追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
嫌な予感ほど当たってしまう(:菫)
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私達は青空の下、丁度いいサイズの岩に腰掛け昼食を食べていた。
このお弁当はロボさんの手作りらしく、今回私と飛ぶにあたり一緒に食べようと用意したモノらしい。何処から出したのかとか、何処からか飲み物も出てきているとかは気にしてはならない。気にしたら負けな気がする。
「……あ、美味しい」
「アリガトウゴザイマス」
ロボさんの作ったお弁当は美味しかった。
最近食べるようになってきた野菜や豚肉を使用した料理の数々。水気も切ってあり、時間経過のよる味の変質も考慮された味付けにしているなど、お弁当に適するように一工夫がなされている。
というかこのお弁当はロボさんが今の状態で作ったのだろうか。包丁を握って、下拵えをして、肉を焼いて……駄目だ、途中で「トウ!」と言いながら古代技術でいつの間にかの内にできている姿しか想像できない。
「しかし、シキには料理が出来る人が多いんだな……いや、これが普通なのか……?」
最近は料理を作るのにも慣れてはきたが、あくまでも作る行為自体に慣れて来ただけで美味しいと呼べるモノには程遠い。クロ殿とグレイは喜んで食べてくれはするが。
……その顔を見ていると嬉しくもなるが、少し何処か後ろめたさがある。
料理は貴族のするものではないと教えられ続けていたため……というのもあるが、私は貴族が料理をすることを否定してきた。そして殿下達にお弁当を作っていた、殿下だけでなくアッシュやシャトルーズが……好きな、彼女に対しても辛く当たった。
嫉妬で否定してきた行動に、私が喜びを見出すのはやはり心が痛む。
「普通トハ、ナンデショウネ」
「ロボさん?」
私の言葉か様子に疑問を持ったのか分からないが、ロボさんは食べるのを止め、少し遠い目をする。しかし、昨日も思ったがロボさんはどうやって食べているのだろうか?
「……ヴァイオレットクン。君ハ、クロクンガ好キデスカ?」
「ごほっ!」
「オ水デス」
危ない、食べているモノを吐き出す所だった。
唐突になにを言い出すのだろうか。すき……隙……鍬……数奇……クロ殿は波乱万丈な人生を送っている……? 違う、そういう意味じゃないことは分かっている。
クロ殿が好きかどうかと問われれば、人としての好き嫌いに当てはめるのならば、今の私にとっては好きに入る。優しく、受け入れ、大切に扱って貰い、彼の力になりたいとは思う。だがそれが異性としての好き……なのかは分からない。
そしてこの場合のロボさんが聞く好きは、異性としての好きかを聞いているのだろう。だが急にどうして……まさか!
「ロボさん、浮気は良くない」
「違イマス」
違うのか。ロボさんがクロ殿が好きでこんなことを聞いて来たのではないのか。浮気は禁断だからこそ盛り上がる、侍女も言っていたから少し不安になってしまった。
……ちょっと安心だけど、ちょっと複雑だ。どちらとも何故そのような感情が湧くかは分からないけれど。
ともかくクロ殿が取られるという訳でないのならば真摯に答えよう。
「クロ殿のことは……好きだと、思う」
「思ウ、デスカ?」
「ああ、クロ殿は私の全部を好きになりたいと言ってくれた。だが、私は不品行な女だからな。私はこのまま好きになっても良いのかとやはり戸惑いがあるんだ」
「フシダラ……」
ロボさんは私の言葉の意味を理解しようとしているのか、少し視線をあげ考える仕草を取る。
「何故、ソウ思ウノデス?」
「何故かと問われると……シキに来る前の話になって少し長くなるが、良いか?」
「ワタシガ聞イタノデスカラ、ダイジョウブデス」
「そうか。……私には好きな人が居たんだ」
ロボさんに過去の話をした。
私には将来結婚を約束した男性が居て、その人を好きで心から敬愛をしてきたこと。
その人のために人生の大半を捧げて自身を高め、尽くそうとしたこと。
だけど学園に入ってその人は別の女性に構うようになり、私はその女性に嫉妬したこと。
変わっていく様子を見て不安に駆られ忠告をしたけれど、それは私の理想を押し付けているに過ぎなかったこと。
周囲が見えずに決闘を挑んだが、味方は私に構っていた子位しかおらず、交流があった男子生徒達が明確に敵に回ったこと。
そして最後に……その人は私を好きであったことは無いと言われたこと。
――話している内に、気持ちが滅入ってきた。クロ殿は前に逃げたければ逃げればよく、全部ひっくるめて好きになりたいと言ってくれた。昨日も嫌なことは偶には忘れても良いと言ってくれたが、事実を確認するとなんということだろう、私は本当に不品行で情けない女だ。うっ、また吐き気が……
「……何故、ソレデ、フシダラダト、思ウノデス?」
「? 当然だろう、私はクロ殿の前に好きな人が居たんだぞ。それなのに想いを完全に断ち切れず、今はクロ殿と婚姻を結んでいる。心を一度別の男性に預けたのに心変わりするなど、不品行というべきだろう」
「頭硬すぎじゃないですか?」
「えっ」
え、急にロボさんが流暢な言葉を話した……!?
というかなんだその、やれやれとでも言いたそうな仕草は。こいつ分かっていないなとでも言いたそうにふぅと溜息を吐いている。何故だ。
「いや、ロボさんよりは固くない。その形状から見るに相当な硬度の……」
「意味ガ、違イマス」
ならなんだと言うのだ。
意味も分からず否定されるのは気分が悪い。
「……ヨシ、トリアエズ」
ロボさんはスッと立ち上がると昼食が入っていた弁当を仕舞ってしまう。
なんかパカッと胸の所が開き、体積を無視して収納されたが見間違えだろう。なんか淡く光ってグワングワンという音が聞こえたが幻聴と幻視だ。
「私ガ言イタイコトハ、ヒトツデス」
するとロボさんの腕が私の腕を掴む。
……何故だ。嫌な予感しかしない。今逃げないと酷い目に合う。具体的には先程味わっていた恐怖が再来するような――
「君ハ、モウ少シ頭ヲ柔ラカク、シマショウ――飛翔準備開始」
――ああ、この予感は外れていて欲しかった。
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