追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

次兄次女の査定と過去話_2


 色々な葛藤はあったがとりあえず部屋に戻り着替え、改めてダイニングルームに行くと昼食が用意してあった。
 聞く所によると昨日の夜と今日の朝にかけて女子会をしていたため朝昼兼用の食事らしく、俺が帰って来た頃には作る終盤であったらしい。グレイ達も手伝ってはいたが、丁度ヴァイオレットさんが仕上げの部分待ちであったため、ヴァイオレットさん以外が出迎えを出来たらしい。
 というか女子会ってグレイとシルバも参加したらしいのだが良いのだろうか。それに女子会と言うと前世の同僚が酒を愚痴を言いながら飲んで、数時間後には吐いている風景しか思い浮かばないのだが……大丈夫だったのだろうか。

義兄様にいさま義姉様ねえさまが?」
「はい、挨拶とか色々するために来るみたいです。準備があるので午後にはなるらしいですが」

 ともかく皆で食事を摂りなが(ヴェールさんは帰った。なにしに来たんだ)ら、俺は兄と姉と来訪を告げた。その報告にヴァイオレットさんは多少は驚いていたが、経緯……変態を思い出して苦しんだ所以外の、俺が結婚した事を知らなかったので弟の嫁ヴァイオレットさんに会いたがった事を伝えると、むしろ公爵家じっかが迷惑を掛けたと申し訳なさそうにしていた。
 一応ゲン兄とスミ姉がどんな感じの相手かを伝え、俺とは友好的な間柄な事を伝えた。

「ゲン様とスミ様はお優しいお方です。私めがクロ様の養子となる際にも親しく接してくださったお方なので」

 グレイが俺の説明の後にそう言うと、何処か安堵したかのような表情になっていた。
 俺がどうしたのかと尋ねると、

「いや、仲の良いご兄妹が居る事に安心したんだ」
「先日の学園では話しかけられもしませんでしたからね」
「それも少しあるが、家族に味方が居たのだ。こうして弟が心配で見に来るくらいにはクロ殿が好かれているようで良かった、とな」

 と、微笑まれながら言われた。
 良かった、この微笑みだけで領主会議期間中(約二日)の足りない分は補充出来たぞ。
 でも、家族に味方……か。ヴァイオレットさんの親と兄弟の話はあまり聞かないが、仲が良くないことは確かだ。経緯が経緯だし、バレンタイン家には味方が……下手をしたら、決闘の前から親や兄と親しくしていなかった可能性もあるからな。俺も親や長兄とは元から親しくは無かったが。

「むぅ、それなら私達は居ない方が良いかな」
「申し訳ない。せっかく来てもらったのに」
「あはは、別に大丈夫だよ。気にせずお兄さん達にラブラブぶりをアピールしてきてね!」
「う、うむ。分かった……?」

 クリームヒルトさんが食べている合間にこちらを見てサムズアップしてくる。ラブラブぶりをアピールするとかはともかく、仲の良さはアピールしなくてはいけない。
 だけど仲の良さをアピールってどうすれば良いのだろうか。ヴァイオレットさんは対外的に誰かと接する場合は、トラウマ対象でもない限りは感情は揺り動かないように抑えるからな。アピールするのは難しいかもしれない。……まぁ変態相手だと割と感情が動いている気もするが、ゲン兄とスミ姉はシキの領民ほど変態性は無いし。

「私達は会っている間にシルバ君にシキの皆さんと交流を図ってもらうからね」
「そうだな、色々と大変だとは思うが頑張ってくれ」
「……ねぇ、なんで交流を図るだけなのに頑張るという単語が出て来るの? 僕を馬鹿にして――」
「ヴァイオレットはシルバ君を心配しているのですよ。疑っては駄目です。頑張りましょうね」
「メ、メアリーさんまで。ねぇ、本当になんで!?」

 クリームヒルトさんがこれからの予定を語り、メアリーさんがシルバを宥めた。
 頑張ってとしか言いようが無いのは領主としてもどうかと思うが、そうとしか言いようが無いから困りものである。
 とりあえず格好はシルバには刺激的かもしれないが、常識的なシアン辺りから接するのが良いかもしれない。

「それじゃ、片付けよっか」
「クリームヒルト、片付けならば私達がやるからぬるま湯にだけ付けておいてくれ」

 いち早く昼食を食べ終えたクリームヒルトさんが、ご馳走様と言った後に自身の皿を集めて洗おうとしていた。恐らく俺達が準備をする必要があるので、早めに片付けて屋敷を出ようとしているのだろう。相変わらず気の利いた子である。

「でも準備しないといけないんじゃ……」
「片付ける暇くらいあるから、気にしなくて良いぞ」
「うーん……いや、洗っておくよ。少しでも準備が出来るようにしなくちゃ。お化粧して着飾ってお兄さん達に素敵なお嫁さんだと思わせる準備をしなくちゃ!」
「ヴァイオレットさんならいつも通りでも充分にそう思って貰えるから大丈夫ですよ」
「あ、そうだね!」

 そこの所は全く心配はしていない。今の状態で俺には勿体無いほどの嫁です。手放す気はありません。

「ぅ……その気持ちはありがたいが、私とて義兄様と義姉様に会うのならば、多少の身なりは整えたいのだが……」
「あ、そうですね。ごめんなさい、気が回らなくて」
「……けど、ありがとう」
「はい、どういたしまして?」

 ん、何故俺は感謝の言葉を言われたのだろうか。
 だけど感謝されたのなら素直に受け取っておこう。そして言う通り準備をしなくてはならないな。格好自体は来客にも対応できるような服装ではあるので問題ないだろうが、準備すべき事もあるだろう。
 それにあの兄達の事だから、気が早ってすぐに来訪するとかありそうだし。

「……本当に変わったんだな、アイツ」
「なにか言いましたか、シルバ君?」
「いや、なんでもないよ。グレイが何処行ったのかな、て言っただけ」
「そういえば少し前から見ていませんね」

 ふとそんな会話が聞こえ、周囲を見ると確かに先程まで居たグレイが居ない事に気付いた。おかしいな、いつの間に出ていったのだろうか。
 食後の紅茶や珈琲でも淹れに行ったのだろうか……と思っていると。
 誰かがこちらに近付いてくる足音が聞こえた。音からして複数名のようであるが。

「――失礼しても良いだろうか」

 幼少期から知っているような声が聞こえ、何故その声が聞こえるかと思うと同時に、なんとなくこの後の展開が読めてしまいどうしようかと少し悩む。
 少し悩んだ後に、まぁいいやと思い事の成り行きを見守る事にした。

「……誰だろう?」

 急に聞こえてきた声に、クリームヒルトさんが疑問の声をあげる。
 ヴァイオレットさんは知らない声に警戒をしていたが、俺が小さな声で大丈夫だと告げると疑問顔になり、成り行きを一緒に見守っていた。
 そしてダイニングルームの扉が開かれ、中に入ってくるのは――

「初めまして、ヴァイオレット嬢。俺はゲンGen――あ」
「私はスミSumi――あ、来客中でしたか。ごめんなさい」

 そう、新しい服に着替えたゲン兄とスミ姉。無駄に格好良く決めようとしていたが、予想外の光景に固まっているように見える。
 微妙な間が開き、クリームヒルトさん達もどうすれば良いのかと言葉を探している中、俺はとりあえず紹介をしておく。

「はい、という訳でヴァイオレットさん。こちら、“テンションが上がって早めに来てしまい、そして威厳があるように見せかけるために、まずは唐突に現れて反応を確認した後に、少し口数少なめにクールにしようとしたけれど予想外の来客に戸惑っている”ゲン・ハートフィールドとスミ・クローバーです。こんな兄と姉ですが、よろしくお願いしますね」
『そういう事言うのやめてよ!』

 でも事実であるから仕方ない。どうせこの服での登場ならいけるんじゃないかと新しい服にテンションが上がった結果だろうし。

「はじめまして、ゲン義兄様、スミ義姉様。私はクロ・ハートフィールドの妻となったヴァイオレットという者です。この度はご報告とご挨拶が遅れた事を謝罪いたします。これからも家族として末永いお付き合いが出来るよう、よろしくお願いします」
『あ、はい。よろしくお願いします……』

 そして日常的な服装でも、所作などで気品が溢れているヴァイオレットさんとまさに天と地の差である。
 ……うん、こういった所作のヴァイオレットさんは格好良くて好きである。

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