追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

ちょっとした出会いと情報収集_2


「うぅ、お酒なんて飲むんじゃなかった……ちょっと憧れて飲んでみたらこの有様で……」

 クリームヒルトさん曰く、シキに来て宿屋に泊まり酒場でお客と楽しく話しているとお酒を勧められたようだ。飲める年齢ではあるが、学生なので羽目は外せないとその場では断ったらしいが、未だ飲んだことの無いお酒に憧れて隠れて少し飲んだらしい。
 そして少量のアルコールで酔いが回り、なにを考えたのか運動すればスッキリする! という思考に至りご覧の有様とのことだ。軽い運動なら良かったかもしれないが、よりによって激しい全身運動のバーピーをやったらしい。それは吐く。

「まぁそういう方は居ますから。今後はお気をつけください。こちらをどうぞ」
「うぅ、ありがとうございます……」

 俺はクリームヒルトさんに水術石から出た冷たい水を入れたコップを差し出し渡す。
 手頃な所に座りながらゆっくりと水を飲むと少しは落ち着いたようなので、気持ちを紛らわせるために適当な会話を振ってみた

「ところで何故シキに? ヴァイオレットさんに会いに来たのですか?」
「それもありますけれど、シャル君を連れ戻してほしいってアッシュ君に頼まれまして」
「成程」

 どうも放っておけば一週間所かしばらく帰ってこなさそうなので、不安になったのだがアッシュ自身は所用で行くことが出来ず困っていた所をクリームヒルトさんが見に行くと言い今日の夕方に着いたらしい。一応アッシュの付き人である女性も一緒に来たのだが、色情魔カーキーに誘われてホイホイと着いて行って今は居ないとのこと。それで良いのか付き人。
 あと時期的にシャトルーズのあの格好は見ていないようだ。良かった。
 そして明日の昼には帰るらしい。午前に余裕があればヴァイオレットさんに会う予定とのことだ。

「ヴァイオレットちゃんは元気ですか?」
「ええ元気です。領主としての仕事も慣れてきて、俺なんか目じゃないくらいの仕事ぶりを発揮していますよ」

 俺がそう言うと、クリームヒルトさんは嬉しそうに微笑んだ。
 微笑みに裏が無いという事が分かり、大切に思っているのだなと分かるのだが……故に疑問が湧いたので、一つ質問してみることにした。

「クリームヒルトさんから見て、今のヴァイオレットさんはどう思われますか?」
「どう、とは」
「学園に居た頃と比べて、どう映るのかと思いまして」

 問いに対しクリームヒルトさんは左手を顎に当て考える仕草を取る。
 そしてしばらく考えると答えを返した。

「そうですね、学園に居た頃はメ……決闘の相手の子とかヴァーミリオン殿下と険悪な時が多くて、いつも眉間に皺が寄っていたんですけど、今はそんなことなくて安心しています。良い変化だなーって思うけど、私がその変化をしてあげられなくて少し寂しいなって思う……います」

 以前から思っていたがクリームヒルトさんは敬語が苦手なんだろうか。
 別に無理はしなくても良いが、すると俺も敬語を外して話してくださいと言われそうなのでそっとしておこう。

「私も割と忙しかったとはいえ、もっと話しかければよかったかな、って思います。……まぁ私が話しかけても周りの子に追い払われたとは思いますけど」
「忙しかった、ですか? やはり錬金魔法の素材集めとかですか?」
「それもありますけど、私どうも他の皆とズレている所があるらしくて。それを補うために必死で……」

 ズレている?
 錬金魔法を使える時点で他者とは違うだろうクリームヒルトさんだが、ズレていると言えるほどの感覚の持ち主だっただろうか。攻略対象ヒーローのルートによっては色々な結末を辿る子だから非常に変わっている子なのだろうか。
 いや、もしかしてこれももう一人の錬金魔法を使う女性の影響――

「ええ、必死で勉強を……! ようやく感覚で適当に使ってた基本魔法を理論で補うことが出来て来たんです!」

 でもなんでもなかった。
 ある程度を天賦の才でやってしまっていたため基本が駄目だったとかそんな感じか。

「ようは教科書を見るのが苦手で脳が睡眠を要求するのだと。そういうことですね」
「何故分かったんですか!?」
「クリームヒルトさん、教科書より資料集とかに書いてある過去の武器とか魔法陣にテンション上がるタイプでしょう?」
「何故分かるの!?」

 理由は俺がそうであったからだ。
 前世では中二病患者が愛用する魔法陣もこの世界では立派な学問だ。最近は書いたり構築したりするのが面倒という事で、アプリコットのような物好きや大掛かりな儀式以外は使用しないが、見るだけで色々と心がくすぐられるのは仕様がない事だと思う。
 そういえば確かに主人公クリームヒルトさんは勉学が苦手で攻略対象ヒーローに教わるシーンがいくつかあったような覚えがある。

「個人的には唸る獣を倒した時に使用されたとされる魔法陣が好みです」
「あ、分かります! 三十組の獣を一撃で屠るのではなくって、個別に倒したというのが相手を敬っているのが分かる書き方と言いますか!」
「ええ、余計な小細工を使わない一撃必殺も痺れますが、こういう見方もあったのか! っていう解釈が発見された時の精密さといったら――」
「分かる分かる! 他にも――」
「そうですよね! だから――」

 思ったよりもクリームヒルトさんと趣味が合うようだ。
 彼女も前世で縁があったのなら同じ漫画とかゲームの趣味があったかもしれない。今世でも同い年だったら良き同級生となっていたかもしれない。
 ――ハッ!? これがまさか主人公ヒロインぢからというものなのだろうか。この魅力に惹かれて殿下とかアッシュ達は堕ちたというのか! ……あ、いや、堕ちてなかった。

「クロクン、浮気デスカ」
「違う。あ、見回りお疲れ様」

 と、魔法談義(?)に花を咲かせていると、見回り当番であるロボが俺達の所に着陸した。
 静音モードであったのか突然現れたが、気配だけは感じていたのであまり驚きはしなかった。しかしクリームヒルトさんは驚いたのではないかと心配になったが、

「お久しぶりブロンドちゃん。元気だった?」
「エエ、元気デスヨ。貴女モ壮健ソウデ良カッーーイエ、少シ体調ガ悪イ様デスガ?」
「あはは、お酒を飲んだら思ったより弱かったみたいで、でも今はクロさんの介抱のお陰で大丈夫だよ!」
「ナラ、良カッタ。後、コノ姿ノ私ハ“ロボ”ト呼ンデクダサイ」
「あ、ごめんねロボちゃん。綺麗な名前だから、つい」

 ……え、この子、慣れる所かロボの本名を言う位に親しくなっている。
 いつの間に仲良くなったのかを聞いてみると、以前の調査の時にロボの身体の部品が故障した時に補う部品を錬金魔法で作り出したのを切っ掛けに仲良くなったとか。
 やはりこれが主人公ヒロイン力というものなのだろうか……?

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