追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

その頃の攻略対象達_3(:茶青)


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「それともなに、友情を優先しているとか処女おとめ崇拝しているとかそういうのなの? 俺達では汚す事すら躊躇われるからいけないんだーとかいう感じなの?」

 スカーレット様は私達の誰ともメアリーと付き合っていない事が事実だと知ると、何故そんな状態になっているのかと問い質す。
 野次馬根性で知りたがっているのもあるだろうが、なにか問題があるのではと心配しているようにも見える。
 確かに外部から、特に暫く王国に戻っておらず、メアリーを直接見ていないだろうスカーレット様が話だけを聞くならば先程仰っていた「ポンコツヘタレ共」は言い返すことが出来ない。私も結果だけ見ればそう評価されてもおかしくないとは思っている。

「違うのです、スカーレット殿下。私達が誰とも付き合えていないのは――」
「いないのは?」
「メアリーが素晴らしき存在だからなのです」
「……はい?」

 だが、私達がヘタレである事を言い返せないのであれば、いかにメアリーが素晴らしい存在なのかを語れば良いと私達は考えた。そう、我々がメアリーと付き合えていないのは素晴らしい存在であるからこそ起きてしまった偶然であり必然の出来事なのだ、と。

「貴方達はなにを言っているの」

 実際に会わないと分からないあの存在感と魅力を如何にして言語化すれば良いのかと一瞬悩んだが、メアリーの良い所を語る内にそのような些事は消え失せ、気付けばメアリーの素晴らしさをスカーレット様に説いていた。

「――ですから、私達はいつでも彼女と付き合いたいと思っているのです」
「アピールもしている。好意も少なからず抱かれている自負はある」
「だが、メ――アイツの前では、俺達は素晴らしさに酔いしれてしまうのだ。……です」
「私達の想いと行動は常に前を向いて行われているのです。ご理解いただけましたでしょうか」
「う、うん。貴方達がメアリー・スーを好きなのはよく分かったわ。なんか色々言おうと思ったけど、貴方達の熱意を見ていたら吹っ飛んじゃった」

 どうやら私達の想いは伝わったようである。
 若干引いているような、気持ち悪がられているな気もするが、そこは仕方の無い事だと諦めよう。愛とはそういうものだ。……む、なんだろう。今の私は最近自身の頭を悩ませ始めている者と同じ存在になったような……気のせいだろうか。気のせいだろう。気のせいと思っておこう。

「メアリー・スーは手強いみたいねー。ま、アンタらは少しは自分の立場を理解しなさいよ」
「立場、ですか。それはやはり……」
「そ。原因はヴァイオレットにあったとしても、女を取り合って決闘したという事実は変わらないんだから、別の男に取られようとこの仲の誰かと結ばれても今後には影響するって事よ。……五股する女、って訳でも無いんでしょ」
『勿論です!』
「……本当に貴方達メアリー・スーの事好きね。私も会ってみたくなったわ」

 スカーレット様は私達の熱意に押され、先程まで浮かべていた笑みではない呆れとも興味とも取れるような表情になる。私やヴァーミリオン、シャルが警戒していた笑顔が消えたという事は、説教などをする予定が無くなったという事だろうか? 何故なのだろうか。

「当然です。姉さんもいずれお会いになる時は来ます。そう、義妹として紹介いたしますので、楽しみにしてください」
「おいヴァーミリオン。聞き捨てならんぞ。メ……アイツは我が家にて騎士団長の妻となる存在だ」
「はは、面白い事を言うな。メアリーは我がオースティン家に迎え入れるのだからそんな未来はないぞ」
「キミ達相手ではメアリーさんも気も休まらないだろう。我があらゆる魔法分野の発展に貢献しているフォーサイス家に嫁入りするのが彼女の一番の幸せな道さ」
『………………』

 私達は睨みあう。
 この場や時間帯がパーティー中ではなく学園ならば、今すぐケリを付けるために闘技場に言って白黒つけるというのに。

「あーはいはい。分かったから。落ち着きなさい貴方達」
「スカーレット姉さん。これは譲れない戦いなのです。いくら姉さんでも――」
「分かったから、そういうのはメアリー・スーがいるとこでやりなさい。居ない所で勝手をやって彼女が喜ぶの?」
「……そうですね」

 一触即発の雰囲気であったが、スカーレット様の言葉に私達は睨みあうのをやめた。
 確かにここで争っても意味はない。メアリーが愛おしし過ぎる存在なのでつい我を忘れてしまったが、落ち着かなければならない。

「はぁ。……あ、そうだ。ヴァイオレットって今何処に居るの?」

 私達が落ち着いたのを見ると、小さな溜息を吐いてスカーレット様が話題を変えようとしたのか分からないが、思いついたように聞いて来た。

「アイツの居場所になにか?」
「いや、あの子はあまり好きじゃなかったけど、不遇な扱いを望むほど嫌いでも無いから。どんな扱いを受けているのか、って思ったの。……あのバレンタイン家だし、少し気になってね」
「……そうですね。気になるでしょう」

 あの、とわざわざ言うあたり、スカーレット様はバレンタイン家が好きではないようだ。
 ヴァーミリオンはどういうべきか悩んでいたので私が代わりに言おうとするが、ヴァーミリオンに手で制されたので口を出さない事にした。

「ヴァイオレットのヤツは、今はハートフィールドという男爵家の者に嫁いでいます」
「……ハートフィールド? って、もしかして……」
「はい。……姉さんも名前はご存知かと思われます。カーマイン兄さんの一年次決闘の、あの者の元です」

 スカーレット様はクロ・ハートフィールド男爵の二つ上のため、同じ時期に学園に通っていたはずだ。ハートフィールド男爵の箝口令が敷かれた当時の試合は時間帯と学園祭の別の出し物の影響であまり見る者が居なかったと聞くが、試合を直接見た可能性もあるだろうし、見ていなかったとしても弟君であるカーマイン様の殺害未遂者である。
 そのため名前くらいは知っていてもおかしくは無いのだが……

「……クロ君と結婚したの? ヴァイオレットが?」

 しかし、スカーレット様の反応は私達の予想したものとは違っていた。
 “クロ君”などと呼んで、意外そうな表情で口を小さく開けている。
 ハートフィールド男爵が何故そのような事をしたかは分からないが、クロ・ハートフィールド自身は血の繋がった弟君を害する者であるので、あまり良い印象を持っていないモノと思っていたのだが……

「はい。クロ・ハートフィールドとですが……」
「そっか、クロ君とヴァイオレットが……そうなんだ……」
「……スカーレット姉さんはハートフィールド男爵を……名前以外で知っておられるですか?」
「うん、知っているよ。学園生時代はあまり話した事がないけど、後輩だったし。それに……」
「それに?」

 スカーレット様はそこで言葉を区切ると、顎に手を当て考える仕草を取る。
 私達は疑問に思いつつも、スカーレット様の続きの言葉を待っていると、考える仕草のまま言葉を続け。

「私の初めての相手だからね」

 爆弾発言を呟いた。





備考
スカーレットの当初の予定では、弟たちを問い詰めて今の立場や今後について説教する予定でしたが、メアリーを熱く語る姿を見て「あ、これなに言っても無駄だわ」と思ってしまった感じです。

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