追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
仮面については追及しない方向(:菫)
View.ヴァイオレット
「ここなら良いでしょう。……では、俺は一旦外しますね」
「ああ、分かった」
適当な小さなバルコニーのある他者の通りの少ない所まで行き、私とクロ殿と仮面女性だけになると、機を見てクロ殿は外れると言い出した。
ここで私と仮面女性だけにするという事は、仮面女性自体は私に危害を及ぼさないだろう、とクロ殿は考えているという事だろう。
……何者なのだろうか、この女性は。先程から声も聴いているし女性という事も分かるのに、誰かという事はやはり分からない。しかし予想は大体つく。
高位の魔法使いとなると【認識阻害】といった注意のみをそらし、魔法を使っている感覚すら相手に察知させずに魔法を使えるとは聞くが、彼女も高位魔法使いなのだろうか。……あるいは、クリームヒルトの仮面がそういった効果を発揮させているのかもしれないが。
「……さて、そろそろ仮面を外してもらえるか?」
だが、そのような事が出来る者など大魔導士のヴェールさんなど位にならなければ成り立たない。
そしてクロ殿も知っていて、先程のクロ殿の視線の事を考えると……
「私に言う事があるのではないか? スー」
「……メアリーとお呼びください」
少し壊れた仮面と帽子を外し、顔を出したのはメアリー・スーであった。
先程までハッキリとしていなかった認識が仮面を外し上半身に巻いていた白い布を取った途端に、彼女がメアリー・スーだとすぐに分かり、邪魔は消え失せた。やはりなんらかの魔法をかけていたようだ。
相変わらず金の髪が美しく、私と対照的な色のドレス姿は私には持ちえない彼女の魅力を際立たせている。
「私にはお前の名を呼ぶ資格は無い。殿下達のように、迷惑を……己が我が儘を押し付け破滅させようとした女にはな」
結果としてバレンタイン家として破滅させられたのは私ではあるが。
自身を貶めている訳でもないが、賞賛される程自戒をしたわけでもない。
まだきちんとした形で謝罪を行ってすらいないのに、開き直る訳にも行くまい。
「……何故、このような機会を設けてくれた?」
彼女ならばこの学園祭総括パーティーでさらなる追求も出来たはずだ。
話すにしても白く美しいドレス姿であの場に現れ、あの時のように私と相対して。
「……決闘の後に謝罪をする機会を与えてくれたのに、私はお前を罵倒し謝罪の言葉もなかった。そんな女に何故わざわざ……」
決闘で殿下や彼女に負けた後、私は負けを認められず、殿下への未練も断ち切れず。彼女は手を差し伸べたにも関わらず、私は手を振り払い罵倒すらした。
結果殿下に「お前を好きになった事は無い」や「二度と俺達の前に現れるな」と言われ、心が折られた。今になって思えば、言われる程度の事はしたのだが。
……そんな悪女に、何故彼女はこうして他に誰も居ない場所で謝罪する機会を設けてくれたのだろうか。
「それは……」
……彼女は他者に優しいから、私にも優しくしてくれているだけなのかもしれないが。
「私が、貴女の話をしたいからです。ヴァイオレット・ハートフィールド」
だが、彼女は今までとは違う、優しさから来る慈愛でもなく、優しさから来る困惑でもない真っ直ぐな瞳でこちらを見ながら私の名前を呼んだ。
「……私と?」
「ええ。貴女と私で。誰の邪魔にもならないよう所で、貴女とお話がしたいのです」
私と話しをする。
何故急に、という疑問が浮かび上がるが、彼女は気にせずに言葉を続けた。
「ヴァイオレット。貴女は私がヴァーミリオン殿下と仲良くしていたのもありますが、アッシュ・オースティンやシャトルーズ・カルヴィン。エクル・フォーサイス、シルバ・セイフライドなど学園でもとりわけ目立つ男性により仲良くしていたから、より私へのアタリが厳しかったのでしょう? そして私につられて変わっていく彼らを見ていられなかった」
「……その通りだ」
今その事を問われるかは分からないが、問いについては事実である。
貴族の男達と仲良くするのは家名が目当てで。
誰にでも優しくするのは取り繕った仮面で。
全てには裏があって最終的には財産目当ての女にしか思えなかった。
そしてなによりも殿下が私に向けたことの無い笑顔で接するのが妬ましく。
殿下が彼女に接するのを楽しそうにしているのが腹立たしかった。
……恐らくは、その嫉妬を誤魔化すための言い訳を考えて裏があるとしか思わなかったのだろうが。
「その事を問い詰めに来たのならば私は――」
そしてその時の行動は私が彼女に一番謝罪しなければならない事だ。いや、彼女だけではなく殿下達にも。
今では殿下にどう思われようと良いと私は開き直ってはいるが、私は過去について謝罪をしたい。しなくてはならない、ではない。過去の行為に対しての謝罪を私はしたいのだ。
……それがただ単に“楽になりたいから謝罪をするのだろう?”と言われても否定は出来ない。だが彼女が問い詰めると言うならば、この場ですぐにでも――
「謝罪の言葉ならばこの後にいつでも受けましょう。ですが、今したい話はそうではないのです」
「……?」
だが、彼女は私の謝罪ではなく、別の話を聞きたいと言い出した。
……なんだ? 今の彼女は、私が学園に居た頃と違うように感じる。あの時とはまるで見ている視界が違うような……?
「まずは話し合うために色々と考えました。だけどまずは……そうですね。驚くかもしれませんが」
「?」
驚く?
彼女の言い回しは妙な時がある。時には別の観点から私達を見ているのではないかと思う程の事をすることがある。だが今の彼女は妙というよりはまるで――
「私と友達になってくれませんか?」
まるでなにかを始めようとする少女かのような――
「……はい?」
待て、彼女は今なんと言った?
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