追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

銀が慣れてしまうまで_4(:灰)


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 昼食を食べ終えると、何処からか現れたカーキー様が私達の元へと現れた。
 唐突な男性の出現にシルバ様はメアリー様を庇うように立ち、警戒の意志を示す。するとカーキー様はその様子を見て目の色が変わり、にこやかな笑顔になり一礼をする。

「やぁ美しき子よ。俺はカーキー・ロバーツ。親しくカーキーと呼んでくれて構わない。美しき君に惚れた! どうだ、俺と今夜一夜の夢を見る気は無いか!」
「メアリーさんに手を出すな! 彼女はお前みたいな軟派なヤツに相手が務まるような女性じゃないんだ! もしこれ以上付きまとう気なら僕だって――!」
「落ち着いてください、シルバ君。庇ってくれるのは嬉しいですが、魔法は駄目です。それに……」
「なにを勘違いしているんだ、金髪赤眼の彼女は確かに美しい。普段の俺ならばお相手を願いたいくらいにはな。だが、相手が違うんだ」
「え? ……あ、クリームヒルトか? だとしても彼女は僕の友達だ。彼女に無理矢理手を出すのも許さないからな!」
「なにを言っているんだ――君さ、銀色の髪が美しい少年」
「……は、僕!?」

 カーキー様が手を握ったのはシルバ様。唐突な出来事にシルバ様は困惑する。

「なんて事だ、俺が女性よりも先に男に興味を持つなんて。だがまさにこれは運命の出会い! どうだシルバ君とやら、俺の閨に来ないか、後悔はさせないぞ!」
「え、いや!? そ、そう、王国では三親等間婚姻とか同性愛とかは法で禁じられている! だから駄目だよ!」
「シルバ君、論点がズレていると思うよ」
「なにを言っている。俺の血の繋がった兄上と妹君は愛し合っているぞ。だから同性とか法律とか些細な問題さハッハー!」
「え!? いや、……え!? というかそんな問題じゃない! は、離せ! 助けて!」

 助けを求めると、アプリコット様が割って入り丁重に断りを入れていた。
 シルバ様はカーキー様が去るまでビクビクとしていたが、去ったら去ったでアプリコット様に頼った事を情けなく思ったと仰り、落ち込んでいた。
 ………………。







 シルバ様が落ち込んだので少しでも気を紛らわせるようにと、 多くの種類のキノコや育っている環境を見ると思いの外楽しいものなのでキノコを多く栽培しているカナリア様の所へ行く事になった。
 しかしカナリア様がキノコを栽培している所に赴くと、とある事件が起きた。
 そう、キノコの大量繁殖である。

「あ、あれは! 一ヵ月に一度の頻度で起きるキノコ衝撃波ハザード! すまないが皆の衆、収めるのを手伝ってはくれぬか!」
「結構な頻度で起きているな!?」
「え、カナリアさんが育てているキノコ!? 大量発生したのなら少し持ち帰っても良い!? 美味しいし何故か錬金魔法の素材にも良いんだよね!」
「カナリアさんならば大丈夫だと言ってくれるはずであるぞ!」
「やった! 大丈夫、キノコを片づけるコツは既に分かるから!」
「クリームヒルトはなんで慣れているんだ!?」

 キノコ衝撃波ハザードはメアリー様の活躍によりすぐに終息した。とはいえ、あくまでもキノコが大量に外に出て来ただけであったようであるが。
 クリームヒルトちゃんとメアリー様とは少し離れ、私達が後片付けをしていると頭にキノコを生やしたカナリア様が部屋から出てきて感謝の言葉を私達に述べ、お詫びにと皆様方にとキノコをセットで数束を配られた。

「ごめんなさい、皆。ちょっと栽培倍率一桁間違えてしまいまして、気が付いたら大量繁殖しており、部屋を開けたら中のヤツがドバーッと出て来た次第です」
「いや、構わないけど……栽培倍率、ってなんです?」
「……見た目では分からないかもしれませんが、実は私は森の民であるエルフなのですが……」
「はい、耳を見れば分かります」
「森の民であるエルフだからこそ出来る、キノコの栽培方法があるのです。キノコの表情を読めば、栽培を一気にこなす事が可能なのですよ」
「おお、エルフっぽい……!」
「ふふ、でしょう?」

 カナリア様はシルバ様に褒め称えられ、長いお耳がピクピクと動かしながら自慢げにしたり顔の表情になる。
 それを見てアプリコット様がカナリア様の説明に補足をした。

「ちなみにその栽培方法とは、ようはとりあえず育てて元気だったらそのまま行く、であるぞ。ただの経験則だ」
「実体験に勝る経験は無いですからね!」
「エルフ関係無いな、それ」
「あ、シルバさん。背中にキノコが生えているぞ」
「え、取ってくれるか――待て、ゴミが付いているみたいなノリで言わないでくれ。背中にキノコが生えているってなんだ」
「ほれ、取れたぞ」
「うわ、本当に生えてた!?」
「あ、こちら焼くと良い香りがしますよ。クロがお吸い物によく入れています」
「うむ、クロさんはよく食べているな。我で良ければ作るが、どうだ?」
「自分の背中に生えたモノは食べたくないかな……」

 ………………。







「どういう事なんだよ、もう!」

 午後も一通りシキの皆様方と交流すると、シルバ様は頭を抱えて理解が出来なさそうに叫んだのであった。
 どうもなにかに理解する事が出来ずに、現実逃避をしているように見えるが、私には何故そうしているかが分からない。分からないので、どう声をかけて良いかも分からない。

「あまり気にするではないぞ、シルバさん」
「いや、気にするなと言われても……」

 そんなシルバ様に対し、アプリコット様が近寄って、慰めるかのような声色と仕草で声をかけられた。

「確かに真似してはならん者達も多くはいるが、それが否定して良い理由にもならぬ。クロさんだって迷惑を掛ければ怒りはするが、余程でない限り趣味嗜好は否定せぬ。好きを否定してはその者を抑えつける事になるし、皆は己が快楽為だけに行動してなにも産まない訳でも無い」
「いや、今僕に迷惑は掛かってい居ると思うんだがな。僕が性的思考の対象にされたり、キノコを大量増殖させたり、……性的な目で見られたり」
「そうであるな」
「そうであるな、じゃない。……でも、確かに頭ごなしに否定するのもな。皆色々と貢献はしているみたいだし、危険な行為はともかく、偏見を持ったら……いや、でも……同性愛は……」
「まぁ、首都などで過ごすのならば無理して慣れる必要もあるまい。シキここは特殊であり普通だ。こういう者達も居る、という程度に思っておけば良いと思うぞ」

 悩むシルバ様に対しアプリコット様が助言を仰り、一先ずは悩みはするが現実逃避は止めたようである。私には何故現実逃避をするのかは分からないため、理由が分かり、クリームヒルトちゃんやメアリー様と違い、シキに住んでおられるアプリコット様がフォローするのは間違いでは無いのだろう。
 間違いでは無いのだが……

「……アプリコット様」
「む、どうした弟子よ?」

 私はアプリコット様の服の袖口を摘まんで引っ張り、名前を呼ぶ。
 失礼なのは分かっているが、どうしても他の方々に聞かれたくない、尋ねたい事があったのだ。

「その、シルバ様を気にかけておられるようですが、何故でしょうか?」
「何故、か。ふむ……昨日の事故があっただろう?」
「はい」

 私が頷くと、アプリコット様は杖をサク、と雪に軽く差して、クリームヒルトちゃん達となにやら話しているシルバ様の方を見る。

「彼らは隠してはいるようであるが、あまり触れられたくない事に我が触れてしまったようでな。その罪滅ぼし……とは違うが、代わりにというヤツだ。我が補助できる事ならば、手助けをしたいと思っただけである。……彼らには機密だぞ?」
「……はい」
「? 不満そうだな、どうしたのだ?」
「いえ、そのような事は有りません。……有りません」

 特に不満などない。
 アプリコット様は気を使われるお方であるし、私に気付かない機微も読み取ることが出来るお方だ。ならば粗相をしたと認め、陰ながらでもフォローをなさるのならば立派だと私は思うし、見習いたい。
 だけど……なんだろう、この感覚は。

「アプリコット様!」
「お、おお、どうした弟子よ。急に大声を出すでない」

 気が付くと私は大きな声を出してアプリコット様の名前を呼んでいた。
 私の声に、アプリコット様だけでなくクリームヒルトちゃん達も少し離れた所で反応していたが、気にはしていられない。

「アプリコット様は今年アゼリア学園に入学なされるのですよね! その、クリームヒルトちゃんやメアリー様、と、シルバ様がおられる……それにシャトルーズ様もおられる……」
「ふむ? まだ確定では無いがな。申請さえすればいつでも入学試験は可能だ。我には突破は容易であろうが」
「わ、私めも――」
「弟子も?」

 そこで私は言葉が詰まり、どうすれば良いかと言い淀んでしまう。そもそも何故急に私自身がこのような事を言いだしているのかもよく分かってはいない。少々驚かれているアプリコット様の他に、クリームヒルトちゃん達も何事かとこちらを見ている。
 そう、クリームヒルトちゃんだけではなく、メアリー様やシル――っ、

「私めも推薦により今年アゼリア学園に入学致します! アプリコット様とは同級生になるので、どうかよろしくお願いしますね!」
「…………ふむ?」

 私の宣言に、アプリコット様は珍しくいつもとは違う口調で返事を為された。いつもは凛々しいのに対し、あまり見ない呆気にとられたかのような表情であった。





備考:シルバの状態:常識が崩れかけ

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