追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

年始の白による騒動_2(:偽)


View.メアリー


 私は愛を知りたかった。
 ただそれだけであったのです。
 愛ゆえに身分が上のヴァーミリオン君とだろうとアッシュ君やシャル君、エクル先輩とだろうと、敵対することが出来るクロさん。
 ある意味で言えば私も身分が上の相手にも気にせず発言はしてきましたが、私は本当に“適切なタイミングでしてきた”だけであるので、クロさんのヴァイオレットへの愛ゆえに行動した者とは違っていたのです。だからその行動原理を知れば私もなにかに向き合えるのではないかと思ったのです。

「だからごめんなさい。浮気でもなんでもないんです、ヴァイオレット」
「……本当だろうな」

 私はやけに声の抑揚のないヴァイオレットの前で弁明していました。
 普段ならば誰かに会話を聞かれないように注意を払っていたのですが、周囲が見えなくてヴァイオレットの部屋への接近に気付かなかったようです。

「用事が終わって家に帰って来て、グレイの様子を見にいくと……お前が来ていると聞いて駆けつけてみれば、愛を教えてくださいと我が夫に迫っていたのだぞ。しかも接近して今にも手を取りそうな形で」
「誠に申し訳ありませんでした」

 ヴァイオレットの表情や声が学園に居た頃を彷彿とさせるものになっていたので、流石に私も危険信号を感じひたすら謝りました。
 はい、傍から見れば私がまたヴァイオレットの好きな相手を奪おうとしていたように見えたでしょう。ヴァイオレットがあくまでも冷静に状況を把握してくれなければまさしく修羅場でした。

「落ち着いてください、ヴァイオレットさん。メアリーさんも悪気があった訳では無いんです」

 クロさんはこの状況に狼狽えながらも、私のフォローをして場を落ち着かせようとしていました。
 クロさんも初めは部屋に私達だけになる事を気にもしていたのに、同じ前世の記憶がある者同士という理由で厚意的に話し合いをしてくれたのに、流石に軽率でした……

「……クロ殿がそう言うのならば」

 無表情だったヴァイオレットもクロさんの言葉に表情を崩し、小さな溜息を吐きます。
 ……ここで落ち着くのは、ヴァイオレットも変わったのだと改めて思う事が出来ます。以前であればヴァーミリオン君の言葉であろうと落ち着かなかったのですが……
 これはやはり好きであるクロさんに言われたから落ち着いたのでしょうか。ですがあの時はヴァーミリオン君の事も好きであったのは確かでしょうし、やはり……

「愛のなせる業なのでしょうか……」
「……ところで、何故急に愛などと言い出した、メアリー」
「はい。愛とはなんだと思いまして。以前私とヴァイオレットが友になった時も少し話しましたが、少し考えが変わる機会を得て、その際に愛という壁にぶつかりまして」
「それでわざわざ首都からシキにまで来たのか……成程、それは分かったが、何故クロ殿に愛を教えてくれなどと?」

 私が小さく呟くと、ヴァイオレットが不思議そうかつ複雑な表情で私に尋ねてきました。
 クロさんになら正直に言っても良いですが、彼女には全てを話す訳にもいきません。ここは少し誤魔化しつつ話すとしましょうか。

「いや、私の(前世という)恥が多い過去を知られまして、以前(闘技場の試合で)無理矢理それを暴かれまして。(頭突きを喰らわせられ、私の魔法障壁が発動して怪我をさせてしまったので)クロさんを(怪我をさせたという意味で)傷物にし、医務室で色々と(昔の事やこの世界の在り方を)曝け出した事がありまして。その結果(前世という)秘密を親身になって話せて、(嫌いな私にでも)好意的にしてくれる男性がクロさんしか居なくて……」
「クロ殿?」
「あの、すいません。俺も彼女がなにを言っているのかよく分からないんです」

 あれ、おかしいですね。重要な所は伏せて話したのですが……クロさんまで困惑しているのは何故でしょう。そしてヴァイオレットの声がまた戻ったのは気のせいでしょうか。

「つまりは(貴方達ご夫婦の)愛を私にぶつけてくれるのが、私にはクロさんしかいないんです!」
「メアリーさん、もしかして新年早々俺達家族を壊しに来ましたか?」
「え? 何故そうなるのです?」
「よく今まで学園生活で支障が出ませんでしたね……」

 あれ、何故そこでクロさんは自身の額に手をやるのでしょうか。

「クロさんで駄目ならばヴァイオレットに教えて頂けると嬉しいのですが……」
「私が?」
「はい、愛には友愛という言葉もありますし、ヴァイオレットと一歩踏み出すことが愛に繋がるのかと思いますので」
「ん? ……ああ、そういう事か。成程な……」

 あれ、何故ヴァイオレットも私の表情を見て、クロさんの様子を見ると何故か「ああ、以前感じた妙な部分か……」みたいな感じに、私をポンコツを見る目で見るのでしょう。いえ、そんなはずはありませんね。恋愛ポンコツの彼らにそう思われるなど有り得ません。

「だが、私も友と言ってもクリームヒルトやシアンさん、アプリコットなどとは仲良くはなったが、あくまでも向こうから来たお陰で私は受け身であったからな……どうするべきかよく分からない」

 改めて聞いても、クリームヒルトと仲が良い、というのは妙に違和感が残りますね……この考えが駄目だとは分かってはいるのですが。

「クロ殿はどうだ? 友は多そうに思えるが」
「それなりには居ますけど、なり方とか深め方と言われると悩みますし、友愛となると更に分かりませんよ。それに……メアリーさんの言う愛とやらは、そういう類では知れないと思いますから……」
「そうなのか?」
「ええ、ですから……」

 クロさんはヴァイオレットの問いに答えた後、悩む仕草を取り、少しの間を開けて私を見て言葉を続けます。

「……シキの住民と触れ合えば、知る事が出来ると思いますよ」





備考:ヴァイオレット視点
・新年早々面倒な連絡事項を受け、少し疲れて帰宅
・息子の様子を見に行くと、メアリー(過去に好きな相手を奪われた)が来ていることを知る
・何故来たのかと疑問を持ちつつ、部屋の前に行くと愛を懇願する声が聞こえる
・部屋に慌てて入ると夫ににじり寄るメアリーが

結論:一歩間違えれば大惨事であった。

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