追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

恋愛脳王女?(:灰)


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「この植物は葉の部分のみフグと同じ毒を持つ。まとめて喰うと良い感じに全身が動かずに痺れる程度に落ち着く。美味い。私の好みだ」
「食べないで」
「こちらは蜜が猛毒だ。吸うとまず吐くな。他の毒を吐く時に重宝する。私もよく使う」
「毒を吐くのに毒を採るんだ……」
「おお、これは珍しい! 葉っぱが傷を塞ぐ効果を持っているが、貼りすぎると毒が生まれて幻覚要素をもたらす葉だ! だが適量なら良い感じになるぞ、私が保証する!」
「貴女毒物摂取をやめなさい!」
「私に死ねというのか!」
「死なせないために言ってんの!」

 森の中に入り、エメラルド様の採取を手伝いながら目的地まで向かっていった。
 毒物に詳しい事に興味を覚えたスカーレット様が、解説を聞いていると何故かエメラルド様の得意技をやめるように言っていた。私には真似出来ない素晴らしい領域の毒物の知識なのに、何故止めようとしているのだろうか、不思議である。

「あー、分かった分かった。ったく、親父やあの医者のような事を言いよって」
「医者って、あのアイボリー? そういえば仲良かったよね」
「はぁ!? 何処をどう見ればそう見えるんだ! 喧嘩しているだけだろうが!」
「あれでしょ? 嫌よ嫌よも好きの内、喧嘩するほど仲が良い、ってやつでしょ?」
「私が認めているのはアイツの腕だけで、他は性格もなにもかも嫌いだ! 怪我に興奮する所とか虫唾が走る!」
「えーそうなんだー」
「本当に分かっているのか……? ったく、恋愛脳か、お前は……よっ、と」

 エメラルド様は面倒くさそうに頭を掻くと、一通り植物を採ってから立ち上がり、背負っている籠を一旦担ぎ直して私達の所へと寄って来る。

「そっちはなにか採れたか?」
「申し訳ありません、毒の植物はなにも……」
「同ジクデス」
「そうか。まぁ雪もある冬だからな。簡単には――」
「代わりに毒を持つ蛇を一匹」
「ワタシハ、地中カラ土竜ヲ一匹。発光シテマス」
「そっちの方が遥かに希少じゃないか。というか冬眠中じゃないのか」

 私達が差し出した以前見た毒を持つ蛇と土竜を差し出すと、エメラルド様は驚いた後毒を摂取したくてはぁはぁと息を荒げる。顔を赤くして、我を忘れているように見える。

「女の子があまりしてはいけない顔をしているよ……」
「そうなのですか? 研究心を満たして喜ばれている素晴らしい表情かと思うのですが……恋する姿は美しいというやつを彷彿とさせます」
「うん、グレイ君は相変わらず天然の褒め上手の良い子だねー。よしよし、将来異性に勘違いされ過ぎないようにねー」
「んにゅ……はぁ、分かりました……?」

 スカーレット様は私の言葉によく分からない事を言いながら、頭を撫でて来た。褒めてくれているようだが、勘違いとはなんだろう。

「あーでもグレイ君にはアプリコットが居るからね。大丈夫と言えば大丈夫なのかな」
「アプリコット様がどうされたのでしょうか?」
「いいや? 美男美女カップルだなーってね」

 美男美女カップル? 話の前後からして、アプリコット様に関する事なのだろう。
 アプリコット様は美しき女性だと思う。そして美男美女? ………………アプリコット様に美男子のパートナーが?
 ……何故だろうか。愛すべきパートナーをアプリコット様が見つけられたのならば祝福すべき事なのだろうが、不思議とモヤモヤする。

「おい、そこの恋愛脳。それ以上は触れてやるな」
「え? まぁ、はーい」
「それじゃ、目的地に行くか」
「あれ、その毒摂取しないの? 前見た時は食べては痺れていたけど」
「なにを馬鹿言っているんだ。こんな所で毒を摂取したら命に関わるだろう」
「正論だけど釈然としない」

 エメラルド様は私達から受け取った蛇と土竜を布で包み、瓶に入れて背中に背負っている籠に入れると先に進む様に言ってくる。
 私もエメラルド様の言葉は正論だと思うのだが、何故スカーレット様は釈然としていないのだろうか。
 ともかく、荷物が増えたのでより一層足元に気を付けながら目的地までへと私達は向かっていく。

「そういやーさ、ロボ」
「ナンデショウ、レットクン」
「うちの兄様ってどう思う?」
「…………」

 そして目的地まで向かう中、まるで世間話を言うかのようにロボ様に問うてきた。
 問いに対してロボ様は黙り、エメラルド様は……特になにも言わず歩を進めていた。私もどうすれば良いか悩んだが、エメラルド様に倣って黙って居る事にした。……私がシアン様やクロ様のような相手を見る能力に長けていれば、倣うのではなく自分の判断の行動が出来たかもしれない。

「妹の私が言うのもなんだけど、兄様は顔は悪くない所か良い部類に入ると思うの」
「ソウデスネ。ワタシニハ勿体無イレベルデス」
「身分もこの王国では相当上位。性格は強引な所もあるけど、別に悪いことは無いと思う」
「ハイ。デスカラ選リ取リ見取リダト思イマス。既ニシキノ皆カラ人気モアリマスシ」
「じゃあ、貴女はどうしたいの?」
「……ドウシタイ、トハ」
「うちの兄様と婚姻を結びたいかって事」

 スカーレット様は変わらず目的地まで行くついでに話すかのように、歩きながらロボ様に問う。
 重い雰囲気が漂うが、私に出来る事はただ雪を踏みしめる音が会話の邪魔にならないように気をつける事くらいだ。

「身分差について気にするのは分かるの。私は応援するけれど、それを認めない輩も居るからね。けれどそれはあくまでも両者の間に好きという感情がある場合なの」
「……ソウデスネ」
「だから、これだけはハッキリさせて欲しい。……貴女は、兄様に少しでも気があるの?」

 スカーレット様の問いに対して、ロボ様は――

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