追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

銀が慣れてしまうまで_3(:灰)


View.グレイ


 シアン様と軽い交流と、何故領民数に見合わない立派な教会があるのかなどの説明を受けた後、私達はシアン様と別れてシキの案内兼領民の皆様との交流を再開した。
 シルバ様は最初は昨日の事故が原因なのかは分からないが少し元気が無かったように思えたが、シアン様との交流で少し緊張が和らいだようだ。今では不思議と前を向いている気がする。

「ねえ、ところで昨日も聞いたけどシキってそんなに変わった所なの? ブラウン……という子は変わっていたかもしれないけど、シスターも敬虔な信徒だったし……あの黒魔術師みたいなのは怪しかったけど……」

 そしてシルバ様はメアリー様に疑問を投げかけていた。
 このシキの案内は女子会にてシルバ様がシキに関し疑問を抱き、何故かヴァイオレット様達が「シアンは常識者だ」と仰ったため提案されたものだ。私的にはよく分からないのだが、私が育ったシキを知ってもらえるキッカケになるのならば別に良いと思い特に意見は挟んでいない。

「皆さん個性的な御方ばかりですよ。ですが……」
「ですが?」
「……そうですね。ヴァイオレット達がどういう環境で住んでいるのかは私ももっと知りたいですし、シルバ君も知った方が良いと思いますから」
「? 分かったよ。でも僕も改めて思ったんだ。偏見は良くないし、変と評されても、メアリーさんの言うようにあくまでもそれはそれぞれの個性だ。僕自身が色眼鏡を持たずにシキを見ようと思うよ」
「成長しましたね、シルバ君」
「……言っておくけど、僕とメアリーさんは同級生だからね」
「ふふ、分かっていますよ」
「分かっていない気がする……」

 シルバ様はむくれ、メアリー様はその様子を見て再び優しそうに微笑む。その微笑みを見てシルバ様は一瞬見惚れていたが、すぐに子供扱いされていると思ったのか、そっぽを向いた。
 しかし、なんだろうか。動きはともかく、私は今の会話の別称を知っている気がする。確か、ええと……

「ねえアプリコットちゃん」
「どうした、クリームヒルト」
「私知っているんだ、ああいう会話をどういうのか」
「ああ、我も何故か分かる気がするな」
「うん、あれって……」
「皆まで言うな、クリームヒルト。……シキの案内は、これからだからな」

 あ、思い出した。確かフラグと言ったはずだ。







「このシキはおかしなこせいてきなヤツが多すぎる」

 雲はかかっているが雪も降っていない昼食時。アプリコット様が作られた簡単に摘まめるものや保温された飲み物を見晴らしのいい場所で錬金魔法で即席で作ったスペース椅子に座って頂きながら、シルバ様はぐったりとした様子で呟いた。先程までの元気さが嘘のようである。

「あはは、個性的で楽しいよね。あ、美味しい。アプリコットちゃん、これどういう味付けをしているの?」
「付き合ってみれば良い方たちばかりであるぞ? うむ、まずは一度焼いてからバターを塗ってだな」
「私めにとっては皆様尊敬するお方ばかりなのですが、皆さまは初め疲れたような表情を為されるのですよね。あ、メアリー様、こちら温かいスープになります」
「皆さんイキイキしていますよね。ありがとうございますグレイ君。……ふぅ、美味しいですね」
「なんでお前らは普通に過ごせてるんだ……? メアリーさんやクリームヒルトまで……」

 何故か疑問を持たれるシルバ様。
 これはクロ様が以前仰っていたゼンモンドウのソーモーさんとセッパというヤツだろうか。つまりシルバ様は普通とはなんぞやという事を問いただしているという事なのだろう。

「シルバ様。私めで良ければ疑問に答えますよ。皆様が素晴らしいお方であるので、なにが普通かという不変の主題を定義と議論をしたかったのですよね」
「なんだか妙な勘違いされている気がするけど……とりあえず聞きたいんだけど。別にグレイだけじゃなくって、皆にも聞きたいんだ……」

 シルバ様の言葉に、この場に居る方々が食べるのを止めシルバ様の方を見る。
 それとアプリコット様が私の言葉に「今の言い回しは良いぞ、弟子」とサムズアップしてくださっていたのが少し嬉しかった。

「あの毒草を手にしては怪しげな笑いをしていた女の子はなに?」
「エメラルド様ですね。薬学に優れたあの年齢で調合の許可が下りている素晴らしき薬剤師です。実体験に勝る調書は無いというのがモットーで、毒を食べて自身の身体で治すのが、ええと……興奮してえくすたしーになるそうです」
「……そうか。じゃあ、あのグレイを見るなり目が少し血走って、僕を見るなり“もう少し身長が……”と言っていたあの鍛冶師はなに?」
「あの場でも説明したけど、帝国での伝説の鍛冶師さんなんだって。シャル君の今の刀もブライさんが作ったんだよ? あと、シルバ君は半ズボンさえ履けば行ける! だって呟いていたよ」
「まったく嬉しくない情報をありがとう、クリームヒルト。じゃあ身体に剣と槍が貫通していて、それを興奮しながら治していた医者と患者は! 明らかに大事件でしょ!?」
「患者はベージュさん夫妻の妻であるな。殺し合う事が愛の形だと信じている夫婦でな。大抵は自己治癒で治るが、治しきれない傷が偶にできるのだ。そして医者が怪我を治すのが大好きなアイボリーさんだ。ベージュさんの怪我は彼にとって興奮が抑えきれない新規の怪我しょうじょうばかりらしい」
「何処から突っ込めばいいの!? あとなんでゴブリンと女騎士様が夫婦になっているの!? 討伐対象じゃないの!?」
「素晴らしかったですよね、私感動しました。愛という形の一つの可能性を垣間見えましたよ。甘々で素敵な夫婦じゃないですか」
「メアリーさんまで! なんで皆受け入れられるんだよ!! こんなの……こんなの……!」

 シルバ様は何故か地面に手を付き項垂れた。地面は雪があるのだが冷たくないのだろうか。
 するとクリームヒルトちゃんが項垂れるシルバ様の傍により、落ち着かせるようなポンポンと肩を叩いて言葉を掛けた。

「大丈夫? 女性の胸を触ると男女問わず落ち着く、って聞いた事があるけど、私の触る? 落ち着くかもしれないよ」
「触らない。クリームヒルト、お前は恥じらいを持て」
「そっか……やっぱりメアリーちゃんの方が良いの? 私より遥かに大きいし、形綺麗だし」
「え」
「へ? ……触りますか? それでシルバ君が落ち着くのなら構いませんよ?」
「い、いや、良いよ! 大丈夫だから!」

 シルバ様は顔を真っ赤にして首を横に勢いよく振っていた。
 女性の胸に触ると落ち着く……それは本当だろうか。だがクリームヒルトちゃんが仰るのだ。事実なのだろう。
 だがあまり親しくない間柄の異性の身体を触るのは失礼であるし、私がそれを試すとなると……アプリコット様だろうか。

「触りたいのか、弟子?」

 私がアプリコット様の方を見ていると、アプリコット様が触りたいのかと尋ねて来た。
 だが生憎と今の私はシルバ様のように感情が昂ってはいないので、首を静かに横に振る。

「いえ、今の私めは落ち着いていますし、必要無いかと」
「そうか。慌てたら触れば良いぞ。我も本当に効果があるのか試してみたいからな」
「はい、その時はよろしくお願いします」

 しかし、女性の胸を触ると落ち着くというのは初耳だ。いわゆる母性を感じるというモノなのだろうか。カーキー様もよく大好きだと公言していたので、その類だろう。
 今度クロ様とヴァイオレット様にお教えして差し上げよう。慌てた時に効果があるのなら、クロ様をヴァイオレット様に飛び込ませるように後押ししてみるのも良いかもしれない。よし、今度そうしよう。

「……あれって、仲が良い、って事なのかな」
「……多分そうだけど、互いに意識していないんだろうね、仲が良すぎて」

 ふとシルバ様の方を見やると、何故かクリームヒルトちゃんとシルバ様が私達の方を見てなにか話をしていた。どうしたのかと聞いてみてけれど、上手くはぐらかされてしまった。
 ……なんだったのだろう?





備考:シルバの状態:まだ正気

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