追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

筋肉盛々マッチョ男の変態(:菫)


View.ヴァイオレット


「リバーズ、貴様! 仮にも愛しき存在をオークに乗せるとは本当に殿下が好きなのだろうな!?」
「なにを言うか! 愚かなモンスターでもヴァーミリオン様のお顔になれば素晴らしい存在になるという証明ではないか!」

 くっ、駄目だこの男狂っている……!
 変わった者達には慣れてきたつもりだが、この方向に狂っている存在は初めてだ。

「お前にはヴァーミリオン様の価値は理解できないようだな! やはりお前はヴァーミリオン様を愛すことが出来る存在ではない!」
「それが証明なら私は愛していないで良い!」
「なんだと!? ヴァーミリオン様を愛さないとはそれでも元婚約者のつもりか!」
「やかましい!」

 くそ、この男面倒くさい。
 いつもより口調を荒げてしまうが、正直仕様がないと思う。
 仮にも10年間好いていた殿下と同じ顔のオークが襲い掛かってくるとか誰が想像できようか。
 オークはこの狭い洞窟内で惜し気もなく力を振るってくる。殿下の顔で。
 オーク特有の叫び声ウォークライを響かせながら迫ってくる。殿下の顔で。
 攻撃を仕掛けると苦悶の表情をする。殿下の顔で。
 全てが殿下の顔で――

「殿下、そんなにも私を嫌っているのですか!」
「落ち着いてください母上!? それは殿下ではありません!」

 はっ、いけない。
 あまりにも理解できない状況に脳が拒否反応を示し殿下と納得しそうであった。グレイの声が無ければ妙な世界にトリップする所であった。後でグレイにはお礼に甘い物を振舞おう。

「ああ、素晴らしい! やはり僕が改造したヴァーミリオン様オーク第7号はより本物の顔により近い! 力を籠める顔も叫ぶ顔も苦悶も全てが正にヴァーミリオン様だ!」

 喧しいからあの男から黙らせたいが、その余裕もない。
 このオークは場所が場所で戦い辛いのもあるが、純粋に強い。リバーズが身体能力も言霊で改造しているのかは分からないが、当たれば無事では済まない一撃を次々と繰り出してくる。さらにはリバーズの近くにはグレイも居るのでリバーズを単体で狙うのも難しく、威力の低い魔法では炎魔法に阻まれる。
 だが元がオークの知能なのからか分からないが、単純に私がいる方へと向かって攻撃を繰り出しているだけのため、オークを誘き出すのは簡単だ。

「【水創生アウトブレイク魔法ウォーター】……【氷下級魔法アイス】……【雷中級魔法ライトニング!】」
『G、GYAA!』

 そして足元を凍らせ動きを鈍らせヒット&アウェイで徐々にダメージを喰らわせれる。
 ……殿下の顔が歪むのでやはりやりにくいが、そうも言っていられない。グレイのためにもこのオークを倒さなくては……!

「ヴァイオレットさん、遅くなりました! お怪我は――うおっ、なんだこの筋骨隆々の変態!?」

 私が少しずつオークの体力を削っていると、外で操られているモンスターを討伐していたクロ殿が走りながら私の後ろ数mの所まで駆け付け、オークの姿を確認して驚愕に目を見開いた。

「クロ殿、すまない私一人ではどうもならなかった!」
「い、いえ。それよりなんですかあれは!?」
「リバーズが言霊とやらで洗脳し殿下の顔に改造したオークだ!」
「なんですかその魔改造!?」
「理解したくない!」
「ですよね!」

 何故かリバーズの魔法を知っていたクロ殿であったが、この洗脳、改造は予想外であったようでどう対処して良いか戸惑いの表情を見せていた。
 オークも凍らせた足元を無理矢理動かし、こちら二人を攻撃対象として見据えてくる。

「ふ、うふふふふふふ! 夫である領主も来たか! 丁度いいぞヴァーミリオン様オーク第7号! まずは苦しめるために領主の男の方から屠ってしまえ!」
『GYAAAAAAAA!!』
「来るぞ、クロ殿気をつけろ!」
「はい――くっ、殿下の顔が叫ぶってすごくやり辛い! あとネーミングセンス酷いな!」

 クロ殿も流石に今までこのようなモンスターを相手したことが無いのだろう、オークを相手に上手く攻撃を当てられないでいた。
 しかし当てはしないが攻撃に当たりもせず、大きく避けるのではなく最低限の動きで受け流していた。お陰でオークの身体があまり動くことは無いので、私の魔法も狙いやすい。
 しかし、一歩が足りない。
 オークは狭い洞窟内で力の限りを振るい暴れているので、クロ殿を狙っていても私にまで攻撃の余波が及び上級魔法を唱えられない。止めをさすには一旦離れて上級魔法を――

「ふ、うふふふふふふ! さぁ、薙ぎ払えヴァーミーー」
「一閃」

 リバーズがさらに命令を下そうとした瞬間、一筋の光となった攻撃がオークを襲った。

「――なっ! 何故貴方がここに……!?」

 短めの濃い緑髪に、鋭い切れ長目。学園でもトップクラスの身体能力を持つ元同級生。シャトルーズがオークの胴体に明確なダメージを負わせていた。
 予想外の援軍に戸惑いの表情を見せたリバーズとオークは明確な隙を見せる。

「ちっ、止めはさせんか――レディ・アプリコット!」
「その名はやめろ! 照準セット――【流星闇矢タナトス】!!」

 そして追撃する形で呪文を唱え終わったアプリコットが聞いたことの無い闇魔法でオークの身体を攻撃する。シャトルーズの一閃によってつけられた傷から、オークの身体は射抜かれ、身体が裂け一目で分かる致命傷を負う。
 射抜いた様子を確認すると、シャトルーズは構えを解くことなく射抜かれたオークに近寄り生死を確認しようとして――オークの顔をはっきりと確認した。今まで暗くてあまりよく見えていなかったのか、シャトルーズの顔が驚愕に支配される。

「で、殿下!? 何故オークの身体に――はっ! 私は……俺はまさか魔物へと変貌した殿下に止めを!?」
「で、殿下だと!? 我はまさか王族殺しを!?」
「あ、あああああ! ヴァーミリオン様オーク第7号――いえ、ヴァーミリオン様ーー!!」

 そして阿鼻叫喚だった。
 どうしろというんだ、これ。

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