伐に来た面々が周囲の調査なども終わって戻って来る頃だろう。俺も指示や点呼をして、この表向きは飛翔小竜種の集団出現を一旦終わらせないといけない。
……何処までヴァイオレットさんに話すかや、誰にまで仮面の男について話すかはその後ゆっくりと考えるとしよう。
「でも、効果があるのは認めるけど、あまり毒の摂取は控えなさいよ? お父さんとか心配するでしょうが」
「チッ、あの医者のような事を言いよって。私とて死にたい訳じゃないんだ。単純に毒を知る事で万能薬の足掛かりとしたいだけなんだよ」
「え、今普通に舌打ちした? でも万能薬……ね。それは――」
「無茶でも無駄ではない。諦めなければ叶うと私は信じているよ」
「……ふーん」
……エメラルドを見ていると色々と不安になるな。
あまりそういう事を気にする方ではないが、相手が第二王女という事を知ってこういった対応をしているとなると大した胆力である。父親のグリーンさんが見ればまた胃痛で倒れそうだ。
「あと身長を伸ばす薬を開発したい。百五十より十cmは伸ばしたい」
「あら、貴女も結構可愛い所気にしてるの。別に可愛くていいじゃない。私みたいに百七十越えると可愛いとか言って貰いにくくなるよ」
「五月蠅い、お前はどうすればそんな身長になるんだ」
「そう言われても……好き嫌いしないとか、後は……遺伝? 母さんと父様は身長高いし」
「遺伝か……」
遺伝ね。確か今の国王は結構身長は高いな。女王の方は……あんまり身長は高くなかった気がするが。スカーレット殿下よりは低いはずだが。
「遺伝だと親父も母もそんなに高くないからな……くっ、やはり身長を伸ばす薬を開発するしか……」
「そんなに身長を伸ばしたいの?」
「ああ。大柄だと毒の許容量が多くなるだろう?」
「そこかい。というかそれだと毒も少量じゃ楽しめなくなるってならない?」
「――はっ、確かに!? お前は天才か!?」
「言われ慣れてはいるけど、今言われるとは思わなかったよ」
「気付かせてくれたお礼に帰ったら毒キノコをやろう。私の親友であるキノコエルフ特製だ」
「いらない」
しかし、エメラルドがここまで親しく話すのは珍しい。
いつもなら毒に関すること以外はあまり興味を持たないはずだし、グレイ達以外ともあまり話さないのだが。良い傾向であるのであまり口出しはしないが。
「ああ、そういえばクロ。一つ伝え忘れていたことがあった」
「な、なんだ」
「何故身構える」
俺が少し後ろを歩いていると、ふと思い出したかのように顔をあげ、歩きながら俺の方を向く。
正直今言われたような「思い出したのだが」的な発言に良い思い出が無い。大抵重要であったり、胃痛の原因を作り出す様な事ばかりだからである。
「ワイバーンの傷を開いては閉じてを繰り返している、あの傷大好きの変態からの伝言だ」
「あの馬鹿はなにをしているんだ……」
「知りたくもない。で、変態からの伝言なのだが……ワイバーンの状態は、以前の……ロー……ロー……ロマンティック・リトルマーメイド? だったか。ヴァーミリオン殿下狂いの」
「え、誰そのメルヘンチックの名前の子?」
「スカーレット殿下。ローシェンナ・リバーズという男の記憶違いですよ」
「ほぼ合っていないね。……あれ、リバーズ? 確か……」
「ご想像通りの息子が犯罪を犯して色々と危機的な状況にある一家ですね」
「ああ、そうそう。確かヴァーミリオンへの愛を拗らせて常に名前を繰り返し続け、結局ヴァーミリオンが直接会いに行った子だ」
なにやってんだあの狂信者。
というか会いに行ったのかヴァーミリオン殿下。無視とかしそうなものだが……と、それはともかく。
「で、アイツがどうかしたのか?」
「ワイバーンの強化された感じが、ソイツが使う言霊魔法とやらと似たものだったらしい。詳細は調べてみないと分からないが……もしかしたら、今回の首謀者かもしれんから、気をつけろとの事だ」
「……ああ、了解」
やはりあの強化された感じは言霊魔法と似たものではあったか。
……しかし首謀者、あの仮面の男がローシェンナ・リバーズとは思えない。日本語を使っていたのもあるが、メアリーさん信者のようになっていたし、狙うなら俺達ハートフィールド家を狙っていただろう。
当然仮面の男以外にも仲間がいるとか、日本語も……メアリーさんから聞いたっていう可能性もあるしな、一応。
メアリーさんだとリバーズの幸福を願って言霊魔法の強化を図るために、日本語で話すと言霊魔法が強化される! みたいなことに気付いて日本語を教えるとかありそうだしな。……本当にありそうだな。今度聞いておこう。
「なんだか反応が鈍いな」
「いや、なんでも無いよ。伝えてくれてありがとな、エメラルド」
「お礼は今度毒実験の被験者になるので手を打とう。男にのみ反応するという……」
「却下。毒の扱いの許可取り消すぞこの野郎」
「私を殺す気か!」
「いざとなったらロイヤルな私が許可出そうか? 首都の方で」
「本当か!?」
「うん。危険な毒は一切触らせないけど」
「私に死ねというのか!」
『死なせないために言ってんだよ』
ていうか危険じゃない毒ってなんだ。
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