追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

理由は危険だから(:菫)


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「大丈夫ですか、クロさん、シアンさん?」
「俺は大丈夫です。突撃と同時に回復魔法もかけてましたし」
「ん、あーさっきぶりメアリーちゃん。大丈夫、クロは痛いだけで怪我はさせない力加減を知っているから」
「ある意味怖いですね、それ」

 私達がクロ殿達に怪我が無いかを確認をしていると、メアリー・スーは私達に遅れて駆け寄り、クロ殿達の心配をした。
 どうやら彼女はシアンさんの事を知っているようだ。先程の劇で一応は共演したので、その時に知り合ったのだろうか。

「で、シアン。お前はなにしに突撃してきた。まさかなんの考えも無しか俺がメアリーさんと話して恨みがましかったから突撃したとかじゃないだろうな」
「ふっ、その通――あ、ごめんなさい嘘です。別の理由がありますから両手で挟もうとするのやめてください」

 クロ殿が拳を閉じてシアンさんの蟀谷こめかみに当てようとした所で丁寧口調でシアンさんは謝った。シアンさんは相変わらずだが……少しだけこのようにクロ殿に接してもらえているのが羨ましい。
 私もシアンさんのように振舞えばクロ殿も気軽に接してもらえるのだろうか。髪型を変えるのは実行したことであるし、今度試してみるか。……やめておこう。

「クロさ、昨日言ってた学園祭での試合あるじゃん」
「あの学園生だけじゃなくて、外部の者も参加できるというやつか? まさか本当にそれに一緒に参加しようと誘いに来たのか?」
いいやんにゃ、違うよ。私が参加しようとしたら上層部バカ共に先回りされて私の参加は禁止になってたし」

 参加はしようとしたのか。そして参加禁止になっているとは、上層部も随分とシアンさんを警戒しているのだな。まぁ大司教を殴ったとなれば警戒もするか。

「それで、参加できないのならばどうしたんだ?」
「ああ、それでね。クロが既に参加者に組み込まれていたよ」
「は?」

 ん? シアンさんは今なんと?
 クロ殿が参加者に組み込まれていた……つまり学園祭の試合にクロ殿が出るという事に……?

「俺が?」
「クロが」
「なにに参加するって?」
「学園の試合に」
「なんで?」
「参加申し込みがされていたから」
「本当に?」
「参加証拠のコピー。特別に貰ったよ」
「どうして?」
「どうしてだろうね?」
『…………』

 クロ殿は理解できないモノを無理に理解しようとし、疑問顔のままシアンさんと見つめ合う。とりあえずシアンさんにその場所を変わってもらいたいな。割と近い位置にいるし。

「アプリコット」
「我が許可も得ずに勝手に参加申し込みするはずが無かろう」
「バーントさん、アンバーさん」
「アプリコットちゃんと同じです」
「同じくです」

 クロ殿としては珍しく、アプリコット達が勝手にやったのではないかと疑いを持っていた。とはいえクロ殿としても本気で疑ってはいないのか、否定されるとあっさりと食い下がる。

「とりあえずシアン、その事を伝えてくれた事は感謝するが」
「するけど、なに?」
「他になにか要件は無いのか?」
「ううん、それだけだね」

 クロ殿は腕を組みどういう事か己の頭で考えると、暫くして腕を解き、改めてシアンさんを見る。……やはり場所を変わってもらえないだろうか。

「それなら別に突撃する必要はなかったよな?」
「……バレた?」
「……バレた」

 妙な間が開き、クロ殿が腕を動かそうとした所でシアンさんが素早く動き、グレイを右腕で、アプリコットを左腕で胴の辺りに腕を回す。

「行こう、レイちゃん、コットちゃん! 首都に繰り出そう! せっかく教会の関係者共に絡まれないように着替えたんだから、行っちゃおう!」
「え、シアン様!?」
「我を掴――は、早いぞシアンさん! 人ごみモンストルムの中をこの速度は早過ぎるぞ!」

 そして両脇に抱えて凄い速度で……えっ、早すぎないだろうか。
 グレイとアプリコット、荷物などを合わせても計百キロ近くあるというのに余裕で去っていく。身体強化をかけた様子も無いのにシアンさんの筋力はどうなっているのだろう。

「待てコラ! 人の息子攫ってくんじゃねぇ! ――っと、すいませんメアリーさん。ちょっとあの攫い修道女を追う必要があるので俺達はここで!」
「は、はい」
「では行きましょう、ヴァイオレットさん、バーントさん、アンバーさん」

 クロ殿の言葉に、私達はハッとし頷くと、彼女の方へと向き直り、

「すまない、スー。以前の事に関してはまたいずれ謝罪させてもらう」
「謝罪なんて、そんな――」
「いや、機会を設けてさせてもらおう。では、今日はここで」

 と言いつつクロ殿達と一緒にシアンさんを追いかけた。
 シアンさんは……随分と遠くに居るな。だが追い付けないこともあるまい。
 だがシアンさんは何故あのようなことをしたのだろう。確かに突拍子もない事もするけれど、あれはまるでシュバルツの時のような警戒心があった気がする。……私と彼女が話をするのに気を使った――という事でもないだろう。シアンさんであれば「対話と謝罪が大切」と言いそうである。
 疑問はともかく、私達はシアンさんを追いかけるのであった。







「あの従者さん達が名前だけ出ていた……でもあの子が息子? それにあんな風に……」
「メアリー! ここに居たのか」
「あら、殿下。どうなさいました?」
「どうなさいましたかじゃない。劇が終わって労おうと思ったらお前が制服に着替えて去っていったと聞いてな」
「ごめんなさい。少しばかり用事がありまして」
「……まさか、それはヴァイオレットのことではないだろうな。あいつはお前に――」
「ふふ、なんて事ないですよ。さ、行きましょう。ヴァーミリオン君」
「う、む……そう呼ばれては仕方ない。だが、あまり勝手に居なくならないでくれ。どうしても心配してしまう」
「ありがとうございます。ああ、所で試合についてなんですけど――」

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