追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
何故こうも変なヤツが多いのか
「あ、そろそろ私の次の試合が始まるかもしれませんね……」
メアリーさんは時間を見てそろそろ次の試合に行かなくてはならないと気付き、礼をして医務室から去っていった。
とりあえずヴァイオレットさんと話し合う際には、頭を丸めたり服を脱いだりと突飛な事はしないようにだけ忠告はしたので、次に両者が対面する時は変にはなっていないだろう。……多分。
「先生、まだかな」
俺は他に誰も居ない医務室のベッドに寝ころびながら、まだ来ないグリーネリー先生を待っていた。恐らくはヴァイオレットさん達をここに来させないようにしているのか、他に怪我をした者が居てそちらに駆け付けているとかだろう。
特に今までの会話に違和感が無いから大丈夫だとは思うのだが、勝手に帰る訳にも行かない。そろそろ夜にあるパーティーの準備の目途を立てなきゃいけないんだが。
「ん、来た――逃げようかな?」
足音がし、俺は体を起こしたまでは良かった。
だけど足音が明らかに先生だけのものではなく、この医務室に向かって走ってくる音であった。先程のヴァイオレットさんや殿下達が駆け付けた時を思い出し、どうしても逃げたくなってしまう。
落ち着こう、俺。単にグリーネリー先生を探しに来ているのか、通過するだけかもしれないじゃないか。俺が目的とは限らない。俺が目的だとしても、ヴァイオレットさんやグレイかもしれないじゃないか、落ち着こう。
「――オ ォォ オ オクロ、サァァァアアン」
くそ、予想の斜め上が来てしまった。
まさかまさかのクリームヒルトさん(お化けVer)であった。以前見た時よりはコンパクトになっているが、何故その格好で医務室に来たのだろうか。
「コチラ、ヲ、ドウゾォオオオ!」
「は、はい。どうもです」
「ソレデハァアア、コレデェエエエ」
「あ、はい。…………え、これ渡しに来ただけ?」
クリームヒルトさんはなにやら封筒のような物を渡すと、グッ! と親指を立てて医務室を去っていった。……本当に紙を渡しに来ただけのようだ。お化け屋敷の出し物から直接来たのだろうか?
ともかく、渡された物を見てみると、なにやら封筒に入った……手紙のようだ。本来なら女性に渡される手紙の類となると、なにか期待してしまうのがサガかもしれないが、生憎と碌な内容の手紙としか思えない。そっち系の手紙を貰うのは領主になってから割と慣れたし。
クリームヒルトさんがわざわざ渡しに来たのだから、変な物だとは思えないが……
『クロ・ハートフィールド様
唐突なお手紙をお許しください。
貴方の闘技場で戦う強さに惚れました。
貴方の戦う姿を見てから、貴方の雄姿が頭から離れません。
貴方と少しでも一緒に居たいと願わずにはいられません。
もしよければ本日行われる学園祭の総括パーティーの前に会う機会を設けられないかと願い、手紙を出させて頂きました。
ご一考いただければ幸いです』
……ふむ、成程。
「不幸の手紙か」
「恋文じゃねぇか」
「ずぅお!?」
俺が不幸の手紙を読んでいると、グリーネリー先生が唐突に現れ俺の不幸の手紙を読んでいた。
というか恋文? なにをいって……うん、目を逸らすのは良くない。悪戯にしろ罰ゲームで出されたにしろ、“恋文”と思われるように書かれているのは確かだ。……困るな、こういうの。
俺が頭を掻いていると、グリーネリー先生が楽しそうに笑い、俺の頭を小突いた。
「はっ、良かったじゃねぇか。お前は学生時代に異性の友は居ても一定以上は仲良くならなかったからな。モテ期到来か?」
「そう言われても、妻も居ますしモテてもなぁ……」
「なんだ、浮気は男の甲斐性と言う気は俺もねぇが……火遊びする気にはなれない、って事か」
「まぁそうです。複数の相手をするとか俺の大嫌いな女を思い出しますので」
「そうか、結構な事だ」
まぁその女とは前世の母親だけど。
ともかく仮にこれが悪戯や罰ゲームじゃない本物の恋文でも反応に困る。
気持ちが本物だったとしたら嬉しくとも、生憎と答えられないし。
「と、そう言えば誰からの手紙だ……?」
そう言えば誰から来た手紙か確認をしていなかった。
グリーネリー先生も興味を無くしたのか、手紙の主まで知ろうとはしないのか距離を取り、適当な棚の所に行き薬品の整理を始めていた。
早く読んで手紙をしまって、さっさと治療を再開させろという事なのだろうか。
ともかく、俺は誰から来たのかと何処かに名前が書いていないかと探すと、手紙の最後に名前らしきものが書かれていた。書いてあった名前は――
『Vert・C』
「……ヴェール・C?」
誰だろう、少なくとも俺の知る名前ではない。
知る名前では無いはずなのだが……なんだろう、妙に嫌な予感がする。そう、これはクリームヒルトさんに初め出会った時や、何処ぞのオークを改造した変態の名前を聞いた時と同じ感覚。
ああ、これはそう、あの乙女ゲームの登場人物が現れた時と同じ反応。はは、なんだろう、どう転んでも嫌な予感しかしない。メアリーさんがいたらこの悪寒の正体が分かるような気がする。
「ヴェール? 彼女がどうしたんですか?」
「うおっ、メアリーさん!? 何故ここに?」
え、なに。唐突に現れるのが流行っているの? そう思わずに居られないほどに唐突にメアリーさんは現れた。というか試合はどうなったのだろう。
「はい、まだ少し余裕があったので。そうしたらクリームヒルトっぽい子がこっちから来たのを見たので気になりまして」
成程、さっきの姿を見たのか。
そしてメアリーさんはやはり“ヴェール”という名前の女性を知っているようだ。……聞きたくないが、聞くしかないか。
「メアリーさん、ヴェール・Cという……女性? を知っているのですか?」
「ええ、知っていますよ。……とはいっても、アレで知っているくらいで、直接会った事は無いですけれど」
アレ、というからにはあの乙女ゲーム関連なのだろう。
メアリーさんはグリーネリー先生が居ることを確認し、少し悩んでから俺にヴェールという女性がどんな相手かを説明しだす。
「ヴェール・カルヴィンという、シャル君のお母さんの大魔導士ですよ。(――ほら、偏屈変わり者というキャラだった彼女です。シャル君は知りませんが、人体実験とかやるって噂がある方です)」
メアリーさんは後半の方は小さな声で俺に耳打ちをした。
……うん、つまりなんだ。俺はそんな面白おかしい女性(夫と子持ち)にこんな手紙をもらったのか。はは、ははは。そうか、Cってシャトルーズの家名のカルヴィンの事か。成程。ははは。
「メアリーさん、すいませんが俺を魔法で気絶させてくれませんか。出来れば学園祭総括パーティーまで意識混濁する勢いの」
「出来ますけどやりませんよ!?」
え、出来るんだ。
備考:クロの前世の母
幼少期に「お父さんはどんな人?」と聞いたら、男性が写った写真を何枚か渡されて「この人の内の誰かで、全員がアンタを実子と思っているよ」と言いのけた。
意味を暫く経って理解した瞬間、母を大嫌いになったとか。
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