追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

報告と○○_2


「ああ、実は君とメアリー君に聞きたいことが出来たんだよ」
「メアリーさんに? 残念ですが、メアリーさん達なら既に首都へ帰られましたよ」
「む、そうなのか。それは残念だ」

 俺とメアリーさんに聞きたい事言うと……なんだろう。同時に聞きたい事と言うからには共通事項なのだろうけど、内容は思い浮かばない。
 ……同じ転生者であるから、その件について聞こうとしたという可能性はあるのだろうか。

「まぁ聞きたい事は後で聞くとして、報告だけしようか」

 怪しげな表情をしたヴェールさんはそう言うと、なんだか獲物を狙う眼光になり俺が頼んだ依頼の報告をしようとする。…………我慢だぞ、クロ。何故彼女が鋭い眼光になっているかは分かるが、大事な息子の為だ。正確な情報を得られると言うならば、我慢しなくてはならない。

「ふむ、私も報告良いだろうか? 彼女の報告も含めれば正確かどうかも分かるだろうからね」

 シュバルツさんは謎のポーズを決めながら、同じく依頼をした報告をすると言いだした。
 そのポーズを見てヴェールさんが肉体を見て見惚れていたが、すぐに持ち直し元の不敵な笑みを浮かべる。

「構わないけれど、私の情報を聞いた後に同じ内容であったと言わないようにね」
「はは、私がそんな狡い真似はしないよ、美しくない。不安ならば私が先に報告しよう。……もっとも、キミが同調したいと言うならば話は別だが」
「おやおや、私の仕事にケチを付けると?」
「ははははは、大魔導士様の仕事に文句を言うなんて有る訳がない。我が帝国でも評判の――」
「あ、あのー、牽制はやめて報告お願いできませんか? なんでしたら個別に話を聞いて照らし合わせますので。報酬は約束通りお支払いしますから」

 この肉体を別方向から愛している変態共は、本当は相性が悪いのだろうか。
 そんな事を思いつつ、少し離れた所で個々に報告を聞く事となった。







「――以上が、学園長先生がグレイ君を学園に入れたい理由だ」
「マジですか……」

 ヴェールさんからノワール学園長についての情報を聞いた。
 纏めると、
・ノワール学園長は線の細い美少年が好き。
・手を出す気はなく、囲まれて、愛でたい。
・だが、誘われれば吝かではない。
・あらゆるジャンルの美少年を集めたいので、後は純真無垢な少年。
・なので、グレイが生徒会に入れば学園長の美少年ハーレムが完成する。
 という所か。
 というか吝かではないとはなんだ。なにをする気なんだあの男は。

「うん、私も驚いたよ。出来れば知りたくはなかったな……」

 ヴェールさんはどこか遠い目をしていた。
 学園長は尊敬する方であったようだし、学生時代も色々とお世話になった方であったそうなので複雑な気持ちなのだろう。だがきちんと報告する辺りは仕事熱心と言うべきか、報酬がそんなにも欲しいのか。

「それと、先程言っていた聞きたい事なのだが、今聞いても良いかな」
「はい、構いませんよ?」

 遠い目をしていたヴェールさんは首を横に振り、気持ちを切り替えると俺の方を改めて見て質問をしてくる。てっきりすぐに報酬を要求してくるものだと覚悟していたのだが。

「君はなんでも浮気を嫌悪……というか、学生時代から女性と付き合うのに慎重であったそうだね」
「まぁ、そうですね。慎重というよりは臆病かもしれませんが」
「聞く所によると、それはとある女性が嫌いであるから、その女性のようになりたくない、との事だが事実かな?」

 ん、どういう意図の質問なのだろうか?
 というかその情報は何処で仕入れたのだろう。グリーネリー先生……は話すような性格じゃ無いし、同級生や兄弟とかだろうか。

「そうですね。幼少期の遊んでいた子の母親で、貴族みたいな裕福な家庭の妻帯者相手と複数関係を持つ女が居まして。挙句には子供を産んだのも、子供を脅しの材料として使って金をせびるために産んだとかいう女が居たので。それを見て付き合うのに慎重になっていましたね」
「ほう、悪い女もいたものだな」

 俺は質問に対して、前世の母親の事を作っていた話で答えた。
 こういった話をしておけば、学園生時代にも付き合う関係の話題を逸らせたのであらかじめ作っておいた話である。

「というか、どうしたんですか。急にそんな事を聞いて」
「いや、ちょっとした確認というか、君の性格を形成する理由を聞きたくてね」
「そうですか……?」

 ヴェールさんはそのように言うが、なにか別の事を確認しようとしたのは気のせいだろうか。質問の内容自体は前から決めていたようであるが、俺の答えで、答えた事と別のなにかを知ろうとしているような気がする。……考え過ぎだろうか。

「それじゃ、私は一旦ここで失礼するよ」
「あれ、報酬の腕を触るのは良いんですか?」

 俺の質問に対し、何故か納得したような表情をするヴェールさんは、報酬を受け取ろうとはせずこの場を去ろうとする。報酬の腕を触る権利をすぐに受け取らないなんて意外である。……今更だが、報酬の腕を触る権利、ってなんなのだろう。

「勿論貰うが、今は待っている報告者もいるし、外というのは恥ずかしいし、触る前に一度身体を洗いたくてね」
「以前普通に外で触っていましたよね。それに身体を洗う……?」
「せっかく触るのだ。私の身体も好条件にして触りたいからね。それに外で裸というのも」
「待てや。どういう状態で触るつもりだアンタ」

 なんで腕を触るのに外で裸とかいう話になるんだ。
 触るのは腕だけでも俺に服を脱がせるつもりなのかこの痴魔女。

「決まっているだろう、舐められない以上は、よりこの機会を楽しみたい。だが私の服は構造上、上下一体だ。私とて夫を持つ身であり、母であり、女だ。羞恥という概念は常に保って――」
「待て、ヴェールさんが脱ぐの!?」
「? ……君が外でのプレイを求めるのならば、外でやっても良いが?」
「貴女の脱衣を当然かのような表情をしないでください。舐めなきゃなにをしても良い訳じゃないんです」
「なん……だと……!?」
「驚愕しないでください」

 ヴェールさんは驚愕した表情で俺を見た。なんでそこまで驚けるんだ。なにをする気だったんだ……?
 え、挟んだり乗って挟んだりと先日の夫と似たような内容を? 絶対にさせねぇぞ全力で抵抗してやる。







「――以上が、私の仕入れた情報だよ」
「……成程、概ねヴェールさんあれと同じ内容ですね」
「なんか彼女に対するアタリ強くなっていないか?」
「気のせいです」

 続いてシュバルツさんから学園長に関しての情報を聞いたが、残念ながらヴェールさんの内容とそう変わりはしなかった。本当に残念である。
 ただ違う所と言えば、学園長は“ショタが好きなのではなく、成人前後の精神も身体も不安定な年頃の美少年が好き”という情報くらいか。むしろそんな情報を知りたくなど無かった。
 というか、これが事実だとしたらグレイの入学はどうしようか。自ら手を出す気はないようだし、グレイにキチンと注意をして、アプリコットやメアリーさん達にこの情報を伝えて注意してもらえば入学もいけない事は無いが……やはり不安にはなるな。

「ともかく、ありがとうございます、シュバルツさん。報酬は今お支払いできないので、一旦屋敷に戻ってからでも良いですか?」
「構わないよ」

 ともかく、入学の件に関してはこの情報をヴァイオレットさんと共有してから充分に考えるとして、今は報酬を支払う事を考えないと。こういった契約はキチンと履行しないと後から怖いからな。

「それと、私もクロくんに質問したいのだが良いかな?」
「構いませんよ?」

 なんだろう、質問するのが流行っているのだろうか。
 前世の刑事ものでそんなのがあったな。一通り会話を終わろうとしたら、最後にもう一つだけよろしいでしょうか、と質問をするみたいな。

「これは学園長を調べるついでに仕入れた情報で、私の興味半分の質問だ。だから答えにくいならば答えなくて良いし、訳の分からないものかもしれないが……」
「訳が分からないはある程度慣れているので大丈夫ですよ」
「嫌な慣れだね」

 うん、嫌な慣れである、

「まぁともかく、クロくん。聞きたいんだが……」
「はい」

 だがシュバルツさんがこのような前置きをするなど、一体どのような質問なのだろうか。でもそこまで困る質問など、下世話なモノでも無い限りないとは思うが――

「キミ、前世の記憶でもあるのかい?」

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