追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

例えばそれはの心当たり(:灰)


View.グレイ


「ほれ、治療完了だ」
「お、おお! 凄い、さっきまでの痛みが嘘かのように動ける!」
「当然だ、私が調合した傷薬だからな」
「エメラルド、本当に薬剤師として凄かったんだね。毒を見ては息を荒げるだけじゃ――待って。もしかしてこの塗った傷薬、さっきの長時間貼ると幻覚が見えるっていうやつじゃ……」
「それは落としたから使っていない。アレを使えばもっと調子が出たんだろうが……今のヤツに副作用は、無い」
「言葉を区切ったのが微妙に気になるけど……まぁいいや。とりあえず――どうやってこの窮地を切り抜けようか。アイデアある?」
「やはり無策なんじゃないか」

 スカーレット様の治療も終わり怪我の具合を確かめ、上着を着るとスカーレット様は不安を感じさせないようにしているのか、元の私達と遊んでいた時のような表情で相談をしてくる。
 ……やはり、先程の笑いは気のせいだろうか。
 ともかく、その様子を見て私は改めて気を持ち直し、どうするべきかと策を考える。ロボ様は……先程のような混乱は見られないが、まだ少し沈んだ様子でただ黙って居た。

「失礼な、私だって策はあるよ」
「ほう、それはなんだ?」
「私が派手に魔法をやって、貴方達が逃げて、時間を稼いでいる内に援軍を呼んでくるとか」
『却下です
「声揃えなく即答しなくても良いじゃん」

 なにを言いだすのだ、この方は。
 全員無事に帰らないといけないのに、そのような作戦では達成できる可能性が低い。スカーレット様が危険すぎるではないか。

「ともかく、さっきのロボの救難信号? に反応した援軍を待つにしても、このままジッとしているというのも微妙」
「そうなのですか?」
「見つからないのなら洞窟内でも良いけれど、この洞窟は深くないし、もし飛翔小竜種ワイバーンに見つかって火を吐かれると、とてもマズいの。逃げ道は無いし、熱を防護魔法防げても空気が無くなって倒れたり、ね」

 文字通り蒸し焼きにされるという事か。
 しかし下手に動き回って見つかっては元も子もないし、救難信号の意味も無い。索敵能力をどう見るのか、が一番の重要か。

「あと、気になる事も有る。あのモンスターの力に関してだ」
「どういう事、エメラルド?」

 エメラルド様は残りの薬草(毒)を混ぜて調合しながら、一つ疑問を言ってきた。
 確かに私も気になっている事がある。恐らくそれはエメラルド様と同じ内容だろう。

「ロボの外装だよ。不意打ちを受けたとは言え、あんな簡単に壊れてたまるものか」
「え、でもワイバーン相手じゃおかしくないんじゃない? 鎧とか軽く壊すよ?」
「そんな脆くはないんだよ。私は一度ワイバーンの殺傷能力と同等のフェンリルの牙に咬まれたロボを見た事があるが、傷はついたが壊れる気配もなかった」
「へぇ……」

 やはりエメラルド様の疑問は私と同じであった。
 ロボ様の外装は傷は付いても直ぐ修復されるため、そう簡単に……ワイバーンの攻撃を一回受けた程度で機能を損傷され、壊されるなんて信じられない。
 つまりあのワイバーンは……

「なにかしらの強化をされているという事でしょうか?」
「ああ。その可能性がある」

 私の問いかけに、エメラルド様は調合の手を止める事無く同意する。

「ワイバーンの強化って……うーん、魔物使いとかが攻撃力付与魔法を唱えたとか、研究の結果逃げ出したとか……」

 だが、私は世間知らずなのであまり断言は出来ないが、ワイバーンの強化は難しいというべきか、ほぼ不可能に近い事だ。そもそも捕獲ですら難しく、魔物使いを生業にしているものでも操る事が難しい。
 シュバルツ様ならば可能ではありそうだが……あの方はあくまでも“話し合って、協力してもらう”というスタンスであり、強化の類は出来なかったはずだ。

「そもそもワイバーンの群れという異常事態だ。そもそもこれが――」
「当然、私を亡き者にしようとしている派閥の差し金もあるよ」
「……だろうな。お前が言ってくれて助かるよ。……あむ、んにゅ、んにゅ」
「一応王族だからねー。何処かの派閥が暴走して刺客を差し向けるとかよくある事だし、モンスターだったら事故扱いにしやすいから。真っ先に考えはするよ」
「ん、にゅ。……ふぅ。だとすれば、お前の兄も狙われる可能性はあるな。一応そこも考えた方が良いか。弟や妹とかの派閥が差し向けて両方始末しようとした、という可能性もあるからな。……ゴクリ」
「そうだね。バーガンティーか妹(フューシャ)に取り入るため、って可能性も高いけど……ともかく、操っているなら操っている奴を叩き。魔道具の強制なら魔力の起点を壊す。単純な暴走なら単純にあちらの嫌がる事をして逃がせば良い。……ところで、さっきからなに食べてるの? 薬?」
「嘔吐薬だ」
「なんて?」
「嘔吐薬だ」
「いや、聞こえなかったから聞き返した訳じゃないよ」
「……ちょっと失礼。…………ゴフッがふっ!」
「え、ちょっとなにやってんのトチ狂った!?」
「トチ狂わずして世の中を生きていられるか。げふっがはっ!」
「哲学的な事を言いだしたね」

 そうなるとやはり異常事態が起こり、本来眠っていたワイバーンが目を覚ましてシキに来たのだろうか。ワイバーンには個体差があるので、超常的な存在が砕いた可能性もある。それならば本能的に嫌がる事を繰り返せば追い返せるだろう。
 後は……あまり考えたくはないが、以前のようなヴァイオレット様を狙ったという可能性もある。そうなるとやはり操っている者を探した方が良いだろうか?
 でもそうなると、強化の理由が――

「本当にどうしたの? いくら貴女でも、この状況でただ毒は楽しまないでしょう?」
「ああ。先程逃げる際に口に含むことで毒になる奴をワイバーンに噴きかけたんだが、少し飲んでしまってな。死にはしないが念のため吐いておこうと思ってな」
「ああ、そういう事ね……突然やるから驚いたよ。ま、体力は温存しておきなさい。この後どういう戦いをするか分からないんだからさ」
「分かっているよ。ああ、後いざとなれば私の一部を切り取ってワイバーンに食わせろ。間違いなく体内の蓄積毒で倒せる」
「蓄積毒について突っ込んだ方が良いのかな……ていうかしないよ。貴女は大切な民なんだから、犠牲にして生き延びるなんてしたくない」
「……冒険者としては良いかもしれないが王族としては微妙な所だな。王族という高貴な身分なんだ。生きる事を優先しても構わないだろう」
「そうだとしても、私は嫌なの。ただそれだけの事」

 ……あれ、モンスターを操る? そして強化する?
 最初に急降下したワイバーンは私達を一点に集めた。
 そしてその後ロボ様は音を感じ取って、止まった。
 次のワイバーンは、スカーレット様がすぐに魔法を唱えたためすぐに討伐されたが……ロボ様に突撃する形で向かい、まるでロボ様という脅威を壊す為だけに操られているように見えた。
 その後に続いたワイバーンは、まるでロボ様の外装損傷を見たから襲い掛かって来たかのように。次々と現れた。

「ふふふ、どちらにしろロイヤルな私に任せておきなさい。先陣を切って王族としての在り方を示してあげる! 貴女は皆で生き残って笑う事だけを考えなさい!」
「……スカーレット第二王女」
「ふ、私の在り方を見て王女と呼ぶに相応しいと思ったわけね。良いでしょう、冒険者兼第二王女の私の威光を拝謁する権利を――」
「お前、本当にそう思っているのか?」
「……どういう意味?」

 ……まるでそれは命令したから。ロボ様を襲った一撃も、後先を気にせず無理に強化させたような。そんな事を出来る存在を、私は知っている気がする。
 音を操って。言葉を操って。言葉に魔力を乗せて。過去に見ない魔法を使い。
 私やシキを恨んでいても、襲ってもおかしくない存在を、私は知っている。

「お前、この状況も王族の立場としても――」

 確かそれは――

「皆さン入口の方、ワイバーンが!」

 と、私がこの襲撃についての実行犯に心当たりを着けようとした時。
 私達の前、洞窟の入り口にワイバーンが現れた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品