追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

朱色の疑問(:偽)


View.メアリー


巨木魔物トレント討伐……ですか」

 お昼過ぎ。
 私とヴァーミリオン君とシルバ君は、装備を整えて首都を出て一番近くの森へと赴いていました。
 巨木魔物トレントとは、ようは木に擬態したC級モンスターです。繁殖力が強く、冒険者の休憩時などに襲い掛かるため率先的に討伐対象となるモンスター。ただ巨木魔物トレントから採れるエキスなどは、植物に使うと良い栄養素になるのでワザと逃がす者も居ると聞きます。コアなども錬金魔法の材料として使ったりする事も有ります。あとつい先日、学園祭の時期に謎の飛行物体により集団が壊滅されたそうですが……今は関係無いですね。

「来て欲しいかと言われるからなにかと思えば、討伐メンバーが居なかったから一緒に来て欲しいという事だった、で良いの? まぁ達成料さえ貰えれば僕は良いけれど……メアリーさんと一緒に戦えるし」

 シルバ君は少し不服そうにしながらも、何処か楽しそうに警戒しながら一緒に森へと進んでいました。最後の言葉は小さな声で隠していたようですが、隠しきれていないのが可愛らしいです。

「すまないな。冬とは言え、いつもより学園の植物に元気が無いという意見があったモノでな。丁度依頼があったものだから今の内に応えようかと思ってな」
「ふーん……なら良いけど」

 ヴァーミリオン君は少し申し訳なさそうに私達に今回の目的を説明してくれます。
 昔の彼であれば淡々と誰にも相談せずに、単独で依頼に挑むか別の誰かに任せていたでしょうが、今はこうして私達を頼ってくれている――という訳では無く。

「ヴァーミリオン君。本当はなにが目的なんですか?」
「……さすが、メアリーに隠し事は出来ないか」

 植物が元気が無いという要望があったのも、討伐依頼があったのも確かでしょう。ですが、別のなにかを目的としているというのは、いつもと僅かに違うヴァーミリオン君の様子から読み取れました。
 今は聞かずにいる……という事も考えましたが、なんとなく聞いておいた方が良いと私の小さな疑念と好奇心が示したので、私は少し先に行き警戒をしているシルバ君に聞こえないように、小さな声でヴァーミリオン君に尋ねました。

「……先行する者で、少々気になる相手がいる。依頼自体や彼女が危険という訳では無いのだが、気になっている相手でな」

 すると、返ってきた言葉は私の予想とは少し違うモノでした。
 気になっている相手……まさかヴァーミリオン君にそんな相手がいるなんて……!

「えっと、協力しますし、祝福させて頂きますよ。私に出来る事があれば仰ってくださいね」
「は? ……違う、そういう意味ではない!」
「っ!? どうしたの、ヴァーミリオン!」

 私の言葉に、ヴァーミリオン君は小さな声で話していたのを忘れて大きな声をあげます。
 シルバ君は唐突な言葉に驚き振り返り、私は自身の鼻頭に人差し指を当て「静かに」というジェスチャーをとります。

「モンスターが近寄ってきますよ?」
「うっ、すまない……だが急にメアリーが変な事を言うものだからな」
「なにを言ったのさ、メアリーさんは」
「俺に気になる相手がこの先に居るから、間を取り持ち祝福するとな」
「それは僕も祝福するよ」
「今年一番の笑顔だな」

 私が先程の事を言うべきか悩んでいると、特に抵抗なくヴァーミリオン君が答えます。

「というか、気になる相手ってなに?」
「……この先に別の依頼をこなす学園の生徒が居るのだがな。その生徒について個人的に気になる事がある。会った際の用件いいわけとして依頼を受けたかったのだが、同じ場所に行く依頼がこの依頼しか無くてな」
「ああ、単独では難しい依頼だし、身分を隠せて一緒に来てくれる相手も直ぐに見つからなかった、という事?」
「そうなる」

 身分を隠すというのは、ヴァーミリオン君はお兄さんとお姉さんが冒険者稼業をし、あまり国王陛下ちちおやと女王陛下に良い顔をされていないため、お小言を躱すために身分を隠して冒険者として登録しているという事です。
 ヴァーミリオン君が気になる相手……誰でしょうか、その相手というのはもしかして……クリームヒルトの事なのでしょうか。
 先程エクル先輩がクリームヒルトは「街に行っている」と仰っていました。そして学園の生徒で、となると――いえ、ただの決めつけですね。
 そもそも私の感じている違和感は“カサスとの設定が違う”というものから来る違和感です。ヴァーミリオン君がそのような違和感を覚えるとは思えませんし、別の案件なのでしょう。

――もしかして、カサスのように惹かれて……?

 もしかしたらカサスで主人公ヒロインに惹かれた様に、ヴァーミリオン君がクリームヒルトに惹かれている可能性も……!
 ……いえ、落ち着きましょう。今日はなんだか好意に晒されているせいか、恋愛脳になりつつある気がします。

「それとメアリー。俺はお前以外の女には興味が無いといっただろう。――分からないのなら、分からせてやろうか」

 そう言いつつ、ヴァーミリオン君は私の顎に手をあてて顎クイをしてきます。王族特有の紫色の瞳がとても綺麗で、甘くも格好良い声で囁かれます。
 ……どうしましょう、彼もなんだか積極的になっている気がします。そしてなんだかクラクラします。近いです近いです近いです。

「ふん!」
「っ!」

 私がドギマギしていると、シルバ君が素早く近寄って上から下へ叩き落す様にヴァーミリオン君の腕をはらいました。
 ……ふぅ、良かった。またキスでもされるのかと思って緊張しました。

「……シルバ、良い度胸だな」
「生憎とここに居る冒険者は全員平民だからね。気軽に腕くらいはらえる仲なんだよ。なっ、!」
「ああ、そうだなシルバ。同じ平民同士だから気軽なのは気にする事ではないが、好きな者同士の仲を裂くのは頂けんな」
「え、何処に居るのかなそんな間柄の男女。僕には一方的に好きな女性を襲う男しか見えなかったよ」
「ははは、なにを言う。何処をどう見ても仲睦まじい男女じゃないか」
「ははは、なにを言うの。もしそう見えるヤツが居たら眼か脳の治療をお勧めするよ」

 そして両者は互いに牽制し合い、睨み合います。
 なんだか今日はいつも以上に取り合われる立場になっている気がします。……自分で思っておいてなんですが、何様だと言われるような立場な気がします。

「お前と言い争っている場合じゃないな。メアリー、足元に気をつけろ。なんなら抱き上げる。姫のようにな」
「リオン君。そちらの方がこの森では厳しいと思うのです」
「そう、リオンが担がなくても僕が担ぐから大丈夫だよ!」
「体格差的には私が担いだ方が安定するのではないでしょうか」

 身長は十センチ近く私の方が高いですし、体重も多分私の方が重いかと思いますし……いえ、体重はどうなのでしょうか。シルバ君は割と細いですが男の子ですから、意外と重かったりするのでしょうか。

「メアリーさんに担がれる……い、いや、僕が担いで見せる。なんていったって強いからね!」
「シルバ、無理をするな。俺がメアリーを抱き上げる。体格的にも俺が抱き上げた方が良い」

 そもそも担ぐ、という事が間違っているのですがね。
 それに今どちらに担がれても……なんでしょう、想像するだけでも羞恥があります。一度エクル先輩には抱き上げられた経験はあるのですが。……スチルの中の視点としか思わなかったんですよねー……と、それはともかく。

「リオン君。シルバ君。言い争っている場合じゃありません。巨木魔物トレントは擬態して唐突に襲い掛かって来るのですから、気を――」

 引き締めて、と続けようとした所で。

『WiGrrrrrrrrrrrr』
「え?」

 巨木魔物トレントが、唐突に私達の前へと現れました。
 ……あれ、この距離まで気付かなかったのですか、私!?

「戦闘態勢!」

 私は武器を構え、戦闘態勢へと移行します。
 正直錬金魔法を使えば一発で仕留められますが、巨木魔物トレントは周囲の植物を操るので下手をすると足をすくわれます。充分に警戒した上で、協力を――

「リオン! ここで争っていても仕方ないけれど、それはそれとしてどっちが強いか勝負だ!」
「良いだろう! 強き者こそがメアリーを姫として扱うに相応しいという事だな!」
「そういう事だよ! 強き者こそメアリーさんに相応しい!」
「ならば森を出るまで抱き上げて帰り、敗者は邪魔しない事で良いな!」
「良いよ!」
「よし、俺のこの冒険の目的はすぐそこだ!」
「目的変わっていませんか!?」

 なにをいっているのでしょう、この男の子達は。
 ヴァーミリオン君に至ってはこの先に気になる子が居たのでは無かったのでしょうか。それに戦闘後だと……

「それにあの、戦闘後は汗とかで、その、男の子に抱きかかえる程近寄られると、今日はまだ水浴びもなにもしていませんから……」
「…………よし、行くぞ!」
「…………よし、行こう!」
「なんでそこでさらに意気込むんですか!?」
『WiIiiiiGrrrrrAaaaa!!』





備考1:それぞれの体重(重い順)
アッシュ>シャトルーズ>ヴァーミリオン>エクル>メアリー>シルバ>クリームヒルト


備考2:「…………よし、行くぞ!」
    「…………よし、行こう!」
意訳
「気にして恥ずかしがっているのがさらに良い!」


備考3:『WiIiiiiGrrrrrAaaaa!!』
特別意訳:「お前らイチャつこうとしているんじゃねぇ!!」

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