追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

緋色の胃痛対象


「おーい、息子に変な事を吹き込みやがった変態は何処に居るー。来てやったぞー」
「おう、来たか健康優良児のつまらん領主」
「健康は良い事だろうが」

 アイボリーの家兼診療室に行き、扉をノックしてから声をかけると中から声がかかったので、扉を開け中に入る。
 中にはマスクと手袋を付けて、これから手術でもする気なのかと思うような格好のアイボリーが居た。他にはアプリコット達も居る。

「とりあえずグレイ。この怪我をしていない愚健康優良児共を引き取れ。状況は把握したからお前らは用済みだ」
「お前本当に言葉選べよな」
「こればかりは性分だ。どうしようもない」

 確かにヴァイオレットさんにも普通にこんな態度だし、侯爵家のアッシュに対しても変わらぬ態度だからな、アイボリーは。だから腕はいいのに首都で疎まれてシキに居る訳だが。……まぁ怪我に興奮するのも原因だろうけど。

「ハッ、お医者様は相変わらずお偉いな。外傷を治すだけで内部の健康を維持できない医者ではこの程度の対応しかできないという事だ」
「なんだと貴様。毒を摂取しては治すという愚かな行動しかしない毒物中毒ジャンキーめ。貴様のような愚かな者がした行動を知識の無い者が真似をして、勘違いした治療をするんだ」
「挑戦せずして受け身の行動しかしない怪我中毒ジャンキーには言われたくは無いな」
「エメラルド、貴様……!」
「おーい、喧嘩するな」

 そしてアイボリーとエメラルドが一触即発の雰囲気へとなった。相変わらず仲が悪いようである。いや、良いのかもしれないが……

「クロさん、ここは我に任せて患者の様子を見に行ってやると良い。両者共隣の部屋で眠っているからな」
「よろしく頼む。ところでアプリコットは患者を見たんだよな。……アイボリーがなんで俺を呼んで来たか分かるか?」
「ふむ、アイボリーさんは彼女らを知っているようであったが、女性の方は綺麗なお方で貴族然ノブレスとしていたからな。高貴な御方であるのやもしれん。……そういえば何度か見た事あるような気もする」
「うわ、マジか……そうなると男爵家おれより身分が上の方かもしれないな」

 アプリコットが今にも取っ組み合いの喧嘩をしそうなアイボリー達とそれを止めようとしているグレイを横目で見つつ、俺に小さな声で俺に部屋に行くように告げた。
 しかし、アイボリーが知っている貴族となると……辺境伯とか侯爵家とその辺りだろうか。首都に居た時代は色々と顔を出していたみたいだからな。そう思うと気が重い。
 こんな時はヴァイオレットさんの笑顔を思い浮かべて意気込もう。……よし、元気がでたぞ。

「ああ、それとグレイがお前に避けられているのではないかと心配していたぞ」
「っ!? そ、そうであるか……ふふふ、弟子も我に避けられているなどと世迷言を言うほどには我を……」
「まぁ色々あるだろうけど……頑張れよ」
「い、色々頑張るとはなんだクロさん!?」

 俺はアプリコットの帽子を軽く小突き、慌てるアプリコットを小さく微笑みながら見て、隣の部屋に行くために診療室を出ようと方向転換する。
 ……この位の後押しならば良いだろう。

「アプリコット様、急に大きなお声を出されてどうなされましたか!」
「い、いや、なんでもないぞ弟子よ!」
「またお顔が赤く――熱があるのでは?」
「だ、大丈夫であるぞ弟子よ。我に熱など――」
「アプリコット貴様! 熱があるのならば大人しく俺に診られろ! 座って熱を測り適切に処置をしてやる!」
「変態医者は引っ込んでいるんだ! 熱ならば薬剤師である私の出番だ! 調合して適切に熱を下げてやる!」
「毒薬剤師は引っ込んでろ!」
「なんだと痴漢医者め!」
「ま、待つのだアイボリーさん達、これはだな――」

 ……ごめんな、アプリコット。後で謝るよ。
 下手に騒ぐと隣に響くかもしれないので、まずは落ち着かせてから行こうかと思ったが、

「……任せて」

 先程まで寝ていたはずのブラウンが、俺の肩に手を置き任せろというポーズをする。
 大丈夫なのかと不安になるが……

「みんなー、静かにしてー。静かにしないと……ビームうつよ?」
『やめ

 ……うん、アイツらの仲ではブラウンが一番強いかもしれないな。実際ロボに真正面から戦闘を仕掛けられる強者だしな、あの子。
 ともかく少し静かになった診療室を後にして、俺は患者がいる部屋へと向かう。
 一応入る前に身なりを整え、ふぅ、と息を一つ吐き、気持ちを落ち着かせた後に三回ノックをする。

「失礼、入ってもよろしいでしょうか」

 先程眠っていると言われたので、あまり大きくない程度に部屋の外から声をかける。
 もし眠っているのならば踵を返し、起きるまで時間を潰そうとは思ったが、

「うん、入って良いよ」

 その心配は無く、中から女性の声が聞こえた。どうやら目覚めていたようである。
 部屋の中から聞いているせいか、少し声が籠っているように聞こえる。

――あれ、この声……

 俺は中から聞こえてくる声に、何処か疑問を持ちつつ「失礼します」と言いつつ、ドアノブに手をかけて回し、扉を開ける。
 まずは自身の立場を明かし、その後に彼女らが何者か確認しなくてはならないと思いつつ。

「お休みの所申し訳ありません。私はこのシキを治めております者で――」

 中に居る女性の姿を確認して。

「やぁ久しぶりだねクロ君、ロイヤルな私が会いに来たよ!」
「人違いです」

 部屋から出ていって扉を閉めた。
 ……なんでスカーレット第二王女が居るんだよ!

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