追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

淡黄の質問_3


 さて、何故ヴァイオレットさんがここに居るのだろうか。
 トイレの為に席でも外したのか、戻ってこないクリームヒルトさんを心配したのか。
 ふと手元を見るとカターン的な所を開拓するボードゲームを持っていた。なるほど、新しいボードゲームを取りに行っていた感じか、ははは。優しいなぁヴァイオレットさんは。ははは。

「あれヴァイオレットちゃん――クロさん?」

 聞こえていないなんていう淡い期待は抱くことは出来ない。聞こえていなければ表情が怒りなどではない形で朱に染まっているなんて事は無いだろう。可愛い。
 そしてそんな表情を見ると、ふとある欲求が湧いた。
 唐突な登場に少し困惑しているクリームヒルトさんの横を抜け、俺はヴァイオレットさんへと近づいていく。

「え、えと、クロ殿。聞いてしまったのは悪いと思っている。本当は直ぐに立ち去るつもりであったのだが、恥ずかしかったが興味もあって止まってしまって、目が合ってしまって」

 俺が近づいていくと、ヴァイオレットさんは慌てながら謝っているのかどうか微妙な事をあわあわとしながら言い出した。普段であれば違う言い方も出来ただろうが、どうもよく分からず言葉を喋っているようだ。可愛い。

「ヴァイオレットさん」
「は、はい」

 俺はヴァイオレットさんの両肩に手を置き、少し視線を下げると目の前に来る顔を見つめる。うん、上目遣いは良い。クリームヒルトさんも上目遣いではあったが、ヴァイオレットさんのこの表情を伴う視線の方が好きである。
 そこも重要だがそれはともかくとして。今重要なのは別にある。

「ヴァイオレットさん、俺の――」
「ク、クロ殿に喜んで貰えるのならば、別に着ても良いぞ!」

 と俺が言葉を言い切る前に、ヴァイオレットさんは了承の言葉を慌てながら言い出した。
 え、良いの? まだなにも言ってないけど良いの?
 今ヴァイオレットさんが俺達の会話を聞いて怒ったり軽蔑したりするのではなく、照れているので行けるとは思ったが、本当に良いのだろうか?

「だがシアンの格好は……い、いやシアンが恥ずかしい格好をしていると思っている訳では無くて、下着無しというのは……まだ、恥ずかしいから、後にして欲しいと言うべきか、アプリコットの格好なら……」

 と思っていたが、ヴァイオレットさんは俺が思っている方向とは違う方面の勘違いをしていたようである。
 俺が言いたかったのはそういう事ではなく――え、まだ、無理? シアンの服装のような格好をいずれはしてくれるのだろうか? ……俺に喜んで貰えるために? ……よし。

「そ、そうだ、ロボの服装ならば良いぞ、喜んで着よう!」
「ヴァイオレットちゃん。あの外装は誰が中に居ても変わらないと思うんだ」
「で、では学園服を着よう! シアンが帰ってきたらクロ殿にお見せしよう!」
「その言い方だと私達が普段挑戦しなきゃ着られない服を着ているみたいだね。ほらほら、クロさんが喜んでもらえるのなら、まずは挑戦していかないとー」
「う、うぐ……」

 いや、よしじゃない。そもそもシアンの服装はスリットはともかく、教義上の服装であって女性に着てもらって興奮するために着てもらうものじゃない。ヴァイオレットさんが着ている姿は見てみたいけれど。
 それに俺が言いたかったのは違う話題である。
 俺はいつの間にやらボードゲームを持っているクリームヒルトさんと話しているヴァイオレットさんへと向き直り、改めてジッと見つめる。

「その……クロ殿は私にシアンのような服装やアプリコットのような服を着て欲しいのだろうか……?」
「ヴァイオレットさんが着てくださるのなら嬉しいのは確かですが……一応言っておきますが、ヴァイオレットさんが着られるから意味があるんですからね? 貴女が着るからこそ俺は嬉しいんです」

 そこは言っておかないと俺が普段からシアン達をそういう目で見ている事になってしまう。なのでヴァイオレットさんが着るからこそ意味があるのだという事はハッキリさせなくては。
 あれ、でも顔が更に赤くなった。可愛いけどなんでだ。

「というか、それは後で話しましょう。今はそうじゃないんです」

 見えていないがクリームヒルトさんが「後では話すんだ……」的な表情をしていると思うのは気のせいだろう。
 ともかく早く言いたい事を言わせてもらおう。

「ヴァイオレットさん、俺が作った服を、着てもらえないでしょうか」

 俺が言った言葉に、ヴァイオレットさんは少しキョトンとした表情になった後に疑問顔になる。

「クロ殿が作った服ならば、パーティーでのドレスも着た事もある上、普段着でも着ているモノはあるが……?」
「いえ、着て欲しいのはウェディングドレスです」
「ウェディン……!?」

 そして俺が更に付け加えた言葉に、ヴァイオレットさんは驚愕の表情へと変わり、クリームヒルトさんが視界の外で「おおっ!?」と言っているのが聞こえた。

「唐突な結婚なうえ、忙しくて流れていた結婚式ですが、やはりきちんと行いたいですし、なによりも――」
「……なによりも?」
「美しくウェディングドレスを着飾ったヴァイオレットさんをこの目で見たいです! 綺麗なヴァイオレットさんが着るんです、それはもうシアンとかアプリコットの服を着るよりも遥かに素晴らしいものになります!」

 別にシスター服や魔女服を馬鹿にしている訳では無いが、着飾ったりする話をしていく内に思い出したのがウェディングドレスである。白無垢とかも良いけれど。
 一応はいずれキチンと執り行いたかった思いもあったが、そんな余裕も無いし、なによりもウェディングドレスを着るような盛大な結婚式の了承を得られるかどうかという不安もあったので言わずにいた。
 別にせずとも結婚生活は幸せであるので、小さい結婚式だけでもしようと思っていたが、色んな衣装の話をしていたらどうしても見たくなったのだ。なんというか慌てふためく可愛らしいヴァイオレットさんを見るとその欲求が強まったのである。
 後はヴァイオレットさんの了承を得られるかどうかだが……

「……良いです、よ。貴方が着て喜んで貰えると言うならば、私も着てみたい、です」

 と、俺に対して珍しく敬語を使い、視線を伏せながらも了承の返事をしてくれた。
 やった、これでヴァイオレットさんのウェディングドレス姿を見る事が出来る!

「よーし、こうしてはいられない。さっそく取り掛かるために糸と布を仕入れなくては! ちょっとそのためにも出かけてきます!」
「クロ殿、外はまだ吹雪だぞ!?」
「はは、今の俺の前ではそよ風ですよ、ではいってきます!」
「そもそも今買い付けできる者も居ないのに何処へ行くつもりなんだ!? く、クロ殿、クロ殿ー!?」







「クロさん、本当にヴァイオレットちゃんの事好きなんだな……でも、まさか……ね。気のせいだよね、うん」

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