追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

守ー護ー(:菫)


View.ヴァイオレット


「ロボさん……か?」
「……ほー……違う…………え、ロボ? ロボこの世界にあるの?」

 確かロボさんの中(?)は金髪の女性と聞いていたので念のためと思い、とりあえず仮面女性がロボさんではないかと確認したが、違ったようだ。むしろ反応が妙である事が気になる。
 仮面女性のせいで私が居た事に気付いていなかった周囲も、私が会場に入っている事を知られたが今更どうでも良いだろう。ともかくこの仮面女性の対処が先である。

「話があるのは構わないが、私は連れが居る。生憎と戻って来るまではおいそれと移動は出来ない」

 仮面女性が唐突に近付いて来たことに警戒を示してすぐさま私を守ろうとしたグレイ達を手で制した後、ハッキリと断らずに、私自身の意志ではどうしようもない理由をつけてあくまでも冷静に仮面女を真っ直ぐ見て誘いに対して断りを入れた。
  例えクロ殿が居たとしてもこのような輩の相手はしない方が得策ではあるだろうが。

「……クロ、さんも、一緒に居る」
「……なに?」

 その言葉に私は仮面女性を睨み付けた。
 不作法であるがそのような事はどうでも良く、もし万が一クロ殿に危害を及んだのならば容赦はしない。

「クロ殿に、なにかしたのか」
「……私が勝手をやっているから、もしヴァイオレットを連れて来なかったら、怒られそう。だから、緩衝材に、来てくれると、嬉しい……こー……」
「……どういう意味だと思う、クリームヒルト」
「あはは、私に聞かれても困るかな」

 よく分からないが、クロ殿は別に危害を加えられた訳ではないようだ。
 言葉を全て信じる訳ではないが……

「……良いだろう、話とやらを聴こうじゃないか」
「お嬢様、危険です。なにがあるか……」
「大丈夫だ、安心して――」

 良い、と心配したアンバーに言葉を続けようとした所で。

「なにしやがってんだアンタ」
「ぐにゅ!?」
「クロ殿!?」

 クロ殿が仮面女性の背後に現れ、帽子ごと頭を掴み締め上げた。
 締め上げた頭はミシミシと音を立て、仮面女性は凄く痛がっている。

「痛っ、痛いですクロさん! 割とシャレにならないくらい痛いです! 仮面の破片が刺さって痛いです!」
「安心なさい、怪我をしないように配慮していますよ。……そして、言いたい事はそれだけですか?」
「ごめんなさい! 素顔で行くのが恥ずかしいけどヴァイオレットと話したいからと言ってこんな格好で出てきて返って目立ってごめんなさい!」
「他には?」
「生きている鎖でクロさんの動きを封じたのはごめんなさい! 気が動転していたんです!」
「ええ、お陰で千切るの大変だったよ」
「痛いです、力強めないでください!」

 ……よく分からないが、クロ殿がシアンさんやカーキー以外にああやって直接力を振るうのは珍しいな。
 仮面女性は声を聴いても何故か妙な邪魔ゆらぎを感じて、“女性”という事は分かるが、“誰”かと言う所までは分からない。分からないが……

「どうなされましたかお嬢様。複雑そうな表情をされて……」
「……クロ殿が躊躇いなく帽子越しとはいえ頭に手を置き、髪にも触れているな……私にはあまり触れないのに……」
「そうですね………………えっ、あれに嫉妬しているのですか」

 あれとはなんだ。
 クロ殿が私にはしないような距離が近そうな感じに触れ合っているのだぞ。多少は羨ましがってなにが悪い。

「はぁ……ハァー……! あの服越しからでも分かる力が込められた腕の筋肉のハリとバランス……ああ、彼女が羨ましい……!」

 ほら、よく分からないがヴェールさんも羨ましがっているではないか。いつも冷静沈着なヴェールさんが息を少し荒げている。

「ヴェール様? 何故クロ様を見て息を荒げるのです?」
「グレイ君、キミもいずれ分かるさ。今まで最高だと思っていた存在と同等の存在に出会えた時の悦びをね……!」
「ヴェール様が私めを見る時に偶に見せるブライ様のような視線を……?」

 ……いや、彼女はなにに羨ましがっているのだろう。何故かは分からないがクロ殿を守らなければならないと思うのは気のせいか。

「ヴァイオレットさん、申し訳ありませんが、このマスクの女性の話に付き合って貰えますか?」
「構わないが……彼女? とはクロ殿は知り合いなのか?」
「一応は。まぁ……あっちの方が俺より知っていると思いますが」

 クロ殿はそこで言葉を区切り。先程までメアリー・スーに対する愛を語っていた殿下を含む者達をチラリと見やる。だがそれは一瞬で、私達の角度から見るから見えた一瞬の視線の動きであった。

「あの一家もう来ていたんだ。……シキって土地は変なのが多いって聞いたけど、ああいううのが沢山いるのか?」
「メアリーが来る前にシラケるものだ」
「まったく、伝統ある我が校に不審者を入れて欲しく無いものだ」
「ヴァイオレットとハートフィールド、来ていたのか。だがあの女は……もしや……いや、だが……?」
「彼女? いえ、女性……だな? 女性のドレスに見覚えが……私が用意した……?」
「仮面の女性は……? それに母上が何故男爵達と……? あの視線は俺が幼少期に見た父上に向けていた視線と同じ……くっ、頭が……!」

 視線の先では各々がこちらを見て聞こえるような声で嫌味を言う者も居れば、ひそひそと話す者もいる。共通しているのはシキにアッシュ達が調査に来た時や、私達が学園に来た時のような敵意を向けられているという事くらいか。
 殿下やアッシュなどは何故か困惑した表情で仮面女性を見ていたが。あとシャトルーズは色々と困惑していた。

「よく分からないが、クロ殿が付き合って欲しいと言うのならば、話を聞こう。この場でい良いのか?」
「いえ、少し外れましょう。……すいませんがバーントさん、アンバーさん。グレイをお願いできますか?」
「構いませんが……お嬢様達でだけでは不安が。それに私どもの立場もありますので」
「では、途中までお願いします。会話が聞こえないけれど、近くに居る感じで」
『承知いたしました』

 バーント達はクロ殿に礼をし、グレイも続く形で礼をする。
 私はクロ殿に付いて行く前にヴェールさんに無礼を詫びようと、ヴェールさんの方へと向こうとして……先程まで居た所に居ない事に気付いた。気が付くとクロ殿の所に行き、小さな声でなにやら会話をしている。

「クロ君、私にもさっきの彼女にしたモノと同じ事をしてくれないか? なんならもっと力を込めて」
「男爵家の者が子爵家様に無礼を働いては駄目なので遠慮しましょう」
「成程。つまり縛って放置すれば今のように怒りでしてくれる可能性はあるのだな」
「レディ・ヴェール。会話って知っています?」

 やはりヴェールさんからクロ殿を守らなければならないのは気のせいか。

「時に……――ちゃん、痛くない?」
「うぐっ、やっぱり貴女にはバレますか……」
「気付いたのは途中からだけどね」
「正直痛いです。後この事はパーティーに居る皆には内密にお願いします」
「あはは、了解」

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