追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

年末の懺悔室にて_4(:紺)


View.シアン


「それでは、私は失礼するよ。懺悔を聞いてくれてありがとう、シスター」
「いえ、貴女が救われる事を祈っています」

 妙に満足気な声で女性は懺悔室の扉を開き、出ようとする。
 ハッキリ言って懺悔かどうかと問われれば、八割方違って性癖暴露会だったので懺悔では無かったと答える気もする。とはいえシキの懺悔では良く起こりうる事でもあったりするし、二割は懺悔であるから聞き遂げなくてはならないけれど。

「ああ、ちなみにこの周辺に所用があるからしばらく滞在もする予定だ。また会う時はよろしく頼むよ、シスター・シアン」

 マジなのですか。
 女性はそう言うと、カツカツと綺麗なリズムの足音を立てながら去っていった。
 なんと言うか、シキの住民に負けず劣らずの濃い女性だったな。アレに身体だけを好かれるなんて、クロの奴も大変である。相談や対策に力を貸した方が良いかもしれない。

「ふぅ」

 私はあまり広くない懺悔室で小さく息を吐く。
 それにしても今日の懺悔室は随分と盛況だ。お陰で身体が鈍って仕方ない。
 はぁ、早く神父様帰って来ないかな。早く夕方になってお顔を拝見しながら、新年を祈りながら過ごすいつもの儀式をしたいんだけど。それに今日は――

「シスター、懺悔を聞いてくれるか」
「――はい、良いですよ。懺悔を聞きましょう」

 おっと、本当に今日は盛況だね。
 新年になる前に厄払い的な事はあるから珍しくも無いけれど、入れ代わり立ち代わりにどんどんと来る。
 とは言え私の大切な務めであるし、キチンと聞かなくては。

「俺は気付いた事があるんだ」
「はい、それはなんでしょうか」
「俺がグレ――至高の少年に不純な思いをぶつけてしまったが故に、少年が病気にかかってしまったのではないかと……!」
「違います」

 ……うん、どんな内容でも懺悔は懺悔だ。
 当事者が真面目に話しているのならば、真面目に聞かなくては。けど否定はしなければならない事ってあると思う。







「俺は懺悔したい。今まであらゆる怪我を治療をして来たが、俺は興奮のあまり治せるものも治せなかったのではないか、とな」
「ですが貴方は医者として多くの相手を救ってきました。これからも……」
「だから俺は興奮しながらもっと治療をしたい! そのためにも懺悔して、来年はもっと治すと決めた!」

 いや、興奮する方をどうにかしなさい。
 なんで落ち着こうとするんじゃなくってテンションを突っ切る方を選択するの。

「親父に言われて厄落としに懺悔しに来たが……どういう事を言えば良いんだ?」
「貴女が後悔している、罪だと思う事を話す場ですよ」
「罪、か……私は毒欲を抑えきれずに、ついに駄目な所まで行こうとした。お陰で良い世界を見れた事を懺悔したい」
「それ反省はしているけれど後悔はしていないというヤツですね」
「そうだな」

 そうだな、じゃないよ。懺悔する気ないでしょこの子。
 あと毒欲ってなんだろう。

「ざんげしたい。いつも所構わず寝てしまうことを……皆にも迷惑を掛けてしまう……」
「年齢を考えれば、寝る子は育つで良いと思いますが……いえ、懺悔したいのならば受けましょう。その気持ちで来年も……」
「ぐぅ」
「おーい、寝ないでー」

 外見大人な7歳児は寝始めた。
 ……講堂の長椅子に毛布を掛けて寝かせておこう。このままだと雪の中で眠りそうだ。

「拙者親方と申すは、御立会の内に御存知の御方も御座りましょうが」

 誰だよ。懺悔しなさい。

わたくしの愛が夫に届かない事を懺悔したいのです! 私はもっと夫をあいしてあいしてあいし尽くしたいのに! だけどハーフ死者ライフキングの夫ははどんなにあいしてもあいしきれないんです! だから懺悔して聖なる力を得て夫をもっところしきりたいんです!!」
「懺悔する気ないでしょ貴女! あと懺悔ってそういうものじゃないですから!」

 ベージュさん……もとい殺し愛をする夫婦の懺悔は懺悔なのかと問いたくなった。
 本来止めるべきなんだろうけれど、この夫婦の愛し方は怖いから正直あまり関わり合いたくない。

「Gob、Gob、Gob……」
「ふむふむ。ハーフゴブリンである私が妻を本気で愛しきれているか不安に思う事があり、この半端な心を懺悔したいと」
「Gob……」
「ふふ、大丈夫ですよ。そう思う事が貴方の懺悔は聞き遂げられ、不浄は雪がれます。貴方はより一層妻を愛することが出来るでしょう」
「Gob!」

 アップルグリーンさん……もといAさんは私の言葉に嬉しそうな声を出して懺悔室を出ていった。
 うん、相変わらず夫婦仲良くて羨ましいね!

「シスター! 今年最後に俺に抱かれる気は無いか!」
「抱き着いてそのまま骨を全て粉砕しますよ」
「それでも抱かれるならば良いぞ!」
「ていうか懺悔しなさい」







「づがれだー……」

 私は懺悔室の中でうだーっと項垂れた。
 なに、なんなの今日。私は今日殆ど懺悔室に居たよ。
 大盛況で今までで一番来たんじゃないかと思う程だったよ。
 別に話を聞くのも話すのも嫌いじゃないし、懺悔自体を聞くのは構わないのだけど、一番辛いのは、

「ようやく敬語を話さなくて済む……」

 懺悔中は敬語を話さなくてはならない、という点だ。
 正直所々外れはしたけれど、私は敬語を使おうと意識するとどうもいつもより神経を擦り減らしてしまう。神父様相手だと擦り減らさないが、別の意味で精神が危うくなるけれど。

「そろそろ神父様帰って来るし、禊をしておこうかな」

 私は背筋を伸ばし、懺悔室を出ようとする。
 汗は掻いていないけれど、一度スッキリしておきたい――と、思っていると、また誰かが懺悔室ここに向かっている足音が聞こえてきた。
 ……今日はもう打ち止めにしたいけれど、これも仕事の内だ。

「懺悔でしょうか。神父様は本日不在のため、私が受ける事になりますがよろしいでしょうか」

 扉が開かれ、壁を一枚隔てた隣の部屋に誰かが入り座り込む。
 扉が閉まったタイミングで私は丁寧口調の仕事モードになり、懺悔を聞く体制をとる。

「…………」
「どうかされましたか?」

 だが、暫く待っても懺悔室にはいた誰かは話し始めない。
 どうしたのだろうか。懺悔をする者は時に話したがらない事も多いから、待つことは多い。だから別に構いはしないけれど――

「こんばんは、シスター。俺の懺悔を聞いてくれるかな」
「しんっ!?」

 けれど、相手が私の好きな相手というのは、非常に困るものである。





備考
ベージュ(夫婦同名)
夫はハーフ死者ライフキング
妻はハーフ天使エンジェル
愛し方は殺し愛。
外れに住んでいてあまり関りは無いが、偶にシキに守護の加護をもたらす困った夫妻。

アップルグリーン
ハーフゴブリン。
性格イケメンのゴブリンさん。皆がさん付けで呼ぶ。

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